第二章 願望
モテる戸田と
モテない中田―
あたしは考えていた。
モテる戸田ならまだしも、なんで中田に惚れてるんやろ…
高校に入学したばかりの時は
戸田の方に一目惚れしていた。
自分を信じとる
という目がめっちゃ
かっこよかったから。
「そういえば澤尻の噂回ってんだけど」
澤尻、それはあたしの名前。
澤尻 茜
(サワジリ アカネ)
「あたしの噂?何?」
中田は少し不思議な顔をしながら
「澤尻、スキな奴おる?」
と、聞いてきた。
スキな人に…
聞かれた―
「おるけど…」
「え?!マジで!?実はな、テストが終わったらお前がスキな奴に告る(告白する)とか噂回ってたで!」
中田はあたしにスキな人がいることに半分驚いとったけど
その反面の顔、ニコニコしとる。
「告白なんか、せーへんって!!」
「マジでー↓楽しみやったのに〜」
実は噂は本当の話。
親友の加奈(橋本加奈)が
喋ったんやろ…
あたしはテストで賭けとる。
順位が低かったら告る。
自分の罰ゲームみたいなもん。
フられる事ぐらい、分かっとるから―…
「噂が本間やったとしたら、澤尻、誰に告っとったん?」
「さあね〜!」
あたしは指先で鍵をくるくる回していた。
「もしかして、叶佑…とか?」
中田は自信があるようだった。
「…違うって〜!」
あたしはちょっと苦笑いした。
あたしが昔、戸田の事好きやったのを中田は知っとる。
「違うんか〜でもそらそうやんな!だってお前、フラれたもんな〜」
そう、あたしは戸田に一回フラれた。
戸田が中田に相談してたのか、それを中田が知っていて、
ずっとあたしを励ましてくれていた。
「戸田、女とか興味無さそうやなあ〜」
あいつに彼女が出来たなんて一度も聞いた事がなかった。
「叶佑な〜。一回だけ、おってんけどな!」
「え?!」
あいつに…元カノ?!
「だ…誰にもゆうなよ?!俺しか知らへんねんからな!」
中田はめちゃくちゃ焦っとった。
多分かなり強く口止めされたはずやわ……。
「それで?誰なん?!あいつの元カノ!」
興味はなかったが
一応聞いてみた
ら…
「水城さんらしいで〜」
よりによってあたしのライバルやった。
水城 奈美
(ミズキ ナミ)
奈美も中田を狙っている。
「奈美かあ〜意外やな!どうやって戸田の事落としたんやろ…怖〜」
あたしはよそ見をしながら言うた。
奈美はカワイイから、モテる事ぐらい分かっとる。
でも、戸田まで落とすとは思わんかった。
あたしの顔は、ケロっとしているが、内心とても驚いている。
「でも叶佑、水城さんの事好きじゃなかったで!」
中田は上を向いていた。
「じゃあなんで付き合うねん!」
あたしは中田がさっきから意味の分からない事を言うのが気にくわなかった。
「叶佑、水城さんに騙されてん。」
「え…?」
なんだか急に怖くなった。
「騙されたらってゆうか『私と付き合ってくれたら…』ってやつ!!」
ああ。『なにかしてくれたら私もなにかしてあげる』作戦な。
奈美らしい。
「『私と付き合ってくれたら』の続きは?」
中田は一度、考えるような顔をした。
「『私と付き合ってくれたら、』………」
「なんなん?」
「………お前、叶佑にフられてから水城さんと何かあったやろ?」
続きを言わず、中田は話を変えた。
あたしは
気持ちを押さえて
中田の質問に答えた。
「戸田にフられてから、奈美がよく喋りかけてきた」
あたしが戸田にフられたから、気分が良かったに違わん。
あいつは最低な女やもん…
「あんな…俺、言うていいか分からんけど…」
「なに?」
「水城さんな…『わたしと付き合ったら、もう貴方があの人に付きまとわれないようにしたる』って、叶佑に言うてん」
『あの人』
あたしに決まっとる。
…奈美らしいわ、その無責任さってゆうかさ
平気で人を傷つけるとこ。
戸田も戸田だよ。
あたしをうっとうしいと思ってたんやな…
「あたし、めっちゃ奈美と戸田に嫌われとるやーん」
あたしは、強がりだってよく言われる。
絶対泣かない、泣いたら負け
そう思って生きてきた。
今は悔しい気持ちでいっぱいやった。
でも中田にはバレないようにしてる。
負けたくない、負けたくない、
あいつなんかに
奈美なんかに負けたくない。
絶対中田はあたしが振り向かせてやる!!
「叶佑が澤尻の事、キライやと思う?」
中田の突然の質問だった。
答えたりできなかった。
ただ悔しくて…
その時、
「健十、お前何やっとんねん。帰るんちゃうんか?早よせえ」
職員室の前で戸田が中田を待っていた。
「叶佑!待ってくれとったん?!もう帰ったと思うとったわ!」
「お前が一緒に帰る言うたんちゃうんか」
戸田は待たされて機嫌が悪いみたいだ。
「メンゴメンゴ!澤尻の話がおもろいから長なってもた!」
中田は走って戸田のもとへ近付いた。
あたしは、あたしを見て何か言いたそうな戸田を無視し、職員室に鍵を担任の先生に渡しに行った。
戸田とは喋る事なんかないし、喋りたくない。
「新谷先生、遅くなってすみません」
先生は職員室の隅でたばこを吸っていた。
「おぉ茜、お前最後か。ご苦労さん」
あたしの担任、新谷先生はまだ若い。
外見も悪くはない
案外、生徒に交際を求められるほどモテている。
「失礼しましたー」
「なあ茜、」
「はい?」
先生は教室を出ようとしたあたしを呼び止めた。
「……」
「先生?どないしたん?」
先生は黙っていた。
「…帰りますよ?」
先生が何も言わんから
あたしは教室を出ようとした。
「待てや茜、」
「なんですか?」
「…いや、ええわ」
「用、無いンですか」
「おぅ、無いわ」
やっと喋ったと思ったら…
あたしは不思議に思いながら、
「失礼しました」と言って職員室を出た。
そしたら、
「おい澤尻」
あたしの名前を呼んだんは
「…戸田、まだ居たんだ」
そう、戸田やった。
「中田は?一緒に帰るんやろ?待たしていいん?」
あたしは目を合わさなかった。
なぜ声を掛けられたのかさえ、分からなかった。
あたしはびっくりしていた。
「健十は靴箱で待っとる」
「待たせたらあかんで」
早く帰りたい。
早くどっかに行ってほしい。
「……久しぶりに喋らん?」
突然やった。
「え?」
意外な発言やった。
「お前も一緒に帰ろ。」
聞き返せへん
言葉やった。
Side;中田 健十
「ごめん、待たせた」
叶佑は靴箱で待っとった俺に謝った。
「遅いわ!!まあええけど!」
俺は口を尖らせている。
怒ってはない。ただ、叶佑に謝られたら恥ずかしいから。
「帰ろか」
「おう!」
部活が無い日は、絶対二人で帰る。
校門を出て、始めに口を開けたのは叶佑やった。
「なあ健十、」
「なんやー叶佑」
俺は歩きながらバットを磨いとる。
せやから叶佑の顔が見える方向は逆。
それでも構わずって口調で喋る叶佑。
ってゆうか、逆にそっちの方がええらしい。
「俺な、さっき…澤尻に一緒に帰ろって言うてん」
「…そうなん……って、え?!お前が?!なんでやねん?!」
まじでびっくりした。
こいつが帰るンに女の子誘うなんか…しかも相手が澤尻って!!ι
「それでー…肝心な澤尻は?」
誘ったんはええ(いやええんかは分からん)けど、一緒に帰ってへんやん!
「あいつ、俺の事イヤ…って。」
「え?!ι」
澤尻が叶佑をイヤがった?!
バットばかり見ていた俺が、せっかく叶佑の方を向いたのに、叶佑は顔を見せんかった。
「あいつ、誰かに告るんやろ?」
叶佑は話を変えやすい。
でも澤尻の話やったらめっちゃ続く。
「あー、でも澤尻、誰かに告る事否定しとった。」
俺は鼻を啜った。
最近、澤尻や叶佑が何を考えとるかが分からんくなってきた…
それは親友として、めっちゃ悲しい事でもある。
「俺、澤尻が告ろうとしとる奴分かった。」
「え?!叶佑、まじで?!誰?!」
「さあ?お前は分からんくていいと思う」
「なんでやねんι」
俺はその時、叶佑が俺の事を睨んだのを見逃さなかった。
Side;澤尻 茜
『お前も一緒に帰ろ。』
家に帰り、お風呂に入る、ご飯食べる、寝る…
本当なら爆睡しとるのに
今はあの言葉が頭の中を繰り返し響いとった。
なんで戸田はあんな事言うたんやろ…
『お前も一緒に帰ろ。』
突然やった
『は?何言うとん?!』
あたしビビってる
『お前に聞きたい事めっちゃあんねん』
戸田は普通なんかな―
あたしはこんなに取り乱しとるのに
『あんたに言う事なんか無いわ!』
―よく分からんわ
『お前、好きなんやろ。
健十の事。』
あたしはベットの上でメールをしていた。
―ピッ
《受信;加奈》
〔テスト勉強まじでだるい↓
茜は告るんやっけ?!頑張れ〜〕
加奈はあたしが告るのを
めっちゃ楽しみにしとる。
―ピッ
《受信;岩村さん》
〔聞いて!!今日中田の奴が、授業中に寝てて先生に怒られとった〜!やっぱりアホはアホやな!(笑)〕
岩村さんは中田の幼馴染み。
よく中田を見ている。
でも岩村さんは戸田のファンで、中田によく相談している。
ケータイを見ると、もう一件メールが来ていた。
―ピッ
《受信;
中田》
中田?!
中田からメールが来るなんて…珍しい
〔今日、叶佑に帰り誘われたん?〕
〔うん♪誘われた!〕
〔なんで断ってん↓↓(T_T)叶佑の事、好きやろ???〕
〔好きじゃないって!(笑)〕
中田とのメールは、なぜか自然だった。
会えない時間―声は聞けない、文字だけが見える。
顔の見れない寂しさが本当に中田が好きだと思わせる。
〔じゃあ誰が好きなん?〕
中田、
〔言えるワケないやん!〕
好きやで。
〔俺、好きな子とか最近できんから、澤尻が羨ましい!〕
中田を好きな奴ならおるのにな。
〔あたしは今の好きな人の事、めっちゃ好き〜!〕
〔だから誰やねん!ι
てか、澤尻今から会える?〕
〔大丈夫やで〜〕
あたしと中田は、よく夜に会ってる。
二人じゃない。加奈とか戸田とか、多くても6人は居た。
〔じゃあ、学校の前おるわ!〕
〔OK!!〕
そう、少なくても二人じゃなかった。
「ごめん、待った〜?!」
「待ってへんで!俺も今来た!」
アレ…?
「今日、皆は?」
学校の前には中田しか居なかった。
「皆無理やってι今日は二人でいいやん!(笑)」
え?
「中田と…二人?」
初めてやった。
こんなにドキドキした夜。
星が綺麗な夜。
中田と…二人の夜。
「初めてやな〜!夜に女の子と二人で歩くの!」
「そうなん?」
もう夜の9時を回っていた。
あたしたちの家の近くには海がある。
中田とあたしは海沿いを歩いていた。
「俺、澤尻みたいな彼女欲しいわ」
中田が不意をついて言った。
あたしは驚いて、声も出なかった。
「お前って、男のツボに入り込む性格ってゆうか…」
あたしの顔は真っ赤やと思う。
でも隠したりせえへんかった。
暗くて見えへんし、むしろ隠したりしたらバレると思った。
「襲いたくなる感じ(笑)」
「なッ…?!あほか!!」
「嘘やって!ははは」
「ぼけ!!」
中田は笑わそうとして冗談で言ったんやろうけど、あたしは中田ならイイと思う。
今、気持ちを伝えたい。
「あたし……好き」
そうだ言っちゃえ茜。
「中田が好き」
「え?」
星は輝いてる。
「中田、ずっとあたしの隣におったから…あたしは中田の隣に居らんとあかんねん。中田がおらんと寂しい。」
「澤尻…」
「付き合って…くれへん?」
2年間、言おうとして言えんかった言葉が今
輝く星達に見守られ、
伝える事が出来た。
「俺、澤尻の事しあわせにできんかもしれん」
「……。」
「でもな…」
あたしは黙っていたが、中田は構わず話続けた。
「しあわせにしたいって、思ったかも。」
誰が予測できただろう。
「俺で良かったら、付き合ってください」
中田からの告白なんて。
「中田…」
「ちゃう、俺…健十やから…///」
「健―……」
あたしは泣いてしまった。
「なっ…なんで泣くねん!!俺何か言うたか?!ι」
嬉しかった。
「澤尻…好きやからな!俺、絶対幸せにしたるわ!」
「アホ!あたしの名前…、茜や…」
あたしは笑顔で鼻をすすりながら答えた。
中田は少しテレながら
「茜か…///カワイイな///」
と、
あたしを抱き締めて言った。