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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
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憧れ不器用

三人目の登場人物・大海ネネ全編です

 おかんと二人で歩くこと数分。

 様々な形の車が行き来する片側三車線の国道脇、歩道に設置されたバス停に立っていた。


 特にすることもなく、バスを待つだけののどかな時間。

 音楽プレイヤー何て持っていない俺は、瞼を閉じて街の喧騒に耳を傾ける。

 愚痴が多いが、何処か楽しそうな学生の会話。遅刻しそうなのか、他よりも速いテンポで通り過ぎる誰かの足音。建物の間を窮屈そうに吹き抜ける風。


 そして俺の一番近く。すぐ隣で楽しそうに雑談する、一際大きなおかんの声。


「おばあちゃん毎朝元気えぇなぁ」

「何言ってんだい。こうして毎日甘露ちゃんとお話しているから、じゃないか」

 

 会話自体が楽しくて仕方ないと言うように、喜色が溢れ出ていてるおかん。

 聞いているこっちまで、気持ちがワクワクしてくる。


 人によっては五分でも長いと感じるこの時間を、俺は中々に気に入っていた。

 気に入っている理由は、それだけではない。

 もうすぐバスがやって来る。そう考える度に、大きく膨らんでいく俺のワクワク。


 ブロロロッ! プシィー


 折戸式の扉が開く。

 降車客は一人もいないようで、スムーズに乗車客がバスの狭い入口に吸い込まれていく。


「はい、おばぁちゃん。足元きいつけやぁ」


 お婆さんとおかんの後に続いて、俺も定期券片手にバスへ乗車。

 座席は全て埋まっているが、誰かと肩を触れ合わせなければならない程ではない。

 車内の奥まで見渡せる。だから直ぐに見つけられた。


 いや例え満員車両の中でも、俺は直ぐに彼女を見つけられたと思う。

 腰骨辺りにまで伸びた黒長髪。全体的に整ったスタイルをおかんと同じ制服で包む女の子。


「おぉ! ネネちゃんおはよう。今日も美人やねぇ」

「あっ、おはよう甘露」

 

 大海ネネ。俺のクラスメートで、おかんの友達。

 二人で会話と言うよりも、おかんの出会うと同時に始まった世間話を聞く大海。

 彼女たちの日常的なコミュニケーションのスタイルだった。


 俺もその輪の中に入る為、動き出したバスを歩く。


「あっ。……お、おはよう大海」


 ……無視される。

 おかんの声が大きくて、俺の声が掻き消された。

 大海も大海で悪気などなく、話に夢中で俺の存在に気づいてはいない。


 俺は後ろからおかんの口を左手で塞いで、挨拶をやり直す。


「おはよう加藤君。今日も二人は仲良しだね」


 今度は笑顔で挨拶を返してくれるも、そんなことを言われた。

 間違いではないが、大海に言われるとどこかせつない気持ちになる。

 いい加減な返事と中途半端な苦笑いが、俺の顔で形成されていくのが分かった。


 おかんの方は、まんざらでもない御様子。

 上から覗き込むと目を細めて、手の平には唇がUの字に動く感触が伝わって来た。

 そんなやり取りを、大海はまた微笑んで見ている。


「今日も重そうな荷物だね。何もって来たの?」

「ん? いつも通りの教科書とノートとか、お弁当でしょ。

 後昨日の掃除で取れない汚れがあったから、家に置いてあった強力な洗剤も持って来たんだ」


 見せてと、俺は大海から荷物を受け取る。と言ってもスクールバックではない。

 大海はいつも鞄とは別に、小さめの段ボール箱を持って登校している。

 中身は大海が言っていた物の他に、薄手の上着やら二ℓボトルの水やら。

 到底使わないであろう物が大量に入っていた。


 それなりの重量があり、スポーツ経験のない女の子一人では中々重たかっただろう。

 バスに入って直ぐ大海を発見できたのは、これを持っていたらからだ。

 一しきり中を見物したところで、大海が段ボールを受け取ろうと手を伸ばしてくる。


「いいよ。同じクラスだし、俺が教室まで持ってくよ」

「いつもありがとう加藤君。ホントやさしいね」

「ほんま謙ちゃんはやさしいなぁ。そんな事よりもなぁネネ……」


 そしてまた始まるおかんの、マシンガン世間話。

 バスには毎日十数分乗っているが、大抵俺と大海の会話はこの程度で終わる。

 

 それども俺は、やっぱりこの時間が好きだった。

 大海の役に立って、大海に感謝される。それがとてつもなく嬉しくて、たまらない。

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