刑事
すっかりあたりは暗くなってしまい道行く人たちは帰りを急ぐ中、駆け足で署へと戻る。服装はカッターシャツのままで手には八坂さんから借りた竹刀がある。一見すれば、気の狂ったバカにも見えなくもない。警察なのに逆に不審者として通報されるかもしれない。そんなことはお構いなしに署へと走る。
到着するころにはすでに廃車寸前の風面パトカーの姿はなく、所全体もどこか暗い雰囲気に包まれている。もう、この署内に待機している警察官の数は限られているだろう。あの爆発で多くの人員が削いで現場に向かわせているに違いない。きっと、それがあいつらの作戦なのだと考える。注意を他に向けさせてその隙を狙ってフェイブをさらいに来たのだ。この署の刑事課が最も真面目で優秀ならばすでにフェイブはさらわれてしまっていたかもしれない。運でも結果的によかったのだ。自分は不優秀で。役立たずで。でも、それは今日でおしまいだ。
裏から入り刑事課に向かうがすでに暗くなっていて誰もいない。
息を切らしながら中を覗くが誰もいない。
ダメもとで桧山先輩に連絡を入れる。自分もフェイブを守る仕事をさせてください。断られても自分はやる。それが仕事、いや使命だ。
携帯が呼び出し音に入ると桧山先輩のやっていたゲームのテーマ曲が刑事課の事務局に響く。その音が途中で切れると、奥のソファーからむくりと起き上る影を見つけた。
「戻って来たか」
まさか、待っていたのか?
桧山先輩は大きな欠伸をして携帯をポケットに入れる。
「何で戻って来た?言ったよな?お前は役立たずだって」
「それでもいいです」
「はぁ?」
「桧山先輩の問いに今答えます。刑事とはなんなのか。それは確かに仕事であるのは間違いない。でも!自分にとって刑事はなんでもできる!悪を探し見つけ捉え裁きを与えることが出来る最高の仕事です!自分はそのためならばどんな手段でも使う!欲深く、強引にでも!だから、今の自分はどんな手段をとっても必ずフェイブをブラックボーンの手から守り切って見せる!救って見せる!なんでもできるそれが刑事です!」
言い切った。自分の思っていること全部。
しばらくして桧山先輩はしばらくして笑った。高々と大声で。
「お前ってバカだな。だから、いつまでたってもひよっこ刑事なんだよ。なんでもできるの刑事っておかしいだろ!」
「い、いや、それは」
何て言い返そうか考えていたがその前に桧山先輩が手を差し伸べる。
「行くぞ。フェイブを守りに」
「え?でも、自分は役立たずでは?」
「それだけのことを主張してくる後輩を叩きのめすほどの変な趣味を俺は持っていない。第一人員が劇的に足りない。そんな中にフェイブを守るためならどんな手段でも使うときた。その心意気を俺は称賛する」
「先輩」
正直うれしかった。でも、桧山先輩は最初から自分がここに戻ってくることを分かっていたみたいだ。そうじゃなかったらもうここにはいないはずだ。待っていたということは自分が刑事として少し飛躍してここに戻ってくると分かっていたのかもしれない。
「お前はまだまだ未熟だ。だが、その信念があれば立派な刑事になれる。だから、忘れるなよ。その気持ち」
「・・・・・・はい!」
胸にしみるその気持ちを忘れないまま自分は先輩の後をついて行く。




