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爆弾幼女  作者: 駿河留守
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現在

雀のさえずりとカーテンの隙間から差し込まれる朝日顔をしかめる。今日もつらい朝がやって来た。子供頃から朝というものは苦手で学校にもいつも時間ぎりぎりで登校していた。別に不真面目というわけではないのだが、とにかく朝がやってくるたびに起きなければならないというのがどうして苦痛なのだ。警察学校に通っている時は常に時間厳守で朝なんかはとくにひやひやだった。でも、そんな朝の試練を乗り越えて自分は目標であった刑事になることが出来た。

 決して心地よい朝の目覚めではないが目を覚ますと。

「イフフフ。ウフフフ」

 必死に笑い声を押さえてながらペンを片手にするひよこの姿が映った。

本名は不明で仕事先でいつまでたってもひよっこだから皆からひよこと呼ばれている。体格も細く背も低い。仕事は風呂工事をしている。

「お前何してんだ?」

 自分が目を覚ましたことに驚き手に持っていたペンを体の後ろに隠す。

「べ、別に僕は何もやってないよ」

 額には汗が滲んで動揺している。

 何をされたのか分かりすかさず近くに置いてあった鏡を手に取る。

「ちょ!ま!」

 そこに映っていたのは白塗りのバカ殿であった。

「その細いペンでどうやって書いたんだ!」

「逃げろー!」

「待たんか!」

 部屋から逃げ出すひよこを追いかける。

「朝から元気ねん」

 あくびをしながら八坂さんが呆れた風に自分たちを見る。

 自分は山下幸也26歳。性別男。12月生まれのふたご座。身長、172センチ。体重、63はキロである。黒髪の短髪である。世間一般の人々から見れば、どこにでもいる普通の人。いわゆる地味な人ということになる。実際に自分が住んでいるこのシェアハウスの中で最も影が薄く忘れられやすい存在である。そのせいか一番こうしていじられるキャラクターでもあるのだ。

 今はこうして明るくやっていけているが今から15年前の事件のせいで大きく人生が狂った。

 自分は父型の祖父母の家に預かってもらえることになったがほどなくしてその祖父母が他界し、すぐに施設に入れられることとなった。あの豪華客船の爆発、沈没事件で生き残ったのは自分を含めてたった5人だった。あの船と共に沈んだ3千人近い人々のほとんどが遺体を回収できずに海の底に死んでしまっている。だが、自分に合った謎の幸運が妹の遺体が発見されて遺骨が自分の元に送られてきた。今は祖父母と共に同じ墓で眠っている。

 助かった自分たち5人は一カ所に集められて事情聴衆が行われた。その際に自分と同じ助かった人たちと一人を除いて顔を合わせた。ひとりはあの船の清掃員の青年だった。爆発のせいで目が見えなくなっていた。2人目は女性で両足がなくなっており車いすでやって来た。最後のひとりは体格のいい男の人だったが全身やけどを負い話すこともできない痛々しい姿だった。皆が生き残ったことをうれしそうすることもなく、ただあいさつを交わしただけで何も話さなかった。でも、誰もが自分を睨んでいた。あの大爆発の中無傷で生還したことに腹を立てていたのだろう。ひとりは目が見えなくなり、ひとりは歩くことが出来なくなり、もうひとりは生きているのかどうかも分からない存在になっている。誰もが体にも心にも障害を負っているのに対して自分は体は無傷だった。睨まれるのも無理はない。

 警察の事情聴衆で聞かれたことと言えば、何が起きたのかというのが最初の質問だった。自分は人が爆弾になったとだけ言うと呆れたようなことを言われた。本当のことなのに警察は子供の妄想だろうと相手してもらえなかった。逆に家族を失った精神的ショックのせいで変な風に記憶が改ざんされているのではないかと心配する警察官もいた。妄想でも記憶の改ざんでもない。自分は実際に見たのだ。あの手ぶらだった強面の男から突然スパークが起きて人を消し炭にし、一帯を火の海にし、そして最後には船を沈没する原因となった爆発が起きたのだ。信じてはもらえなかった。

 その後の情報はすべてニュースで流れていたものだ。爆発の原因は爆弾によるテロだという結論に至った。あの船には尾泉議員という日本政府内で絶対的権力を持っている人物が乗り合わせていた。

 あの孫の演奏を見ていたあの尾泉議員だ。彼を狙ったテロではないかと考えられた。尾泉議員は自分の地位を守るためだったら、賄賂も汚職も人も殺す。手段を選ばない人だったらしい。

 あの強面の男が言っていた名前。骨川元春はあの尾泉議員にひどい目に合っていたのだろうか?

 気になってパソコンで調べてみると予想外にWeb検索に引っかかったのだ。

 骨川元春はとある非社会的組織の宗主だったらしい。でも、その組織は大型麻薬密輸の現場を取り押さえられて拘束されて留置場にて首を絞めて死亡したらしいのだ。特に尾泉議員が関わっている雰囲気はないようだ。後日、警察の人に聞いても知らないの一点張りだった。結局、警察は事件の犯人を見つけることが出来ず15年がたってしまった。見つかるはずもないのだ。だって、犯人はもう死んでしまっているのだから。

 自分は気になることがあった。甲板で強面の男は誰かと連絡と取っていた。緊迫した表情から見てきっとあの事件を実行することを誰かに伝えていたのか、それとも計画の確認とかをしていたと考えるのならば、あいつらには他に仲間がいた。

 自分はそいつらを絶対に見つけて父さんや母さんや妹と同じ目にあわせてやる。そのためならどんな手段でもとる、そのために自分は刑事になった。

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