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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
7/22

大役抜てき!

人は見た目によらない。なんて嘘って言う話です。

 翌朝。昨日と同じ時間に俺とおかんは登校した。

 教室に入れば既に半数ぐらいの学友たちが、思い思いの朝を楽しんでいる。


「どうしてもダメかな?」

「俺も協力してやりたいのが山々だが、放課後は部活があるからなぁ。その後にって訳にもいかないし?」

「お昼はどうかな」


 その中で俺の眼に付いたのは、教室後方で会話する男女二人組。

 普通そういう中に割り込んでいくのは、死後で言うところのKYになるのだろう。

 しかし今回は、どうもそういう感じの雰囲気ではない。


 俺達は鞄を持ったまま、その二人のところへ歩いていく。

 途中おかんが駆け足気味になり、女の子に背後から抱き着いた。


「わっ。びっくりしたなぁもぅ」

「何や? 昔のギャグなんかして、困りごとでも起きたん?」


 おかんに遅れる事数秒。俺も頭上に?マークを浮かべる二人に話しかける。


「お、おはよう大海さん、真田」


 挨拶もそこそこに、友人たちの人生相談を聞いた。

 

 何でも大海が球技大会に向けて、バスケの練習をしたいらしい。

 そのコーチとして目を付けられたのが、スポーツ大好き真田君と言うわけだ。

 しかし真田は、部活に遊びに何かと忙しいご様子。


 後者はともかく前者はそう易々と、しかも何日も連続で休む訳にはいかないらしい。

 

「そもそも何で練習なんかするん? 良い事やけど、ウチ等は勝ち負け気にしいひん組やん」

「甘露は昨日直ぐ帰ったから、知らないのかぁ。実はあの後、猪戸さんと話したんだ」


 猪戸さんと言うのは真田と同じく、クラスを引っ張るムードメーカーの一人。

 短髪くせ毛の低身長で、賑やかな性格の姿はどこか小さな少年を思わせる女の子だ。

 その体格からは想像出来ないが、バスケ部に所属している。


 そう昨日の種目決めで女子サッカー組、勝ちに行く組の席を自ら退いたその人だ。

 そんな彼女は放課後、律儀にも大海さんへ挨拶しに来た。


  ◆


 だが余り親しくない二人の話。程無くして話題が無くなったらしい。

 そこで大海は、ある質問を投げかけた。


「どうして、バスケットを引き受けたの?」

「別に深い理由は無いよ。誰かが退かないとだから、バスケやってる私が手を挙げたの」


 結果的に話し合いはスムーズに進み、概ね全員が希望道理の種目に付けた。

 単純だが、すごく大人な行動だ。


 しかしそれだと大海や、その他のクラスメートにレベルを合わさないとならない。

 

「猪戸さんはそれで球技大会楽しめる? やっぱり本気でやってるスポーツなら、球技大会でも全力で戦いたいんじゃない?」

 

 猪戸さんは頭を掻いて、苦笑い。


「それよりも、皆が楽しむ方が大事かな? スポーツは勝つことが目的じゃないし、知らない人がバスケに触れて好きになってくれれば嬉しいから」

「猪戸さん……」


 大海はその言葉に、ものすごく感動したらしい。

 一人の少女がクラスメートを思う気持ち。自分が好きなモノを皆に知って貰おうとする心。

 その小さな体で抱えるには余りに大きい物を、猪戸さんは幾つも持っていた。


「普段ロクに頭使わないのに、急に考え事すると脳内出血起こすよ?」

「唐突にヒドイッ!」


 大海ネネが見た猪戸さんと言う女の子は、凄いバカ正直な子に写ったそうだ。

 考えるよりも先に身体が動き、単純で分かりやすい行動しかとれない。

 裏表がない。と言うよりも表しかないのだ。

 

 だからこそ皆がカリスマ性に共感して付いて行くし、万人に好かれる。

 

 思いやりの心を持つのは素晴らしい。

 ただ猪戸さんの場合は人の為に行動を起こせても、人の為に頭は使えない。使ったところで役に立たないのだ。


 天才が世の中に受け入れられるには、凡才の友人が必要だ。


「私が猪戸さんも楽しめるように、一生懸命頑張るよ!」


  ◆


「なるほどなぁ。猪戸さんが楽しむには、勝ち負けにこだわる必要があるんやな」

「もっと言えば勝てなくてもいい。100対0の惨敗でも、勝負が出来るだけの戦力が必要な訳だ」


 俺とおかんは、並んでコクコク頷く。

 戦えるだけの戦力。


 つまりは猪戸さん以外で、バスケットボールと言うスポーツが出来る人間が必要と言う事。

 それを大海は自分で努めようと考えた。

 しかし彼女のスポーツ経験は、学校の体育に休まず出席した程度。


「私一人じゃ、とても球技大会に間に合わなくて」

「真田も猪戸さんも部活で忙しい。ほかにバスケを教えることが出来る人と言えば……」


 俺はまだ知り合って間もない、クラスメートの顔を思い出していく。

 先ず思いつくのは、男子バスケ組になった連中。

 不良の仲良し五人で組まれたチームで、運動神経だけで言えば悪くない。


 ただ個人的には大海を、不良とつるませる訳にはいかないのだよ。

 少なくとも彼らが、泣きながらバスケをしたがるタイプの不良と判断出来るまでは絶対に。

 父さんはそう思うよ。なぁおかん。

 

「えっ?」


 良い考えが思いつかず、おかんに助け船のつもりで向けた視線。

 偶然におかんも、こちらを見ていて目が合った。

 そして別方向からも、似たような視線を二つ感じる。


「……俺?」


 民主主義の国で、俺以外の全員が首をコクリッ!

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