107:これからだ!
黒い剣を利き手のみで持ち、中段に構え体は半身で避けに徹する
貴族がたしなみとして行う細剣を使った剣術の構えに似ている
しかし、
魔人というのは凄まじいものだ、やつの周りの空気が歪んでいる
本体の動きがおおよそでしか判別できない...化け物め!
「変な構えじゃの、攻撃する気が無いのか?」
ヒュン、と音がする!
音が見える、飛来する剣気をすっと避ける、同じだ問題ない
空気の、音の流れに身を任せればいい、所詮は物理的な技だ
その剣圧の発する対流と、空気を切裂く音が見えれば避けられる
「フッ...」
思わず笑みがこぼれる、勝利への確信
「おっほ、余裕じゃのぉ」
ヒュン、ヒュン!
立て続けに放たれる魔人の武技、確かに人のそれを上回るスピード
しかし、所詮は音を超える速さではない
「魔人の技といえど所詮は剣術、俺には当たらないな」
「いってくれるのぉ」
楽しそうに笑う魔人、片手で縦のスラッシュのみを連続で放つ
横薙ぎのスラッシュでは避けられそうにないから気を遣っているのだ
放つ技も黒い剣気ではなく普通のスラッシュ、気を遣いまくりだ
「前に来た必殺とかいうやつもぬしらの仲間かの?」
「そうだが、やはり既に接触していたのか」
「冒険者にちょっかい出して逆に殺られちゃったみたいじゃぞ」
フジワラを殺そうとしたクロの攻撃で死んだ凄いやつだ!
「はっ!、その様なすぐわかる嘘などつくな、やつの居合いこの俺でも避けるのに苦労するのだぞ、冒険者風情に負けるはずが無いわ!」
「居合いか、確かに避けるのに苦労しそうじゃの」
わざわざ間合いまで近づくバカもそういないと思うが
「ぬしらはそれぞれが何か特殊なスキルを持つ集団なのかの?」
「...ああ」
「その黒い剣はマジックアイテムかの?」
「...俺は武器を選ばない」
「黒く塗っただけという事か、いちいちわかりづらい奴じゃのぉ」
...おかしい、近づけない
「………あぁ、我慢できそうに無いのぉ」
「なにを言って、」
「すまんの」
斬!ヒュン!
何かが通り過ぎる感覚の後に音が見え痛みが走る
パキンッ!
目を開き魔人を見れば、砕け散る剣の破片がキラキラと宙を舞っている
「特殊なスキルに頼る集団か興味ないのぉ」
少し力を使ったら粉々になった剣を見ながらポリポリと頬をかく
「どおするかのぉ」
管理迷宮の階層無しカードの転移先、おそらく魔王の間
王宮の宝物庫、その名のとおり国宝級のアイテムが眠る
南に広がる魔の森、桁違いの強い敵
「どこから行こうかのぉ」
ウィリアムの困った顔が思い浮かぶ
「あやつの困った顔が見れないんじゃ困らせる甲斐も無いしのぉ」
恨みがましく睨まれるのが心地よかったんじゃがの
迷宮は、
「どうせ宝箱が出ても開けられないしのぉ」
宝物庫なら鑑定済みの武器がありそうじゃが、あっ!
「たしが根こそぎ盗まれたと言う話があったのぉ」
王宮の宝物を丸ごと盗むとは豪儀な盗人もいたものじゃ
魔の森を見る
「まだ見ぬ強敵にでも会いに行くかの!」
わし、独り言多くなったのぉ、と呟きながら歩き出す魔人
「ギルバートの戦いはこれからだ!………完!」
と、フードの中で私の髪とじゃれついていたクロが突然叫ぶ
「なにそれ?」
「ギルバート先生の次回作にご期待くださいなのだ!」
「えー、どゆこと?」
クロは時々変な事言い出すよね!
今日はゆっくりお昼まで寝て少し遅めの朝食をとってから宿を出た
食べ物や飲み物、あと消耗品を補充しながら貴族街ギルドに向かう
色々あったので一度顔を出すつもりなのです
「飲み物は、露店で新鮮な果物を絞ったジュースを多めに購入して、紅茶とかの茶葉も専門店で購入しておこうかなぁ」
「リン、ミルクも!」
「はいはい、じゃあシロップとかも買っておこうか」
「うむ、糖分は重要なのだ!」
貴族街の青果店に寄る、お高い果物が豊富に揃っています
「果物も多めに補充しておこうか、えーと、カーサが好きなのは......」
「リン、シャーベットに出来るのいっぱい!」
「ん、凍らせて削って食べる用?」
「うむ!」
「じゃあ、次はクロの好きなお肉屋さん」
「店ごと買い占めるのだ!」
「ダメでーす!」
「むう!」
「あ、そうだ、出来合いの料理はマルアさんに色々作ってもらおうか」
「うむ、ゴロゴロ肉のシチュー肉増しを沢山希望なのだ!」
「肉増しは却下だね」
「ぬう!」
冒険する仲間が増えたから食べ物の消費が結構激しいのです
アイテムボックスを持っているから必然私が料理を担当する
担当するといっても調理をするわけではないんだけどね
出来立てのまま保存できるから料理は美味しく食べたいものね
「そういえば藤原君もアイテムボックス持ってるよねぇ」
「あいつの出す食事は睡眠薬が入ってるから食べたらダメなのだ!」
「そうなの?」
「やつは外道だからな!」
「鑑定必須だね!」
「うむ!」
そうこうしているうちにギルドに着く、っとゾロゾロとなんだろ?
「.........クソッ、何で王族がいるんだ」
「オィ、喋るなあっちに合流するぞ」
妙な迫力のある集団がギルドから遠ざかっていく
「なんだろね、あれ」
「さあ?」
あ、ちなみに係わりたくないので彼等を見たとたん隠密発動しました
「というか、エリック王子がいるんだね」
「カリカリ王子か、待ち伏せとは卑怯なやつだ!」
「行くのやめよっか?」
「う、うぬ、我的にはやぶさかでもないのだ」
「どっちなの?」
「カリカリ?」
うーん、なんかクロはカリカリベーコンを非常に気に入っている
「カリカリは、リンと我の出会いの味、ほろ苦い思い出の味」
「なにそれ?」
「楽しかった青春の日々」
扉を開き中に入る、むーしーすーるーなぁぁ、てしてし!
ギルド内はいつもと変わらない、少しの喧騒と何人かの騎士
うーん、騎士はちょっと珍しいかな、見覚えのある人達だ
ギルド内を見回す、目が合う職員さんや冒険者さんと挨拶する
ウィリアムさんもテレスさんもいない、エリック王子も
っと、職員さんが応接室を指差している、会議中?
受付の職員さんに声をかける
「こんにちは、私に何かありますか?」
「こんにちはリンさん、少々お待ちください」
私宛の依頼や伝言が無いか調べてくれる職員さん
情報収集しようかな
「そういえばさっき出て行った集団ってなんだったんですか?」
「ああ、今回のギルバートさんの件で損害の賠償と謝罪を要求するとかなんとか」
鑑定したけど管理迷宮事務所に出入り出来ない実力の人もいた
「冒険者には見えなかったんですけど」
「関係者とか言ってましたね、たまにいるんですよああいう類の人達が」
「ふぅん」
クロの頭を撫でながら聞く
「ローランのギルドで起きる揉め事はギルバートさんが喜んで対応していたんですけどね、その本人があんな事になってしまったからこれ幸いと活動しだしたんでしょうね」
(どんな対応してたんだろうね)
(皆殺し?)
(だよね!)
「ギルド長がウィリアムさんだけになったから弱腰になるとでも思ったんですかね?」
作業の手を止めた職員の人にまじまじと見つめられる
「やっぱり外から見るとそう見えるんですかね?」
「違うんですか?」
「はぁ...」
深い溜息をつく職員さん
ガチャリ、と言う音はしなかったけど会議中だった扉が開く
想像したより多めの人が扉から出てくる、知ってる人は...
エリック王子に親衛隊長さん、貴族街ギルドの冒険者さん達
あとは、Sランク冒険者のガーランドさん、最後にウィリアムさんと、
「リンちゃん!」
「こんにちはテレスさん、何の会議だったのか聞いても大丈夫です?」
会議参加者に管理迷宮攻略に参加していなかった冒険者の人もいたので
おそらく今後のギルドの体制とかそういうのだと思うけど
「ウィリアム独裁体制の宣言ね」
「え、なにそれ怖いんですけど」
「テレス、適当な事を吹聴しないでください減給しますよ?」
「早速強権を発動しやがりましたね、この独裁ギルド長め!」
「じゃあ、本当に減給しておきますね」
「外道ギルド長め!、訴えてやる!」
「すきにしてください、それよりまだ会議は終ってませんよ役付きの皆さんに今後について説明をおこないます」
「体調不良で欠席します、それに誰かここにいないと問題が起きた時に対処出来ないじゃないですか」
「さっきの方達はもう来ませんよ、おそらく市民街に向かったんでしょう」
ウィリアムさんの視線の先には片手を挙げ扉を出て行くガーランドさん
「わざわざ依頼など出さなくてもサラ達で何とかするんじゃないんですか」
「打てる手は打っておきたいんですよ、盗賊や暗殺を生業とするギルドが絡んでいる可能性もありますし、ギルバートが乱入してくる可能性もあります」
「ギルド長、揃いました」
職員の人がウィリアムさんに声をかけてくる
「わかりました、テレス」
「………」
呼びかけを無視してクロと遊びだすテレスさん
「………はぁ、リンさんお願いします」
テレスさんを置いて職員と会議室へ向かうウィリアムさん
「はぁ」
何をお願いするのかわからないけど曖昧に返事をしておく
「やあ、リン」
(私、大人気だね!)
(リンの人気に嫉妬の炎を燃やす我!)
(嫉妬してるのに何でエリック王子の肩に乗ってるのさ?)
(それは、ひ・み・つ!)
(浮気者のクロに嫉妬の炎を燃やし晩御飯抜きを心に誓う私!)
(ニャンだってぇぇぇぇ!)
「こんにちは、エリック様」
「リンは、今日も可愛いね」
「エリック様も凛々しくて素敵です」
「失せろげ「テレスさん」、なあにリンちゃん」
テレスさん、貴女は今何を言おうとしたの?
一国の王子に向かって何を言おうとしたの?
ちょっとウィリアムさん、お願いってこれですか?
自信ないんですけど、誰か助けて!
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