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1.広告

 最近は変な商売ができたもんだ……。




 俺は、手にした雑誌の一ページを眺めていた。そこには『レンタルフレンド』と書かれていた。内容を読めば、文字通りに友達を貸してくれるというのだ。それが同性であれ、異性であれとにかく自分の好みの人を貸してくれる。



「一体、どんな奴がこんなものを借りるんだよ」



 はっきり言って、俺には理解できない。友達をレンタルしても、それは友達じゃないだろうと、真面目に思ってしまうからだ。



「でも……これが異性だったらどうなる?」



 異性の友達なんて俺にはいない。また、異性の友達を欲しいとも思わなかった。友達なら気楽に付き合える同性がいい。酒を飲み、女の話をし仕事の愚痴を言える相手。それこそが友達だと思ってきた。


 俺は雑誌を閉じると無造作にデスクに置いた。



「珍しいねぇ。矢島が雑誌を読むなんて」



 声を掛けてきたのは、隣の席でタバコをふかしてるデブの山田だ。山田は脂ぎった顔をてかてかにしながら、真っ黄色な歯にタバコを加えている。



(うるせぇよ、デブ)



 と言ってやりたいが、一応同僚だし仕事がしづらくなるので、俺は黙っていた。



「そういや、川辺が結婚するってよ。あいつ、まだ二十四歳だぜ。オレなんか、もうすぐ三十だってのに、参るよな~」



 俺は三十を超えているが、デブと一緒にはされたくないので黙っていた。



「彼女欲しいなぁ」

 


 はっきり言うが、無理だろう……とはっきり言えない自分がいる。社会で生きていくということは、黙秘する大事さを知るということだ。



「この間さ、友達が女紹介してくれるって言うから行ったんだよ」



 どこに行ったのかはどうでもいいが、こんな奴に紹介するなんて、ボランティア精神の塊のような友達だ。



「そしたら、水商売の女でさ。あっちにしたら、客を紹介してもらったつもりだったらしくて、参ったよ」


「……ドンマイ……だな」



 ドンマイどころか、ザマアミロと言いたいが、喧嘩になったのでは面倒なのだ。それに、俺は仕事をしなくてはならない。そろそろ、客との打ち合わせが迫っているのだ。俺は、わざとらしく資料を持つと、書類に目を落とした。





 仕事が終わると、七時を回っていた。思ったよりも打ち合わせが長引いたことと、デブが俺の邪魔をしたせいだ。まともに残業代も出ない会社で、残業をするのは精神的に悪い。それでも俺は文句を言わずにタイムカードを押した。



「おっと、雑誌を持って帰るか。どうせ、家に帰っても一人だしな」



 言葉の通り、俺は一人だ。彼女もいない上に、結婚もしていないのだから、一人なのは当たり前だが、親とも離れているので完全に一人なのだ。山田のデブは一人だとほざきながらも、あの歳で親と同居なのだから羨ましいやらみっともないやら。



「三十男が親と同居していたら、彼女ができないのは当たり前だ!」



 と言ってみるが、俺は一人暮らしでありながら、彼女がいない。かといって、物欲しそうにしているわけにもいかないので、そのうち幸せってものが降ってくるだろうぐらいに思っている。


 真面目に仕事をして、真面目に生きているのだから、きっと俺を思ってくれるような女性がどこかにいるはずだ。


 多少、性癖に問題があるかも知れないが、そんなものは誰でもあることで、誰だって全ての男性がノーマルってわけではない……はずだ。



「うん、そうだ!」



 俺は力強く頷くと、元気に会社を後にした。


 帰宅途中コンビニに寄る。どうして寄るのか?


 『そりゃあ、可愛い新人がいるからさ』なんてことはない、単に自炊をすることが嫌いだからだ。ということで、今日もコンビニの袋をぶら下げて帰宅した。


 帰宅してまずやることは、テーブルに散らかっているゲームソフトを寄せることだ。恥ずかしながら、この年齢になってもゲームが楽しい。夜は酒を飲みながらゲームをしたり、休日は一人引きこもってゲームを楽しむ。ゲームの中には、俺の世界があるのだ。別にデブのように友達と会わなくても、俺は一人で十分に楽しめる。


 そうだ、俺は一人でも楽しいんだ。



「明日は休日だな」



 食べ飽きたコンビニ弁当を開けながら、カレンダーを眺めた。毎週ちゃんと会社は二日間の休みをくれる。その上、祝日の他に盆暮れ正月と大型連休をくれるのだ。その休みをどう過ごすか。友達のいない俺にとっては結構大問題だったりする。



「いや! 友達ならいるぞ!」



 ただ、会わないだけなんだ。


 弁当が口の中で砕けていく。俺はゴミ箱に弁当を捨てるように、自分の口に弁当を捨てて行った。俺にとって、弁当というのは食べるというよりは、食べないと死ぬからしょうがない、体に入れるか――というぐらいの存在なのだ。


 弁当が終わるとそのまま畳に横になった。埃が目で見て分かるほど積もっている。



「掃除しないとなぁ……」



 そう思いながら半年が過ぎている。ここまで来ると、どう掃除したらきれいになるか分からなくなっているのだ。それでも良心がまだ健在なようで、時々呟いてみるのだ。つぶやいていたら、いつかやる気になるだろうと……ありもしないことに期待を寄せている。


 大人になっても、この辺の考え方は変わらないらしい。



「よく、お袋に怒られたよなぁ。うるさかったなぁ」



 昔を振り返れば、親の小言ばかりが蘇る。



「俺って、どれほどだったんだろうなぁ」




 翌朝は、妙に晴れていた。

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