溜息安売り
コメントありがとうございます(><) とても励まされました!
相変わらず誤字があると思いますが(一応注意はしてるんです、本当に)少しでも楽しんで頂ければ幸いです。 おかん回です(ボソ)
「はぁー」
「謙ちゃんどないしたの?」
真田たちが昼休みに頑張ってくれたお蔭で、LHRは思いのほか早く終了。
六限終了のチャイムと同時、クラスは解散。それぞれの放課後を過ごしていた。
俺とおかんは柔軟な先生の判断のお蔭で、ガラガラのバスに乗って下校出来た。
バスを降車して帰路を行く途中、贔屓のスーパーでお買い物。
現在時刻は、夕方六時前。
「どうもしない。強いて言えば球技大会で、皆が希望の種目に入れたことが残念で」
「はぁ?」
食料品や牛乳とキッチン用品を入れたカゴを持ち、精肉コーナー前で二人突っ立っていた。
これ以上何かを買うつもりはないが、まだレジで清算はしない。
少なくともあと数分は絶対粘る。
「あっひょっとして、ウチと離れ離れなんが寂しいとか?」
「そんな訳ないだろ」
「即答!?」
十年近く四六時中一緒にいるのに、今更半日離れたぐらいで寂しくなる訳がないだろ。
あの後俺は人数合わせでサッカー組に。おかんと大海は、何故かバスケ組に配属された。
真田が言うには女子の殆どが球技大会に前向きで、やるからには勝たないと派だったらしい。
その数なんと十二人。
バスケ部の一人が抜けて女子サッカーの席は、俺たちの所に来た時既に埋まっていた。
それならウチらも謙ちゃん見習おか。だね、私頑張るよ。てな流れでお昼終わりに、議題は最終決着。
当然そこから更に我がままを言う様なことは出来ず、今に至る。
「人生思い通りにならないなって事だ」
「まぁよう分からんけど。そやなぁ……」
俺の顔を覗き込みながら、顎に指先を当てて考え込むおかん。
そして何か閃いたのか、右手のグーで左の手皿をぽんっと叩く。
「ほな謙ちゃんが球技大会頑張ったら、その次のお弁当で好きなもん作ったるわッ!」
「じゃぁ、今朝食べた卵焼き。あれ凄い美味かった」
「よっしゃ卵焼きやな。定番やから他のおかずも、狙い過ぎへんのがえぇかな」
おかんは精肉コーナーに視線を移し、鳥のもも肉のパックを手に取った。
唐揚げか。確かにその二つのコンボは、日本人なら殆どの奴が好きだろう。
おかんがその視線に気づき、意地悪な顔でもも肉揺らして煽って来る。
「でも本番頑張らな、お弁当はお預けやなぁ」
「何でだよ。まぁ手を抜く気は無いからいいけど」
「言うたな。ほなネネと二人で、謙ちゃんの応援行ったるから頑張りや」
おかんが大海と応援。それは願ってもない申し出だ。
自分でも分かるぐらい、声色が明るくなる。
「そうか! それなら頑張らないとな!」
女の子にクラス単位で無く、個人として応援してもらえる。それがどれだけ幸福なことか。
おかんの応援も勿論嬉しい。
しかしそれは今に始まったことではなく、言ってしまえば家族が見に来るようなもの。
憧れの女子と比べれば、失礼だがやっぱり劣ってしまう。
おかんグッジョブだ。
そんなことしている内に、時刻は六時を過ぎていた。
このスーパーでは曜日ごとに特売があり、更に六時を回ると食料品は半額以下になる。
俺はカゴの中から本日の特売商品、豆腐を二丁とり出した。
「おい、早くシール貰いに行こうぜ」
「……うん」
鶏肉に夢中になっていたのか、俯いていたおかんは遅れて俺の後を付いてきた。
俺たちが向かったのは、豆腐売場。
すっかり馴染みになった店員のおっさんに、赤と黄色の派手なシールを二枚貰う。
「全く、たまには定価で買ってくれよな。常連が若いうちからこれじゃ、経費削減でおっさんその内クビなっちまう……」
…………。
定員さんが滑った。
本来ならここで、おかんがツッコんで一笑い起きるはずなんだけど。
「ゴホンゴホンッ! 甘露ちゃん元気ねぇけど、どうかしたのかい?」
「さっきまではいつも道理、どうでもいいことベラベラ喋ってたけど」
俺は豆腐をカゴに戻し、おかんの顔を覗き込む。
ぼーっと歩いていたせいか、お互い思ったより顔が近づいてしまう。
鼻の頭がちょっとぶつかった。
「にょわッ!」
「どうしたおかん、ぼーッとして。悩み事か?」
「そ、そんなことあらへんよ! あぁオッちゃん今日も男前やな」
顔を反らして、俺を通り過ぎるおかん。
そっからはいつも道理、店員のおっさんと低クオリティ漫才を開始した。
◆
会計を済まして、エコバックの取っ手を片方ずつ二人で持つ。
今は特に意味は無いが、小さい頃から買い物の荷物はこう持っていた。
言うなれば、習慣だ。
「あんな謙ちゃん」
「何だ?」
「えっと、今日は湯豆腐やで」
俺はエコバックの中をのぞいてみる。
いつもより、口の開きが狭い気がした。
半額の豆腐二丁に生姜と刻みネギ。湯豆腐以外だと、冷奴ぐらいしか出来なそうな材料が見える。
「もう直ぐ消費税が上がるんだよなぁ。食材や調味料は上がらないって聞くけど、それを育てる肥料やガソリンが上がんなら結局、間接的に値上げされちまうよなぁ」
「せやね」
珍しく俺が会話の文字数で、おかんを圧勝した。
しかもお金の話で。
誤字がない事と願って。