呪いの言葉
岩崎響は唄う。
唄わなければいけない。
唄うべきだ。
唄え。
笑顔で。
呪いの言葉は鎖のように私へと絡み付き、私をステージの上に立たせてしまう。
練習で血へどを吐こうが、精神が病もうがお構いなしだ。
誰に命令されたわけでもないのに、どうしてか頑張ってしまう。
私はアイドルを続ける必要がある。
どうして?
私はもっと歌が上手くなければいけない。
どうして?
両親がいなくなって、引き取ってくれた親戚に迷惑をかけないため?
――違う。
地位や名声? それとも物欲? 何か普通では得難いものがそこにあるから?
――それも違う。
他の誰かのため?
――それが答えに近いかもしれない。
じゃあ、誰のため?
――――わからない。
知らない人のために頑張るの?
――――わからない。
漠然と願った夢のはずなのに、なぜ簡単に捨てられないのかがわからない。
プライドなんてこれっぽっちも持ち合わせていないはずなのに。
実は頑張り屋な性格なんですと見栄を張りたいところだけれど、明らかにこのまま唄い続けてたらうつ病が進行してしまうよと薬を処方してくれる医者に言われて、そんなに命をかけるまでのことだったかなと思ってしまうのに。
うつ病と診断されてもアイドルだけはやめられなくて、生きる希望も持てないでいるのに自殺することも考えられず、なぜか生存本能には忠実で……。
これが本当にうつ病なのかと思ったけれど、世界一になり、自覚していないプライドがアイドルを続けるという強迫性障害をも同時に発症しているのだと医者から説明されたら納得がいった。
唄うべきだという呪いの言葉は、私の強迫観念が生み出した言葉なのだ。
今や私を軸にして動いている世界がある。
今や私がいなくなると動かなくなる世界がある。
それが世界に影響を与えてしまったものの宿命か。
そう思ってしまった結果なのだろう。
だから私は命を擦り減らし続けた。
私の歌声が魔物だと言われても。
それは確かに、所属グループがセイレーンという魔物の名前だからどうしようもないと言えばそれまでだけど、そのセイレーンがどういった存在かと知っていた私は、グループ名が決まった時に内心では顔をしかめてしまっていた。
なぜならそれは鳥の姿をした女性で、海にぽつりと浮かんだ岩礁で歌を唄い、船に乗った人を魅惑して食い殺す魔物なのだから。
「まさしく現代に蘇ったセイレーンだ!」
そう褒められても嫌悪感がわくのは仕方のないことだ。
私は人を食い殺す魔物ではない。
それでも私は唄い続ける。
岩崎響は唄う。
唄わなければいけない。
唄うべきだ。
答えはきっと、この呪いの言葉のせい。
強迫観念だとは思うが、はっきりとした理由はわからない。
それでも私がこの言葉を忘れない限り、私はこれからもステージの上に立つのは間違いない。
それだけは、はっきりとわかる。