131:死の行軍05
背の高い建物に糸を放ち、魔力を通す事で建物に負荷を与えずに跳ぶ。
さすがにビル群があるわけではないので、蜘蛛男さんみたいな事は出来ない。
足の速い馬を使っている。
距離はつめられたが、彼等が街を出る前に追いつくことが出来なかった。
「速いなあ」
街道沿いは盗賊などの待ち伏せ対策で高い木は伐られているため、このまま街道を走られると爆裂歩法とか使わないといけなくなる。
と、思っていたが杞憂だった。
街道にはローラン軍が点在しているため、それを避けたようだ。
馬を捨て徒歩で森の中を疾走していく、馬番は一人か。
斬!
距離を置いて、馬と馬番を殺しアイテムボックスにしまう。
くぃっ、手を引くとフワリと浮かぶ、糸で木を跳び移りながら追跡を再開する。
今回は情報が足りない。
ぶっつけ本番でボス部屋挑戦しまくってるくせにと言われそうだけど、魔物、特に迷宮の魔物は目的がはっきりしている。進入者の排除だ、気をつけるのは相手の戦力と特殊なスキル等の対処法だけ実際無茶はしていない。
次元の迷宮でゾンビロードから手に入れた、ブラックリボン。
管理迷宮で手に入れた、階層の無い転移カード。
この二つは何が出てくるか判らないのでまだ保留中だ
実際の所、今日の管理迷宮の最下層周回だけでも装備が充実したのだからまだまだやるべきことは残っている。
今回の相手は人間でしかも組織的に動いている。
目的は、おそらく私のはずなんだけど、管理迷宮の最下層で餌を撒いたからそれに喰い付いて来たんだと思うんだよね。
私を見て急用を思い出した宮廷魔術師、あそこが闇の組織とくっついていたという事だろう。思えば城を逃げ出す時、式鬼で一掃してしまったのが色々ダメだったんだろうなぁ。
けど、あの時は吹けば飛ぶような貧弱さだったから、あれしか方法無かったんだよね。
今回は色々手は打ってあるんだけど...
取りあえずは、彼等を押さえる事が一番の重要事項。
攻めてきた刺客とかはその次、だって攻めて来る人達の情報が出すぎている事を考えると彼等がそれを流した可能性もある。
ぱっと考えられるだけでもこれくらい。
1.本当に強い刺客だから情報封鎖をしなかった。彼等は単純に報告のためだけに暗躍している。
2.凄いやつらが攻めてくるという情報を流し、国の持てる全力でそれこそ隠しだまも使って対処してね、全部観察して報告するからさ。
3.実は流した情報は本当だけど事実を流す事で本当に隠したい情報を気付かせなくしてるんだぜ、本当は秘密裏に潜入している刺客がいるんだぜ! 気付いたら国が乗っ取られてましただぜ。
ウィリアムさんやエリック王子もいるから情報戦で出し抜かれる事は無いと思うけど、まあ目の前に確実な情報源がいるからね、今から合流するのが本隊か先発隊かわからないけど、
それから根こそぎ情報を引き出せばいい。
って、何してんだろうなぁ私。
けど、まあ、自分でまいた種が予想以上に大きく育ったという見方もあるし、ほっとくのもあれだしね。
引き出した情報で育った作物を刈れそうなら狩ろうかね。
着いたらしい。
「麻痺!」
範囲で麻痺の呪文を発動する。
「ガッ!」
「な、んだ?」
「ウゥ!」
「こんにちは、取りあえず何も喋らなくていいよ」
「お、まえ、は」
「ぼう、けんしゃリ、ン!」
時間が無いから一人ずつ知ってることを全て話させることは出来ない。
ここから見える遥か先で、不死のなんとかさんとローラン軍の戦闘が行われているから。
全員を鑑定して、強さを確認しておく。
「じゃあ、端から聞いてくね。リーダーはだれ?」
闇魔法の魅了と光魔法の洗脳を使い喋らせる。
これは一応全員に確認してリーダーを割り出す。
斬!
いらないものは取りあえず殺してアイテムボックスにしまう。
残したのはリーダーとあと二人だけ。
「じゃあ、リーダーさんには知ってること全部話してもらおうかな。キュア! ダメダメ歯の奥に仕込んでたのか知らないけど即効性の毒でも簡単に無効化できるから、じゃ、知ってること全部よろしく!」
洗脳の深度を深めて情報を聞く。
「ふうん」
1と2らしい。
ズズズズズズ...あっちでは何か大規模な魔法が発動してる。
「じゃあ、次は貴方ね」
「お、れは、な、にも」
「いや、だって強さの桁が違うじゃん?」
「なっ!」
「それにそっちの彼はへんなスキル持ってるじゃん?」
「なっ!」
鑑定で全てわかっている。
情報は知らなければ洩らせない。リーダーの知らない情報と言うのも存在するはず。おそらくこの二人がそれを握っている、鑑定が無ければこう効率的にはいかなかったけど、まああるんだし有効活用しないとね。
「別の指令を受けてるとかそういう感じなんでしょ?」
「ななななっ!」
「ななななななななっ!」
「あっちもなんか佳境っぽいし、ちゃっちゃとやろう」
フラグクラッシャー!
ある少年は、目の前にあるイベントのフラグを気付かず叩き折る名人だと言う。
ある少女は、綿密に立てられたフラグを華麗に避けた挙句イベント自体を叩き潰す名人だと言う。
目の前が白く染まる。
神器ジャッジメントが発動したのだ。
「これは......やばいね」
戦略兵器とかさっきの人達から聞いてなかったら、不死のガレムって人を鑑定しようと近づいていたかもしれない。
そしたら終ってたね!
ていうか、こんなの作り出している教会のほうが色々やばくない?
ローラン王都のど真ん中で発動したらさ、ねえ?
式を飛ばす。
取りあえず、ローラン軍の動きを確認しておかないと。
後方指令所:
目の前に広がる不死の軍を見ながら指令を出す。
「王都まで軍を引く」
「殿下!」
悪夢。
予期せぬものだったが神器の発動で決着がついたと思った。次の瞬間アンデッドの軍団が復活したのだ。
「ウィリアム」
指揮系統が違う、冒険者を束ねるウィリアムに意見を求める。
「そうですね、」
空を見る。日が既に傾きつつある。そして、不死の軍を見る。
「さすがに無限という事は無いと思いますが、持久戦で夜になるのは避けるべきですね。不死の軍の行軍速度は速くありません、夜のうちに王都に到達は出来ないでしょう」
同じ結論に達したようだ。
一番犠牲の少ないローランに害の無い策であったが完全に失敗した。
「明日の早朝、日の出と共に迎え撃つ。工兵は行軍を妨害する罠を仕掛けろ」
他の策が無いわけではない。
神器ジャッジメント。
レプリカといえあれほどの破壊力、注意せねばな。
撤退を開始するローラン軍。
ガンッ!
「見捨てられたようだぞ?」
「なにがだ!」
ガンッ!
「ああ、動けないのだったな、軍が引いていくぞ」
「……」
ガンッ!
「そろそろ切れる頃か...」
「殺してやる!」
全身を手も足も胴体もアンデッドに捕まれたラムダ。
ガンッ!
その胸をガレムの槍が突いている。
「出来るものならやってみろ?」
「チクショウ!!!」
ガンッ!
もうすぐ絶対防御が切れる。
既にアンデッドにより身動きできない状態だ。そして、切れた瞬間この
ガンッ!
槍が心臓を貫き死ぬ。
違う。
死なないのだ。
俺はそのままこいつに忠誠を誓うアンデッドナイトになる。
せめてもの救いは、今回使ったことで絶対防御はしばらく使えないことだ。
これも違うな。
生き残ろうとして絶対防御など、この俺がとった愚かな行動で滅ぼせなかったのだ。
全身を脱力感が包む...ああ、
絶対防御が切れた。
ガレムが嗤い、槍を突き出す。
避けようとするが体が動かない。
槍の穂先が迫る。
自害も出来ない。
チクショウ!!!
「殺せ!!!」
叫ぶ!
「いいぞい」
敗者の願いに悪魔が答える。
キンッ!
澄んだ金属の音がする。ガレムの槍が二つに別れ穂先が宙を舞う。
斬!
そして、ラムダの首が跳ぶ。
斬!!!!!!
黒い剣気がアンデッドの軍団を二つに斬る。
「楽しそうじゃのぉ」
その技に耐えたれなかった剣の破片がキラキラと宙を舞う。
「ワシも遊ばせてくれ」
魔人が、ニィと嬉しそうに笑う。
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