一人の休日
動き出すには、十分な休息!
でも必要以上に取ると、動きにくくなるもんです。
球技大会の翌日。土曜日。
目覚ましをセットしなかった俺は、昼過ぎに目を覚ました。
気怠く何もやる気が起こらない脱力感で、身体は布団を離れようとしない。
あの後俺は走ってバス停まで向かった。
しかしどこにも大海の姿は無く、バスが交差点を曲がっていくのが見えただけ。
メールを送れば、
「大失敗しちゃいました 少し気持ちの整理をさせて下さい」
と一応返信が来たものの、それ以降は音沙汰が無かった。
寝ている間に返信が来たかもと、念のため携帯を手に取り画面を表示させる。
おかんからの着信が、一二件あっただけだった。
布団の上に携帯を放り投げる。
結局その日は母親が食事をねだりに来るまで何もしなかったし、誰も訪ねてこなかった。
◆
日曜日。流石に寝飽きた俺は、適当な服に身を包んで外出する。
財布と携帯、ポケットティッシュだけを持って町の方まで足を運んだ。
十代をターゲットにした服屋。アニメとコラボしたコンビニに、どこかで見たことあるような新商品の幟が上がるドーナッツ屋もある。
どれも興味をそそるが、何故か足が何処へも向かわず素通りしていく。
その内足が疲れてきて、適当な植え込みに腰を落ち着けた。
用もないのに携帯を出して、画面を覗く。
おかんからの着信が十二件。俺はモヤモヤする胸を無視して、電話帳を開いた。
液晶に表示される、知り合いたちの名前。
しかしその中に、気軽に電話をかけれる物が思いのほか少なかった。
『あ』から始まり今は『お』、大海の名前が出てくる。
あれはやっぱり、失敗と言う事になるのだろうか?
「立ち直った? 月曜学校には来るよな?」
一先ずそれだけ送って、大海のプロフィールを閉じる。
そこで携帯が鳴った。
初めは大海かと思ったが、そこに表示されているのは別人の名前。
おかん。
それは今までずっと一緒にいたのに、今は一番会いたくない奴。
俺は立ち上がり、ポケットに携帯を押し込んだ。来た道を戻る。
暫くして、手に感じていた振動が止む。
携帯を確認すれば、おかんからの着信が十三件に増えていた。
再びアドレス帳を開き、スクロールする。
おかんの下には、『母さん』と言う表示。程無くして電話帳が底をついた。
「友達少ねぇなぁ」
いないと言うよりも、俺が誰かといる時は大抵おかんもいた。
そして何時もあいつは、会話の中心にいる。
二人一緒なら、アドレスもどちらか一方を知っていれば困らない。どちらかと言えば、喋ってて楽しい方のアドレスを知りたい。
必然的に、おかんが常に選ばれて来た。
考えると、知り合いと話せば必ずと言っていいほど話題はおかんの事になる。
俺とおかんは常にセットで、周囲の人間に見られていたのかもしれない。
そもそも無理だったが、俺は知り合いに連絡を取るのをやめた。
◆
「今日も甘露ちゃん来なかったね」
「だな」
本当の意味での、母と息子二人だけでの食卓。
電気もテレビも付いているのに、まるで葬式みたいに暗く会話が無い。
あの後、結局俺は何時ものスーパーで夕飯の買い物をしていた。
割引になる一時間前から、レトルト製品のコナーを陣取り時間を潰す。
しかし半額シールが惣菜に貼られる時間を過ぎても、おかんは現れなかった。
「謙信ひょっとして喧嘩した?」
俺は茶碗に盛られたご飯を、多めに摘まんで頬張った。
しばらく黙って見ていた母さんも、俺が三口目を頬張ったところで食事に戻る。
「なんか喋れや!」
思わず振り返る。
そこには笑いを掻っ攫い、満面の笑みを浮かべたお笑い芸人がテレビに映っていた。
バツが悪くなり、何事もなかったかのように食事に箸を戻す。
母さんが鼻からため息を漏らす。
「別に喧嘩じゃない。喧嘩なら今頃はもう仲直りしてる」
「ちゃんと謝らないとダメだからね」
それは今まで食べて来た中で、最も静かで味気の無い夕食だった。
ご意見、アドバイスなど頂ければ嬉しいです(^^)




