103:アークデーモン
我が人生、夢幻の如くなり
ナンパされた、
「わしらと一緒にボス部屋行っちゃわない?」
「ギル、それではまるでナンパです」
「お断りします」
「そんなこといわないでさー、何もしないからいいじゃん?」
「じじい黙れ殺すぞ?」
「むしろ殺して黙らせるほうが効率的です」
「テレスは最近過激さに拍車がかかってませんか?」
「黙れ役立たずギルド長」
「リンさん、ちゃんと言葉遣いを教育してください」
「え、私、保護者なの?」
「リンちゃんは私の妹的存在です!」
「じゃあ、貴女は姉的存在と言うことですよね?、もっとしっかりしましょうね?」
「黙れバカギルド長」
「なんですかそれは、、」
「フジワラちゃんがどれくらい成長したか見たいんじゃ」
「だが断る!」
「いけずじゃの!」
「きもいわ!」
「リン、いつもこんな感じなの?」
会話に加われないカーサが聞いてくる
「んー、そうだねえ、仲良しさんだよね」
「これって仲良いの?」
「さあ?」
「そろそろ攻略は終了なので、ボスを倒した後の転移魔法陣で順次地上に戻っているのですが、取りを務めるはずだったガーランドのPTがいなくてですね」
仲間を完全な状態で蘇生したいのでラーファ神殿に向かったらしい
「お二人以外の足りない分は戦闘ができるギルド員の方か、ベテランの冒険者さんに任せればいいのでは?」
言っては見たけど、激レアが出ると可能性あるし希望者はいないか
「40Fを攻略したギルド員テレスに、わしお気に入りのフジワラちゃん、それに魔道具の一族に蘇生も使える治療士、これ以上の人材はいないじゃろ?」
「リンさん達には少し早いかもしれませんが、ギルバートもいることですし」
楽できる分にはいいけど、激レア出たらどうするつもりなんだろうね
ていうか、聞いてる限りその情報は話さないつもりみたいだよね
まあ、けどウィリアムさんとギルバートさん加わるならいいかなあ
(我、反対!)
(暴れられないもんね?)
(うむ、大反対!)
(却下します)
(なん、だと!)
(テーブル壊したり色々暴れた罰です)
(そんな、記憶はないのだ、が?)
(ほんとうに?)
(にゃん!)
(じゃあ、その調子でネコの振りしててね?)
(にゃ、にゃ、にゅん)
閑散とした最下層、
沢山あった天幕とかも全て畳まれ最後の転移の準備完了したらしい
前衛:ギルバートさん、テレスさん、藤原君
後衛:ウィリアムさん、カーサ、そして私
この構成で最後のボス部屋へ挑戦する
(雑魚出ろ雑魚出ろ雑魚出ろ雑魚出ろ雑魚出ろ)
(クロうるさい)
フードの中で私の背中を肉球でぷにぷにしながら念じているクロ君
自分が戦えないからってそんな事言ってると、ねえ?
ボス部屋へ入り...背後で扉が閉まる
部屋の奥が淡く光り、五体の影が浮かび上がる
「ライト!」
影の大きさからしておかしい、四体はグレーターデーモンだろう
光にに照らされる魔物の姿、真ん中の小さいのが格上みたいだ
鑑定をする、アークデーモン、大悪魔の上の貴族悪魔とでも言うのか
悪魔貴族のほうがかっこいいかも?
「真ん中のはなんですか?」
ウィリアムさんの質問が飛ぶ、誰に?
「アークデーモン!」
カーサ、答えちゃダメでしょ
「なっ!」
普通に驚いているウィリアムさん、鑑定はスルーか
(ほら、クロが変な事するから激レア出ちゃったじゃん)
(ぐぬぬ!)
攻撃態勢をとる一同、おっとこの感覚はあれだね
意識を集中し目を瞑る、親衛隊長さんに感謝!
紅い瞳がこちらを威圧する!
「ムッ!」
固まるギルバートさん
「体が動かねえ!」
大地の剣を取り落とす藤原君
「...スゥ」
静かに目を瞑るテレスさん
「ムゥ、」
動きが鈍るウィリアムさん
「あ、ぅ、」
呼吸が出来なくなっているカーサ
ふむ、レジストはINTじゃ無いと言うことかな、いや総合値?
タンッ!!!
ひとつ、光の魔力を込め柏手を打つ、邪気祓い
清浄な音と光が皆の体を包む、威圧スキルの効果が霧散する
「フッ!」
呼気と共に縮地に入るテレスさん
ドンッ!
藤原君のいた場所が抉れている
チャキンッ!
鯉口を切る音と共に納刀の音がし、ドガン!
と、中空に展開されつつあった大悪魔達の爆熱魔法が不発に終る
いつもより鋭さが増しているおじいちゃんの剣気、武器が違う?
岩を切裂く剣、その名もロックブレイカー!
ギルバートの本気装備だ!
「サウザンドアロー!」
「サウザンドアロー!」
仲良く千の矢を放つウィリアムさんとカーサ
アークデーモンの指先に魔力が、「シッ!」
音の無い世界から戻ったテレスさんの蹴りが指を吹き飛ばす
蹴りで体勢が崩れたテレスさんに悪魔貴族の手が伸びる!
斬!
爆裂歩法で後に続いていた藤原君の剣撃が入る
「フッ!」「ぐへっ!」
藤原君を足場にテレスさんが再跳躍、その間を剣気が走る
ザンッ!
ギルバートさんの剣気が切裂き
ゴンッ!
テレスさんの回転踵落しが脳天に決まり
ドンッ、斬!
藤原君、無理な体勢からの爆裂歩法、そして氷魔法を纏った剣撃が入る
アークデーモン一体に対し、こちらは三人での集中攻撃
グレーターデーモンは千の矢による足止めをしている
長くは続かない、が十分な時間だろう
相手に何もさせずに速攻で倒す、数での圧倒、未知の敵には一番有効
というより、実力が同等か格上ならこれしかない
藤原君が無茶し過ぎている、止めを狙っているのだろうけど
スキル強奪で取れるスキル、炎魔法と統率くらいしかないよ?
格闘家の間合いに入られ、剣士に遠近距離から攻められる
スキルを見る限り近接が得意ではない悪魔貴族、一発逆転も無く終る
残るは統率スキル効果の切れたグレーターデーモン四体
ウィリアムさんが指示を出し順に片付けていく
宝箱と転移魔法陣が出現する、終ったのだ
なかなかの強敵だった、皆のレベルが上がり気が緩む、、
あぁ、
それに対して怯み、
底知れぬ才能に救われた、
羨望と驚嘆、
無限の可能性を目の当たりにした、
素晴らしい、愛おしい、狂おしい、
己が果てるとも戦いたい、
間違っていると心が叫ぶ、
不安そうな顔が浮かぶ、………、
それでもなお、
求めずにはいられない、
それが己が魂の本質、
......選択する......
天に向かい腕を伸ばす、
五指から青白い五糸が天へ舞いキラキラと輝き、
地に向かい腕を振り下ろす、魔力を通した聖魔の糸が音を奏でる
ギャギャギャギャギギギギ!!!
巨大な黒い剣気と青白い糸が不協和音を奏でせめぎ合う!
防ぎきれない!
(クロ!、上に弾いて!)
(ぬ!)
クロの念動力が下から黒い剣気へぶつかる
「くっ!、皆伏せて!」
逆の手からも聖魔の糸を放ち軌道を逸らす
ズガアアアアアァァァァァア!!!
何とか軌道を逸らせた剣気が壁に盛大な傷跡を残す
「な!」
「なんなの?」
「………」
「敵?」
キンッ、と澄んだ音がする
その強力すぎる技の発動に耐えられなかったのだろう
ロックブレイカー、斬岩剣が粉々になり破片が宙に舞う
「耐えられなかったようじゃの」
残念そうに砕けた剣をその紅い瞳で見るギルバート
そう、紅い...
「お嬢ちゃん、助かったわい、破壊衝動が抑えられなくて思わずスラッシュを撃ってしまったのじゃ」
「………じじい、その目はなんだよ?」
「寝不足なんじゃ」
「ギル......どうして?」
「気付いていただろうウィル………、らしくないぞ?」
無言で見つめ合うウィリアムとギルバート
………
先にギルバートがその紅い目を逸らす
「わしの剣技に耐えられる得物を手に入れんとなあ」
ぽりぽりと頭をかく
………
「そんなに鑑られると恥かしいぞい?」
魔人になっている、レベルが無いどういうこと?
違う!、レベルが上がったんだ!
「レベル100、、魔人化を選んだ?」
にぃ、と獰猛に笑う魔人、お嬢ちゃんは鋭すぎるの
肩に出てきたクロが言う
(事情はどうあれ武器の無い今、全力で殺すべきではないか?)
ウィリアムさんを見る、怒ったような泣いているような初めて見る顔
(リン!)
クロの意見が正しいことは判っている、しかし判断をつけられない
逡巡...見逃す相手ではない
間合いを外し、転移魔法陣そばに移動している
「そうじゃ、これ貰っていくぞい」
その手には階層の書かれていない転移カード
じゃあのと言い残し転移魔法陣に消えていく魔人
「ギルバート、、」
--------------------------------------------------------------------
 




