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幼馴染 おかん  作者: シロクマ
14/22

告白 後編

も~今やろうと思ってたのに。的な話です

「いつから?」

「えっ?」

「だから私の事、出会ってまだ一か月ちょっとなのに。いつからそういう目で見てたの?」  


 大海の腕から、上に向かう力を感じた。

 それは俺の腕。そしてその手に持つゴールを動かし、困惑する彼女の顔半分を隠す。


「そっ、そういう目でって! 違うぞ、やらしい意味じゃなくて……」

「だからいつから?」


 慌てる俺を嗜めるように、大海はその目を細めて再び聞いてくる。


「いつから、好きでいてくれたの?」


 俺が大海を好きになった瞬間。

 それは出会ってまだ数日の、何気ない日常の仲だった。


「大海が返してくれた、ノートを開いた時……」

「ノート?」


 聞き返す大海に、俺は熱くなっている頭をコクリ。

 それ以上大海の顔を見れず、若干俯いたまま話を続ける。


「初めは……ノート中々返してくれなくて、何だよって思ってた。でも大海が返してくれたノートは、俺が今まで見た事無い様な楽しいモノになってて驚いた。

 頼んでもない人のノートまであんなこだわって、人の為にどこまで頑張れる大海が好きになった」


 時間も場所も、シュチュエーションだって何て事のない日常。

 運命の出会いなんて呼べない、ロマンチックでも何でもない日常。

 でもそんな日常の中で、誰よりも誰かのために努力する大海ネネを俺はドンドン好きになっていた。


 不器用で要領が悪いのに、一生懸命な所が好きだ。

 そんな大海が一か月もかけて、誰かを騙す事なんて出来るはずが無かった。


 一頻り喋ったところで、俺は再び大海の顔を見る。

 その顔は相変わらず笑顔。しかし一緒ではない。

 俺が顔を下げた事で赤い日が差している事と、表情の中に、喜びと優越感に似たものを感じた。


「そっか」


 大海の眼から、一筋の涙が頬を伝った。


「それなら、少しだけ私の方が勝ちだね」

「勝ち? 何の話?」

「私だって、ただの普通の中で好きになっていったんだよ。

 誰よりも誰かの為に、どこまでも努力できるところにドンドン惹かれてたんだよ」


 何を言っているの分からなかった。

 まさかここで大海が自分自慢を始めたとも思えない。

 困惑する俺。


 見つめ合う二人。


「自覚は無かったのかな? 

 借りたノートを何時までも返せないのろまな私に、嫌な顔一つせず友達になってくれた。

 要領の悪い私の荷物を、会う度に何も言わずに持ってくれる」


 大海はスンッと鼻を啜った後、今までで一番の笑顔を見せてくれた。


「私を何度も助けてくれた、加藤謙信君が……」

「謙ちゃん帰ろーッ!」


 突然大声で現れたおかん。

 俺と大海は思わず、お互いの距離を開けてしまった。

 地面に落ちる、バスケットゴール。


「あぁ気いつけなあかんやろ、それ借りもんやのに」


 トテテテと走って来たおかんは、ゴールを拾い上げて土を払う。

 何処にも破損が無いかチェックした後、それを葉桜の樹の下に立てかけた。

 しゃぁ無いなぁと、俺に微笑みかけるおかん。

 何故か肩を上下させ、息が荒い。


 でも今は、そんなことに構っている暇は無かった。

 俺はおかんへの挨拶もそこそこに、大海に向き直る。

 しかし。


「あはは、早く言わないから。本当に私要領が悪いね」


 苦笑いする大海。

 先程まで周囲を取り巻いていた、高揚感が嘘の様に晴れている。


「じゃあ私も帰るね。 バイバイ」


 何事もなかったように段ボール箱を抱えて、校門の方へと走り去っていった。

 当然俺は、その後を追いかける為に駆け出す。

 

 ハシッ!


「何だッ!」


 でもそれは、おかんに腕を掴まれ止められる。


「何だちゃうッ! えっと……コレ。ゴールちゃんと返さなッ!」

「悪い。それはちゃんと明日、教室に運ぶから」

「あかんッ! あかんッ!」


 声を荒げるおかん。

 しかし俺は、そんな幼馴染の手を強引に引きはがし走り出す。


 ドテッ!

 

 そのせいでおかんは体制を崩し、地面に倒れ込む。

 その場にうずくまったまま、起き上がろうとはしない。


 俺は一度校門の方へ視線を戻し、踵を返しておかんのところへ戻る。


「ごめんおかん。何処か打ったのか? 保健室、連れてこうか?」

「打った……」

「どこ打った。 膝か? それとも頭か?」

 ガバッ!


 おかんは勢いよく顔を上げ、額を抑える。

 その顔は、満面の笑みで埋め尽くされていた。


「頭! 頭打ってアホになってもうたぁ!」

「……」

「な、何やの謙ちゃん。そこは基からアホやろッ! て言わな」

「……けるな」


 それはあまりにも自分勝手だった。

 何かを察しろと言うのも、俺の怒りを理解しろと言うのも何も知らないおかんには到底無理な話だ。


「ふざけるな! そんな下らない御ふざけはもう沢山なんだよ!」


 それでも、俺は気づけば怒鳴っていた。

 おかんの小さい体が、ビクッと震える。

 しかしそれを気に掛ける程、俺は冷静ではいられなかった。


 壁近くに置いてあったカバンを乱暴に拾い上げる。

 俺は一人、体育館裏から立ち去ろうとした。


「待って! ごめん謙ちゃん。今のおもんなかったな! 今度はちゃんとやるから」


 また腕に絡みついてくる。

 俺が感じたのは、一〇〇%の鬱陶しさ。

 それがとてつもなく不快で、今度はおかんを思いっきり引きはがした。


「ウザいッ!」


 背中に聞こえる、何かが倒れた音。

 しかし俺は振り返る事もなく、只々その場から離れる事だけを考えていた。

ご意見アドバイスなど頂ければ嬉しいです。

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