005:嵐さんまだですかね?
こぽん、と、肺に残っていた最後の空気が口からこぼれる
先ほどまで血走っていた目は光を失い、口はだらしなく開き
顔を覆う水の玉や酸素を送ってくれない首を掻き毟っていた手が落ちる
「リン、スマートな殺り方だ、ハナマルをやろう!」
私が物陰に連れ込まれたとき、静かに騎士の背後に回り
いつでも殺せる状態で待機していたクロが言う
「水魔法は血も音も出ないのがいいね」
動かなくなったそれをアイテムボックスへしまいながら言う
「うむ、暗殺向きだな、暗殺者リンと名づけよう!」
なんじゃ、そりゃ!
「部屋出た途端これって、騎士ってこんなのばっかりなのかな?」
「人とはそういうものだろう?」
「え、そうなの?」
クロ君ってば、悟っているのね
「我が優雅に散歩をしてるときに、何回かこういうのを見たぞ?」
「えと、その相手ってメイドさんとか?」
「リンと同じ女学生?、という奴等だぞ」
王様、このお城風紀が乱れまくってますよ?
あ、そういえば騎士殺したのにレベルが上がらない!
なぜだ!!!、レベル10とかだったぞこの下種野郎は
「魔物じゃないとレベル上がらないぞ?」
クロ君から明かされる衝撃の事実!
「人殺してレベル上がったら盗賊とか強くなりまくりだろう?」
確かにその通りですクロ先生、ご教授有難うございます。
宝物庫前に到着、
「思った以上に警備厳重じゃないですか、クロ先生」
「うむ、ご苦労?」
うむ、ご苦労!、帰るか
優雅なお散歩を終え部屋に帰る途中、前方から鷹山君ご一行が接近中なのです
「よう、楠木久しぶりだな!」と鷹山君
「こんにちは、楠木さん」と取巻きA君
「・・・」取巻きB君、喋れよ!
「・・・」取巻きC君、同上
「こんにちは、迷宮に行ってたんですってね」
「ああ、レベルが2も上がったぜ!」
「すごいね、魔物とか怖くなかったの?」
「さすがに最初は、な、けどなれればたいしたことないぜ」
「やっぱり男の子は違うね!、レベル上がると強くなるの?」
「ああ、信じられないくらい強くなるぜ!」
「いいなあ、私もレベル上げたいな」
「今度、俺が迷宮に連れて行ってやるぜ?」
「え、ほんと?、ぜひ行ってみたい!」
「王子に連れて行ってもらえばいいんじゃないか?」
取巻きB君が、なんか挑発的に言ってくる、鷹山君がB君を睨む
「なんで王子様?」
「楠木はエリック王子のお気に入りだそうじゃないか」
「おい!、B黙れ」
え、彼Bって言うの?、マジで!
「あー、エリック王子か気に入っているのは、こっちだよ」
と、肩で寝てるクロを指す
「猫?」
「うん、ネコ、私が召喚した使い魔なんだけどね、こっちの世界ではネコは希少種なんだってさ」
「毎日、楠木の部屋に通っているというのは?」
「クロを餌付けでもしようとしているんじゃないの?、王子あまり好かれてないし
言っておくけど、私と王子は何の関係もないよ、そんなことしたらクロに余計嫌われるし」
変な誤解は早目に解いておく、こんなことで狙われても面白くない
「そっか、そうだよな!」
なんか嬉しそうな鷹山君、なんで?
「迷惑なら、俺から抗議しておこうか?」
なんだかんだで、お坊ちゃまだから身内?、とかには優しいのかね
「いいよ、相手王子様だよ?、変な波風立てないほうがいいでしょ」
じゃあ、迷宮連れて行ってくれるの楽しみにしているね、といい別れる
彼らを見る限り感情の振れ幅が大きいだけでこれといった障害はないように思えた
なんだろう、女子とかはもっと酷い状態なのに、もしかして期待度によって
入れる薬を分けているのかな?
いや、けど実際国として必要なのは男子だし、それはおかしいな
なにかおかしくなるキーみたいなものがあるのかな?
なんだろう、今日はイベントデーなのかな?
私の部屋の前で団体様が待っています、王子ご一行かな
「あのー?」
あれ、みんな始めてみる顔だ
「クスノキ リンさん、こんにちは」
おおぅ、イレーヌ姫様
帯剣している得物を護衛に渡し部屋へ入る
「父上、エリックです」
謁見の間の豪華さと正反対、機能のみを重視した一見質素な王の執務室
書類に目を落としていた王が顔を上げる、フレデリック・ローラン
ローラン王国の現王だ
「こたびの遠征ご苦労だったな」
「はい、さすがに敵方に情報が渡っているなどと、勘弁願いたいです」
イレーヌの情報漏洩を皮肉る
「利用して逆に有利に戦えたのだからよいだろう」
王も特に気にしていない、所詮は戦いを知らないもののはかりごと、何の意味もない
「今回だけですよ?、次同じことをしたら許しません」
「ああ、イレーヌも必死なのだろう今回は許してやれ」
自分が女王になれなければ、どこぞの貴族か隣国へ嫁ぐ運命しかない
「今回の召喚も無理をしているようですが、」
「これで最後だ、成果がなければ休戦の対価として隣国に嫁ぐ」
父上が思っているよりも危うい状態だと思うのだが、口には出さない
「従者を1人付けたいのですが」
今回の用件を切り出す、と、父上がにやりと笑い
「ずいぶんとご執心だそうではないか?」
この城内で父上に伝わらない情報はないか、では
「ええ、ネコというのを始めて見ましたし」
「...ネコ?」
伝えた者によって些末が抜けるものだ、魔術師達にはこちらのほうが重要だろうけど
ネコの可愛さについて、ひとしきり説明する
「で、従者の件ですが」
「すまんな、無理だ、あの者達についてはイレーヌに全て任せている」
「では、イレーヌに許可を得ないと駄目ですか?」
「ああ」
イレーヌの性格的に人の欲しがるものを素直に渡すことはない
「お前が女性に興味を持ったことは嬉しいが、今回は諦めろ」
彼女については宮廷魔術師からも試験体に欲しいとの要請があったがイレーヌが許可しなかった
異人の女性に関しては、はずれというのが大勢だ
有益なスキルを有していても戦えないという者が多い、必然それを母体とし子をなす
そしてスキルを継承させる、継承率も高い、実際既に何人か貴族に払い下げられている
騎士の中にも既成事実を作り自分のものにしようとする者もたまにいる
見目も麗しいという、スキルも希少だ、有益なパイプ作りとして利用されるだろう
それが嫌でここまでしているイレーヌがそれを平気でおこなう、皮肉だな
私の与えられている部屋では狭いのとのことで、お姫様の部屋に移動した
広いね!、逆に落ち着かないよね!
お姫様、移動中もだけど今も私の肩で完全無視を決め込んでいるクロに興味津々だ
「ところでリン、それが貴方の呼んだネコというものなのかしら?」
クスノキ リンだと長いので、リンと呼ぶことになった
「はい、名はクロといいます」
(ほらクロ可愛さアピールするのだ!)
(断る!)
(なんでよ?)
(なんとなく?)
(なんだよそれー!)
(こいつのせいで自由がないのだろう、いっそここで殺ってしまうか?)
(やめれ!、この国敵に回すことになるじゃんか!)
(望むところだ!)
(黙れバカネコ!)
(・・・むう!)
(あーあ、あとでカリカリベーコンあげようと思ったのになー)
(しょ、)
(しょ?)
(しょうがないなあ!)
ひょい、とてとて、「にゃ~ん」
あざとい!、あのネコ、あざとい!
「か、かわいい、、、撫でても平気かしら?」
「はい、おとなしいので大丈夫です」
お姫様、恐る恐る手を伸ばし、撫でる
「お菓子とかもあげると喜びますよ?」
(最高級のお菓子食べられるかもよ?)
(おおお!、最高級!)
「なぁぁ~」
あざとい!、おねだり鳴きが、あざとい!
「まぁ、何か食べたいのね?、急いでケーキセットを用意しなさい!」
色とりどりのケーキが並ぶ、壮観だけどなんかみてて胃もたれしてくる
「はいクロちゃん、チョコレートのケーキよ、あ~ん!」
「にゃ~ん」
「うふふ、じゃあ次はこれ、イチゴのケーキ!」
幸せそうだな、こう見ると普通の女の子なんだけどね
「にゃー!」てしてし!
「なぁに、これが食べたいの?」
「にゃ~ん」
「いいわよ、はい、あ~ん!」
甘ったるい時間が過ぎていく、ケーキセット欲しいが回りに給仕が多すぎてしまえない
「リン、クロちゃん欲しいわ」
あらら、やっぱりそうなるよね
「すみません、クロは使い魔なので私の傍にいないと魔力供給が切れて消えてしまうのです」
当然嘘です
「まあ、そうなの、じゃあリンが死んでも消えてしまうの?」
おいおい、殺す気満々だな!
「ええ、そうなります」
「残念だわ、じゃあ毎日おやつを一緒にとりましょう、いいかしら?」
面倒臭いんでやです?、朝王子で午後お姫様とかマジ勘弁!
「はい、わかりました」
「ふふ、よかったわ、魔術師達がほしいっていったの断っといて」
この姫様天然なのかわざとなのかはっきりしないよね
「姫様、クロはお肉とかも大好物なのです」
(ナイスだリン!、褒めて使わす!)
(ははぁ!、ありがたき幸せ!)
なんか、がんじがらめになってる気がするのは気のせい?
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名前:楠木 凛 種族:人族 性別:女 年齢:16
レベル:1
HP:20/20 MP:100/100
STR:5 VIT:5 DEX:5 MND:5 INT:100
スキル:(特殊)言語翻訳、アイテムボックス、鑑定
(魔法)召喚魔法(式神)、水魔法1、光魔法1
装備:学生服
お金:0
使い魔:クロ
スキル:火魔法1、風魔法1
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