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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
20/22

何時もと違うからこその半額

クライマックスどうしましょ

 涙を止めどなく流し、時折嗚咽を交えながらおかんは語った。

 彼女の、イヤ俺たちの過去を。


「ウチは謙ちゃんが大好きや……」


 制服の袖で目を拭い、そしてまた新たに涙があふれてくる。

 

「友達でも家族でも無くて……男の子として、ずっとずっと大好きや。

 せやけど……」


 そこでおかんは俺の手を振り払い、背を向け右足を動かし遠ざかる。

 少し離れる彼我の距離。


 俺は無意識のうち、空をさ迷う手を伸ばして声を漏らした。

 おかんは、首を左右に振る。


「裏でこそこそとずっと謙ちゃんの邪魔して、挙句二人にあんなひどい事して。

 ウチはズルい子や。ずっと一緒におっても、ネネに負けたんも仕方ないな」

「何言ってんだよ」

「二人に合わせる顔が無いどころか、端からそんな資格なかったな」


 おかんは振り返る。笑顔で。

 両頬には相変わらず涙が伝い、見る者全ての心をチクチク締め付けるような最低の笑顔。


 バイバイの言葉を残し、おかんは歩いていく。

 おかんの姿が陳列棚の向こうに消えるのに、あと数秒程度。

 ここで離ればなれになれば、二度と溝は治らない。そんな気がする。


 今朝までの俺なら、それでもいいと思っていた。昨日までは自らその関係を絶とうとさえしていた。


 でも今は絶対に違う。

 おかんとの繋がりを、ここで断ち切る事への恐怖が止めどなく溢れだす。

 全身に感じる思い出と言う熱を奪いながら、血液が流れ出るような悪寒。


 貪欲なまでに我儘な自分に、俺は吐き気すら覚えた。

 しかしそんな屑みたいな感情があるからこそ動き出せる。

 我儘で幼稚で自分勝手な感情が、今の俺たちの繋がりを保つ唯一の鍵だった。


 遠ざかる小さな女の子の背中めがけて、一直線に走り出す。

 五歩もかからず追いつき掴む、歯ブラシの入ったカゴを持つ手。

 

 おかんは立ち止まり、全身を強張らせる。

 俺たちは二人して、それぞれ違う理由で鳥肌を立てた。


「何か色々カッコ悪いし手遅れだけど、こんなバイバイは駄目だ!」


 そこから俺は、おかんの手を離さなかった。

 二人して何時も通りタイムセールまで時間を過ごし、レジを通って帰路を行く。

 今回はエコバックを挟まず、直接手をつないで歩いた。

 家に到着して、買ってきた物を片手で冷蔵庫にしまう。


 もう大丈夫かなと手を離そうとするが、今度はおかんの方が両手で握り返してくる。

 その手は震えていた。まるで出かける親に我儘を言う子供の様に。

 相変わらずその口は壊れたみたいに何も喋らない。


 流石にこれでは着替えも料理も出来なくて、俺たちはリビングのソファに腰を据えた。

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