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爆弾幼女  作者: 駿河留守
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疑問

「いや~、みんなすまない。遅れてしまった」

「いいえ!そんなことありません!課長!」

「そうですよ!課長!」

 課長が電車の遅延により30分近く遅れて出勤してきた。そんな各務課長がやってくるのを回避率100%の桧山先輩が感知してすぐさまゲーム機をしまいこうしてまじめに仕事をしている最中に課長がやって来たように装うのだ。それに愛田さんも便乗しているといった感じだ。

 各務課長は定年まであと5年と迫ったベテラン刑事だ。若干、白髪かかった髪を持ついかにも刑事といった感じの人である。そして、この刑事課で唯一まともな人でもある。以前は警視庁に勤めていたのだが、どういった経緯でこんなド田舎の所轄にいるのかは謎だ。

「えっと、ひとりを除いて全員きているな」

「はい。そうですね」

 そうひとりを除いては全員きている。この刑事課には各務課長、桧山先輩、メガネ君、愛田さんの他にもうひとりいるのだ。神矢という人で元ホストクラブの従業員という経歴を持っている。金髪でチャラ男な奴でどこから見て刑事には見えない奴だ。刑事に転職してからもホストクラブで働いているのではないかと噂もたじたじである。朝方来ないのは恒例事項なので誰も気にしない。

「・・・・・・・その子は?」

 課長が最初に目に入ったのはもちろんフェイブである。

「愛田さんが拾ってきました」

「拾ってきた?」

「はい」

 課長にまで同じこと言いやがった。

 何か言いたそうな課長を止める。そうしないと同じ会話が始まってしまう。その前にだ。

「課長はこの子知ってます?」

「知らないから聞いたんだろ」

 そうですよね。

 この子が誘拐のような方法でここまで来たということは伏せておこう。本人はなんとも思っていないようだし、今後はそんなことが起きないようにフェイブ自身にも指導しておくとして、課長が知らない人ということはなんでこの子が課長宛ての手紙を持っているんだ?謎だ。とにかく渡してみよう。

「課長。この子が」

「それよりも課長!今、ハンターランクいくつですか?」

「へ?」

「73だ」

「嘘!すでに解放しているんですか!

「そうだとも、まだまだ上はいるがね」

「まぁ、俺は84だがな」

「桧山さんもすごいですね」

「仕事の話をしろ!」

 結局、この刑事課にいるまともな人は自分しかいないようだ。課長もプライベートではゲームをやっている人だ。仕事中にやる先輩とは全然違って切り替えはしっかりしている・・・・・はず。

 溜息が出る。

「あの課長」

「おお、なんだ?山下?」

「課長宛ての手紙です」

「俺宛て?」

「この子が持っていたんですよ。名前はフェイブ・ランドール。聞いたことありますか?」

「聞いたことないな」

 ようやく、スイッチが切り替わったようだ。これでもうゲームの話は出てこないだろう。・・・・・たぶん。

 課長は封筒の中から三つ折りになっている手紙を取り出して広げる。それを見た瞬間、表情が急に険しいものに変わる。

「課長?」

「愛田。本当にその子は拾ってきたのか?」

 真剣な眼差しで愛田さんに聞く。

「拾ったというよりも署の裏口に段ボールの中に捨てられた子猫みたいに入っていたんで、保護という形で連れてきました」

 なんで最初にそう言わないんだよ。確かに拾ったって言う表現は間違っていないけど。

「なんであの方が警備の薄い地方のこんな場所に・・・・・・」

 頭を抱えて悩んでいる。それがなぜなのか課長を除く4人はそれぞれ目を合わせて首をかしげる。

「桧山。取調室に来い」

「は!?なんで俺だけ!?」

「日ごろの行いが悪いからだ」

「そうですよ~」

「愛田は人のこと言えないだろ」

 だが、上司と部下の関係上逆らうわけにはいかない。それに桧山先輩は各務課長に恩がある。先輩は以前、警視庁に勤めていたのだが出世街道から外されてこんな地方の所轄に島流しにされて転勤を繰り返してきた。今のように堕落してゲームばかりして首になりかけたところを課長に拾われたのだ。桧山先輩は()優秀な刑事なのだ。

「山下、愛田、同林はフェイブを頼んだぞ」

 そういうと課長は先輩と共に取調室に入って行った。

 ただ、回避の達人である桧山先輩が叱りを受けるために取調室に入ったとは考えにくい。そこには怒られることではないと分かっているのだろう。きっと、あの手紙のことだ。何が書いてあったんだろう。気になる。

「ねぇねぇ、山下くん」

「何?」

 もしかして、愛田さんも同じようにふたりの会話が気になるのか。

「あのふたりさ・・・・・・できてるのかな?」

「はぁ?」

「いや、だってほぼ毎日のように飲みに行っているんでしょ。ゲームの世界に連れ込んだのも桧山さんだし、きっと、課長と桧山さんはできているんだと。男同士で」

「そんなBLみたいなことは絶対ないだろ!それにどっちもただの臭いおっさんだぞ。どこぞの腐女子が喜ぶんだよ」

「いや~、もしそうならどっちが攻めだろうね?私的には課長かな?メガネくんは?」

 いや、メガネくん話せないし。

『桧山さん』

 スケッチブックで答えてきた。

「普段からそれ使ってください」

 あえて先輩が攻めだってことは突っ込まない。

「ねぇ、攻めって何?」

「フェイブは何も知らなくていい」

 君には腐への道を進んでほしくないよ。

 その後、何事もなかったかのように課長と先輩は出てきてフェイブととりあえず生活安全課に連れて行き今日一日はそこで過ごすようだ。どうも、何かわけありの子のようだ。とにかく、今日も仕事をこなす。と言っても被害届の整理と下着泥棒の捜索くらいしかやることもなく、先輩は課長の目の届かないところでゲームに勤しむのを注意したり、それに突っ込みを入れたりといつも通りの刑事っぽくない一日を終えた。

「じゃあ、お疲れ様!」

「はい、お疲れ」

 愛田さんは帰宅を楽しみにする小学生みたいなテンションで帰って行った。メガネくんは気付けばいない。神矢さんは結局来なかった。桧山先輩は見当たらないが荷物はあるのでどこかで隠れてゲームでもやっているのだろう。

「さて、帰るか」

 荷物を持って帰ろうとすると課長がフェイブを連れて自分の元にやって来た。

「山下。ちょっといいか?」

「はい。いいですけど」

 するとフェイブの背を軽く押して自分に渡してくる。

「その子は山下が預かれ」

「え?何でですか?」

「不満でもあるのか?」

「いや、そういうわけじゃないですけど」

 自分が住んでいるシェアハウスなら3人の女性陣が面倒をみてくれるだろうが、なぜそういうのが得意そうな愛田さんに頼まなかったのか謎だ。

「意図が分かりませんよ。それに何であの手紙のことを先輩にだけは教えて自分たちには教えてくれないんですか?」

「お前らには扱いにくいデリケートな仕事だ。お前が今いる世界を捨てる覚悟があるのなら教えてやってもいいが、上司として部下にそんなことをさせる気にもなれない」

「どういうことですか?そんなに厄介ごとにこの子が巻き込まれているんですか?」

「まだ、巻き込まれたというわけじゃない。だが、可能性がある。そのための保護を山下に頼みたい。お前の住むシェアハウスならお前意外の目が多く存在する。大丈夫。危険はまだない」

「まだってどういうことですか?」

「そんなに課長を攻めるな」

 背後から桧山先輩がやって来た。取調室から出てきたということはあんなところでサボっていたんだな。

「とにかく、お前はフェイブを例の誘拐犯から守ればいいんだよ」

「誘拐犯」

「桧山から聞いた。本人の自覚はないが誘拐にあったらしいな。そのための保護だ。頼めるか?」

「それなら分かりました」

 何かとってつけたような言い訳に聞こえた。でも、これ以上何を聞いて無駄そうだ。

 溜息が出る。考えるのを止めよう。

「行こうか」

「うん」

 自分はフェイブを連れて帰宅の路につく。いろんな疑問を抱えて。

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