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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
2/22

ムスッとした幼少期

出会い編ですし、おかんがおかんになった理由です。

 十年とちょっとだけ前の春。

 当時幼稚園児だった俺は、人生初の組織の中で最年長者と言う立場にいた。

 周りからお兄ちゃんだねとか、皆の面倒を見てあげてねとか過剰なまでに持て囃されたこともあり、子供のクセして無駄に張り切っていたのを覚えている。

 

 無尽蔵に湧き上がる衝動。その矛先が適当に向けられたのが今春大阪から越して来て、クラスメートとなった女の子。

 当時五歳の音無甘露。

 短髪の両サイドをちょぴっとずつ縛ぶ、ムスッとした表情の女の子だった。


 数日前の初対面の時、先生から何度も自己紹介を諭された後にぼそりと呟いた言葉。

「甘露」

 それからは何も喋らず、教室か運動場で三角座りして一日を潰していた。


 俺はそんな女の子がどうも気になってしまい、ことあるごとに世話を焼く。

 お遊戯でグループを造れば必ず仲間に引きずり込み、給食当番になれば意識的に大盛りにしたりもした。

 でもそれら全てが見事に空回り。 


 日を重ねるにつれて、俺もだんだん意固地になって来る。

 次第に女の子の為と言うよりかは、自分がやりたい事を成功させるためだけに行動していた。

 身勝手なお節介は、女の子にもストレスとして溜まっていたのだと思う。


 そして幼稚園の野外活動で、町内にある何てことない馴染みの公園に来た時だった。

 友達数人を交え、無理やり砂場での遊びに参加させようとした女の子の怒りは爆発。

 初対面の時以来、久しぶりにその声を聞いた。

 

「いい加減にせんか! アホォー!」


 今まで頑固に黙秘してきた姿からは、想像もできないほど大きく感情のこもった声。

 その勢いに押されて、怒声だけで俺は尻餅を付かされた。


 周囲の人間も、普段もの静かなその子が急に発した大声に驚く。

 視線が集中するその先。肩を怒らせて、俺をにらみつけてくる女の子の姿。


「なんやねんあんた! ウチはあんたと遊びたないの」


 自覚は無かったが、人生で初めて徹底的に拒絶された。

 怒りも戸惑いもまだハッキリ自覚出来ないモヤモヤに、女の子が喋った喜びが混じった感情が湧き起る。

 砂を払う事も忘れて、俺は女の子にその感情を叩き付けた。


「遊びたくないって何だよ! ずっと三角座りしてて楽しいのかよ!?」

「楽しい訳あらへん! せやかて……」


 女の子が言いよどんだ。

 何かを思い出して、それをかみ殺すように俯き瞳を潤ませる。

 

「せやかて友達もおらへん、知らん人ばっかのとこで遊んでも楽しないやろ」


 今までとは少し違う、寂しさが滲み出る大声。

 ウルウルの瞳から、その悲しみが涙となって溢れ出してくる。

 でも俺には女の子の言葉のわけが、その悲しみの理由が分からなかった。


「ウチは一人ぼっちやねん。友達と離ればなれになって、もう……もう……」

「一人ぼっちじゃ無くない?」


 言葉が途切れた時、当時の俺は平然とそう言った。

 女の子は当然、俺に反論してくる。同じ言葉を二回三回繰り返してもくる。

 でも何度説明されても、女の子は一人ぼっちとは思えなかった。

 だって。


「だって離ればなれになっても、友達は友達でしょ? 僕も夏休みとか、友達とずっと会えなくても友達だったよ」

「そんなんちゃう。ウチ等はもう会われへんかもしぃひんねん」

「それでも友達だよ! 何で会えないと友達じゃなくなるの?」

「それは……」


 女の子の次の言葉を待つ。

 でも顔を俯かせ、潤んだ瞳をあちこちさ迷わせるだけで一向に言葉は出てこない。

 俺は女の子の手を握って、その顔を覗き込む。


 可愛かった。


「離ればなれになった友達は、もう友達じゃないの?」

 女の子は頭を左右に振る。


「友達と会えないと、友達じゃ無くなっちゃう?」

 女の子は頭を左右に振る。


「友達、僕は君の友達じゃないの?」

 女の子は頭を左右に振る。振ってからハッとした表情で、俺の顔を見返してくる。


 俺はその期待通りの反応に、満面の笑みをこぼす。

 それは昔から母親によくやられた、意地悪だった。

 何度も同じ答えになる質問を繰り返し、最後の最後で今までと真逆の答えになる質問をして答えを誘導。

 

「僕、加藤謙信。これで今日から友達だよ!」

「アッ……え?」

「それに友達はいつだって友達なんだよ。離ればなれになって寂しいなら、新しく友達を作ればいい。

 それならどこにいたって、友達がいるし寂しくならないよね」


 戸惑う女の子。

 でも握った手はずっと握り返してくれているし、瞳からの涙も止まっている。


 そう言えば自己紹介はされたけど、ちゃんと名前を呼んだことは無かった。

 俺は女の子の名前を呼ぼうとして口を開くも、そこからは声が出てこない。

 女の子の世話を焼くことばかりに気を取られて、他の事は全部忘れてしまっていた。


 俺は女の子に改めて名前を聞いた。


「お……となし、かん……ろ」

「おかん? そっか『おかん』って名前なんだね。面白いね」

「えっ!? 違……」


 俺は目標を達成した喜びよりも、新しく友達が出来たことに嬉しくなった。

 おかんの手を引き、公園の中を訳もなく走り出す。

 初めは戸惑っていた様子のおかんも、嬉しさが伝染して気づけば笑っていた。


 それから俺とおかんは、ずっと一緒にいる。


 母親の仕事が忙しく家で俺が一人でいることが多いと知って、おかんが身の回りの世話をするようになるのは直ぐだった。

 初めはおかんの家に泊まらせてもらったりしたが、その内おかんが料理を覚えだす。

 気が付けば有難く世話をやいてくれる、幼馴染になっていた。

子供って色々考えてるもんですよね。大人の考えでは理解できないルールがあったり、大人より大人なところがあったり。

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