10話
「というわけで、新しい仲間を募集しようと思うんだが、アイリスはどう思う? 別に無理してスモールゴーレムを倒す必要はないし、今回はクエストをキャンセルして、次のクエストを探すのも一つの案なんだけど、俺はどうせならアイツをブッ飛ばしてやりたい」
簡単に言えば負けっぱなしは性に合わないのだ。
日本にいた頃はネットゲームの住人から廃人ゲーマーユウマ、とか、母親泣かせのユウマ、とか課金税殺しのユウマ、とか言われていたもんだ。
そんな俺がいくらゲームではないとはいえ、あんなゴーレムの下位互換に負けるわけにはいかない。
「そうですね。確かに私たちだけじゃスモールゴーレムを倒すのは無理そうですから、他のお仲間を募集するのはいいと思います。私もユウマさんを傷つけたスモールゴーレムは許せませんし、賛成です」
「よし、ならさっそく仲間の募集を掛けよう」
「え? もうどういった仲間を募集するのか、もう決まってるんですか?」
「ん? ああ、昨日クエストから帰ってからどうやってスモールゴーレムを倒すかずっと考えてたからな。それで最終的に仲間を募集するって決めてたから、どんな人を仲間にするのかも決めてある」
「そ、そんなことまで、……すいません、私ホント何もできなくて……」
しまったな、アイリスが落ち込んでしまった。
昨日から少し落ち込んでたからな、ここは少し励ましてやらないと。
「何言ってるんだよアイリス。アイリスには俺だって今までたくさん助けてもらってるだろ? むしろ俺の方が助けられてるじゃないか。『ヒール』、各種ステータスのアップ、その他にもアイリスがいたからこそ、って部分は多いんだぞ。だから気にしない。わかったなアイリス」
「は、はい。……ユウマさん、私これからもユウマさんのためにがんばりますね」
とりあえず、アイリスの方はこれで大丈夫だろう。
でも、俺のためにとか、アイリス、マジで従順すぎてヤバい。なんかどこかの悪い人に飴玉一つで付いて行きそうで本当に怖い。
とか、考えながら俺は仲間募集の張り紙を張り出しに行った。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
あれから一時間。
未だに俺たちの元へ仲間募集の張り紙を見てくれて、面接を受けに来てくれた人はいない。
「やっぱり駆け出しの街とかいうくらいだからみんな冒険者になった時にパーティー組んでるのかー? 全くと言っていいほど人が来ない」
「そんなことはないはずなんですけど、本当になんで来ないんでしょうか?」
アイリスも不思議そうな顔で首を傾げている。
「さて、どうしたもんか……」
まあ正直、コミュ症の俺からしたら、アイリスとの二人パーティーのままでもいいのだが、むしろその方がいいのだが、スモールゴーレムを倒すためだ。仕方がない。
でも来たのが男だったりしたらテンション下がるなー。
……その時は「今回限りのパーティーなんだけど」とか言って乗り切ろう。かわいい女の子だったら「これからも一緒に」って誘おう。そうしよう。
そしてまた一時間が経った。このまま待っていても時間の無駄なような気がする。それなら今日は他のことをして過ごし、明日募集を見てくれた人を待つ方がいいかもしれない。
「なあアイリス。今日のところは待つのは止めよう。そんなことをしてても時間の無駄だ。こんな無駄な時間を過ごすくらいなら、掛け持ちができるならクエスト、無理なら街の探索でもしよう」
「そうですね。私もここでずっと待っているのは少し退屈です。他のクエストが受けられるかどうか、受付のお姉さんに聞きに行きましょう」
アイリスの了承ももらえたので、俺たちは受付のお姉さんのところに向かった。
「……ってわけなんですけど、クエストを受けている最中に他のクエストって受けられるんですか?」
「んー。そんなことを言われる冒険者は初めてですので、私にも判断しかねるのですが……。たぶん大丈夫です。でも、今受けているクエストを諦める場合はちゃんとキャンセルしてくださいね」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
というわけで、クエストの同時受注は可能なようだったので、アイリスと一緒にクエストボードの方に行く。
「アイリス。これなんてどうだ? 『コボルト討伐、一体千ギル』かなりいい物件な気がするんだが……」
「コボルトですか……。たしかに比較的弱いモンスターですね。私たちでも十分討伐可能だと思います」
「よしっ。アイリスがそう言うなら大丈夫だろう。じゃあ俺受付行ってくるからアイリスはここで待っててくれ」
「はい、行ってらっしゃいです、ユウマさん」
俺は笑顔のアイリスに見送られながら受付へと足を急いだ。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「あれがコボルトか。うん、俺の知ってる通りの奴だな」
コボルト。
オークやゴブリンなどと一緒でゲームの序盤でよく見かける犬の人型モンスター。剣などを所持していることが多く、ゲームなんかでは攻撃力がその辺りに出る魔物に比べて少し高かったり、ヒットポイントが少し高かったりするくらいの魔物だ。
少なくともこの前戦ったスモールゴーレムよりは弱い相手のはずだ。
「それじゃあ、さっさと狩っちまうか。アイリス、一応、補助魔法を頼む。……アイリス?」
指示を出したのにいつものようにアイリスからの返事がない。俺はどうしたものかとアイリスの方を向く。
すると、アイリスはとある方向を見ていた。
「アイリス、どうした? なにかあったのか?」
「ユウマさん。あそこに誰か倒れてませんか?」
アイリスが指を指した方向に俺も視線を向ける。
アイリスの言うとおり人が倒れていたら大変だ。この辺りはいくら弱いとはいえ魔物がたくさんいる。そんな中で倒れているのはさすがにまずい。
同じ冒険者としては助けてやりたいところだ。
「どこだ、アイリス。もっと具体的に教えてくれ」
「あそこです。あの岩の少し右の方に人が倒れてます」
アイリスに言われて俺も目を凝らしてアイリスの言う辺りを見てみる。
そこには確かに誰かが倒れていた。
「まずいな……」
俺がようやく誰かが倒れていると視認できたとき、倒れている冒険者に目掛けて魔物が群がりはじめた。
「ゆ、ユウマさんっ! 早く行きましょう!! 今から行けば間に合うかもしれません!」
アイリスが慌てた様子で俺の方を向き直った。
「ああっ! 行くぞアイリス!」
「はいっ!」
「ハア、ハア……ヤバいな。このままじゃ俺たちが着くまでに囲まれる」
さっきから全力で走っているのだが、距離があり過ぎて時間がかかっている。アイリスの敏捷アップの魔法も掛けてもらっているが、それでも速度が足りない。アイリスも俺より敏捷が低いからか、俺の少し後ろを一生懸命走ってきている。
その姿がまたかわいい。
「じゃなくて。くそ、さすがにこのままじゃ間に合わない」
正直、俺はもう半分諦めはじめていた。俺たちは助けようと充分よくやったし、ここまでよく頑張った。
少し罪悪感は残るが、ここであの冒険者を見捨てても誰も文句は言わないだろう。というか、俺たちが話さなければそれで解決だ。
それにいくら群がってるのが雑魚の魔物といっても数がそろえばやっぱり怖い。
そんな臆病風に吹かれて、俺は少しペースを落とし始めた。
その時だった、神が一瞬の悪戯をしたのは……。
俺は魔物の群がっているところの隙間から倒れている冒険者の姿を見た。そこに倒れているのは……
女の子だった。
それも結構かわいい。
黒いローブに魔女の被っているような黒い三角の帽子、黒いマントにかっこよさそうな杖、見たところ魔法使い職の女の子のようだ。
……女の子のようだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 諦めるな俺っ! 可愛い女の子は世界の宝だぁぁぁぁぁぁっ!!」
諦めかけていた俺は、再び闘志を燃やして走り出す。
はい、完全に下心満載です。ごめんなさい。
「もう少し考えてから取ろうと思ってたが仕方がないっ!」
俺は速度を少し落とし、ポケットに入れてあった冒険者カードを取り出す。
「これでオッケー、あとは……」
やりたいことができた俺は冒険者カードをポケットにしまい、走りながら周囲を見回す。
「……アイツでいいな」
そして走っている方向に一匹のコットンラビットがいるのを見つけた。そいつに向かって俺は。
「『スプラッシュ』!」
威力を抑えられるだけ抑えた『スプラッシュ』を放った。
俺に魔法攻撃をされたコットンラビットは俺の存在に気づいてこっちを向く。
「よしっ! これで……」
別に今のは進行方向のコットンラビットが邪魔だったから魔法を撃ったわけではない。俺の今考えた策を使うために必要な準備だ。
そしてコットンラビットは上手く俺を認識してくれた。これでやれる。
「……。うおっ!? 想像以上のスピードだっ。でも、これなら……」
俺の作戦は上手いこといった。今の俺はさっきまでの二倍近いスピードで走れている。気分は自転車を全力で漕いで乗っている感じに近い。
そんな速度で走るのはかなり怖いが、少しの我慢だ。
スピードが段違いに上がった俺は一瞬とまでは行かなかったが、どうにか少しの時間で倒れている女の子のところまで着くことができた。
しかし、俺がそこに着いたころには倒れていた女の子の姿は完全に魔物に埋め尽くされていた。
「『スプラッシュ』!!」
俺は女の子への進路を切り開くために、今度は全力で『スプラッシュ』を放った。
倒れている女の子に群がっていた魔物たちが何体か左右に押し出される。俺はその魔物たちの隙間から女の子の元へ駆け寄った。
そして女の子に駆け寄った俺は『スプラッシュ』で飛ばしきれなかった魔物の牽制にショートソードを横凪にした。
何体かの魔物はその横凪に切られ、残りは少し後ずさり、俺と女の子から距離を取った。
その隙に俺は女の子の状態を確認する。
「よかったっ! まだ息はあるっ!」
口元に耳を当てるとまだ女の子の息はある。どうにか間に合ったようだ。
「後はここから逃げるだけだ。それも、今の俺ならっ! 『スプラッシュ』!」
俺は再び逃げるための進路を確保すべく全力で魔法を放った。そのおかげで魔物が少し押しのけられ、道が開ける。
「そこだっ!」
俺は倒れている女の子を抱き抱えると、ここに来るまでと同じ方法で開いた道を全力で走る。
さっきと違って女の子を抱えているので若干スピードが落ちてはいるものの、後ろに群がっていた魔物から逃げ切るのには十分なスピードだ。
こうして俺は女の子 (かわいい)の救出に成功した。




