表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネコと私  作者: 昼行灯
管理迷宮編
107/143

106:お出かけ準備

ガタッ、ゴトン!

ベリッ、ガシャと乱暴に部屋を荒らす者がいる、盗賊なのか?

持ち主ならば片付ける気が無いのか、どういうことなのだろう


「眠くならんし、腹も減らんのじゃのぉ」

昨日暴れた時に消耗した力も徐々に回復してきている

「もっと魔素の濃い場所に行けば回復も早まるのかのぉ」

人を殺すこと、魔物を殺すことでの生命与奪による回復は無かった


「金は、いらんか」

これは人の価値、魔には意味が無いもの


「装備は、マジックアイテムかのぉ、自動修復のあるものにするか」

これ以上の強さを求めるならば装備を良い物にするしかない


「こんなところかの」

左右の腰に剣を差す、まずはこれから整えなくてはな


………

杯を魔法の鞄にしまう、もう酒を酌み交わす相手もいないのに


「未練かのぉ」

赤い瞳を細め唇を自嘲するかのように歪める




一人で生きてきたつもりであったが、

それはあくまで人という仲間に囲まれた中での話だったことが解る

本当の意味でのひとり、なかなかに耐え難いものがある


魔人は、魔物よりも人をよく殺す、成って見て初めて解る

これは人という種への嫉妬なのかもしれない

「因果なものじゃのぉ」





魔人が感傷に浸っている頃...

武装した一団がギルバートの家を取り囲み、戦闘の準備をしていく

「まだ中か?」

隊長らしき男が見張りに尋ねる

「はい」


一見すると冒険者の集団に見える彼等だが、よく見ると違和感がある

冒険者のPTは基本迷宮探索をメインにするため六人が最大数なのだ

それ以上の戦闘、もしくは戦争の場合も基本は同じ

六人が完成された個として機能する


しかし、

今展開されている人数は20を超え、それぞれが自分の役を忠実にこなす

この訓練された動きは冒険者というよりも軍隊、もしくは対人の部隊


「対象の戦闘力はどれくらいだ?」

「前回捕縛した勇者以上かと」

管理迷宮事務所での殺戮を目撃していた諜報員が報告する

「どれ以下だ?」

以上を報告されても対策は立てられない

「不明です、鑑定持ちの鑑定でも数値までは見れなかったようで」

「なんだそれは...まさか本当に魔人なのか?」

「それは確実なようです」


ローランの冒険者ギルドからの発表は、ギルド長ギルバートの魔物化

管理迷宮最下層攻略時に最希少種との遭遇により深手を負い

希少種死亡時の呪いかスキルでの魔物化


不測の事態により管理迷宮は一時閉鎖し総動員で被害の回復に当たる

ギルバートによる死傷等の被害についてはギルドが真偽を調査後

蘇生や回復の代金についてギルドが保証することとなった


それにより、ギルバートのギルド長職の剥奪とギルドからの追放

完全に魔物化していないためか意思の疎通も可能で

抵抗しない者には攻撃してこないとの報告もあり

ギルドはギルバートを災害級の魔物と認定し

こちらからの手出しを不要とする旨を発表した


茶番だ...


その場には最下層攻略のため鑑定持ちが多数在籍していた

本人も隠す気が無かったのだろう、鑑定した皆が口をそろえて言う


魔人であったと...



先日行われたという勇者召喚、貴重な戦力確保のため潜入したここで

魔人の誕生に出くわすとは、運がいい、勇者など比べるべくも無い

人の魔人化は前例が無いわけではない、だがそのほとんどは勇者だ

確か前回の魔人化も召喚された勇者、成長促進のスキル持ちだった

隷属の呪縛が施されていたそれは、魔人化により呪縛を無効化し逃走


兵器として運用されていたため勇者の時点で既に精神が破綻していた

そのままの状態でコントロールされない魔人となったため

それは周りを無差別に破壊する災害となった


多大な死者を出しつつ討伐された魔人、まさに災害であったが

勇者を運用している者達ならば誰もが考えたはずだ

もしそれを制御できるならば?


いや、まて、魔人討伐の冒険者に剣鬼がいなかったか?

剣聖ギルバート、剣鬼ギルバート、剣を極めし者

魔人を倒すものが魔人化ということか?


ブルッ、と寒気に身が震える、どれほどの強さか

召喚者ではなくこの世界から魔人に到達したものが出たのだと思ったが

やつは勇者ではないのか?

素性は確かか?


焦り過ぎたのか、一度引くべきか

しかし、捕獲のチャンスはギルドが混乱している今しかない

「おい」


………

返事が無い...


「おい?」

振り返る、そこにはただの屍が転がっている

「なっ!!!」

「始末させてもらった」

背後からの声と共に一閃、大地の守りが一瞬で剥がれ

「ぬぅぅ!」

前方に飛び退き剣をかまえる


「ギルバートか!?」

「違う、それは俺の獲物の名だ」

「ぬ?」

どういうことだ、魔人が奇襲してきたものと思ったが


男を見る、

冒険者風を装っているが、発する雰囲気が違う、我等と同類だ

刀身を黒く塗った剣、装備も光を反射しないように加工されている

「暗殺者か、どこの依頼だ?」

「それを聞くのか」

「どうせ殺すのだから冥土の土産に教えてくれてもいいだろう?」

「死ぬ気のないやつに教える馬鹿はいないだろう」

「依頼主が同じかも知れんぞ?」

「お前たちは勇者探索隊だろう」

全て承知の上か、我等は国家の所属部隊だ

「見たところ一人のようだが、人の身で魔人をどうにかできると思っているのか?」

「魔人?」

「ぬっ!?」

まさか、ギルド長のギルバートを暗殺しに来た口なのか?


「魔人とはどういう意味なのだ?」

「あ、ああ、それは、な」


「秘密だ!!!」

武技スラッシュからの突進、そして5連突きのコンボを発動する


「………」

スラッシュの衝撃波がやつの体をすり抜ける

すっすっすっすっすっと全ての突きが紙一重でかわされる

「くっ!」

武技二段斬り、三段斬り、五月雨斬り!!!

「無駄だ」

全てかわされる、なんなんだ、どういうことだ!


特殊なスキルを有している勇者か?

まさか、こいつも魔人なのか?


顔を見る、

「なっ!」

驚愕に思わず声が出てしまう、目を瞑っているのだ

「な、なんだそれは!?」

「ああ、俺は目で見ず、音で見るのだ」


「エアマスター!」

(あざな)が口から出る、闇の世界では有名だ

空気の流れと音で全てを把握する者、その者に死角は存在しない

それはまるで空気を相手にしている錯覚さえ起こさせるゆえに


「なぜ?」

「愚問だ」

黒い剣がゆっくりとこちらに差し出される

大丈夫だ、剣で受けられる、軌道はここだから、ここ、で

受けるために構えた剣をすり抜け胸に黒い刀身が差し込まれてゆく


肉と筋を断ちながら剣先が心臓へと到達する、ああ

勇者の捕獲に専念しておけば、などと思いながら意識が途切れる



心臓の音が停止したのを見てから、すっと剣を抜く

なぜ勇者探索隊がギルバートを捕獲しようとしていたのか

過去に不明な点が多少あるが、彼は勇者ではないはずだ

魔人といっていたが、調査した段階ではレベル100はまだ先のはず


一体どうなっているのか、先行している必殺との連絡も取れない



キィ...

扉が開く音がする


「騒がしいのぉ」

声と共になにか得体の知れない気配が現れる

「!!!!!!」

思わず目を開け気配を見る、壮年の男がひとり

「なんじゃ、おぬしひとりか?」

報告にあった姿形と違うが


「ローランの冒険者ギルド長ギルバートか?」

息子はいない筈であったが、報告が間違っていたのか?

「少し違うのぉ、ギルド長は辞めたんじゃよ」


「死んでる者達はおぬしの仲間じゃないのかの?」

「勇者探索隊らしい」

「他国の勇者をかどわかして自国の兵器とするあれか、どこの国の所属かの?」

「知らん...お前は勇者なのか?」

「勇者に見えるかの?」

「………」


「おぬしは、わしを付け狙っている暗殺組織の者じゃろ?」

「………」

「心当たりがありすぎて困っていたんじゃが、どこに頼まれたのか教えてくれんかの?」

「………」

「ほれ、あれじゃ、冥土の土産にってやつで」

「………」

「無口なやつじゃの」

「報告されている容姿と違うのはなぜだ?」

「ん、ああ、そうか、まだ伝わっていないのか」

「なにがだ?」



「秘密じゃ!」

可愛らしくその赤い目でウィンクをするギルバート


「赤い、目?」

「今頃気付いたのか、実はわし寝不足なんじゃ!」

どうやら魔人はこのフレーズが気に入ったらしい


「まさか、本当に魔人化したのか?」

「乙女の秘密じゃ!」

「………」

自分で言っておいて恥かしいのか

目だけでなく頬も赤らめる魔人ギルバート


目を瞑る、

やつがどれほど強かろうが攻撃が当たらなければ意味が無い

空気の流れを感じ、音を見る、いつもと同じだ問題ない



エアマスターといわれる暗殺者と魔人との戦いが始まる...

--------------------------------------------------------------------

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ