素人完成
SNS(線)が出てきてから、メールが殆ど広告とかソシャゲのモノばかり。
これが携帯出てきたころの、公衆電話の気持ちなんですかね?
小説でもSNS(線)をそのまま書けるようになれば良いのに。
「ほいッ」
速くは無いが、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくるバスケットボール。
パシッ! と小気味いい音を響かせて、それを受け止めた。
「おぉ! 今のめっちゃ綺麗な球筋やったね」
大海の特訓を始めて約一週間。
おかんの言う通りパスもシュートも、敵がいない状態だが相当上達してた。
最初はどうなるかと思ったけど、大海が毎日泥だらけになりながら練習しただけの成果はある。
「これなら十分、大海も試合で戦えると思うよ」
「本当に?」
「後は敵がいる時に、慌てないでこのボールが投げれれば間違いないよ」
大海の顔に、満面の花が咲いた。
子供の様にやったやったと、おかんと共に飛び跳ねる姿。これを見れただけで、俺も協力した甲斐があると言うものだ。
本当にこの一週間いろんなことがあった。
初日の自滅を皮切りに、最初の二日はボールを探してる時間の方が長かった。
本格的に練習が始まったと思えば、不良が乱入したり犬が乱入して二時間近く和んだり。
何よりも邪魔になったのは、あれだろう。
「ウチもホンマ嬉しいわぁ」
背伸びして大海の頭をヨシヨシ撫でる、おかんこと音無甘露。
十分おきに電話がかかって来るし、家に帰ったら帰ったで大海との事を根掘り葉掘り聞いてくる。
色を知って二,三年の青い男女が、人気のない所で二人きり。
同じ場所を目指すと言う共通点もあり、何度かいい雰囲気になったこともあった。だがその度に、おかんからの電話が邪魔をした。
ホント何でおかんって生き物は、いつもいつもタイミングが悪いかな。
ナデリナデリ
俺が脳内で不満を垂れていると、大海の頭にあった柔らかい手が俺の上に置かれた。
さっきよりも更に背伸びした、おかんの顔が近い。
「謙ちゃんもありがとぉな。 よう頑張ったなぁ」
視界の殆どがおかんの顔で埋め尽くされ、頭の上の手が今感じる最も強い刺激になる。
刺激と言っても、もちろん痛みではない。
暖かい日に優しいそよ風が吹きのけた時の様な、そんな居心地の良さ。
俺はおかんの顔に手を伸ばす。向かう先は額。
丁度鏡写しの様な状態だ。おかんは笑うように目を閉じた。
ピシッ!
「あ痛ッ!」
デコピンを喰らい、大げさなくらいに首を仰け反らせるおかん。
「撫で返して貰えるとでも思ったか? 高校生にもなって、人前で頭撫でられる恥ずかしさを知れ」
「別にデコピンすることないやろ。イヤやったら口で言いや」
今度は自分の額を摩るおかん。
別に撫でられるのが嫌いなわけではない。寧ろ心地が良い。
しかし自宅ではパンツで過ごす人が外出時はズボンを穿くように、人前で撫でられるのはどうにも羞恥心が擽られる。
好きなモノだからこそ、尚更。
俺は体育館の壁に寄せていた、自分のカバンと大海段ボールを担ぐ。
この数日で段ボールの中身は、殆どがジャージやタオルに変わり重量は減っていた。
それでも俺は大海と別れるバスまで、これを代わりに運んでいる。
こいつがあれば、練習以外でも大海と一緒にいられる。
要するに人質だ。
「明日はいよいよ球技大会本番だし、今日は早めに帰るか」
「せやね。買い物もあるし」
おかんも自分のスクールバックを肩に担ぐ。
「アッ、待って。その前にちょっとだけお願いがあるんだけど?」
素手の足が校門の方に向かっていた俺たちは、思わず立ち止まって振り向く。
そこには自分のバックから、携帯を取り出す大海の姿。
「あの、加藤君のアドレス教えて欲しいな。ダメ?」
「全然いいよ!!!」
俺の手には、気づけば携帯が握られている。
基本的に学校でしか会わず、クラスで隣同士の席だった俺たち。
放課後の特訓も教室から二人でここに来るので、連絡を取る必要性は無かった。
だから俺の頭には、アドレスを交換するなんて発想が端から無かったのだ。現代っ子なのに。
ついさっきまで、無ければ良いのにとすら思っていた携帯電話。
しかし大海の番号が保存された今は、まるで宝物の様に感じる。
「ありがとう加藤君。甘露に教えてもらおうかと思ったんだけど、そう言う時に限って携帯持ってなくて」
「珍しいな。いつも携帯で特売の情報とかチェックしてるのに」
少なくとも俺の記憶の中で、おかんが携帯を所持してなかったモノは無い。
「ウチかて物忘れぐらいするねんて。まぁ特売の情報は一回見たら覚えてるけどな」
そんなことを話しながら、俺たちは三人並んで帰路に付く。
大海に大きな進歩と俺に僅かな喜びを与え、短かった特訓の日々は終わった。
ご意見、改善点などアドバイス頂ければ嬉しいです。