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爆弾幼女  作者: 駿河留守
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フェイブ

「・・・・・・おはようございます。先輩」

 小汚い廊下を進んで木の扉を開くとその部屋には人の姿は見当たらないと思いきや静かな部屋にカチカチというボタンを連打する音が聞こえてため息を漏らしながら音の発信源に向かって行くとそこには自分の予想通りの人物がいた。ヨレヨレのスーツにぼさぼさ頭の男。ソファーの上で寝転がって携帯ゲームのボタンを押しまくり画面の夢中だ。

 よって、挨拶をしても返事はない。

「おはようございます」

「・・・・・・・・・」

 返事はない。

「あ、課長!おはようございます」

 課長という単語を聞いた瞬間、男は持っていた携帯ゲームをポケットの中に慌ててしまって正面の机に広げてあった新聞を何事もなかったかのように読み始める。

「おはようございます」

「はい。おはよう」

 何事もなかったかのように新聞のページをめくる。

「嘘ですよ」

「やっぱりそうか」

 ホッと息をなでおろしてポケットからゲーム機を取り出して元の態勢に戻る。

「あの先輩?」

「さっきみたいな嘘ついたら今度は公務執行妨害で逮捕するぞ」

「今公務中じゃないでしょ」

 こんな先輩がいると日に日にやる気がそがれていく。ため息を漏らす。

 この携帯ゲームをしているのは列記とした刑事の桧山である。年は自分より10上の先輩であるが、生粋のゲーマーで常にゲームを片手にしている。殺人現場、事故現場、取り調べ、トイレなどなどよほど重要な事件でなければ基本ゲームをやっている出世街道から完全に外れたダメ刑事である。

「あんまりゲームやってるとクビになりますよ」

「大丈夫だ。俺は避けるのはうまい。リストからも課長の目からも銃弾からも」

「そのわりには・・・・・」

 桧山先輩のゲームの画面を覗く。やっているゲームは最近発売したばかりの狩猟ゲームだ。使っている武器はおなじみの太刀である。討伐対称であろうドラゴンのモンスターが火を吐く。直撃する。

「避けれてないじゃないですか」

「ゲームと現実は違う!というか邪魔するな!」

 どうもかなり緊迫状態のようだ。

 でも、実際に桧山先輩の回避力は称賛に値するほどのものだ。部署別対抗ドッジボール大会では先輩はボールに一切触れることなく最後までゲームをしながら逃げ切ったという伝説を持っている。噂では実際に銃弾も避けることが出来るらしいのだ。事実、こんな風に堂々とゲームしているのに一度も課長にばれていないのはその回避力にある。

「今日はまだ誰も来てないんですか?」

「電車が遅れてるんだとさ」

 流石回避の達人。回避するためならば情報源も豊富だ。

「ああ、ひとりお前よりも気配消すのがうまい奴がいる」

「それはどういう意味ですか?」

 確かに自分は黒髪短髪で身長も体格も普通で外見では何の特徴もない。名前も山下ってありふれた名前過ぎて逆に覚えてもらえない時だってある。シェアハウス内でも誰か忘れていると思ったら大抵自分だ。

 とにかく先輩が自分よりも気配を消すのがうまいと言ったら彼しかいない。ぐるっとまわりを見渡してみると一カ所だけ机の電気がついている。書類に埋もれて見当たらなかった。ちょうど荷物を置くために自分の席に向かうついでにあいさつでもしよう。

「おはようございます」

 と言っても絶対に返ってこない。

 自分の机でひとり読書に勤しむシュッとした目つきに顔をして伊達メガネをしたイケメン。一見理系君に見えるのが、自分の2年先輩の同林さん。通称メガネ君と呼ばれているが、出身は理系ではなく文系でどちらかと言えば体育会系という見た目とはかなり異なる。ちなみにここに配属されて一度も声を訊いたことがない。

「3人だけですか?」

 メガネ君は頷くだけでこちらには目を向けない。

 どうもこの人とは心を開いていけそうにない気がする。

 ゲーマーと無口の刑事がいるこの部署は本当に大丈夫なのだろうか?ゲームばっかりやっていて仕事をしない刑事と話すことが出来なくて聞き込み調査や取り調べが出来ない刑事がいる刑事課を自分は刑事課と呼びたくない。

 頭が痛くなる。自分の机に座って頭を抱えていると廊下からかんかんと誰かの足音が聞こえた。ハイヒールを履いてここに向かって来る人物なんてひとりしかいない。

「みんな!オッハー!」

 何年前の流行語だよと突っ込みを毎朝のように入れているせいでさらに頭痛が・・・・・。

「あれあれ?なんかヤマッシー顔色悪くない?」

「大丈夫。だからその口からもう言葉を発さないで。頼むから」

 どこぞのなしの妖精みたいなご当地キャラのようなあだ名で呼ぶのか彼女しかいない。身長は大体140センチ程度で、もう子供にしか見えない面持ちと雰囲気。胸の全くない地平線のようだ。全国のロリコンの人々が飛びつきそうな幼体の持ち主はこの部署の唯一の女性の愛田さんだ。どう見ても刑事に見えないし同じ年にも見えないが同期である。

 こんな刑事の風貌間ゼロの人たちがこうもピンポイントに集まっているのはもう運がいいとしか思えない。まさか、自分の幸運体質がここでも功を奏してくるなんて謎すぎる。

「ヤマッシー大丈夫?」

「はいはい。大丈夫だからそんな名前で呼ばないで。お願いだからね、愛田さん」

「私が何?」

「ん?」

 愛田さんは桧山先輩のところで一緒になってゲーム機を取り出している。もう、ここが警察署だって分からなくなってきた。でも、今の声はなんだ?

 メガネ君がいる方向とは逆の方を振り返ってみるとそこには白黒を基調としたふりふりのついたメイド服のような恰好をしたまるで白銀の雪世界のような銀髪に碧眼の小さな女の子。将来の成長した姿が期待できるだけの風貌と風格がある幼女がいた。

「・・・・・・誰?」

 自分が聞くと代わりに遠くにいる愛田さんがまるで小学生のようにソファーの上に乗って大声で自分の疑問に答えてくれる。一応、愛田さんは一般にキャリーウーマンが着るような黒を基調とした服で下はスカートだ。全国のロリコンの皆さんは目線を低くしてダメですよ。

「その子は・・・・・・・・・・・・・拾った!」

「拾うな!」

「拾われた!」

「拾われるな!」

 幼女は愛田さんに乗っかるように大声で叫ぶ。自分もそれに便乗して突っ込んでしまう。

「それと妙に空いた間はなんだ!」

「・・・・・・・知るか!バカ野郎!」

「逆切れすんな!」

 そのまま愛田さんは桧山先輩とゲームを再開し始めた。

「痺れ罠もってけよ。捕獲クエストだからな」

「え~。めんどくさいよ~」

「お前らの方が10倍めんどくさい!」

 つーか、この子どうするの?

 幼女は物珍しそうに周りを見渡す。年にすれば、7、8歳くらいだろう。日時的に考えて小学生は学校に行っている時間帯だ。なのにこの子はこんな朝っぱらから警察署の中にいるんだ。とにかく。警察官としてここは公務を真っ当する必要がある。

「君は」

「おねーちゃん!何やってるの?」

「ん?これはモンスターハン」

 警察辞めようかな・・・・・・。

 誰かお偉いさんでも来てこの腐れ切った警察の修正してくれないかな・・・・・・。

 しかし、いくら幸運体質でも自分が思うに事が運ばないのだ。これが難点だ。

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