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2.レンタルアラカルト

 翌朝は、妙に晴れていた。


 この晴れた日差しを、世間の奥様達は大喜びして洗濯したり布団を干したりするのだろう。いや、もしかしたら『なんで晴れなのよ! 布団を干すしかないじゃないの』なんて思っているのかもしれない。


 窓から差し込むいやらしいほどの日差しに目を細めながら、俺は仕方なしに布団からはい出した。できることならこのまま布団にいたいのだが、さすがに何もせずに一日を終わらせたのではもったいない。


 布団からはい出した俺は台所へと向かい、冷蔵庫から牛乳パックを取り出すと、そのまま口をつけた。これも子供の頃からの習慣である。そして、この習慣のために母親に叩かれていた。



「今となっちゃ、誰にも怒られないどころか、誰にも迷惑は掛からないからな。やりたい放題だ」



 迷惑をかけているとしたら、冷蔵庫ぐらいかもしれない。なぜなら、牛乳ぐらいしか入っていないのに、必死に冷気を吐きだしているのだから、ご苦労以外の何ものでもない。



「さて、どうするかなぁ。今日も引きこもりして、ゲーム三昧にするかなぁ」



 テーブルに置かれたゲームソフトに目を向けたその時、どうしたことか昨日買った雑誌に目が留まった。俺は雑誌を手にすると、パラパラとめくりだした。すると、昨日の『レンタルフレンド』のページが目に飛び込んできた。



「別に山田のデブみたいに、彼女が欲しいわけじゃないさ」



 窓を見ると、さっきと同じように日差しがまぶしい。



「春だしなぁ。どこかへ行きたいと思っても不思議はないさ。それにしても、旅は道連れって言うじゃないか。そうだ! 俺は、一緒に散策したりできる相手が欲しいだけなんだ」



 ということに気が付いた。


 入念に歯を磨き、ピカピカに顔を洗った。これほど念入りに顔を洗ったのは何か月ぶりだろう。多少でも若く見えるように私服を選び、俺は休日をエンジョイするための一歩を踏み出した。




 雑誌に載っていた店は、想像していたのとはまるで違っていた。俺の想像では、マンションの一室で、かなりいかがわしいものなのだろうと思っていたのだ。いや、俺は別に変な期待をしたわけではなく。真面目にそう思っただけなんだ。


 店は、大通りに面したガラス張りで、清潔感たっぷりって感じだった。始めての来店だけにドキドキしないわけはないが、そこは三十を超えたオッサンだ。どっしりと落ちついた雰囲気で店内へと入り込んだ。


 するとさわやかな笑顔の男性が近づいてくる。どうやら、男性客には男性店員、女性客には女性店員が付くらしい。何ともかゆいところに手が届くくらいの配慮である。


 俺は勧められるままに椅子に座った。店員は、まるでケイタイ電話の専門店のようなカウンターの向こう側に座ると、丁寧に頭を下げた。



「本日はご来店ありがとうございます。当店は何でお知りになられましたか?」



 俺は持っていた雑誌を差し出した。



「ありがとうございます。やはり、雑誌でお知りになられた方が多いようです。その他にもご紹介でご来店いただくお客様も大変多いので、感謝いたしております」

 


 俺にそんな話をされても困る。他の誰がどう思おうと俺には関係ないのだから。



「本日のご希望は、お友達をお探しですか? それとも、彼女として、でしょうか?」



 雑誌には『レンタルフレンド』とあったが、彼女までレンタルしてくれるのか。ということは、彼女として付き合ってくれるということか?


 男として、そこは突っ込んで聞いておきたいところだ。俺は、身を乗り出すような若い真似はせず、更には心の動揺を見せないように聞いた。



「はい、レンタル彼女もやっております。女性のお客様には彼氏をレンタルいたします。もちろん、お友達としてレンタルされて、途中から彼女に切り替えることも可能でございます」



 店員はにやけることもなく言ってのけた。それがどういう意味なのか分かっているのだろうか。というか、俺の考えてることがおかしいのか?



「当店は真面目なビジネスをさせていただいておりますので、彼女といいましても手をつないで歩くとか、腕を組む程度まででご容赦願っております。友達よりも密着できる程度ですね。彼女ですから、一緒に映画に行ったり遊園地に行ったり、お客様のように落ち着いた方でしたら、美術館などへ行かれると雰囲気もよろしいかと思います」



 デートコースまで、ご指南いただけるのか。



「友達としてのレンタルですと、こちらの料金です。延長は一時間につき、こちらとなっております」



 店員が指をさすその表は、レンタル時間と価格を表している。友達をレンタルしたらこの時間ですと示す隣の枠に彼女としてのレンタル金額が表示されていた。俺は、友達枠を見ながらも彼女枠を凝視していた。


 男として、ここは押さえておきたいだろう。できることなら、彼女としての方が楽しいってもんじゃないか。別に、不謹慎なことを考えなくても、ちょっとはドキドキしたいってもんだ。


 それにしても、この会社『レンタルフレンド』『レンタル彼女・彼氏』『レンタル恋人』『レンタル妻・夫』果ては『レンタル愛人』までいる。横に目を動かすと、『レンタルチャイルド』なんてのもある。一体、子供を借りてどうしようってんだろう。



「ああ、こちらのレンタルチャイルドはご夫婦限定商品になっております」



 店員が残念そうにそう言ったが、別に子供を借りようとは思っていないので、残念でもなんでもない。いくら俺の性癖に問題があるとしても、俺は変態じゃない。



「いや、子供を借りようとは思いませんから」



 俺は笑って見せた。笑いながらも、『変態に見えるのかよ、ボケ!』と突っ込みたいところだが、他の客もいるので笑うだけにした。



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