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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
18/22

エンカウント率100%

不定期投稿ですが、ご感想いただければ幸いです。

 夕日が背中に照り付ける。

 信頼する誰かに背中を預けるような、心地よい暖かさに包まれている様だ。


 いつもの道の、いつもの時間。

 俺はいつもとは違い、一人で歩いていた。

 それでもやっぱり俺はいつも通りに、近所のスーパーへ足を運ぶ。


 理由は冷蔵庫の仲がスッカラカンだから。それと午後の授業をとうとうサボった、あいつが絶対にいるから。

 ゴイーンと反応の遅い自動ドアが、重たそうに開いていた。


 入り口脇に積まれた、軽くて丈夫で持ち歩きにくいカゴを取る。

 野菜コーナーから店内の壁を伝うように、必要なものをカゴにバランスよく敷き詰めていく。

 調味料やその他台所用品は、まだまだ余裕がある。後は歯ブラシがくたびれてたはずだ。

 

「でもとりあえずは、日用品売り場に行くだけでいいかもな」


 店内に縦二列、横八列で並べられた商品棚が作りだす通路。

 そのうちの一つに、俺は入った。

 飲食料品が多く扱われるスーパーで、そこは少しだけ違う雰囲気。


 芳香剤や洗剤なんかの、生活日用品ズラリと壁を作る一本。

 そこには俺と同じ高校の、女子制服を着た小さな女の子が一人。


「そんなもん買って、どうする気だよ。おやじさんのか?」

「ひゃっう!」


 手に取った男物の歯ブラシを落としそうになり、慌てて受け止めるおかん。

 やっぱりいた。何故なら今日は豆腐の特売日だから。


 おかんが特売を見逃すなんてありえない。

 惣菜ならともかく、食材が半額になる日は絶対にスーパーに表れるのだ。

 早退したので俺が来る前に買い物を済ませれば良いのだろうけど、どれだけ早く来ようが半額シールが貼られる時間は決まっているのだ。

 

 俺の存在に気づくと、踵を返して出入口の方に向かおうとする。


「買い物カゴ持ったまま、店の外に逃げるつもりか? 言っとくけど俺は戻さないからな」

「……」


 手に持ったカゴをしばし見つめ、諦めたように肩を下ろす。

 おかんの前に回り込み、その顔とカゴの中身を覗いた。

 見事なまでに俺のカゴと同じものが入っている。


「昨日と一昨日無視して悪かった。あと今日の弁当スゲー美味かった」


 深々と頭を下げる。おかんからは何も言葉が無い。

 普段なら寝ている時以外は、殆ど休む暇なくしゃべっている。そんな女の子なのに。

 怒っているのか、それとも不快感を覚える程に嫌われたのか。


 俺は顔を上げる。


「やっぱり許してくれないか……」


 居心地が悪そうなおかんの顔。

 俺はもう一度頭を下げ、持てる精一杯の誠意をこめて謝罪した。


 自業自得だけどおかんに嫌われたことを、ようやく実感する。

 胸に湧き上がる訳の分からない、押し潰されそうになる不安。

 店内の陽気なBGMが、どこか遠くに聞こえる。


「……やめ」


 再び顔を上げる。

 こんな事になるなんて、今まで考えた事すらなかった。

 喧嘩だって数えきれないぐらいしたけど、少し経てばゴメンも言わずに仲直りしていた。


 でも今回は違う。

 許してもらえないかもしれないし、ひょっとしたら関係が壊れるかもしれない。

 それは絶対に嫌だった。


 相変わらず自分勝手だと思う。

 それでもこの繋がりだけは、無くしたくは無い。大海と同じ事を考えている。


 それこそ長年一緒に暮らした、家族との根性の別れのような。

 もう一度声に出して告げた。


 球技大会の日に突き飛ばしたことを謝り、休日に無視した事を謝り、今日の弁当が美味しかったことへの感謝を述べる。


「……やめて」


 電話を返さない事を謝り、ウザいと怒鳴ったことを謝り、それでも仲直りしたい気持ちを伝える。

 ひたすらに頭を下げた。


「やめて!」


 それはもう、迷惑の域に達していたのだろう。

 久しぶりの、元気なおかんの怒声が店内に響いた。


 俺は不安を胸に、顔を上げる。

 正直おかんがどんな表情をしているのか不安で、顔を見るのが怖い。それでも俺はおかんと向き合う。


「えっ?」


 その頬を大粒の涙で濡らしていた。

 勿論それはおかんの瞳から溢れ出たもので、息苦しそうに胸を抑えて呼吸する。


 だがその表情に、俺を嫌悪する表情も怒りの感情も読み取れない。


 いや怒りに似た感情を、しかし俺を睨み付けるのではなく自らを責める様に向けている。


「違うねん……全部ウチが……ウチがずっと悪いねん」

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