141:死の行軍09
「その復元というスキルは服まで元に戻してくれないんですね」
目のやり場に困りますよ?
「……鑑定か、ずるいな」
アイテムボックスからローブを取り出し羽織る。
「レベルと年齢が鑑えません。年齢が消える前からどれくらい生きているんですか?」
同じ世界から来たとは限らないから判断は難しいけど。
「……どれくらい経つのか、覚えていないな」
本当に覚えていないのか判断は...つかないなぁ。表情がほとんど変化しない。
「ちなみに、国籍は?」
「ああ、違うみたいだぞ。少しのズレの世界もあればまったく違う、それこそ魔法が存在していた世界もあるようだ。疑問を持った時点で別という事だろう」
「そうですか...」
魔法かぁ...
「お前はワレを滅ぼせるのか?」
ワレ、かぁ。
「滅びたいんですか?」
不老不死というものはどういう思考に至るのか、生きる事に飽きるのか、いや、それ以前に生きているといえるのか...
「どちらでも良いのだが、アイテムボックスにしまうなどというのが切り札というなよ、興醒めだ」
「ダメなんですか...残念です」
険しい顔でこちらを見つめてくるガレムさん。
「食えないな女だな...しかし、そうだな、アイテムボックスがあるとわかった以上、死んでもらうぞ」
なにそれ?
「もしかして、持っている同士だと中身を引き継げるとか?」
「ああ、その通りだ」
知らなかった、というか衝撃の事実。
これは知られてはいけない情報だなぁ。
「貴方を滅ぼしたら、そのアイテムボックスの中に入っている眷属たちってどうなるんですか?」
「感染者達か、おそらく消える」
「その根拠は?」
「ワレの体の一部をアイテムボックスにしまい死んでみたことがある」
「復元スキル発動と共にアイテムボックスの中の一部も消えた?」
そんなことを試す発想が凄いというかなんていうか...
「ああ」
嬉しそうに笑うガレムさん。
最悪感染無しの状態の死体だけが残るというところ、いや、感染した時点で蘇生不可なら死体が残るというのは矛盾するか。
「アイテムボックスの件は実証済みということですよね、ちなみに何人くらい?」
嬉しそうに嗤うガレムさん。
「流石、魔人と対等に渡り合う勇者というところ」
「?」
「今までの口だけの勇者達と違うところをみせてくれ」
「お喋りは終り?」
「ここまでが死者への手向けであり。勝者への褒美だ」
殺るにしろ、殺られるにしろ。これ以上情報をわたす気はないという事か。
「行くぞ」
ガレムの声と共に動き出す巨大なアンデッド達。
「ターンアンデッド」
全てのアンデッドが灰になる。
「まさか一瞬で全てとはな」
舞う灰の中でこちらに両手を突き出しているガレム。
その両手に握られた黒い物が鳴る。
タタタンッ!
名前:ガレム 種族:人族 性別:男
HP:600/600 MP:0/0
STR:150 VIT:300 DEX:150 MND:100 INT:200
スキル:(特殊)言語翻訳、アイテムボックス、復元、感染
(武技)剣術2、槍術1、弓術5
(自動)統率1
弓術5
これが問題だった。いや、これを見た時点でその可能性を考慮し、その態度から確信に変わっていた。
目の前、丁度お腹の前に糸に絡めとられた弾丸が三発緩く回転している。
ひぅん!
ガレムの首が落ち、私の頭上で糸が風を斬る。
「水の壁」
二つに割ってみたが、その構造を良く理解していないから念のため張る。
ドンッ!
「うひゃ!」
普通に爆発した! 手榴弾はちょっとやばいかも。
銃は囮で、ターンアンデッドの灰で視界が悪くなった時にガレムが弧を描くように投げた手榴弾を落ちてくる前に頭上で斬ったのだ。
射撃も投擲も弓術だからね! 弓術やばいよね!
「いいぞ、そうでなくてはな」
こちらへ駆けて来るガレム。その手にはショットガンとピンが外れた手榴弾。
その指が引き金を...くぃ...地面に落ちる人差し指。
「さっきからどういうカラクリだ? 見ただけで斬れるのか?」
ショットガンをアイテムボックスにしまい宙に跳ぶガレム。
「?」
なにを? 手榴弾は?
ドンッ!
爆ぜるガレム! 中に跳んだガレムの背で手榴弾が爆発したのだ。
「なにそれー!!!!」
常軌を逸している。そんな戦い方...飛び散った肉片、頭上のそれがガレムとして復元する。
その手に持ったショットガンをこちらに向け引き金を人差し指が引く。
ズドンッ!
肘から先の手がガレムに散弾を放つ!
「グッ! ずるいぞ?」
腹に向こうが見える穴を開け不敵に笑うガレム。
トンッ、トンッ、トンットンットトトトトトトトンッ!
ガレムの背後でアイテムボックスから何か取り出されたのがわかる。
それは、ガレムの背にあたり跳ね、脇から股から腹に開いた風穴からこちらに向かって落ちてくる。
死という名の絶望......ピンの抜けた手榴弾が数十個。
「あー、アイテムボックスは時間が止まってるもんねぇ」
ちょっとなんていうか、スキルの使い方の発想が違いすぎた。
出したら爆発する状態の手榴弾とか自分が死なないこと前提の運用方法。
移動にしてもだ、肉片になって移動とか誰が考え付くのか......だからこそか。
「残念だったな、ワレの勝ちだ!」
ドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!
ガレム共々私が爆ぜその爆炎によりまるで紙の様に燃え尽きる。
数瞬後、何事も無かったかのようにガレムが地に立っている。
終ったのだ...
遠くから戦いを見ていたギルバート。
「とんでもない戦いをするもんじゃのお、あれは魔道具かの」
決着した戦いのはずだが地に座ったまま動こうとしない。
なぜ?
「まったく...だからこの世は面白い!」
それが老いによる死を拒否し魔人となった男の答え。
虚空を見つめるガレム。
「……どういうことだ?」
アイテムボックスの中身が増えていない。
パンッ!
いきなり目の前で音が鳴る。
違う、
目の前の少女が両の手を合わせ鳴らしたのだ。
何時からいたのか?
違う!
なぜ生きているのか?
少女の合わされた手が離れると、そこに人の形をした紙のようなものが浮かんでいた。
「式神召喚! ジェーン!」
その呼び声に答えるように人型が...
「なあに? ごしゅじんさま~」
「目の前の全てを空間ごと圧縮してね!」
「は~い!」
広げた両手を合わせ、ぎゅっと握るジェーン。
完全に虚を突かれたガレム。どういう仕組みなのか、周りがの空間ごと軋んでいるのがわかる
動けない。解ってしまう。
ああ、少女を見る。
曖昧に笑っている。
最初から?
この瞬間、復元が発動した直後しかも油断して何の対処もしていないこの時を?
うなずく少女。
そういえば、この少女の名前さえ知らなかった...な......
ぎゅ!
空間が握りつぶされ消える。
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