133:スピードの向こう側
頭をぐりぐりと強めに撫でられる。
「ほら、クロ起きてってば」
むふふ~、気持ちがいいのだ!
「Zzz...」
肉球をぷにぷにされながら持たれた手を左右に動かされる。
「ほらー、クーロー!」
リン、肉球ぷにぷにに夢中で手を動かすのを忘れているのだ!
「Zzz...」
リンがごそごそとしだす。
「しょうがないなぁ、最終兵器の出番かな?」
むむむ、最終兵器だと! ひょいと何かが目の前に
「ぱく、むぐむぐむぐ」
はっ!
肉串を手にしたリンが笑っている。
「やっぱり起きてんじゃん!」
「むぐむぐー!」
雑魚の一族というのがカーサと小僧を狙っているらしい。
「ということだから、クロはカーサのところにいてあげてね?」
「リンも一緒なのだ!」
「んー、私は見張ってるのとかに色々聞いておきたいから別行動するよ、実際今もつけられてるしさ、折角わざわざ戦力分散してくれてるんだから美味しくいただいたほうがいいでしょ?」
「むー!」
「クロもカーサがいなくなるの嫌でしょ?」
「いやじゃなくもないなくもない!」
「どっち? けどまあ、お願いね。カーサちょっと抜けてるところがあるからさ、あっさり敵の罠に嵌りそうじゃん?」
「それは同意せざるを得ない!」
「ピンチの時に出て行って助けるとか格好いいよね?」
「はっ!」
かっこいいのだ!
魔道具屋の屋根で待機中...
待機中...
待機中...
Zzz...
「このクソアマめ、もう一発だ!」
「Zzz...はっ!」
誰かの走る足音が聞こえる。
ひょこっと下を見る。
おぉぅ、カーサ死にそうじゃないか!
とぅ!
くるくるくる!
たし!
取りあえず、走ってくる雑魚は死んどけ!
神の右足!
念動力で、暗殺者がぷちっと潰れる。
死にそうなカーサにヒールをかけつつビシッと決める!
「こんな事になるだろうと思ったのだ!」
「え?」
むっ! 驚くだけとは生意気な!
「まったく、バカーサめ!」
必殺、肉球攻撃だ! カーサにお仕置きをする。
「や、やめてクロちゃん」
ぬ、何で泣きそうなのだ?
「カーサ? 痛いのか?」
ぺろぺろと舐めてやる。我は喜んで欲しいのだ!
「ううん、大丈夫。ありがと」
じゃあ、喜んで我を褒め称えるのだ!
「ほめて?」
「え?」
「ピンチに駆けつけた我を褒め称えて?」
「え、だって、ピンチのままじゃ」
げし!
「い、痛いの」
げしげし!
「や、やめてクロちゃん?」
「我がこんな雑魚共に負けると?」
「だって、神速のスームと鉄壁のサームがいるのよ?」
「なんだそのダサいのは!」
ぐりぐりぐりぐり! 必殺のぐりぐり攻撃をお見舞いする。
耳元で囁く。
「我に合わせろ、いいな。わかったなら小さく頷け」
頷くカーサ。
痺れを切らせた男が声をかけてくる。
「おい!」
「だ・ま・れ!」
ぷちっと潰れる暗殺者B。
五月蝿い奴らだ、周りを見回す。
扉の前で固まっている女はリンのコスプレ?
「ぬ! あいつはなんだ? リンのファンか?」
「リンに化けて私を誘き出したやつよ」
「あ゛?」
「ひぃ!」
我の鋭い眼光に後ずさる女。
「リンと同じ格好をするなゴミが! 極炎!」
ボッ!
と燃える女。
「ひぃぃ! あづいぃぃ!」
「だ・ま・れ!」
ぷちっと潰れるコスプレ女。
「おい、なんだ、それは!?」
我ではなく、カーサに尋ねる盾を持った男。
「…………」
無視するカーサ。
「…………」
我も無言。
「おい!!」
「…………」
「…………」
「サーム、相手に乗せられるな!」
「む!」
「余裕そうに見せているが、そのネコは女のそばを離れていない。離れられないのだ!」
あの男は別格らしい、よく見ている。
守りながら戦うというのは存外に難しい。
そのため本格的な戦闘になれば逃げ出すであろう雑魚を先に倒したのだ。
増援がいるかは不明だが呼ばれるのは拙い。
「たしかに、だがあの技はなんだ?」
「わからん、特殊なスキルなのだろうが気にするな、魔法と思い対処すればいい」
「わかった!」
「的確だな」
雑魚にしてはな、男を見る。
「化け物が!」
褒め言葉なのだ。
「で、あの神速というのは速いのか?」
カーサに聞く。
「うん、DEXが300あって、スキルに俊足っていうのがあるの、さっきもスキルを使ったんだと思うけど速過ぎて全然わからなかったの」
「俊足の効果は?」
「え? わかんない」
「スキルを鑑定しろ!」
「どうやるの?」
「しらーん!」
「えええぇ!」
少し勝手が違うのだ、しかしカーサにリン並の能力と以心伝心を求めるのは間違っている。
戦闘も我が主導で命令しなくてはいけない。
「苦手なのだ!」
「え? なになに?」
「ぬぅ! カーサは盾持ちに攻撃するのだ!」
「うん、わかった!」
神速と言う奴を見る。
我のDEXはリンと同じなので375ある。
しかし、おそらくあの俊足というのはDEXを1.5倍や、速さ自体をブーストする能力と見た方がいいだろう。
カーサのそばを離れるわけには行かないから爆裂歩法は使えない。
使ったとしても速さで勝てなければカーサを人質にとられるか、単純に速さで負けている我が攻撃される。
ズッ...鉄壁が盾に隠れつつ近づいてくる。
「アイアンバレット!」
カーサの鉄の礫が発動する。
「ぬぅ!」
キンッ!
神速がカーサに攻撃を仕掛けた所を鉄の爪で迎撃する。
速いな。
爆裂歩法でもギリギリだ。
「それがトップスピードか?」
「どうかな?」
右にいた奴が左に移動して答える。
ズッ...「スラッシュ!」
鉄壁の剣技が襲い来る。
「鉄の壁!」
カーサの防御。そして、我の追げ...
「爆しゅ、くぅ!」
キンッ!
「余所見をすると危険だぜ?」
「カーサ、物理じゃなく火でやれ!」
鉄魔法や風魔法は魔法属性がついて魔力も宿るが結局のところ物理攻撃なのだ。
相手に攻撃が当たれば魔法効果も発動するが物理の部分で盾等に防がれたら意味が無い。
火や水ならばその場に火の壁を出現させ火自体の火力でダメージを与えられるし、水ならば魔力操作さえ出来れば相手の顔に水の玉を作り窒息も狙える。
「させない!」
キンッ!
キンッ!
キンッ!
「むぅ!」
キンッ!
「まだまだ加速するぜ!」
「ぬぅ!」
ダメだ。
これではジリ貧というやつだ。
「カーサ」
「な、なに?」
「少し目を瞑っておけ!」
「え?」
「鉄の壁×5!」
ドンッドンッドンッドンッガンッ!
カーサを鉄の壁で囲み蓋をする。
「ふー...」
鉄の箱から少し離れた地面に降りる。
「何のつもりだ?」
「二対一だぞ?」
ん? そういう見方もあるのか。
「面倒なのでな、少し本気を出す事にしたのだ!」
「今まで本気ではなかったと?」
「なめたネコだぜ!」
汚らしいお前達などなめてやらんがな!
ドンッ!
鉄壁に向かい爆裂歩法を発動する。
「逝け!」
何かスキルを発動したのだろう盾が一瞬光るがそんなの関係ない。
念動力で盾を無理やり跳ね上げる。
「ウオ!」
がら空きの腹に、鎧を着ているが関係ない。
鉄の爪に炎を纏い斬撃をする、致命傷にならなくても追加効果の炎が全身を焼き尽くすのだ!
「オレを忘れるなよ?」
斬撃の瞬間、横から我に向かい短剣が突き出される。
「むぅぅぅ!」
体を捻り、短剣を鉄の爪で受ける。
「シールドバッシュ!」
ガンッ!
「がっ!」
鉄壁が盾スキルを発動、盾がありえない軌道を描いて我を弾き飛ばす。
宙を舞う。
「追撃だぜ?」
神速の蹴りが我を捉え「ダッシュ!」
とんっ!
地に降り立つ。
「格闘術のスキルか...」
(クロ? HP減ったけど大丈夫なの?)
リンが念話をしてくる。
(うむ、ちょっと転んだだけなのだ!)
(ほんとに? こっちに召喚しようか?)
リンは少し過保護過ぎるのだ!
(ちょっとまだ用事が済んでないのだ!)
(大丈夫なんだよね?)
(余裕なのだ!)
(うーん、それ以上減ったら強制召喚しちゃうからね?)
(むぅ! わかったのだ!)
リンにも困ったものなのだ。
我は少し遊んでいただけなのに...
雑魚達を見上げる。
「どうした? 怖気ついたか?」
「体重が軽いとよく飛ぶな!」
「それが最後の言葉になるが、いいか?」
「そのままお返ししてやろう」
「だな、畜生の分際で喋るな」
「ふん...」
トトト、歩き出す。
「折角リンの前で発現しようと特訓してたのにな...」
ドンッ! と爆裂歩法を発動する。
テレスはどうやって覚えたのだ?
限度を超えた肉体の酷使とスキルの理解ですね。
「同じことの繰り返しとは、やはり下等な動物だな!」
鉄壁が盾スキルを発動する。
クロ! 爆裂歩法禁止ね!
それ敵に与えるダメージより自分のダメージのほうが大きいじゃんか!
ぬぅ、もっと上手くできるように鍛錬するのだ!
もー、なんで使うこと前提なのさ?
「さっきは手加減したが今度はスキルを使い攻撃するぞ?」
神速が隣に並び言う。
そういえばクロちゃん格闘術のスキルは使わないの?
ん、クロは武技のスキル使ったことないかも
ぴこーん!
クロ、何を閃いたの?
ひ、秘密なのだ!
鉄壁の盾と神速のナイフが迫る。
「行くぞ?」
格闘術のスキルを発動する。
限度を超えた肉体の酷使と格闘術スキルを組み合わせ...
景色が歪み...
音が置き去りにされ...
我は、
音のない世界へと突入する。
クロは縮地を発動した!
格闘術が魔闘技へと変化しました!
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