093:道化師
その三日月を、弓に例えるならば
下弦の弓が横にふたつ、その下に大きな上弦の弓がひとつ
下弦の月から流れ落ちる雨粒は月が流した涙だろうか?
泣き笑いの仮面
道化師がその顔につけている仮面である
ふたつの月の奥からは、赤く輝く瞳がこちらを見つめている
コトン、と仮面をつけた首が傾げられる、笑ったのだろうか?
その笑いを見ているだけで、絶望が広がる
「ああああああああ!」
仮面を見ていたくない一心で、力一杯突き飛ばす
何の抵抗もなく仰向けに倒れる笑いの仮面
その手に何か棒のようなものが握られて
サクッ、と首の後ろで音がする...
コトン、と絶望を貼り付けた首が地面に転がり
コトン、と仮面が傾く、泣いたのだろうか?
じっと地面の首と見つめ合う仮面...
その絶望と言う表情を読み取ろうとしているのか
永遠とも思える静寂が続く...
気付けば、首も死体も仮面も消えている
迷宮に吸収されたのだろうか?
道化師:
その異様な出で立ちと異様な得物は、見る者の恐怖を駆り立てる
その戦い方は、虚空より現れ大鎌で首を狩る
大鎌:
死神の武器として有名だ、だが武器としての実用性は皆無
なぜか?
その最大の殺傷力を生かすための動作は引く事
引く動作、力を使う動作としては理にかなっている
草を刈るときに押して切るのと比べればわかる
大鎌は、首を刈るのに適した武器ではなく道具なのだ
虚空から現れるとは?
高位の魔物の中には特殊な能力を有するものが居る
物理攻撃が効かないもの、魔法を封じるもの
空間を移動するもの、敵を逃がさないもの
そう、迷宮のボス部屋は敵を逃がさないためのものだ
入ったら最後、どちらかが死に絶えるまで逃げられない
それ以外ならば、例えば地上、例えば通路、逃げれば良い
ならば逃げられる素早いものが最強なのでは?
引き寄せ:
目の前に獲物を引き寄せる、ただそれだけ
しかし、引き寄せを喰らった者からすれば、まさに地獄!
異端の魔物達:
人のそれで表現するならば彼等は新人冒険者だ
つい先日こちらの領域へ足を踏み入れた者達なのだから
まだ魔に染まりきっていない彼等は光を恐れない
彼等を見ていると楽しい、今日は何をするのだろう?
スッと彼等に加わる、白装束がこちらに気付く
コトン、と仮面を傾ける...
.........
.........
「テレス早く!」
「サウザンド・ブレード!」
「サウザンド・アロー!」
.........
「お前も一緒に来い!」
軽い浮遊感の後に、、暗闇の中へ現れる、暗闇?、白装束は?
目前の中空に笑いを模した仮面が浮いている、なんだ?
気を張り巡らせ...コトン、と仮面が傾く、後ろ!!
伏せる、ダメだ足りない!
仮面に下から掌底を叩き込み、下への移動を加速する
ブォンと頭上を何か大質量の物が通り過ぎ
ギンッ!
掌底を放った籠手に命中する、バッっと火花が散る
丈夫だけが取り柄の装備だ、壊れたりはしない
グンッ、そのまま腕を引かれ体勢が崩れる
「クッ!」
不味い!!!
斬!
大鎌に引かれ伸びた腕の付け根、装備の無い場所を斬られる
ムラマサの特殊効果が発動!
裂傷...レジスト!、呪い...レジスト!
縮地!
宙を舞う腕を取り、チッ!
暗黒騎士の攻撃を無事な手で受け、そのまま吹き飛ばされる
飛ばされるままに任せ、斬られた腕を切り口へあてる
再生発動!
どうする?
状況判断は出来た、
何らかのスキルか何かで私だけ転移をキャンセルされた
おそらく、あの仮面、しかも位置からすると強制転移された?
いや違う、これはおそらく高位の魔物が使う引き寄せだ!
上忍はいない、ギルド長達もいない、転移魔法陣は消えている
能力が低いからか、一人に絞ったのか、どちらでもいい
残されたのが私だけで良かった
敵は、おそらく転移した上忍以外全ている、しかも無傷だ
千の剣撃と千の矢はまったく効かなかったみたいだ
倒せるか?
おそらく、奴等は行方不明の冒険者達
魔に堕ちたと言うこと、それだけで元の実力より数段強くなっている
侍を見ただけでもわかる、攻撃時毎回必ず特殊効果が発動する装備
その様な物聞いたことが無い、偶然二回とも発動したのかもしれないが
魔物化により身につけたスキルか、装備が異常なのか
他の者達もそれ相当と判断するべきだ
そして笑いの仮面、
聞いた話の中にはいなかった、純粋な魔物、しかも高位の魔物
魔族の可能性もある.........無理だ
アベンジャー装備、今は籠手と脚絆だけだ
闘衣があり、呪いもあったなら、攻撃時のドレイン効果と再生
そして、狂化、、違う
あのまま呪いに身を任せていた私の未来が目の前のこいつ等だ
逃げる?
たった今逃げるのを引き寄せで阻止されたのにどうやって?
大体、39Fへの階段は誰かが運よくボスを倒しでもしない限り開かない
40Fの攻略が迫っているこの時期にこの深層へ来る冒険者はいない
覚悟を決める。
別に何時どこで死んでもいいのだ、悲しむものなどいない
ああ、これでは死ぬ覚悟を決めたみたいだ
それでは勝てない、
思う...
妹の面影を重ねてた女の子を
言葉を理解しているような可愛い子猫を
彼女達と過ごす暖かい時間を
まだ死ねない、死にたくない!
壁に激突する、幸いボス部屋は目の前、敵よりこちらの方が近い
金剛!
防御力を強化し
縮地!
追撃を無視する
縮地!
ダメージを受けキャンセルされる縮地を構わず連続発動する
縮地!
縮地!
バンッ!
背後で扉が閉まり、部屋の中央が淡く光る
「ふぅ...」
さて、
ボスが湧く、和洋折衷だ
「統一性が無いわね」
難敵は、上級悪魔と上級侍?
体調は、満身創痍と言うわけでもないがダメージを受け過ぎた
再生スキルによる回復力が落ちてきている、長期戦は無理だ
「いくか、」
気負い無く歩き出す...
渾身の一撃!
酷使し過ぎたか、最後の敵を倒すとともに籠手が砕け散る
終った...
背中から倒れる、流石に限界だ
転移魔法陣と宝箱、そして転移カードが落ちる
「ここが最下層なのね」
下りの階段は出現しない、そばに落ちた転移カードを拾う
このまま眠ってしまいたいが、そうもいかない
...帰ろう
ウィリアムはどんな顔をするだろう?
状況が状況だ、彼なら損得を計算し最終的に切り捨てたはず
無事なわたしを見て少しはすまなそうな顔をするだろうか?
「良かったですね、で済ませそうね」
サラは心配しているだろうな、泣かれると困るわね
ギルバートは、いつもと変わらないか
「装備も壊れたし、今回の事を種に治療室に入り浸ろう、これならバカギルド長も口出しできないわね」
目を閉じ、笑顔を思い浮かべる、
可愛いパートナーにしか見せなかった優しい笑顔
最初は、ほかの人達に向ける曖昧な微笑みだったのだが
最近は、私にもその優しい笑顔を向けてくれる
ギルドでは私だけという優越感と
クロちゃんと同じという嬉しさと
コトン、と音がする...
嗤ったのだろうか?
カチッ、と言う何かが外れる音と何かが発動する音
そちらに、宝箱のある位置へと顔を向ける
いつからいたのか、宝箱を開く嗤いの仮面
爆発の罠が発動する!
ズガァァァァアン!!!
吹き飛ぶ!
防御など出来る体勢ではない、宝箱側の手と足が消し飛ぶ!
ああ、私と一緒に入ったのか、
ずっと見ていたのか、
この瞬間のためだけに、
宝箱があけられた事により部屋のロックが解除される
絶望と言う名の扉が、開く!!
外にいた者が、とととと、と軽快な足音で部屋へと入ってくる
その身は、闇に落ちたものの証、暗黒!
いや!
その姿は、闇の具現者たる...
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使い魔:クロ
スキル:(特殊)念動力
(武技)格闘術4
(技) 隠密5
(魔法)炎魔法2、水魔法1、風魔法5、鉄魔法3
光魔法5、闇魔法4
(自動)HP回復、MP回復、クリティカル
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