魔王なんて言わないで!
魔王なんて言わないで!
魔王なんて言わないで!
生きてから今までに何回思ってきたか……。
確かに魔王だけど!
正真正銘魔王なんだけどね!
私にだって名前があるのに、みんな魔王という役職でしか呼ばない。
いや、まって。
魔王って役職なのかな?
役職的には、魔族を統べる、魔族の長。つまり王ってことだから、人間のいう王様と役職は一緒なのよね。
でも王様だって、親しい者には名前、それか名前に様付けで呼ばれてたわ。
な、の、に!
な、の、にー!
なぜ私は魔王呼びなのよー!
今は魔族と人間が争っていた戦乱の世から随分経ち、すごく平和な時代なの。
戦争をしていたのは、100年前のことだから長命の種族やその当時子どもだった人達は覚えているそうだけど、今の世代は戦争なんてまるで知らない。
私だってそう。
だけど、もう戦争をしないために、同盟を結び、年に何度かお互いの国を訪れる習慣があるの。
その時に、魔王様、魔王様って呼ばれるの!
年が近くて仲良くなった王女や貴族の娘にもよ!
「私には、リリアローズって素敵な名前があるのに……。」
身体が弱くて私が小さい頃に亡くなってしまった両親が付けてくれた名前。
両親がいなくて泣いている私に執事長のじいがお母様とお父様のお話をしてくれたっけ……。
そんなことを考えながら、城を歩いていると、深い所まで来てしまったようだった。
「なんだか気味が悪いわね。というか、こんな所あったのね。」
薄暗くてじめじめしている。
だけど、ほこり一つないのが却って不自然だった。
ほこりで服が汚れるのは嫌だったけど、城だけど自分の家なわけだし華美ではない服を着ていた。
決して質素というわけではない。
使っている生地は上等なもの。
けれど、すごく高いというわけではない。
私は高いものよりも機能性を重視した服を着るから必然的に値段は抑えたものになるの。
「この服が安いっていうより、ドレスが高すぎるのよ…」
自分の足音だけが聞こえるなか、少しずつ奥へ奥へと進んでいく。
ほのかな明かりに照らされているのは……。
「棺?え、やだ帰りたい」
こわいよ、こわいよー。と思いながらここまで来た労力を無駄にしないためにも棺にゆっくりと手をかけた。
ごくり。
足から行こう。足から。
いきなり腐敗か白骨した頭部は見たくないわ。
どちらが上か確認するために棺の装飾をよく見てみると文字が書かれていた。
「んーと、『我が戦友アルカディアが眠る。リリアハーン』ってリリアハーン!?」
歴代魔王の中でも最強だったていう何百年前の魔王。
リリアハーンにあやかって、私のリリアという名前はつけられているわ。
そんな方の名前がなぜこんな棺に書かれているのかしら。
それに、アルカディアって名前もどこかで聞いたことがあるような気がするのよね。
まぁ、細かいことは良いのよ!
眠るって書かれているってことはアルカディアさんの死体がこの中に入っているのよね。
どうしよう。
…………。
「ちょっとだけ。」
好奇心には勝てなかった。
好奇心は猫をも殺す。
異国の国から来た旅人が書いた本に書かれていた言葉が頭をよぎった。
だけど、それはもう
時既に遅しというものだった。
とくに続かない、はず。
ふわーっと考えてはいるけど、うん。多分続かない。