イベントは大切に(リアルの方の話)
楽しめる時に楽しんどきましょうか
揺られ揺られてバス停三つ分。
同じ制服ブレザーですっかりすし詰め状態になっていたバスが、高校前の停留所で停車。
そして今はいるのは、俺等が一年二組の教室。俺と大海の席が並ぶ場所。
未だに続く、おかんが九割九分発言の雑談を満喫していた。
相変わらず俺は大海と会話は愚か、声をかける隙さえ貰えない。
「おらー、お前ら席付いてくださーい」
そんなこんなでチャイムと同時、教室に担任が入って来る。
美人だが、ヤンキー上がりっぽい褐色女教師。今日もジャージが似合っている。
おかんを見送る、俺と大海。
自然に大海と目が合う。二人して、特にメッセージ性のない笑顔を見せあった。
担任が話を始めるまでの、ほんの数瞬。唯一二人きりになれる時間。自分で言ってて引いた。
「とまぁ今日の六限。LHRで球技大会のグループ決めるから、大体の事は決めとけよ」
「おぉもうすぐ球技大会か! てか時期的に早くないか?」
「新入生同士の親睦を深めるための、レクリエーションだって前に話したろ。
おっさんが駄弁って幼稚園児みたいなお遊戯やるだけの新入生歓迎会だと、集まりが悪いからって」
別に質問したわけでも無いだろうが、先生が律儀に答える。
ガラは悪いが、中身は良い人なのかもしれない。
六限目に話し合うはずの議題を今のうちに伝えておく辺り、かなり出来ると思う。
実際一時間やそこらでは、話がつかないこともある議題だ。打ち解けていないクラスでは尚更。
それを考えると、これ以上ない判断かもしれない。
クラスメート達も、自ずと会話が球技大会のモノになる。
特にクラスで一際目立っている三人。真田、猪戸さん、杉山を中心に盛り上がって来た。
「種目って何があんだっけ?」
「私知ってる! サッカーとバスケ。男女で分けて全部で四チーム」
「じゃあじゃあ、強いやつ集中させようぜ! 運動苦手な奴は、勝ち負け気にしないで楽しめるように」
ムードメーカー達のお蔭で先生の気遣い虚しく、一時間目が始まる前に大体の方針が決まってしまった。
何となくだけど、このクラスはあの三人が中心に一年間回るんだろうな。
そこからは休み時間ごとに、仲のいい連中同士での話し合い。
昼休みに真田たちが、それぞれのグループやボッチに希望を聞いて回った。
大海の場合は運動が得意ではないらしく、勝ち負け考えないグループを希望。
だから俺は、まだやりたい種目を決めかねている事にした。
大海の種目が決定したら、俺もその種目の男子グループに参加すると言う企みだ。
だがそんな心配なく、俺の企みはあっけなく散る事となる。
「ネネは勝ち負け気にしぃひん組かぁ。ほなバスケにしたらどや? サッカーって外で激しくボール蹴るし、転んだりしたら危ないやん。
謙ちゃんは男の子やし、外で元気にサッカーやな」
とまぁ人の意見など聞かないおかんが、あれよあれよと話を進める。
しかしこればっかりは、口を出さないといけないだろう。
「待てよおかん。
バスケって草食影薄男子の影響でオシャレなイメージあるかもだけど、昔は不良が涙流してまでやりたいスポーツ、その代表だったくらいしんどいスポーツなんだぞ」
バスケは人数も少なく、コートもサッカーより狭い。
また攻めも守りも五人全員で行い、最初から最後まで動きっぱなしな事もある。
その点サッカーは楽。とは言わないが、バスケより攻守の役割が明確だ。
さらに言えば球技大会のサッカー何て、FWの奴を中心にボールの取り合いになることが多い。
チームが攻めてる時のGKや、DF何かは明らかに暇だったりする。
と俺は力説。
「なるほどなぁ。流石謙ちゃん物知りやなぁ」
おかんが背伸びして、俺の頭を撫でようとして来るので後ろに下がってかわす。
「じゃあ私は、加藤君が言うようにサッカーにいくね」
「その方が良いかな。じゃあ俺もサッカーで……」
「何言うてんの! 謙ちゃんは男の子なんやからバスケ行き!」
おかん。俺に何か恨みでもあんのか?
「謙ちゃんはやればで出来る子や。バスケの知識も凄いし、期待したってや」
「そうなんだ。頑張ってね加藤君」
二人して、俺に期待のまなざしを送って来る女の子。
いやこのぐらいの知識は、大抵の奴が知ってることなんですけど。
今更サッカーがしたい何て言えば、それは即ちサボりたいって言うようなもの。
イヤ心の底からサッカーがしたいと願えば、きっとサッカーが出来るはず。
そうだサッカーと紳士に向き合うんだ。
諦めるにはまだ早い。だってまだキックオフすらしていないんだから。
「実は俺もサッカーがいいんだけど」
「おぉマジか加藤。これで男子は5対11で丁度チーム分けが出来たな」
ありがとう神様。俺はめでたくサッカーチームになりました。