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ネコと私  作者: 昼行灯
管理迷宮編
111/143

110:盗賊ギルド02

ゴネた者勝ち、これこそが真なる力だと彼は言う


先日も我々に反抗的な商人を屈服させたところだ、あれは爽快だった

ありもしない不祥事を捏造し店の前で今回と同じ事をした、準備は簡単、仲間の中から声の大きい者を数人用意し貧民街で人を雇う、わずかな金で店舗を取り囲むだけの人数が集まった


商人の名前も知らないような者達にその商人がいかに悪逆な事をしているかを吹き込む、面識の無い者の言うことを何の疑いも無く信じる愚か者共、金を貰い正義を行うということの矛盾を疑う知性も無い容易い猿共


謝罪と賠償、なんて美しい、金を生む言葉だろうか


商人に公共の場で頭を下げさせ、賠償として人を雇うのにかかった額の数十倍の金と今後の恒久的な慰謝料の支払いを約束させた


賠償と慰謝料の違いがよく解らないが、金が貰えるならどうでもいい



今回は邪魔な組織である冒険者ギルド、そしてその最大戦力ギルバートが本当におこした不祥事だ、こんなおいしい事に食いつかない手は無い


しかし、なぜか愚昧な猿共の集まりが悪かった前回の倍の額を提示したのに、今回は本当に相手が起こした不祥事だ、幾らでも毟り取る事が出来ると言うのに本当に愚かな者達だ


安全な街の中で一方的に振るえる言葉による暴力、冒険者ギルドなどといっても所詮力に頼っただけのバカ共の集まりだ、お得意の武力もこんな公の場では振るえないだろう、話し合いに出てくればこちらのもの言葉の魔術師といわれる彼が叩きのめしてくれるだろう


彼の言葉には力がある、聞いてるだけで何でも出来る気がする、頼もしいやつだ!



「ここに集まった者達わー!」


ギルバート反対!


「今回死んだ冒険者の親族達みたいなものだー!」


私はギルバートではない!


「この者達の生活の保障とー!」


冒険者はこの街から出て行け!


「正式な謝罪を要求するー!」


冒険者ギルド反対!



いい感じに温まって来たな、ずいぶんと遠巻きだが野次馬も増えてきた、しかし冒険者ギルドは扉を閉ざしたまま何の反応も示さない


すこし実力行使をするか.........合図を送る


反対の声と共にどこからとも無く石が投擲される


ドンッ!

鈍い音と共に冒険者ギルドの壁にあたる


フフフ、世間の目が我々の味方だ、精々怯えろ!!!




鈍い打撃音がギルド内に響く

「なあライ、どっか美味い丼物の店しらね?」

「知ってるが奢ってくれるなら教えてやるぜ?」

「なんだよ、ただで教えろよケチくせえな!」

「二割増で料理売りつけてくる奴にはいわれたくねえな」

「出来立ての飯が食えるんだからそれくらい当然じゃね?」

「お、出来立てといえば市民街に結構値が張るが海鮮丼を出す店あるぜ!」

「おーってあれ海鮮って海あんのか?」

「あー違う、海鮮の魔物な」

「はっ?、海鮮の魔物ってなんだよってか魔物の肉生で食うの?」

「画期的だろ?」

「画期的過ぎて俺には無理!」

「やっぱり?」

「やっぱりってなんだよ!」


ドンッ、ドンッ、ガンッ!

石が壁にあたる音が室内に響く


「そういや、私はギルバートではないってどういう意味よ?」

「知るかよ、そのまんまの意味じゃねーのか」

「そんなの当たり前の事じゃねーか、バカなのか?」

「そりゃバカだろ、冒険者ギルドにこんなことしてんだぜ」

「?」

「おいおいフジワラ、もしかしてこれが目的で来たんじゃないのか?」

「これってなんだ?」

「マジか、じゃあお前何もすんなよなー」

「なんだよ、何かあんのかよ?」


ドンッ、ガンッ、ガシャーン!


「うぉ、あぶねえ!」

「おいおい、ちょっと洒落にならねーぞこれは」

投げられた石が窓ガラスを割り室内に飛び込んできた


「あー、これは冒険者ギルドに対する敵対行為ですね」

ガラスの破片で怪我をしたギルド職員を見つつ発言するサラさん


その発言を受け事務所の奥で動き出す職員と装備を確認しだす冒険者達

「お、お、お?」

「うし、貴族街からの対応待たなくてよくなったんだな」

「お?」

窓ガラスまで割られてデモのやつらが暴徒になりそうなのに妙に嬉しそうなライ達冒険者の皆さん



緊急依頼がギルドから出される



「殲滅?」

依頼書を見ると殲滅依頼で参加資格がEランク以上か戦争参加経験者のみとなっている

「げ、殲滅かぁ、ジムどうする?」

「………」

「だなぁ、やめとくか」

「なあライ、これってあいつらを殲滅するの?」

「ああ、多分ギルド職員に負傷者が出たからだな」

「殲滅って皆殺し?」

「ああ、だな」

「マジで!?」




生死観というのは生きてきた環境で全然違うものなのだと思い知らされる


この国では貴族街に住む者が国民であり国家が守るべき者達、その者を殺害した場合は国から追われ裁かれる事となる

冒険者は冒険者ギルドの管理する者達でありその者を殺害した場合は冒険者ギルドから追われる事となる

そして市民街の治安は国からわずかに派遣されている衛兵と冒険者ギルドの存在で維持されている


魔物を狩る冒険者という職業は毎日が命懸けだ、

迷宮という死ぬと吸収され全てが終わる場で己を殺しに来る魔物達、ここでは綿密に計算した体力配分をし、余力を残して戦闘に勝利しなくてはならない


迷宮内では魔物だけが敵ではないのだ、

魔物を殺して魔石を回収し売れる部位を採取しギルドで買い取ってもらう、このような手間をしなくても手っ取り早く金を手に入れるなら魔物と戦闘し終わって余力の無い冒険者を殺せばいい、冒険者の所持金と装備に加えその者達の倒した魔物も手に入る


毎日が死と隣り合わせの生活、もし安全な場、傷ついてもすぐに治癒魔法が受けられる場で倒す相手が戦闘力無しの口だけのゴミみたいな者達だったら?


美味しい仕事だ


今回、スキルがあり迷宮探索がそれほど苦にならない者は殺人を忌避し依頼を受けない、おそらくライ達がそれだ

才能があるものは生きる場所を選べるのだ、迷宮はどこにでもあり、ある規模以上の街には必ず冒険者ギルドが存在する


しかし、この街で生きると決めた者、家族がいる者、ここで生まれ育った者など理由は色々あるがここにある冒険者ギルドの存在意義を理解しているものはそれを守るために参加する


あとは、殺人を意に介さない者達もだ


俺は参加しない、理由は簡単碌なスキルがなさそうだからだ!


それくらいの考えが丁度いい



参加者達の打ち合わせが始まっている、Bランクの冒険者PTの狩人主導で各PTが担当する相手を割り振っている、鑑定持ちというわけではない様だが戦闘経験が豊富な分強い相手の見分け方も心得ているという所か、実際怖そうな連中がまばらに混じっているしな


集団戦となるのだが、あくまでこちらの戦いやすいPT単位で戦闘するらしい

「ソロは逃げ出すやつを担当してくれ」

「最初にでかいのぶちかますか?」

「いや、街中だからな魔法はなるべく控えて武技にしてくれ」

「わかった、戦果は気にしないでいいんだな?」

「ああ、報酬は参加者で等分するから無理せず担当箇所に来たやつを殺ってくれ」



「なんだか淡々としているな、ところでライ達は殺すの嫌だからやめんの?」

「いや.........いや、そうだな、見てればわかるさ、覚悟の無いやつを殺すのは後味がなぁ」

「いやあ、俺参加しないんだから関係ないし見ないよ、戦闘始まったら騒ぎに紛れて帰るわ」

「そうか、けどあれだな先導したやつらは確実に殺してほしいよな」

「なんで?」

「おそらくあそこにいるやつらのほとんどが最近この街にきた流民だと思うんだよな、ギルドに喧嘩売ったらどうなるかはしばらくこの街にいればわかるはずだからな」

「それもそうか、非がどうこうとか関係ないもんな」


しかしデモかぁ、

「こういうのって治安の良い場所じゃないと意味が無いと思うんだけど、というかこの状況を見る限り完全に失敗してるよな」

「ここの治安を守ってるのは冒険者ギルドなんだけどな、盗賊ギルドも何をトチ狂ったことしてるんだか」

「ふーん、」

増長するだけの何かがあるってことかな、っていうか一人だけ栄養満点な体つきのあいつだよな、最初の演説してたっぽいし特殊なスキル持ってるのか、もしかして同郷さんかな?


「ところで死体とかどうすんの?」

死が終わりじゃないこの世界だ

「そりゃ管理迷宮だろ?」

「おー、冒険者ギルドこえー!」

話してみたいけど気が合いそうに無いし、普通に盗賊ギルドってとこ所属みたいだしリスクのほうが高そうだよな


鑑定あればなぁ、事前情報で色々判断できるんだけどな


どうせ殺されるんならあいつだけは俺が殺っちゃおうかな?


.........何考えてんだ俺、この思考はダメじゃね?




少し離れた場所から冒険者ギルドの騒動をうかがう者達がいる

「どうだ?」

「暗殺を持っているものが九人います」

「レベルは?」

「一番高いもので二十ですね」

「たいしたこと無いな」

「はい」

「で、あれは?」

演説を行っていた男を指す

「はぐれのようです」

「レベルは?」

「五です」

「ひくいな、気付かれなかったか?」

「はい………あの、普通は相当なレベル差か能力差でもない限り鑑定は気付かれません」

「お前気付かれた挙句、気絶させられてただろ」

「...そうですが、」

「あれにはもう手を出すなよ、王家とも繋がりがあるらしいからな」

「………はい」

「意味深な間を挟んでも手出し禁止だぞ?」

「はぁ」

「溜め息ってなんだよ、お前が未熟だったのが悪いんだろ」


「で、使えそうか?」

「無理、ではないかと」

「戦う体つきじゃないしな、スキルも駄目なのか?」

「統率と隠密、そして狂乱があります」

「あのレベルでは統率の効果が出るのは一般人だけだな、それに狂乱か」

「はい、あのような事をするのにはうってつけですが」

「暴徒はつくれても戦闘は出来ない、か」


「あの、行かなくていいのですか?」

「依頼も発行されたようだし、さすがにこのタイミングで出て行くわけにはいかないだろ、俺はあくまでもしも要員だからな、鑑定結果を聞く限りもしもは起きそうにないし高みの見物でいいだろ」

「そうですか」

「俺は終るまで休んでるから、お前は狂乱持ちが殺されるのを確認しとけよ、あんなスキルは存在自体が迷惑だからな」

「なんで」

「教会の寄付高かったんだからな!」

「それはガーランドさんが鑑定しろって」

「あー、聞こえねー!」

蘇生の寄付だって死んだ奴等が悪いんじゃ、と言う呟きが黙殺される

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