大本番 次回後片付け
「憧れ不器用」 「初(恋)メール」を手直ししました(^^)
大海の努力の集大成です
結局一回戦は、俺たち二組に軍配が上がった。
ゴールこそ最初の一回だったが、ムードメーカー二人がクラスを引っ張り最後は全員で試合を楽しんでいた。
概ね学校の趣旨を汲み取った結果と言える。
「お疲れ、ナイスアシストだったぞ加藤」
「お、おぉ! まさか褒められるとは!」
「何言ってんだよ。最初のプレーお前の妨害があったからゴール出来たんだろ」
試合中俺が何をしたかと言うと、特に何もしていない。
と言うよりも、ボールに触る事さえ無かった。
特に運動神経が良いわけでも無い俺は、敵さんの邪魔になるところに回り込む事が精一杯。
ただサッカーはチーム戦だ。
少しでも敵の不利的要素を作ってやれば、後は上手い奴がどうとでもしてくれるもんだ。
試合中動いていれば怒られないし、勝ったら勝ったで自分も嬉しい。
出来ないやつのやり方を知っているから、大海にも色々教えられたのだ。
「そういえば」
その大海の姿をキョロキョロ、グラウンドの中を探す。
しかし何処にもその姿は見当たらない。
結局大海に再開できたのは、昼休みに入ってからだった。
◆
昼食を終え、十分に休憩を取った俺たち高校生。
場所は現在、体育館の舞台上。
昼の部第一試合にサッカーの試合が無い二組は、仲間の女子バスケを応援していた。
男のむさ苦しい声とは違う、耳心地のハツラツとした掛け声。
猪戸さんを中心に、二組vs三組の戦いは繰り広げられていた。
「やっぱり猪戸は流石バスケ部だよな。でも意外と大海も上手くねぇか?」
「だよなだよな、イメージ無かったわ。ポニテも似合うし」
そう一見すると、猪戸さんの独壇場に見える試合。
しかしポニテの大海も地味だが、俺と練習で身に着けた事を実践できている。
常に敵の少ない所で待機し、ボールが来ればそれを味方に繋ぐ。
何度かパスカットは受けるが、それ以上に猪戸さんのサポートになっていた。
猪戸さんも勝ち負けの勝負が出来る事が嬉しいのか、大海にアドバイスを出したりしている。
ちなみにもう一人、活躍しているクラスメートがいた。
おかんだ。
ドリブルすればボールを蹴飛ばし、パスすればコート外へ大暴騰と面白い事になっている。
しかし落ち込む事無く、誰よりも声を出してドタドタ動き回っていた。
その姿はとても微笑ましく、失敗しても起き上がるカッコよさすら感じる。
「失敗しても起き上がるカッコよさか」
おかんをマークしていた敵が、標的を猪戸さんに変更。
ボールをキープして、眼前の敵とつばぜり合いをしていた彼女は更に動きにくくなる。
ジワジワと迫る二人の敵。
「頑張れ猪戸! パスだパス」
「今音無さんフリーだぞ!」
真田と杉山の応援が、体育館をこだました。
確かに今おかんは、完全にフリーの状態になっている。
しかしおかんのスポーツ音痴は筋金入り。パスが上手く通る可能性と、猪戸さんが自力でこのピンチを突破するのとでは確率的に似たようなものだ。
午前中の試合を見て、猪戸さんもそれは知っている様だ。
大手を振って、パスを要求するおかんをあえて見ないようにしていた。
「猪戸さんこっち!」
会場がそんなおかんに気を取られていると、一人の女の子の声が響く。
それはゴールのすぐ近く。 隙をついて敵から距離を取った大海。
俺は思わず叫んだ。
「猪戸さん! 大海もフリーだ」
一度フェイントを挟んでから、猪戸さんが鋭いパスを出す。
バウンドしたそれを、しっかり胸でキャッチする大海。
近くに敵が二人いたが、幸運も両方やる気が無い組。
妨害はするけど、大した邪魔にはならなかった。
「いけー大海!」
膝を曲げ、軽く跳躍する大海。
体のバネが伸びるのに合わせ、手首のスナップを効かせたシュートを放つ。
「はいれぇー」
放物線を描いて、リングに飛んでいくボール。
バイィィィン!
リングにはじかれたボールはしかしリングの内側に跳ね、見事その下のネットに捕まった。
「入ったー!」
一気に湧く一年二組の男子。歓声に振り向いた大海と目があう。
頬を赤らめて、俺に眩し過ぎる微笑みかけてくれたのが分かった。
失敗とか勘違いとか。不安なことは山ほどある。
でも俺も大海、そしておかんを見習わないといけないな。
もし勘違いだったとしても、俺の大海に対する気持ちは本当だ。
俺は失敗と戦う覚悟を決める。
しかしその日、俺の試合をおかんと大海が見に来ることは無かった。
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