128:双剣のシーム
ゆっくりと歩く。
今日は楽しかったな。
いつもはソロで気を張り詰めて行っている迷宮探索、信頼できる仲間と一緒だといい感じにリラックスできるし色々と気付かされる事もある。
気配察知に複数の反応がある。
まだ人が多い、もう少し人の少ない方へ行くか。
そういえば今日だけでレベルもスキルも凄い上がったな。
気配察知も3から4になって索敵範囲も広がり精度も上がった。
おそらくこのさっきから後をついて来る妙に気配の薄い奴が俺に用があるのだろう。
戦う時に全力を出せるというのは、戦闘全体を管理しているリーダー的な存在の有無が大きいのだろうな。
今の俺達だと楠木がリーダーだよな。敵の情報が事前に読み取れる鑑定というスキルも大きいが、やはり的確な指示が皆の力を最大限に発揮される要因になっている。
危ない敵の場合は何を気をつければいいか事前に教えてくれるし、初見の敵でも気をつけるべき要素を的確に指示してくれる。
いつも我が儘なクソネコを管理してるから、あんな的確な指示能力を身につけたのかな?
まさかクソネコはワザと我が儘な振りをして楠木のリーダー的能力を育ててたりするのだろうか?
「ないな!」
断言できるぜ!
あれ?
常に仲間のことを気にして戦っている楠木って、
本気で戦った事あるのかな?
もしかしてクソネコ自体も楠木のリミッターなのか?
ゾクリ、と背に冷たいものが走る。
俺が楠木の立場だったら、ちょっとやっていけそうに無いよな。
小さな判断ミスで仲間の命が失われるかもしれない。本当は余裕が無くても平気そうに笑っていなくちゃいけない。
いや、だけど楠木のあのにへらっとした態度は本当に余裕がある態度にしか見えないよな?
あれが演技だったらとんでもない役者だし。
ほんとに余裕だったならどんだけ強いんだって話だよな。
なんか、楠木の事ばっかり考えている俺って、恋する乙女みたいだな!
なんで俺が乙女なんだよ!!! ペシッ!
って、一人ノリ突っ込みしてんじゃねーよ! ペシッ!
まあ、けど、今日は楽しかった。
童子切っていうすげー装備も手に入ったし、刀術っていうユニークスキルも手に入れた。
なんかこれって死亡フラグっぽくね?
まさかな?
少し開けた場所に出る。
やっと二人だけになったみたいだ。
どうやらあっちが人払いをしてくれたらしい。
背に剣を二本背負っている男が一人。
「よう」
「おう、だれ?」
スラリと剣を抜き放つ。
「双剣のシームってもんだ」
「へえ」
左右の手に持つ剣は日本刀よりも反りが深く剣先に向かって細くなっている。
剣先が幅広のシミターや青竜刀とは違う、たしかシャムシールという曲刀だったか。
こちらも剣を抜く、右手に童子切、左手に大地の剣。
「へえ、お前も二刀を使うのか」
「そうみたいだな」
大地の守りを発動する。
「おいおい、魔法まで使えるのか? 勇者というのは本当だったか」
「お前、闇の一族とかいうのだろ?」
「まあ、な!」
いきなり沈んだと思ったら伏せのような体勢で回転しつつ足首めがけて剣を振ってくる。
上に跳んだらこの高速な剣撃の餌食になるので、すっと後ろへ下がる。
奴はそのまま回転を加速しつつ、足や腰へと変幻自在に斬りつけて来る。
「ちっ!」
キンッ!
斬り結ぶことで動きを止めようとするが当たった瞬間手首を返され剣がすり抜けていく。
キンッ!
斬!
キンッ!
斬!
斬!
キンッ!
斬!
キンッ!
受け流されて斬りつけられ、受けた瞬間逆回転でもう片方の剣が襲い掛かる。
スピードがのってるとはいえ斬撃の威力が強すぎる。大地の守りが瞬く間に削られる。
「ちっ、何で片手でそんな力が!」
斬!
「フフフ、オレは二刀流スキルを持っているからな!」
なんだよ、二刀流スキルってよ!
俺は鑑定無いんだからスキル名言われてもわかんねーよバカ!
「スラッシュ!」
スカッ...
え?
「ダブルスラッシュ!」
斬斬!
「ぐっ!」
まともに喰らう、×の字の斬撃で吹き飛ぶ!
「お前、剣術スキルも無いのに剣を使っているのか? しかも二刀流などと愚かな...」
剣術スキルが、な、い?
「あ!」
俺は、もう、剣術スキルを持っていない!
「その右手の得物は刀だろう? 侍という奴がよく言う! オレの剣は所詮踊りだと」
クルリと回る。
「しかしなオレの斬撃は二刀流スキルによって片手でも両手で持った時と同じ威力を発揮できるし、この回転から繰り出される斬撃はスピードと言う破壊力も加味されているのだ」
クルンクルンと回る。
「そしてこのスピードから繰り出される剣撃に剣術によるスキルが加わる!」
クルクルクルクルクル。
「一撃必殺などという愚かな者を幾度となく切り伏せてきた!」
クルクルクルヒュ!
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
凄まじい回転で剣が空を切る音がする。
「いくぞ!」
「エクストリームオーバースペシャルアタック!!!」
やばい! 技名がダサいのに威力がやばい!
「鉄の壁! 大地の守り! 氷の守り! 空蝉! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」
ザンッ!
まだ剣の間合いの前なのに鉄の壁に斬撃が入る。
スキルではない、この必殺技のスピードにより真空の刃、かまいたちが発生しているのだ!
ザンッザンッザンッザンッザンッザンッザンッザンッザンッ!!!
「ぐっ! おぉぉぉぉぉ!」
曲刀による剣撃乱舞攻撃!
いつ終るとも知れないその鋭い斬撃に己のHP回復5と回復魔法ヒール、そして時間回復、足りない分は空蝉で身代わりを作り必死に耐える。
ヒュンヒュンヒュン...クルクルクル...ズサ!
双剣のシームが着地する。
「…………」
うずくまる勇者。
「...しぶといな」
この技を受けて生きていたものは初めてだ。
「はー、はー、はぁ」
ゆらりと立ち上がる勇者。何を思ったか、剣を鞘に収める。
「どうした? 負けを認めるのか?」
立っているのがやっとという状態、もう一度オレの技を受ければ確実に命は無い。
「は?」
不敵な眼差で俺を見る勇者。なんだこいつは馬鹿か?
お! 俺のことバカかとか思ってる顔だ、ムカつくわー!
「俺ついさっきさ、剣術のスキル無くしちゃったんだわ」
「...何の冗談だ?」
「いやー、バカだよな俺、かっこわりーぜ、へへへ」
もう剣術じゃなくて刀術なんだよな。
大地の剣はもう使わないから鞘に収めた。
まあ装備はしてるからセット効果は切れない。
童子切を両手で持ち正眼に構える。
「そういや俺の名前言ってなかったな、あんたにだけ名乗らせといてわりーな」
「そうか、死の覚悟が出来たという事か...」
「...まあね、俺の名はフジワラ。冒険者フジワラだ!」
「フジワラか、覚えておこう。オレにこの技を二度使わせた男だ!」
「へへへ、あんたの技を破った最初で最後の男として覚えとけよ?」
「ハハハ、豪儀な奴だな。嫌いじゃないぞ?」
…………
……
…
「いくぞ?」
「ああ、いつでもいいぜ?」
クルン、クルン、クルクルクル!
「楽しいな!」
目を閉じ意識を童子切に集中する。
「そうだな!」
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
「エクストリームオーバースペシャルウルトラアタック!!!」
「おぃ、技名増えてんぞ!!!」
最後の戦いが始まる。
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