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爆弾幼女  作者: 駿河留守
24/26

幸運

 敵二人を手錠で近くのパイプに拘束して2つある裏口のひとつの裏口までやって来た。その裏口から出るとすぐ隣の工場があり、向かい合うように扉も見える。

「周りにはメガネも敵もいない」

「なら、ここから出た方が」

「いいかもな」

 自分の意見に桧山先輩が賛成する。

 敵がふたり中に入って来たし、なぜかメガネくんが攻撃してきている。長居は無用だ。

「本当に出ていいのか?」

 そこに各務課長が待ったをかける。

「なぜですか?このままだと追い込まれるだけですよ」

「よく考えてみろ。なんですぐに俺たちを追ってこない?」

 確かにこんな袋の鼠の自分たちをなぜ敵は追いこんでこないのか。

「追いかけてきている感じもしない」

 桧山先輩も外を覗くのをやめて扉を閉める。怯えたフェイブは自分にピッタリくっついたまま動こうとしない。こんな命のやり取りをこんな幼い子が経験するべきものじゃない。自分もフェイブと同じような子供の時にあの爆発事件を経験した。小さな子供の心に大きくて深い傷を残しそれは今でも残っている。

「自分はここにすぐにでも出た方がいいと思います」

「は?お前この状況が分かってるのか?今はとにかくフェイブと引き取りにくる使者が来るまで場を持たせるのが優先だ」

「桧山の言うとおりだ。使者の人数は数人でも俺たちよりははるかに戦闘力のある奴らだ。特殊人間との戦いを想定した奴らは手練ればかりだ」

「それに各務課長がこれ以上動けるかどうかも」

 桧山先輩が心配するのは被弾した各務課長の具合だ。いくら防弾チョッキを着ていたと言っても衝撃で骨が折れることがあると聞いている。さっきからずっと脇腹を抑えたままで額にも大粒の汗が噴き出ていて呼吸も苦しそうだ。

「俺を基準にしなくてもいい。そもそも、山下はなんでここからすぐに動きたい?」

 小刻みに震えるフェイブの頬を撫でながら言う。

「フェイブのためです」

 ここにいれば、いずれは敵が入り口をすべて封鎖して攻め込んでくるかもしれない。それにこの常に緊張感に襲われるこの状況下ではまだ幼女のフェイブの精神力がもつかどうかも分からない。それに問題はもうひとつある。

「フェイブは爆弾人間です。組織のことを言おうとした時に爆発しそうになったって音は分かってますけど、それ以外にも爆発条件があるかもしれない。例えば、フェイブの精神の崩壊とか」

 気の狂ったフェイブが暴発するかもしれない。この場にいる自分たちも爆弾であるフェイブも助からない。

「確かに課長の怪我も気になります。ですが、この状況で最も優先すべきはフェイブの安全です。自分はフェイブのためを考えて一刻もこの廃工場から脱出するべきだと思います。さっきのフェンスから外に出てパトカーに乗れば、援軍も呼ぶことも容易です」

 まだ、新人刑事の自分が10年以上の先輩たちの意見を完全否定してしまったことにハッとしてすぐに訂正しようと思ったが、パコンと軽く桧山先輩に叩かれる。

「まだ、新人のくせによく言うよ」

「すみません、出過ぎた真似を」

「いいんだ。課長走れますか?」

「言っただろ。俺を基準に考えなくてもいいって」

 痛む脇腹を抱えながら立ち上がる各務課長。

「あ、あの」

「山下。お前の意見に俺たちは賛成だ。いつフェイブが爆発するかも分からない。使者もいつ来るか分からない。そうなれば、こんな敵に包囲されたこの場から逃げるのが最良の考えだ」

 銃を構えた桧山先輩が扉を開けて外の様子を窺う。頷くと各務課長も脇腹を抑えていない空いた手で銃を構える。自分はもう恐怖で足がすくんでしまったフェイブを抱きかかえる。

「大丈夫?」

「う、うん。お兄ちゃんが私を守ってくれるよね?」

 月明かりで銀髪が輝いているその少女は震えながら弱々しい声で尋ねる。

「もちろんだ」

 それが今の自分のやるべきことだ。

「よし行くぞ!」

 桧山先輩が飛び出してそれに続くようにフェイブを抱えた自分も飛び出しその後ろに各務課長が走る。扉を閉めて倉庫を出た形跡を消して工場の方に入る。中は倉庫のようにコンテナが混在して身を隠せるようなところはなく殺風景だった。月明かりが換気扇のファンが回り照らされたり陰ったりしている。

「とにかく、どこか身の隠せるようなところに」

「まさか~、あの状況からこっちに来るなんて~ありえない~」

 上部から声が聞こえてその方に向けて桧山先輩と各務課長が銃を構える。工場の2階には事務所があり、さらに網目状の空中廊下がある。そこにひとりの女がいた。まるで闇に潜んだ猫のように金色の目に闇に隠れた黒くて長い髪に抱擁とした胸を持つ20代くらいの女性だ。厚く化粧をして悪魔めいたメイクを施している。

「まさかの新キャラか。お前誰だ!」

「誰でもいいし~」

 するとその背後からメガネくんの姿が見えた。

「メガネくん!なんでそんなところにいるの!」

 だが、口を開くことはない。

「何か話せよ!」

「話せなんだよ~。ね~」

 場の空気が読めていないような軽々しく話す。

「山下くんだっけ~」

「な、なんだ!」

 急に自分の名前を呼ばれて戸惑う。

「君とこの同林くんは仲間なんだよ~」

「確かに同じ刑事課の仲間だ!なのにどうして!」

「違う違う。そっちの仲間じゃないし~。あの船に乗っていた生き残った5人のうちのひとり~」

「え?」

「彼は爆発の衝撃で高温の熱を全身受けた。その熱を飲み込んだこの子は~喉が焼けてしまって声が出なくなったの~。治療することもできないし~。家族も失った~」

「ならなおさらだ!そっちにいてダメだ!メガネくん!」

 女は笑みを浮かべてメガネくんの頬舐めるように撫でる。それに無表情で動じないメガネくん。

「それはこっちのセリフだよ~って言いたいよね~」

 抱きつくようにべったりとくっつく女。胸がぎゅうぎゅうにメガネくんの体に当たっても動じない。羨ましいという感情を振り払って怒りの眼差しを向ける。

「恨むなら私たちじゃない。尾泉議員だよって~、彼らは言ったはずだよ~」

 確かにそういっていた。でも、実行したのはそいつらであって尾泉議員じゃない。

「もしかして、それをメガネくんを鵜呑みにしてるのか!」

「鵜呑みとか真実だよ~。あいつのやって来たことは残忍で残酷で非道。死んでもなお恨まれてもおかしくないし~」

「山下!あまり敵と話すな!」

 桧山先輩が間に入り会話を断ち切る。

「お前は誰だ?」

「わたし~?黒衣夏樹っていうの~」

 黒衣ってまさか!

「黒い骨のナンバー2の黒衣秋成の妹だな」

 各務課長が呟く。

「さすがだね~。特殊人間事件対策課はわたしたちのことなら何でもお見通しだね~」

「確か殺されたはずだ。フェニックスに残党狩りで」

「そうだよ~。死んだことになってるよ~。でも、生きてる。こうして現実に!そして、誓ったんだよ~復讐をするって~」

 待てよ。確か黒い骨の残党狩りは17年前に行われたはずだ。あいつはどう見ても自分とほとんど変わりそうにない年齢だ。

「あんたは子供のころからこんなことを?」

「は?そんなどうでもいいこと聞くの~。まぁ、そうだね。そこにおびえたまま動こうとしないフェイブと同じ年の頃にはわたしはすでに人を殺したことがあった」

 壊れている。

「さて、雑談はその辺にしておいてフェイブを渡してくれないかな~」

「渡すとでも?」

「だよね~」

 笑顔で話す会話内容じゃない。銃を向けられた状態での会話対応の仕方じゃない。明らかにこんな緊迫した状況に慣れている。

「その子必要なんだよね~。計画の破たんもしかねない大切な子なんだよね~」

「計画ってなんだ!」

「あは。なんでも聞いてくるんだね~」

「刑事だからな」

 桧山先輩が銃を構えながらも目だけはあたりを見渡していた。黒衣夏樹とメガネくんがいる2階に上がるための階段が右に2,3メートルしたところにある。でも、メガネくんも銃を持っているし、もちろん黒衣も武装していることだろう。でも、桧山先輩ならば。

「さて、何だろうね~。わたしたちは復讐するために動いてるってことだけだよ~」

「計画なら分かる」

 自分の言葉に桧山先輩も思わず振り返った。でも、すぐに視線を元に戻す。

「あれ~。分かってるの~。同林くんの話だと誰も分かってないみたいだったけど~」

「簡単だよ。あんたらの目的は宗主の骨川元春とそのナンバー2の黒衣元春の復讐。殺すように指示したのは尾泉議員。で、実行したのはフェニックスだ」

「そうか、あんたらの目的はフェニックスの暗殺」

 桧山先輩が呟く。

「だが、その割には用意する人材がおかしくないか?」

 各務課長と同じ疑問を自分も感じだ。

「あのね、フェニックスって不死身なんだよ~。どんなことをやっても死なない。それは一度殺し合ったわたしが一番知ってるし~。何度銃で頭をぶち抜いてもナイフで首のえぐって心臓を刺してもあいつは死なない」

 そうだよ。そもそも、死なない不死身の相手に暗殺何て成功するのか。

「少しだけネタばらしでもしようかな。その死なないフェニックスを殺すためにフェイブのような強力な人間爆弾がたくさん必要なんだよ~。体が再生でいないくらいにぐちゃぐちゃに吹き飛ばせば死ぬ。それでも死ななかったら再生中の肉片を棺桶に入れて地中深く生き埋めにする。絶対に出てこれないように周りをセメントで固める。で、どうやっても死なない体を利用した生き地獄を味あわせる!最高じゃな~い」

 うっとりするような表情を浮かべる。

「そのフェニックスを油断させるにはフェイブのような子供な一番。さすがのあいつも子供なら油断する」

「まさか!フェイブの他に子供を人間爆弾にしてるとでもいうのか!」

「別にいいじゃん!減るものでもないし~」

 狂ってる。勘違いした者を騙し、何も知らない幼い子供を利用し、非道なことをしようとしている。尾泉議員が極悪非道なことをしていたと言うがあの女も同じだしそれ以上だ。

「いろいろ話聞けば面白い」

 ドスの利いた鋭い声で桧山先輩が語る。

「話せばいろんな罪状がどんどん積み重なっていくじゃねーか。お前はすでに兄を超える極悪犯罪者だ」

「正義の味方をする警察の非道ぶりの方が極悪犯罪者に見えるよ~」

「どっちが正しいか証明しようじゃないか!」

 桧山先輩が発砲するが、メガネくんが黒衣をかばいように手を引き銃弾から回避する。その後も威嚇で発砲しながら階段を昇って行く。すかさず、メガネくんが対抗するために発砲するが桧山先輩はそれをかわし続ける。

「すごいすごい。でもさ、こっちががら空きだよ~」

 黒衣が銃をこちらに向ける。フェイブを抱きかかえて課長の手を引いて走って狙いを定めないようさせる。銃弾は何とか当たってない。各務課長が応戦するために発砲するが当たらない。

「メガネー!」

 突撃していく桧山先輩に銃を発砲するのをやめて近接格闘に態勢に入る。殴りかかるがそれを軽々とかわされるのに対してメガネくんの攻撃は鋭く素早い攻撃に何とかかわしているがだんだん下がっていく。その攻撃には躊躇も容赦もない。理系な顔をしているが体育会系で格闘術に長けているのを桧山先輩だって知っている。かわす能力を使っていても攻撃が頬をかする。攻撃があったことによって足がもつれた桧山先輩はかわす態勢ではなくなった。その一瞬を見逃さなかったメガネくんは腹に向かって蹴りを入れる。容赦のない攻撃を防ぐことのできなかった桧山先輩は飛ばされて金属製の手すりが勢いで歪むが桧山先輩は倒れず立っていた。それを見たメガネくんはとどめをさしに距離を一気に詰めて右拳が桧山先輩の顔面にクリーンヒットした。衝撃のまま地上に力なく落下する。

「先輩!」

「あれあれ~?人の心配してる場合~?」

「山下!」

 首根っこを掴まれて引っ張られ自分がいた場所に銃弾が通り壁に被弾して小さな火花が起きる。別の扉から新たに二人の男が入って来た。

「まだだ」

 さらに自分たちが入ってきた扉からもひとりの男が入って来た。

「さぁ~?どうするのかな~?」

 黒衣が自分に向かって銃を構えて発砲してくる。突然の圧倒的な不利な状況にどうしていいか頭が働かず、その場から咄嗟に逃げるという動作に移ることが出来なかった。

「避けろ!」

 各務課長が足元にいたフェイブごと自分を吹き飛ばして銃弾から守ってくれた。だが、銃弾が各務課長の肩に当たり血が噴き出る。

「課長!」

 そのまま倒れた各務課長は血を流したまま動けない状態。桧山先輩も気絶したまま動く気配がない。

 不味い不味い不味い!数も不利だし、自分には各務課長のような防弾チョッキも銃も携帯していない。持っている武器は竹でできた竹刀だけ。敵は黒衣にメガネくんに他3人。皆銃を持っている。

「さてと」

ゆったりと階段で一階に下りてくる黒衣。優しく語りかけるように自分に向かって話す。

「山下くん。君にはいくつかの選択肢を与えよう~。ひとつはこの場でフェイブを引き渡すこと~。そうすれば、死にかけの上司は助けられるよ~」

ダメだ。課長や先輩のことを考えないといけないけど、それで助かっても二人は絶対に喜ばない。

「ふたつ、この場でフェイブを爆散させること~」

「は?」

「まぁ、なんかさ。もう、別の爆弾人間用意する方が楽な気がしてきたんだよね~。だから、フェイブを爆発させれば、もうわたしたちは何も手を出さな~い」

「そんな要求飲めるか!」

 かみつくように黒衣を睨み続けるとそれを見ると見るに堪えないのか目線を外す。

「ああ、怖い~。なさ、最後の選択肢しかないね~。死になさい」

「いや!」

 この場の空気を断ち切るような声を上げたのは自分の後ろでしがみつくように震えるフェイブだった。

「フェ、フェイブ?」

 小刻みに震える小さな幼女の口発せられる声も震える。しかし、その目は決意の目で覚悟を決めたそんな目をしていた。

「フェイブがいなくなればいいんだよね?」

 小さな幼女を今にも消えてしまいそうな声でそう呟く。

「いなくなればお兄ちゃんもあのおじさんたちも助かるんだよね?フェイブが死ねば、みんなみんな助かる。だったら・・・・・だったら」

 その瞬間、フェイブの握っていた手が離れて急激な熱を感じた。熱風がフェイブを中心に発生してチリやゴミが飛ばされていく。

「ファイブが爆発すればいいんだよね?そうすれば、そうすれば!」

「待て!フェイブ!」

 次の瞬間、あの時と同じことが起きた。フェイブの手を握ろうとするとまるで焼いた鉄の握るような熱さに襲われて思わず手を引いてしまう。フェイブの周りの物が熱によって変形していく。熱風のせいで近くのガラスにひびが入る。

「熱い!熱い!熱い!」

「ダメだ!フェイブ!」

「ダメ。逃げて。爆発する」

 フェイブの宣言通り、熱風は勢いを増して自分の服にも煙が上がりだした。

「あんたたち一旦下がりなさ~い」

 黒衣の言葉に出入り口近くいた男たちが外に出てメガネも黒衣のいる元まで引く。

「お兄ちゃんも逃げて」

「待つんだ!フェイブ!」

「今まで楽しかったよ。ほんの少しの間だったけど、楽しかったよ。お兄ちゃんがフェイブの相手を一生懸命してくれて、本当のお姉さんみたいな蛍子お姉ちゃんみたいで、ひよこお兄ちゃんは本当におもしろくて、八坂お姉ちゃんはとっても強くて、芳美お姉ちゃんは無口だけどすごく優しくしてくれて、三根お兄ちゃんは・・・・・・・・、藤見お兄さんはお父さんみたいで・・・・・・、フェイブね。あの家が好きだったよ」

 少女の流した一粒の涙は自身から発する熱で蒸発してしまい、その勝機が自分の頬にそっとなでるように触れた瞬間、自分の中の何かが目覚めた。燃えるように上がってくる感情をこめて叫ぶ。

「ふざけるな!」

 廃工場全体が揺れるくらいの声にフェイブは目を丸くする。フェイブから発する熱で燃え尽きてしまいそうだったがフェイブに向かって進む。

「待って!来ないで!お兄ちゃんが死んじゃう!ダメだよ!」

「うるさい!」

 一気に飛び込んでフェイブを抱きつく。肌が焼かれるようにジューッと音が鳴り煙が上がり痛みが一気に襲うがそれをこらえる。

「まだ、死ぬには早すぎる。まだ、フェイブにはたくさんやるべきことがあるんだ。こんな最後は絶対にダメだ」

「でも、こうしないとみんな、みんな」

「全部自分に任せろ!」

 小さな少女の考えを自分は全力で拒否する。すると少し熱が弱くなった。

「子供がそんな思い荷物を背負う必要はない。そんなものは自分が代わりに背負う!帰るんだ!あの家に!優しくてめんどくさくて心強くて!時々変態が出て!暖かくて楽しい!あのシェアハウスに帰るんだ!だから、それまで目でもつぶってその場でじっとしていろ!そして、帰るぞ!あの家に!」

 気付けば、フェイブの熱が収まっていた。こんがり焼けたワイシャツを脱ぎ捨てて中のTシャツ一枚になる。そして、桧山先輩の竹刀入れに守られた竹刀を取り出して構える。

「全部自分が片付けたやる!」

 場の空気が変わった。

 全身の感覚がやけどの痛みのせいでなくなっている。それでも闘争本能は消えず残る。竹刀を構える手だけは感覚がありあたりの気配を察知することだけはできる。

「や、山下」

 血を流した各務課長が立ち上がってくれた。血はなぜか止まっていた。どうしてなのかを考えている余裕はどこにもない。

「課長。フェイブとそこに倒れてる先輩をお願いします」

「山下?どうする気だ?」

「どうするって決まってますよ。ここにいる奴みんな捕まえますよ!」

 びりびりとした空気が自分を中心に広がりこの建物全体がまるで自分の体のように個々細かく手に取るようにわかった。

 自分たちがここに入って来た扉が開いた。それを音だけで感じた自分は瞬時にその扉に走り中を覗いた男の脳天に向かって竹刀を振り下ろす。突然の攻撃に何もできずに男は叩き倒されて動かなくなった。

「まずはひとり!」

 別の扉からさっきのふたりも戻ってきて自分に銃を向けた瞬間、突然扉が外れてひとりに乗りかかるように倒れてきた。その衝撃で周りのガラスがはじけ割れてガラス片が飛び散りそれを残ったひとりが両手で顔を守る。その時に自分を狙う銃口が外れたのを狙って懐に飛び込んで男の顎に向かって竹刀を折れんばかり振り上げる。バチーンとという音が鳴り響き男は外に投げ出される。倒れた扉からようやく解放された男にも脳天から内を叩き込んでKOにさせる。

「これで残りふたり!」

 建物まるで生きているかのように自分の声にこたえて揺れているように見える。

「何かおかしい~。同林くん注意してね~」

 何も語らずにメガネくんは発砲してくる。だが、フェイブの熱のせいでダメージを受けた鉄くずの一部が落下してきて自分を銃弾から守ってくれた。その落下した鉄くずは二階の金網の通路を支えていたものでメガネくんに向かって倒壊してくる。黒衣はすぐに察知して避ける。メガネくんもそれは同じだった。その障害物を避けている間に自分はメガネくんとの距離を詰める。そして、他の奴らと同様に脳天をしないでぶち込もうとしたがすぐに反応したメガネくんは両手でその攻撃を防ぐ。だが、衝撃で銃を手放してしまう。その上に瓦礫が重なりとりに行けなくなったのを見たメガネくんは竹刀を振り払い拳を構える。もう、話し合いに応じる気もなく踏み込みパンチの攻撃範囲まで一気に近づいてくる。竹刀を振りかざして攻撃するがかわされて逆に素早いパンチが飛んでくる。防ぐ手段がなく後退りしてしまい、足元にあった鉄パイプを踏みつけてしまいバランスを崩す。それの隙を逃さず距離を詰めて顔面に向かってパンチを繰り出すが思いのほか足を滑らした自分は一気に倒れて目の前を拳が風を斬る。そのおかげか目の前に腹ががら空きの状態のメガネくんが目に入った。倒れる勢いに抗わずそのまま倒れながら足を蹴りあげる。近づいてきていたメガネくんの腹部に直撃する。自分はそのまま倒れてすぐに立ち上がり竹刀を構えるが、メガネくんは腹を押さえたまま立ち上がれない。入り方がよかったのか嘔吐して苦しそうだ。

「君は本当に幸運すぎるよ~」

 銃を構えた黒衣が歩み寄ってくる。

「ガラスが突然飛び散ったのを利用してひとりを止めて、壊れて倒れてきた扉の下敷きになったもうひとりを倒して、銃弾を落下してきた瓦礫に守られ、瓦礫に攻撃を不発させてカウンターを決める。おかしいって思わないの~?」

 首をかしげながらメガネくんと自分の間に入るように立ちふさがる。

 銃を構えられていると危機的状況にもかかわらず、自分は込み上げてくる笑いに耐えられず腹を抱えて大声で笑う。

「ハ、ハハハ。・・・・・アハハハハハハ!」

「な、何がおかしい!」

「おかしいよ。だって、自分は15年前に起きたあの爆発の現場をこの目で爆弾人間も見たのに話すこともできる、目も見える、歩くこともできる。そして、その時の傷なんてものは存在しない。それを普通って言わない!自分は特殊で幸運なんだよ!」

 その瞬間、建物の天井が崩れて黒衣とメガネくんに降りかかる。それにいち早く察知した黒衣はメガネくんを抱えて飛び避ける。

「確かにおかしいね~」

 立ち上がり銃をこちらに向かって構えて引き金を引くがポスンという鈍い音が鳴って銃口から力なく銃弾が出てきて落下する。

「おかしいわよ~。あんたに銃を構えて撃っても出てくるのは不発弾なんて~」

 銃を投げ捨てる。

「仕方ないわ~。あんたみたいな化物がいるなんて聞いてなかったわ~。フェイブのことはあきらめるわ~。代わりを用意するのは面倒だし、計画の大幅な遅れが生じるけど、まいっか~」

 逃げる気だ。

「待て!」

 メガネくんが落ちていた鉄くずを投げつける。それを竹刀ではたいて防ぐ。

「じゃあね~。山下幸也くん」

 黒衣は何かを投げてきた。何かを引き抜いて投げてきたのはぶら下がっていた鉄くずに運よく当たって軌道がずれて自分のところには飛んでこず瓦礫の山に当たった瞬間爆発する。手榴弾だ。

 瓦礫が建物の一部とつながっていたおかげか破片は飛んでこなかったがそこに黒衣とメガネくんの姿はなかった。その後は気絶させた黒衣の仲間3人を逮捕した

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