3.アリス
「では、本日はどの商品になさいますか?」
商品ねぇ。
どうも、人身売買しているようで嫌だが。これもありなのかもしれない。
「そうですね。始めてなので、友達をお願いします」
「男友達と女友達を選べますが」
「そうだなぁ……」
ここで男友達をレンタルしてどうするよ。女に決まってるじゃないか。金出して男をレンタルしたんじゃホモだろ!
俺の脳が叫んでいる。そりゃぁ、叫びもするだろう。俺はホモじゃないんだ。
「女性でお願いします」
「はい、ではどのような女性がお好みでしょうか?」
「そうですねぇ」
「こちらのアンケートにご記入をお願いします」
アンケート用紙を見てみると、細かく女性の好みについて書かれている。なるほど、これを言葉にだして言ったのでは、広い店内といえどさすがに恥ずかしい。女性客もいるし、男性客もいる。自分を差し置いて、えらいこと高望みをしたいわけだから、できることならそんな夢のような、妄想のような言葉は誰にも聞かれたくない。
俺は、じっくりと考えた。普通のOLなら会社で毎日見ているのだ。できるなら、今までの自分では決して出会えないし、相手などしてもらえるはずのなさそうなところをお願いしたい。さらに、一緒にいて楽しい相手がいい。しかも、俺の話を聞いて笑ってくれるような……。
そんな都合の良い女性がいるのならだが。
店員はアンケートを手にするとキーボードを静かに叩き出した。その指の動きの速さに見とれているうちに、全ての入力が終わり、エンターキーが押された。
「お客様のご希望を全て兼ね備えた女性が、二階の二〇四号室におります。どうぞ、楽しいお時間を過ごせますように」
と頭を下げ、契約書を差し出した。
「こちらは、お客様と当社との契約書になります」
そう言うと、つらつらと説明が始まったが、内容は至って当たり前のことばかりだった。当たり前すぎて聞く気にもならないが、こんなことでも文字にしておかないと、いろいろと問題が起こりえるのだろう。
説明が終わると、俺はボールペンを握らされ、サインをするように促された。
「では、お二階へご案内いたします」
案内してもらうほど広いわけじゃないが、そういうルールなのだろう。
ゆっくりと階段を上り二階へ着くと、店員は丁寧に頭を下げ小さな声でこう言ったのだ。
「お客様、ここだけの話ですが。恋愛は自由です。もちろん、レンタルされたお友達を気に入ればですが。その時は、まずはレンタル彼女へと変更していただいて、後は彼女とのうちうちの交渉となります」
そういうと、店員の口元が嫌らしく歪んだ。
「ただし、彼女がお客様との恋愛を望んだ場合です。実際の恋愛でも無理強いはできませんよね」
なるほど、そういう話をするために二階までついてくるわけか。俺は、ここで『さわやかないかがわしさ』というものに出会った気がした。そして、さっき店員が『お友達からのご紹介で~』と言っていたことを思い出したが、(俺なら、絶対に紹介しないな。特に、山田のデブには言わないぞ)と誓った。
ドアを開けると、そこには理想通りの女性がいるはず……なのだが、俺はあえて理想とは正反対の女性像を依頼したのだ。なので、ドアを開けた瞬間に目に飛び込んできたのは、髪を黄色く染め耳にはピアスが3個ずつ、顔は厚化粧でどう見ても水商売希望のギャルだった。
(見事に俺の好みとは正反対だな)
自分で頼んでおいて笑うのも失礼だが、やはり苦笑してしまう。
「は~い、始めまして~」
こっちが客だということは分かっているのだろう。一応は挨拶をしているようだ。が、語尾を伸ばして頭を下げることもしない。この類の女性がレンタルされることが本当にあるのだろうか。俺は、その辺に異常な興味が湧いて聞いてみた。
「名前は?」
「アリス」
外人でもないのに、アリスとはさすがに若いなと思っていると。
「やだ、お客さん。あったりまえだけど、本名じゃないからね」
やだと言われても、それが本名の人もいるじゃないか。
「お客さんは、友達が希望なんだよね。じゃぁ、友達らしくアリスって呼び捨てでいいよ。私もお客さんのこと、やっちゃんって呼ぶから」
「やっちゃん?」
「だって、矢島っていうんでしょ? だから、やっちゃん」
なるほど、そこからとった呼び方なのか。
「分かったよ。今日はそういうことで、よろしくね。ところで、一つ聞きたいんだけどいいかな」
「友達なんだからさぁ、なんでもズバッと聞いちゃっていいよ~」
「そうかぃ。じゃぁ、ズバッと聞くけど。君みたいな人を、レンタルする人って多いの?」
かなりズバッと聞いた気がして、逆に傷つけてしまったかもしれない。さすがに、可哀想なことを聞いたと心が痛む。
「あはは! もちろんよ! こう見えて、私って結構人気あるんだから~」
気に病む必要はなかったようで、アリスは大口を開けて笑い飛ばしてくれた。