不死鳥
「同林く~ん。大丈夫~」
小さく頷く同林は黒衣の肩を借りながらこの廃工場にやってくるのに使った黒のワンボックスに向かう。側面が大きくへこんだワンボックスは同林がやったものだ。あの場において何もしないということは疑われる可能性があると思ったからだ。
彼は各務課長と桧山先輩が警視庁の特殊人間事件対策課の関係者であるということを知り、この田舎の署にやって来た。黒衣の指示でこの田舎だからこそ重要人物を預けるのに適しているという予想は見事に的中した。予知能力のある特殊人間でも側近にいるのだろうと同林は思った。
「姉さん!」
工場に入る前に隣の倉庫で拘束されていた仲間二人を開放して車で待機させていた。ふたりとも車から降りてきた。ひとりは同林を介抱する。
「逃げるわよ~。もう、あの爆弾幼女はあきらめわ~」
「そうなるとまた別のを用意しないといけないですね」
「本当に面倒なことをしてくれたものよね~」
予想では各務と桧山の能力はさほど脅威ではないと踏んでいて、まさにその通りだった。愛田、神矢は特殊人間との関わりがないので眼中にはなかったが、愛田の咄嗟の度胸と神矢の戦闘力には驚かせられた。山下は特殊人間との関わりがあることを知っていたが山下自身が特殊人間ではないためこちらも眼中にはなかった。だが、あの工場内での戦闘は普通ではなかった。
同林はメモ用紙とペンを取り出す。話すことが出来ないため会話いつも筆談だ。どうしても特殊人間との付き合いも長くこの闇社会で幼いころから暮らしてきた黒衣に聞いておきたいことが同林にはあった。
「姉さん。同林から」
紙を受け取った黒衣は声に出して内容を読む。
「山下は特殊人間じゃないのか~?まぁ、あれを見ちゃったらそう思うしかないよね~。今もこの瞬間も新たな特殊人間が生まれている」
「でも、山下は特殊人間ではないはずでは?」
黒衣の横を歩く仲間が問う。
「誰にだってチャンスはあるの~。でも、自覚して行動に移さないと能力っていうものは簡単に腐っちゃうんだよ~。山下くんは自分が幸運体質だってことは分かってたみたいだけど、それが特殊であることは自覚がなかったみたいだったね~。でも、自覚しざるを得なかったんだよ~。あの爆弾幼女のために彼は使える手段をすべて使いに行ったんだよ~」
「それが幸運という能力」
「本当に厄介で面倒だよね~」
「本当に面倒なことをしてるよな。お前らは」
声が止めてあるワンボックスの方から聞こえた。それに黒衣と同林を介抱していない仲間が反応してひとりが銃を構える。
「おいおい。そんな物騒なものを構えるな」
ワンボックスの屋根にひとりの男がいた。月明かりを背に向けているせいで顔までしっかりとみることが出来ずシルエットしか視認出来ない。
「別に今日はお前らを捕まえに来たわけじゃない。俺はとっくに引退して今は楽しく隠居生活してたのによ。清義さんも人使いが荒いんだよな」
「誰~?」
「別に誰でもいいだろ。さすがに引退したベテランよりもこれから成長の兆しのある後輩に手柄を与えるつもりだ。あんたみたいな大物を釣り上げるだけの運を持っているんだ。これからも期待で出来る」
「何が言いたいか知らないけど~、邪魔」
黒衣が男に向かって発砲する。見事に命中する。だが・・・・・・。
男は倒れずそこに立っていた。
「いきなり発砲はないって」
「・・・・・・フェニックス」
黒衣が呟くとその場にいた誰もが青ざめた。否定をすることもできない。男は銃で撃たれて血を流してなお立ち続けている。
「黒衣夏樹。俺にぼこぼこにされてかわいい後輩に捕まりな」
「お断りよ~」




