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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
22/22

寝起きドッキリ

ご意見ご指摘などあれば(^^)

 日が昇って暫く経った頃、俺は閉じていた瞼を開いた。


 ソファに座ったままの体制で眠りについてしまったらしく、体が痛い。

 ぼんやりとした視界と感覚が、窓辺から注がれる朝日に照らされ蘇っていく。

 そして気づいた。


 手中にあった暖かさが、今はもう余波のみになってしまっている。

 その代わり体はモーフに包まれ、台所にはおにぎりが用意されていた。


「おかん……」


 思わず口から溢した声が、広い室内に溶けていく。

 これで終わりなのだろうか?

 昨日おかんから告白されて、それを完膚なきまでに拒絶した。当然と言えば当然。

 

 むしろそれを望んでいた程だ。


 でも俺は未だ、手に残る心地よい暖かさを求めていた。

 諦めろよ。自分に何度も言い聞かせる。

 汚くて傲慢で貪欲で最低な感情が、次から次にあふれ出す。


 数時間前、おかんの事を子供の様だと思った。

 しかし今の俺は、そんなこと言えた立場じゃない。

 

 無自覚のまま散々我儘を言って、いざ捨てられたら何もできなくなる。

 その笑顔に、鬱陶しい程世話を焼いてくれる優しさに甘えて。

 我儘でバカな子供のように。


 固まった関節を無理やり動かし、台所へ向かう。

 綺麗な三角形をした、やや大きめのおにぎりを口に運ぶ。

 強く握られた為少し硬いそれを噛めば、口の中にかすかな塩気。続いてそれに引き出されるような米の甘みが口内に広がる。

 具もなければ、海苔が巻かれている訳でもないタダの塩むすび。

 なのにそれがむしょうに美味かった。

 

 何度も食べた、当たり前に美味しい味。

 残ったおにぎりを口に押し込む。咀嚼の度に解けていくごはん。

 おかんとの思い出が溶けていくような、失なった事さえ忘れていきそうな感覚に襲われる。


 気がつけば頬に涙が伝ったていた。

 俺の人生の中で当たり前となった、おかんのおにぎり。

 それを味わう最後の時間。

 

 咀嚼の度、嚥下する度に涙が止めどなく溢れてきた。

 鼻をすすりながら、皿の上にあったおにぎりを全て平らげる。

 舌に伝わる塩気がおにぎりなのか、涙か鼻水なのかはもうわからない。

 

 最後の一口を頬張り、咀嚼し、一気に飲み込む。

 喉に閊えそうになったそれを、胸を叩いて無理やり流し込んだ。

 シャツにはまだ、おかんの涙が僅かな湿りとして残っている。

 

 脳裏によみがえる笑顔。

 あんなのはおかんらしくない。


 今まで積み上げてきた、俺たちの関係は完全に終わった。

 それでも、最後に見た彼女の表情があんなものであっていいはずがない。

 憂いに満ちた汐らしい笑顔なんて、おかんには不釣り合いだ。

 

 これは最後のわがまま。

 おかんに伝える言葉は「ゴメン」じゃなく、「ありがとう」だ。

 俺はあの笑顔を取り戻さないといけない。


 俺は何をしていたんだろうか?

 わざわざ昨日一日おかんの後を追いかけて、ヒドイことを言うためではなかったはずだ。

 おかんをふって、さらに傷けることでもなかった。

 

 ひょっとすれば、それは俺に出来ることではないかもしれない。

 何をどうすればいいのか、一切見えてこなかった。

 

 だけど俺は気が付けば上着を羽織り、鞄を手にして家を飛び出していた。

 おかんの家までの道順は、体が覚えている。

 目を閉じていたってたどり着ける道のりを、俺は全力で走った。


 玄関前までやってきて、呼び鈴を鳴らす。

 出てきたのは、おかんのお母さん。


「甘露? もう今日は出かけたでぇ」

 

 俺の家に向かったなら、途中で鉢合わせするはずだった。

 だとすれば向かった先は、おそらく学校。そこに向かうバス停。


 ピリリリリリリリリ!


 鳴り響く携帯電話。

 手に取れば、表示される大海ネネの文字。


「あっ謙信君? 今すぐ学校に来て」

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