12話
家へとどうにか逃げ切ってきた俺とアイリスはl家の前で二人で膝に手を付き、息を整える。
「はぁー……はぁー……」
「ふぅー……ふぅー……」
いくらこの世界で脱ニートになりかけているからといって、全力で走り続ければ息だって切れる。
どうやらレベルアップで身体的能力が上がる世界においても、スタミナはだけは自分だけで鍛えないといけないらしい。
ただ、このレベルアップで身体能力が上がるというのはある意味恐ろしく、さっきの話しで言えば、俺とアイリスが腕相撲をしていい勝負をするのはすでに日本だったらおかしい。
もっと極端なことを言ってしまえば、もうヨボヨボのじいさんでもレベルが高ければ、若い兄ちゃんに喧嘩で勝ててしまうのである。
レベルって恐ろしい。
「すまん、アイリス……羞恥に耐え切れなかった」
「いいんです。でも、あの人たちもひどいです。ユウマお兄ちゃんはみんなのためにあんなに頑張ってるのに、悪いところばかり見ていじめて、みなさんはユウマお兄ちゃんの良いところを知らないんです」
「あはは……」
あいつらが言ってることもあながち間違いでないので何も言えない。
「とにかく、もういいんだ。それよりもアイリス、今日はハンバーグ作ってやるって約束したろ? 少し下準備を手伝ってくれ」
「は、はい! 頑張ります!」
アイリスと俺は家の中に戻り、仲良くエプロンを付けて新婚さん顔負けのイチャイチャクッキングをしたところで、俺は今日のサプライズをアイリスにプレゼントすることにした。
「なぁ、アイリス。実はちょっとしたプレゼントがあるんだ。でもそれがわけあって外でしか渡せなくてな。俺は部屋に行ってそれを持ってくるから、先に外で待っててくれないか?」
「ぷ、プレゼントですかっ? わざわざそんな……」
「いいんだよ。今日の暇つぶしに付き合ってくれたお礼ってことで。それに俺にとっても嬉しいものだしな」
「そ、そうですか……?」
「あぁ、だから外で待っててくれ」
「はいっ」
嬉しそうに外に走っていくアイリスを見送ってから急いで階段を上り、プレゼントを持って外に出る。
「悪いなアイリス、寒いのに先に外に出てもらって」
「いえいえ、それよりもプレゼントというのは……」
「あぁ、これだ」
俺は袋の中から一本の棒を取り出し、その先端に火属性初級魔法の『ファイア』で火をつける。
最初のうちは静かにプスプスと音を立てていた棒が、次の瞬間大量の火花を吹き出す。
「どうだアイリス? これが俺が言ってぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」
「危ないですユウマお兄ちゃん! その変な棒からたくさん火花がっ! もう少しで足に当たっちゃうところでした!」
いきなり火花が飛び散ったことに驚いたアイリスが俺に向かって全力の『スプラッシュ』を放った。
「あああ、アイリス……こここ、これはな……俺が言ってた花火ってやつの家でできるバージョンの奴なんだ……」
「ふぇ……? ハナビ……ですか?」
そう。俺がアイリスのためにプレゼントとして用意したのは花火。
さっき話をしてる時にアイリスが花火を知らないと言っていたので、アイリスに花火を見せてやりたかった俺は、さすがに大きな花火の準備はできなかったが、家でやるような花火ならドワーフのおっちゃんに頼めばできるかもと思い、頼んでおいたのだ。
ちなみに、俺の声が震えているのは情緒不安定なわけでなく、アイリスの『スプラッシュ』を食らっていつも以上の冬の寒さに当てられているせいである。
「説明の前に着替えてくるから少し待っててくれな」
「あああああああっ! すいません! こんな真冬にユウマお兄ちゃんに水魔法を撃ってごめんなさい!」
「あははは……いいっていいって、そんじゃあちょっと待っててな」
濡れた服を着替えて急いでアイリスの元へ。
「それじゃあ改めて説明な。これはさっきも言ったけど、花火の一般家庭用だ。さっきみたいにこの棒の先端に火をつけると……この通り!」
さっきと同じように棒状の花火の先端から火花が飛び散る。
あのドワーフのおっちゃんもすごいもので、俺のざっとした説明だけで内容を理解し、色を付けてほしいとかの無茶ぶりも見事に応えてくれている。
これは俺の知ってる花火と全く同じものだ。
「うわぁー……すごいです……すごい綺麗です、ユウマお兄ちゃん!!」
「そうだろそうだろ。アイリスが知らないって言ってたから急遽あのドワーフのおっちゃんに作ってもらったんだ」
「あー、だから帰りに鍛冶屋さんに」
「そうそう。夏にはできなかったし、俺も久しぶりに見たくなってさ。大きいのは無理だったから小さいのをな……ほら、アイリスもやってみ」
俺はそう言うとアイリスに花火を一本渡し、アイリスは火属性魔法を使えないのでライターも渡して、近くにバケツも用意してやる。
「や、やります……っ!」
少し緊張気味に花火の先端に火をつけるアイリス。
「はぁ~……ユウマさん! 着きました! 私のも綺麗な火花が出ましたよ!」
アイリスが花火を見て喜んでいる。
「気をつけてな。さっきアイリスも気を使ってくれてたけど、一応火だから当たれば熱いぞ。足元に向けるのが基本だけど、ちゃんと自分の足に当たらないようにな」
「はい! はぁ~、すごいな~、綺麗だなぁ~。色も赤から青に変わったりしてすごくきれい……」
「すっかり花火にハマっちまったかな? まぁ、喜んでもらえて何よりだな」
想像以上に喜んでくれたことに嬉しさを感じつつ、俺もやろうかと花火を一本手に持つ。
「おっ? ユウマの兄ちゃん何やってんだ?」
花火に火をつけようかと思った矢先、誰かが声を掛けてきた。
「誰かと思ったらザックにシュリちゃんか。どうだ? 二人も暇なら花火やってくか?」
「ハナビ? ハナビってなんだよユウマの兄ちゃん。聞いたことないけど」
「んん~?」
ザックとシュリちゃんも花火を知らないようなので、ちょうどよく今持ってる花火に火をつけて見せてやる。
「これを花火っていうんだよ。どうだ? きれいだろ?」
「おぉー! すげーっ! なぁなぁユウマの兄ちゃん! ホントに俺らもやっていいのかっ!?」
「ふんふんっ!!」
俺のやる花火を見て興味を持ってくれたザックと、同じく興味を持ってくれたらしく擬音を言いながら首を縦に振るシュリちゃんに一本ずつ花火を渡してやる。
「おぉーっ! すげーっ! 俺にもできた! すげーぞシュリ! 綺麗だそ!」
「ふんふんっ!!」
アイリスと同じく花火にハマった二人が大はしゃぎで花火を見つめる。
そんな三人の小さな子供の笑顔を見られただけでも良かったと思っていると、服の裾を引っ張られた。
「おっ? どうしたシュリちゃん」
子供とのコミュニケーションを取るにはまず視線を合わせること、それを知ってる俺はしゃがんでシュリちゃんと視線の高さを合わせる。
「あのね……もっとやっても……いい?」
「あぁ、いいぞ。あそこにいっぱい置いてあるからみんなで仲良くな。あと気を付けてな。俺から離れちゃだめだぞ」
「うん……」
言うことだけ言うと、シュリちゃんが目的の花火の元へと走っていく。
にしても―――
かわいいっ!!
なにあのかわいさ! 目線を合わせたのに上目遣いに見えるつぶら瞳に、喋れたんだとかもうどうでもよくなるかわいらしいロリボイスとか、とにかくあの子は反則だ。
アイリスと同じくらいお兄ちゃんキラーでユウマ殺しだ。
「ダメだユウマ。落ち着け……お前はロリコンじゃないはずだ……」
少しの間ロリの良さと戦った俺は―――
「もうロリコンでもいいや」
ロリコンであることを認めることにいた。
「だってしょうがないよな! あんなかわいらしい容姿に、つぶらな瞳に、ふにふにほっぺにロリボイスと来たら、もうロリコンでもいいやって誰だって思っちゃうでしょ!」
「いやいや、さすがにその発言はまずいよユウマ……」
「いやでもよ、見てみろよ。花火して笑顔になってるアイリスとシュリちゃんを。かわいいだろ? ロリコンでもいいやって思えてくるだろ?」
「いや私だってあの二人がかわいいのは認めるよ? 妹にだってほしいよ? でもさっきのユウマの発言はさすがにアウトでしょ」
「なにバカ言ってんだよミカ。俺は紳士だからイエス変態ノータッチは守るぞ……ってミカ!? お前いつの間に!?」
「えー……今さらー」
呆れ顔のミカに、まだ驚きを隠しきれない俺。
「お前ら明日まで帰って来ないんじゃなかったのか?」
「それがさー、なんか知らないけどいきなりお昼頃から男冒険者たちにすごい追われて、最初は上手く逃げてたんだけど、リリーナが逃げるのに魔法使いまくって魔力切れしちゃって……それでリリーナが捕まっちゃったから大人しく帰ってこようかなって……」
「つまり、リリーナを見捨てて逃げてきたと?」
「やだなー、違うよ。その冒険者たちそこにいるし」
ミカが後ろを指さすと、何人かの冒険者がリリーナをロープでぐるぐる巻きにして担いでいた。
「ほらよ、ユウマ。約束通りリリーナを連れてきたんだから約束は守れよ?」
「そうだぜ、こっちはリリーナの魔法で何人もケガしてんだ。ちゃんと報酬はもらわないとな」
「俺なんて見ろよ、一張羅が台無しだ。ちゃんと約束通りに明日は頼むぜ」
男冒険者たちは揃いも揃って俺に文句を言ってくる。
「ねぇ、ユウマどゆこと? 約束って何? さすがに私も少しユウマが疑わしいんだけど……」
「んあ? そりゃあ約束は約束だよ。逃げ出しやがったリリーナを捕まえるために男冒険者たちに依頼を出した。あいつらはその報酬のことを言ってるんだろうな」
朝、アイリスと一緒に出掛けて最初にギルドに行った時に、男冒険者たちにある程度のことは何でもしていいからリリーナを捕まえてきてくれ、と頼んでおいたのだ。
アイリスとの二人の時間を無駄にしないようにリリーナを捕まえる。
我ながらなんてすばらしい作戦なんだろう。
「つまり私たちがあれだけ苦労したのはユウマのせいってこと?」
そう言われてミカの服装を見ると、確かに苦労のあとが見受けられる。ところどころ服が破れていて、ミカにしてはかわいい服が台無しだ。
「違うぞ? 元はと言えばリリーナが約束を放棄して卑怯な手段で逃げたのが悪い……って、ミカさん? その固く握られた拳は何ですか? じゃんけんですか? 最初はグーですか? なぜその拳を振りかぶるのですか? なんで体を震わせているのですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
恐怖のあまり敬語になっていることにも気づかず、俺はちょっとずつ後ろに下がる。それと同じくミカも俺の後を追って近寄ってくる。
「ユーウーマー……」
「はい、ユウマです……」
「壁ドンしてあげようか? 前にしてみたいし、されてもみたいって言ってたよね?」
「い、いえ……ミカ様にお手を煩わせるわけには……」
「いいっていいって……私たち幼馴染じゃない。今さらそんなこと気にしないでよ」
「そ、そうおっしゃるなら、せめて顔を赤らめたり、恥ずかしがってもらえると……」
「それは我慢して……ねっ!」
「あ、あはははは……これはすごい壁ドンだ……」
ミカが壁ドンと称して俺の後ろの壁にパーをやる。
瞬間、壁は崩れ去った。
壁ドンというよりは壁バンである。
恐怖のあまりしょんべんちびりそう……。
「わ、悪かった! だからもう許してくれよ。ほ、ほら、花火を作ってみたんだ。季節外れだけど結構作ったからお前もどうだ?」
「え? 花火? 花火ってあの手にもって棒の先から火の出る、あの?」
「そうそう! ほら、そこでアイリスとザックとシュリちゃんがやってるだろ?」
自分の命を守るために一生懸命ミカの説得を行っていると、ミカが花火に興味を示した。
ミカもこの世界に来てからは花火なんて見たことないだろうし、久しぶりに見たいのだろう。
「ほ、ホントだぁ!! え? なになにっ? またユウマが作ったの!?」
「いや、俺は今日アイリスと出かけてて時間がなかったから出かける途中でドワーフのおっちゃんに頼んで作ってもらったんだ」
「すごいすごい! 本物みたいじゃん! ねぇねぇ! ホントに私もやっていいの?」
「もちろん。あそこに置いてあるから自分でライター使ってやれよ」
「ありがとーユウマ! 愛してるーっ!!」
ミカが嬉しそうに花火の置いてある方に走っていく。
どうやら命の危機は去ったらしい。アイリスに花火を見せてやりたいと思った俺本当にナイス。
過去の自分にお礼を言いつつ、男冒険者たちが置いて行ったロープに巻かれたリリーナを背負って、とりあえず逃げ出した罰を与えるために準備を始める。
「ん……んんっ……ここは……家? なんで? 私は確か、なぜか追ってきた男冒険者共に捕まったはずじゃ……」
少ししてリリーナが目を覚ました。
「捕まったからここにいるんだろ? ったく、ルールの裏をついて逃げ出しやがって。たっぷり罰を受けてもらうぞ。リリーナ」
「ゆ、ユウマ!? まず……って、なんで私グルグルに巻かれてるのよ!?」
「そりゃあ逃げられないためにさ。魔力が切れてることも聞いてるし、逃げられまい」
「は、離しなさいよ! どうせ罰とか言って禁止してたエッチなことするんでしょ!! そうはいかないわよ! そこでなんかよくわからないことをしてるミカとアイリスもいるし怖くないわ! ミカーっ、助けてーっ! ユウマにエロいことされるーっ!!」
「あっ! コラてめーっ! なにもしてねぇのに卑怯だぞ!」
「そのセリフユウマにだけは言われたくないわよ!!」
そんなやり取りをしつつも、俺はてきぱきと手を動かし、リリーナへの罰が完成した。
「ふふふ……くらえや!!」
俺はリリーナの周りに立てた花火に火をつけるべく、火属性初級魔法を出しながら一周。上手く全部に火が着き、プスプスとくすぶり始める。
「な、なんなのよその棒は! なんか変な音たててるわよ!? ねぇ、ユウマ? 今ならまだ許してあげるわよ? だからこんなことはもう止めなさい」
「ざっけんな! 勝手に賞品をほとんど奪われたんだ。その償いの一つくらいしてもらわねぇとなぁ!」
「ねぇ! ホントに止めなさいよ! 私もう魔力切れで初級の水魔法すら出せないのよ! 自分じゃどうしようもないのよ!」
「知るか! バカな自分を呪え!」
「あーっ! なんなのよこの鬼畜外道!」
「うるせーっ。脳筋魔法使い!!」
そんな時だった。
花火が本領を発揮したのは。
リリーナの周りに立てた花火が一斉に火花を散らす。
肌に直接火花が当たらないよう、ギリギリのラインで並べた花火は時々リリーナの肌に触れる。
「熱い! ゆ、ユウマ!? これ何なのよ!? なんか火花がすごい勢いで飛び散ってて、たまに当たって熱いんだけど!?」
「そりゃあ花火から出てるのは火花だから。少しは反省しろ」
「ちょ、ちょっと! 助けていきなさいよ!」
「大丈夫だ。すぐに止まるから」
「そうじゃなくて、私の拘束を解いていきなさいって言ってるのよっ! ムキィー!!」
リリーナを一日好き放題にはできなかったが、満足のいく仕返しはできた。
次の日、俺は約束を守るべくリリーナを連れてギルドまでやってきていた。既にギルドには昨日の男冒険者どもがたむろしている。よほど昨日言ってた報酬が欲しいのだろう。
ちなみに男冒険者たちが言っていた報酬というのは―――
「はぁっ! あんたバカァ!?」
リリーナが目の前に立っている男冒険者を罵倒すると、男は満足そうにリリーナにお礼を言って去って行った。
「次は俺だ! 俺を踏みつけながらあんたみたいなゴミクズ地べたに這いつくばってなさい。って言ってくれ!」
「……」
「つ、次は僕です! とにかく罵倒してください! 言葉、手段は選びません! できればこの鞭を使っていただけると……」
「……」
「お、オラはこの醜い豚がっ! って、たくさん豚扱いしていたぶってほしいぞ」
「……」
俺の言った報酬。それはリリーナに好きなセリフを言ってもらえる権利。ある程度のオプションまでは可。だ。
まさかこんな報酬でここまでの人間が集まってたとは思わなかったが、世の中にはこれだけああいったプレイが好きなやつがいるということだ。
「さて、俺も並ぶとするか……」
しれっと俺も列の最後尾に並んだ。




