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劇場版『吸血鬼ハンターD』を見た話

 先日、『吸血鬼ハンターD』の映画を観た。古い作品ではあるが、古さを感じさせない。いまでも十分に見応えのある作品である。

『吸血鬼ハンターD』と言えば、日本のライトノベルの出発点にして金字塔である。イラストもファイナルファンタジーシリーズでお馴染み、天野善孝氏。読んだことなくとも名前を聞いたことのある者は多いのではないだろうか。

 作者である菊地秀行氏のエロス、バイオレンスが詰まった作品であり、私も少しであるが読んだことがある。

 今回はその、映画作品について少し語りたいと思う。


 片っ端から話してしまうと非常に長くなってしまうので、全体を通した評価と注目した一点についてのみ語るとしよう。

 まず、全体の評価。小説を読んだことのある人物にとっては、嬉しいほどに世界観が再現されている。

『吸血鬼ハンターD』は、吸血鬼作品でも異質ではある。それは、世界は世紀末を越えた先にあるからだ。人類は核戦争により大きく衰退し、圧倒的な生命力、科学力を持つ「貴族」と呼ばれる吸血鬼たちに世界は取って代わられる。吸血鬼たちの支配が続くが、西暦一万二千年には吸血鬼たちもまた種として衰退を始める。そこで人類の反逆が始まり、世界の主権を人類が取り戻す。しかし田舎では未だ吸血鬼の脅威がある……その時点から物語が始まる。

 映画版は、そうした世界で活躍するダンピール(吸血鬼と人間のハーフ)の吸血鬼ハンター「D」が辿る物語の一片が語られる。

 しかし一片でありながら、その世界観の表現は言葉に絵にあふれており、吸血鬼の恐ろしさ、しかし人類もまた残忍であり、それらをも超える存在の吸血鬼ハンターの異質さまでを全て表現している。言葉に語られなくとも、多くが伝わってくるのだ。アニメーション作品としてこれ以上ないほどの完成度であった。さすがは映画作品といったところか。

 いやはや、小説を含めて、作品とはこうあるべきではないだろうか。長々と設定を語るわけではなく、世界を見せていくことで理解させる。最近では『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』にもその感覚がある。


 次に気になったのは、敵である吸血鬼と人間の恋物語である。映画のあらすじを話せば、「貴族」に誘拐された人間の少女を追う吸血鬼ハンターの激闘を描く作品である。しかし、合間に入ってくる、「貴族」のマイエル=リンクと名門の娘シャーロットの恋愛が、美しいのである。

 特に気に入っているのは、終盤に至る直前の場面。宇宙にあるという吸血鬼の星へ逃げる前の会話だ。ここはよくわからない。この星が実在するのか、在ったとして未だに機能しているのか。はたまたどれほど時間がかかるかさえもわからない。しかし二人はそこを最後の楽園であると信じて疑わないのだ。これこそ恋愛であるとも言える。

 さらに、二人の会話が以下の通りだ。


 吸血鬼の本能に従い、女の首に牙を這わせてしまう。しかし、吸血鬼はその本能に抗う。

「何故。私は貴方の全てを受け入れたい。何故です」

「お前にはわからん。永遠に生きねばならぬということがどういうことか。忌まわしい喉の渇きが、心を獣に変えてしまう惨めさ。お前にそんな苦しみはさせたくない」

「それは貴方の身勝手です」


 このあとも、お互いのエゴをぶつけ合いながらも、この気持ちを許されないものとしながらも、しかし止められないという恋が語られる。


 吸血鬼、これぞ吸血鬼!


 世の中にはたくさんの恋愛があふれている。フィクションの中でも、吸血鬼と人間の恋愛はたくさんある。

 しかし、この場面ほど恋愛を語り、吸血鬼を語ったものは他にない!

 恋愛とはエゴである。恋は押し付けである。愛は受け入れることである。受け入れることを押し付けるのが恋愛である!

 ただの異種間の恋愛ではない。吸血鬼の形をした支配欲が牙を剥くのである。そしてそれを良しとしない理性と、しかしそれさえも受け入れようとする女のエゴ。二人の美しさと醜さが、何と上手く描かれた場面か!


 この場面が、個人的にツボだった。もちろんこれ以外にもたくさん名場面はあるし、エンディングも、見事な伏線回収だった。最近見たアニメ作品の中で一番面白かった。

 吸血鬼を描いた作品が好きな私であるが、やはり金字塔と言われるだけある。素晴らしかった。この一言に尽きる。皆さんもぜひ、ご覧あれ。

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