毎朝の一コマ
初投稿! Web上処女作です(三o三)ポッ
平日の朝、毎日部屋まで起こしに来てくれる幼馴染と言う存在。
世の中では最早、使い込まれすぎて古臭い設定。何の新鮮味もなく、日常の風景にさりげなく織り込まれているはずなのに、逆に現実身が無いとまで言われる。
だが実際にそんな状態になると、これが実にありがたい。とこの俺、加藤謙信は身に染みて感じた。
「こらー謙ちゃん! 良い加減起きな、ご飯食べる時間無くなるでぇ」
朝一番布団のぬくもり越しに聞こえる、方言の抜けない元気な女の子の声。
自分の部屋にいても窮屈な思いを一切感じることなく、寧ろ一人きりの時とは一味違う安心感すらある。
さらに目覚ましをセットしなくても大丈夫な、不確定且つ絶対的な安心感。
とんでもなく素敵なものだと思うんですよ俺は!
まぁ何でもやりすぎは良くないですけどね。
そんな事考えながら布団の温もり、余韻に浸っていた俺。
しかしそんな幸せは、掛け布団を剥ぎ取られると言う極めて乱暴でダイレクトな方法で終わりを告げる。
晩春とはいえ、身体を冷たい空気が刺激的に襲う。
覚醒を余儀なくされる俺の意識。反射的に身体を丸めようとしたが、それよりも早く今度は敷布団を引っ張られる。
ゴロゴロと畳に投げ出された。
もう少しやさしく起こしてくれてもいいのに、と壁に額を打ちしながら思う。
まぁそれだと起きれないけれど。
「おはよう、おかん」
「おはようちゃうわ。もう朝からこんな事で体力使いたないわぁ」
俺は両肩を抱き、手をサスサスさせて身体を温めながら挨拶。
とは言っても目の前にいるのは当然、俺の母親ではない。
自論で出てきた毎朝起こしに来てくれる、今春めでたく同じ高校に進学した幼馴染の同級生様です。
仕事で忙しい本当の母親の代わりに、あれこれ世話をしてくれて料理もうまいハイレベルJK。
名前は音無甘露。略して『おかん』だ。
細い体に高校のブレザーを纏い、茶色の混じった短髪を元気に揺らしている。
顔も中々可愛いのだが何分、トキメキはしない。
「早よ着替えて、歯ぁ磨いきや。今日の卵焼きごっつ美味しいのんでけたからね」
布団をあっという間にたたみ終え、引出しから取り出したYシャツを放ってくるおかん。
折角可愛い名前なのだが、こいつの言動はどう考えてもニックネーム寄りなのだ。
「分かったからもう出てけよ。着替えられないだろ」
「何言うてんの謙ちゃん? 昔からすっぽんぽんでお風呂入ってる仲やんか」
「現在進行形で言うなババァ! 風呂なんてもう何年も入ってねぇだろ」
「あんた誰にババァ言うてんの!? まだまだ若いッちゅうねん」
同い年だからな!
俺はこころの中でツッコんで、未だギャーギャー騒いでるおかんを廊下に締め出した。
やっと訪れた平穏な朝の時間。
あくびを一つ。着替えと歯磨きを終えリビングに出向くと、早よ食べよぉとおかんが微笑んでくる。
卵焼きは出汁が絶妙に効いていて、確かに美味しかった。
喧嘩? してたっけ?
◆
玄関を出ると、快晴に清々しく照らされた住宅街。
右手に鞄、左手にゴミ袋を持って、俺は家の中に向かって叫ぶ。
「おーい早くしないと遅れるぞー」
「ちょっ! 待ってえなぁ」
トテテテと急ぎ足でやって来るおかん。
おばちゃんネットワークを駆使し無料で手に入れた、学校指定のローファーを履く。
俺はポケットの中の鍵を取り出し、おかんに放る。
「オーライッて! ちょッ……とう」
不細工な体制でそれを受け取り、家の施錠を買って出るおかん。
過剰な程、何度も確認を繰り返した後ようやく登校を開始する。
「何で俺より早く起きて用意してるのに、いっつも俺より後に家を出るんだよ」
「何でやろね? まぁ女の子には色々やらなあかんことがあるから」
二人並んで歩いて、他愛もない話で時間を潰す。
今日みたいに時折ゴミを出したり、たまに何か良いことが起きることもある。
こんな日常を過ごすようになって、もう随分とたった。
通学路の道中にある、公園に併設するゴミ捨て場。ネットを上げ、ゴミの山に加藤家のゴミが仲間入り。
空いた左手に、まだまだ寒いなぁとおかんの右手が絡みついて来る。
嬉々とした顔で、じゃれついてくる幼馴染。外でされると流石に少し恥ずかしい。
この何て事のない、ただの日常風景の中で俺たちは出会った。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
まだ一話で序章ですが、二話は謙信とおかんの出会いを描くつもりです。