116:宮廷魔術師
その男は、全てを持っていた。
類稀なる魔法の才能。
それを操れるだけの十分な実力。
宮廷魔術師という魔法を使う者の頂点とも言える地位。
さらに魔術師団の長としての指揮権も持っている。
魔法の一族の血縁という肩書きもその者の権勢を後押ししていた。
彼は高レベルの風魔法に加え、闇魔法も扱える。
そして特筆すべきは空間魔法の保持、その存在自体は確認されているが保持者はほとんどいない、所持している者はその存在自体が国宝とまで言われた。
スキルは遺伝する。
スキルの希少度によって遺伝の確率が異なるが、それでもわずかな確率で遺伝するのだ。
我が娘を妻に、
彼に娘や孫、または領内にいる見目麗しい娘を献上してくる貴族が絶えなかった。
彼は気まぐれに女を抱き子を孕ませ、殺した。
己以外に空間魔法の所持など許されない、何の才能もない愚かな女などに己の才能の一片も与えてやるつもりなどない。
与えるなら相手にもそれに見合うだけの才能が必要だ。
彼には協力者がいる、
魔法の一族とは一線を画す組織、それは闇に存在する者達だ。
闇には禁忌が無い、才能こそ、力こそが全て。
闇からは才能のある花嫁が何人か送られてきた。
その物言わぬ、手足のない、ただ所持している才能を伝えるだけの花嫁。
しかしその花嫁達は送られてくる前に既に他者の才能を生産した物であった。
その様な汚れた物は必要ない、事実がわかった時点で花嫁は破棄または譲渡した。
己の権力を拡大するためその技術に疎い魔法の一族へ設置方法と共に譲渡したのだ。
将来、己の魔術師団にそこから作り出された才能が入隊してくる事を期待してだ。
彼はその才能を多岐にわたり存分に発揮した。
ここに己の国を作るには現王は扱いづらい、愚かな姫をそそのかし異世界からの勇者召喚を行わせる。
勇者は存在自体が災いを招く、そしてスキルの宝庫でもある。
国にとっては凶兆であり、己にとっては吉兆である。
「―――様、行ってまいります」
「ああ、ご苦労」
奴には隷属処理を施した勇者を貴族へ引き渡す任を与えた。
わずかな才能の男、奴には闇との連絡役をやらせている。
気まぐれで入隊させた男だが、あれの特技は息を吐く様に嘘をつく事。
都合良く使うために奴には少しづつ闇魔法を施し精神を蝕んでいる。
既に現実と想像の区別が曖昧になってきている。
これが終ったら、奴は一度壊してしまおう。
召喚魔法を持っているという少女が運ばれてきた。
見つけた!!!
見つけた、見つけた、見つけた、見つけた、見つけた!!!
その男は、精神を病んでいた。
既に現実と想像の境がなくなっていた。
現実が夢であり、夢が現実なのだ。
「発見しました、勇者です」
「――――――」
「いえ、違います、既に光魔法は蘇生ができるまで成長しています」
「――――――」
「いえ、いえ闇魔法もです、エリック王子を魅了魔法で傀儡と化していました」
「――――――」
「はい、師を殺害したのもおそらく」
「――――――」
「国を乗っ取ろうとしています」
「――――――」
「私も狙われています、早急に対応を!」
「――――――」
「冒険者です」
「――――――」
「名はリン、冒険者リンです!」
「――――――」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく、もうすぐそこまできている、たすけてたすけてたすけてたすけて」
その死体は、凄惨だった。
何者かと戦い全てを破壊し己の命を絶っていた。
ただ、その何者かの痕跡は一切残っていない。
彼が戦ったものは存在していたのだろうか?
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