過去
豪華客船と聞いて自分が最初に浮かんでくる船の氷山にぶつかって多くの人たちを残して大西洋に沈んでいったタイタニック号だ。
デカい船=沈没する。
という謎のイメージが少なからず考えている人もいるだろう。当時11歳の自分にも何となくこの船沈みそうだなと思ったのもまた事実だ。今いるシェアハウスに住み着く15年ほど前の話である。豪華客船、メリー号。この名前を聞くと某海賊漫画の船が出てきてしまう。いや、確かにこの船ならばどんな海に行っても大丈夫そうだ。まず、なんて言ったってデカいのだ。収容できる人の数は約3千と言うのだからあのタイタニック号とほとんど変わらないのだ。
自分、山下幸也はごく普通のサラリーマンの家に生まれたただの庶民だったが、母がスーパーの福引でたまたま豪華客船クルーズの旅をあててしまったのだ。これに父もそして7歳の妹の大喜びだった。まるでお祭り前のようだった。
自分たち家族4人は今持っている服装で一番いいものを着てほぼ場違いな空気感が漂う豪華客船に乗り込んだのだ。まるでひとつの島のような巨大な船にはショッピングモール、映画館、プールなどなど多くの施設があり1日いても飽きることはなかった。両親はふたりっきりでバーでお酒を飲み、自分は妹と共に船の中を散歩するかのように練り歩いていた。
こんな楽しい、幸せな時はもう二度とないだろうなと思いながら「あれなんだろう?」「これ何だろう?」と妹と二人でいろんな発見をしながら、途中知らない老夫婦に声を掛けられながら船内を歩き回っていた時だった。
自分が思ったこんな楽しい、幸せな時はもう二度と訪れることがなくなってしまうのだった。
夢中で船内を探検して気付けば人気の少ない甲板に出てきていた。今日の海上は少し風が強く雨がぱらついていて空には雲がかかっている。星も月も見ることが出来ない。本来ならば、ここで天体観測でもするつもりだったのだが、今はほとんど人はいない。唯一いるのは自分たち兄妹と3人の男の姿だけだった。
3人の男は何やらこそこそと周りに聞こえないように何か話している。その有様は明らかに普通ではないようだ。ひとりは中年くらいの小太りで身震いをして何かを恐れるかのようにしていると思えば、ひとりは細身の坊主頭の男でたばこを吸いながらじっと荒れた海を眺めていた。対比するかのように焦る男と冷静な男の間に立つ一際長身の強面の男は熱心に灰色の折り畳みの携帯電話で重要そうな話をしているように見える。その電話しながら他のふたりの男と何か念入りに話している。その会話に夢中なせいか誰も自分たち兄妹に気付いている様子はなかった。
雨がぱらついている甲板で何をしているのか疑問に思った程度でその時は特に気に留めず次の場所に探検に行こうとした時だった。
「嫌だ!俺は死にたくない!」
その叫び声に自分たち兄妹は一瞬で青ざめる。目線を合わせて自然と身を隠すようにこっそり壁越しに甲板を覗く。するとさっきとは雰囲気が変わっていた。身震いしていた小太りの男が冷静な坊主頭の男に掴みかかっていた。それを抑えるかのように間に入っていたがどうにも抑えることが出来ずに腹を思い切り殴った。口から大量の唾液などの汚物を吐き出しながら気絶して倒れた。
自分たちはじっと耳を澄ましながら波の音をかき分けて男たちの会話を聞いた。この船で楽しんでいる様子のないこの男たちが普通ではないと子供ながら分かっていた。そして、見つかることはダメだとも野生の本能的に分かっていた。
波の音であまりうまく聞き取れなかったが、自分は聞こえた。
「こいつはここにおいて行こう。我らの作戦に支障が出る」
雰囲気から強面の男だろう。
それよりも作戦?何の?
「誘爆でいいだろう。俺はこの下で」
たぶん坊主頭の男だろう。
誘爆ってどういうことだ?11歳の自分でも分かる単語だ。ゲームや映画でよく単語だ。でも、それは爆弾を誘爆させるとかであの3人には爆弾を持っているようには見えない。
「悪いな。我は計画通りに」
「分かった。じゃあ、また来世で」
「ああ、今度はこんな役目をお互いに背負わされないように」
そういうと二つの足音が近づいてきた。自分は近くの物陰に妹を抱えて縮こまるように息をひそめるとすぐ横を坊主頭の男が素通りして行って船内に入って行った。これ以上足音が聞こえないから強面の男は別の道を使ってどこかに言ったようだ。
「ぷはー!」
止めていた息を一気に吐き出す。
「何だったんだろうね?」
妹が笑顔でそうたずねてくる。
「さぁ~?」
知るわけがない。
さっきの坊主頭の男がどこに行ったのか気になったし追いかけるのもいいと思ったが妹が自分の裾をぐいぐいと引っ張る。その姿に注目すると気絶させられて甲板に倒れている男を指差す。
「あの人大丈夫?」
妹は心配なんだろう。優しい子だ。それが得体のしれない見知らぬ男でもいっしょだ。でも、この船内にそんな極悪非道の人は乗船しないないだろうと思って近づいてみる。かすかに降る小雨の雨が体を震わせる。きっとそれはこの男もいっしょだろう。
「あ、あの・・・・・・」
声を掛けても返事はない。それもそうだ。気絶しているんだし。
自分は思い切って体を大きく揺さぶってみると甲板の壁にもたれるように気絶する男の体は何の抵抗もなく床に倒れると同時に目を覚ました。首元を押さえて起き上る。
「な、なんだ?」
目を開けて自分と妹じっと見つめる。
「オメーら何だ?」
咄嗟に答えることできなかったが、妹は何の抵抗もなく話し始める。
「おじさん。さっき何話してたの?誘爆って何?」
自分は慌てて妹の口を押えるが手遅れだった。もし、この男がテロリストの一味だったら僕は計画を知られたとして殺されかねないという妄想が自分をそう行動に移した。
すると男は何かを思い出したように3人でいた時と同じように身震いを再び始める。
「そ、そうだ。・・・・・・嫌だ。死にたくない」
怯えるようにその場でうずくまる。
この船で何が起きようとしているのか自分の中で恐怖が植え付けられていく。妹の方は何もわかっていないようだった。そんな妹を守るために兄としてこの男が恐れる死の恐怖の話を自分の恐怖心に打ち勝ち聞き出すしかない。
グッとこぶしを握り声をあげて聞く。
「お、おじさん!」
自分の声に男は顔をあげる。
「この船をどうする気なの!」
子供の時の自分は考えたことを率直に聞いた。
男は自分の質問には答えてくれなかった。代わりに妙なことを言った。
「・・・・・・もう終わりだ」
「何が?」
妹がまっすぐな目で男を見つめるとそれを避けるように男はある場所を指定した。
「船内の第3大広間。そこに行けばきっと大丈夫だ」
「何が?」
何が大丈夫なのか分からなかった。
「きっと、楽に行ける」
「?」
その時の自分には何もわからなかった。でも、きっとこの船の大広間で何かが起こるということだけは分かった。
「行こ」
「うん」
自分は妹の手を引いてその場を後にする。それ以上聞いても無駄そうだったからとりあえず男の言った場所に向かう。坊主頭の男が入った同じ入り口から船内に入り階段を上がり上の階に上がる。
この船にある第3大広間は船内の一番上にあるホールのことでこの時間は晩餐会のようなことを行っているはずだ。その広間の中にバーもあり両親もそこでお酒を飲んでいることだろう。ついでだから戻ることにしようと広間を目指す。
「君たち」
すると自分たちを呼び止める人がいて立ち止まる。若い20代後半くらいの船員が声を掛けてきた。
「お父さんとお母さんはどうしたんだい?」
どうやら、迷子かなんかだと勘違いしているようだ。
「そこの広間にいる」
第3大広間を指差すと心配したことが無駄だったことに少し赤面したかのように苦笑いでごまかした。
「暗くなってきたし、子供二人で出歩く時間じゃないよ。お兄さんはお父さんとお母さんのところまでついて行ってあげよう」
余計なお世話だと思いつつも自分たち兄妹は先を急ぐべき小走りで第3大広間に入ると中はいくつかの丸テーブルに所持が置かれて好きなように食べられるバイキング方式になっていて小さなステージでは自分たちと同じ年くらいの女の子がピアノを演奏していた。その演奏は自分たちが広間に入ったのと同時に終了して暖かな拍手が鳴り響く中、ひとりだけ違う動きをする人物がいた。手には皿も飲み物も持たずに一歩一歩ピアノを弾いていた女の子に近寄っていく。
妹と目を合わせて近くに置いてあって予備の椅子の上に登って男の様子を観察する。
「ちょっと君たち」
船員は困ったように自分の正面に立つ。おかげで男が見えない。
「ちょっと!君!一体なんだね!」
大広間中がどよめいて自分も船員も声のする方向を見るとピアノを演奏し終わった女の子が祖父であろうと男と共に写真を撮っている間に男が割って入る。
「邪魔だから退きなさい」
女の子の祖父の発言に男はじっと睨めつける。
「尾泉議員ですね」
「そうだが、それがどうしたのだね」
「黒い骨と聞いて何か思い当たる淵はないですか?」
「黒い骨?」
何のことやらさっぱりのような女の子の祖父であろう尾泉議員は首をかしげる。
「それもそうですよね。あなたは我らを直接見ていない」
「何のことだね。話があるのなら後でゆっくり聞こう。今は孫との時間だ。そこからどきたまえ」
尾泉議員が目配りをすると近くに待機していたSPのようなスーツ姿の男たちが強面の男を取り押さえようとする。そのうちの一人の足を掛けて持ち上げて投げ飛ばした。当時の自分には分からなかったがあれは合気道の業だ。SPは近くに飾ってあった花瓶を直撃して気絶した。
こいつはやばいと感じたもうひとりのSPは特殊警棒を取り出すがその前に強面の男は床を蹴って一気に距離を詰めてまるでSPをボクシングのサンドバックのように殴り倒した。
その様子を見て女の子は怯えて尾泉議員の背後に隠れる。
「骨川という男を知っていますよね」
SPを倒し終わった男はある人物の名前を挙げた瞬間、尾泉議員の顔色が変わった。
「黒い骨とはそういうことか」
歯を食いしばり身震いを始める尾泉議員。周りも何が起きているのか、そして一体何を話しているのか分からなかった。
「我らの宗主、骨川元春の敵をここで撃たせてもらう。貴様の歪んだ野望のせいで我らの宗主だけではない。この場にいる者の尊い命が失われる。この場にいる諸君!恨むならば、我らではなくこの尾泉議員を恨むのだ!」
「貴様!何をする気だ!」
すると不敵に笑った男はピアノの上に立ち手の甲を見せる。そこには刺青が入っており今にも笑い出しそうな黒ドクロがあった。それを高々と見せる。
「栄光は我らのために!」
その瞬間、男はピアノの上で突然胸を押さえて苦しみ始めた。呼吸も過呼吸となり、全身から汗が噴き出る。全身が震えて死んでしまいそうになってしまう。そして、苦しそうに雄叫びをあげる。
「あ・・・・あ・・・・ああああああああああああああああああああああああ!!!」
「みんな逃げろ!」
尾泉議員は孫を抱えて走り出す。誰も何が起こるのか分かっていなかった。逆になんで尾泉議員があんなに怯えて慌てているのか分からなかった。人を押し倒すようにかき分けて逃げようとする尾泉議員を強面の男は苦しそうな顔でもしっかりと睨み言い捨てる。
「死ねよ」
その時だった。男から眩い光が発せられてその場の誰もが目をしかめた瞬間、男の体が燃えたように真っ赤に膨れ上がり、皮膚の隙間から光が覗きだした。もう普通じゃなかった。誰もが逃げ出そうとした時はすでに手遅れだった。
男を中心にまるでスパークの金色の光が男を中心に半径5メートル程度の球型に起こり、床の絨毯がテーブルがグラスが食器が巻き込まれた人たちが一瞬のうちに真っ黒の灰となり姿を消した。床はとんでもない高熱で穴が空き熱風が自分たちを襲う。熱風はそのスパークから逃げられた人々をいとも簡単に焼き始めた。
服が燃えてもがき苦しむ人たちがいる中、自分は目の前にいた船員のおかげでその熱風から守られたが目の前で焼け苦しむ人を見て身が震えて漏らした。そして、何よりも恐怖だったのが隣で一緒になって椅子の上に立っていた妹が体半分くらい燃えていた。艶やかな髪は勢いよく燃えて衣服にもどんどん火が回っていた。
「お兄ちゃん!熱い!熱いよ!」
顔も右半分が燃えて無事な左目からは大量の涙がこぼれて無事な左手を伸ばし自分に助けを求める。
「ま、待って今助ける!」
そう思って火の手が回る絨毯の上に躊躇なく降りようとした瞬間、轟音と共に男が爆発した。ガラス窓はすべて割れ壁も吹き飛ばされて船内が大きく揺れる。その爆風のせいで無事だったテーブル類といっしょになって自分は吹き飛ばされる妹に向かって伸ばした手は届かずに。
船は大きく傾いてそのまま自分は海に放り出される。たまたま、近くに浮き輪がありそれにしがみつく。海面に顔を出すと火だるまの人間が次々と海に身投げしている。
「な、何?何が起きてるの?誰か・・・・・・誰か教えてよ!」
船は大きく傾いて転覆しそうになると2度目爆発が船の先端で起きて甲板が吹き飛んだ。それと同時に甲板の上でも爆発が起きて船の先端が完全に爆発で消失して大きく前側から沈み始めた。電気は2度目の爆発で完全に落ちて見えるのは燃え盛る炎の船の中に火だるまの人たちだけだった。
自分はただ見ることしかできなかった。そして、船が沈む衝撃で波が起こり自分は船から遠ざかるように流される。
「ヤダ!嫌だ!父さん!母さん!」
家族の名前を叫ぶ。でも、返事はなく船が沈む水の音と物が燃える音と悲鳴が聞こえるだけだった。
燃え盛る火は水面にまで進んできた。船の燃料が漏れてその燃料に引火して海が激しく燃える。自分は真っ暗な海にひとりで取り残されるのが嫌だった。
「みんな!今助けに行く!」
浮き輪を便りに足ばたつかせて火の手が回る船に近づいていく。助ける見込みがないことは子供の自分にも分かっていた。でも、こんなところでひとりで寂しく死ぬくらいならみんなところでいっしょに死んだ方がましだった。そう、自分はこの時生きることを放棄した。でも、残酷な神様は自分を殺してくれはくれなかった。
先端から沈みだした船は後方を持ち上げる形でどんどん沈んでいく。だが、その沈む豪華客船はその重量に耐えることが出来ずに真ん中で二つに折れた。その瞬間、中から大量の燃料が流れ出てきたのが見えた。それが燃える船の火に引火した瞬間、轟音と熱風、爆炎が起こり大爆発が発生した。夜空に高々とキノコ雲のように上空にまで登る爆炎。あたりは炎で一気に明るくなり、海の水は爆発の衝撃でまるで津波のように起こり自分を巻き込む。そのおかげで高温の熱風からも爆炎からも逃れることが出来た。
「なんで・・・・・・なんで・・・・・・」
爆発の衝撃で自分の意識がそこで途切れた。もう、二度と目を開けることはないだろうと思っていた。
だけど・・・・・・・・。
声が聞こえた。大丈夫か?目を覚ませ!そんな自分を励ます声だった。
黄泉の世界なのだろうかと目を開けるとそこにはタオルを頭に巻きつけた中年のおっさんがいた。自分が目を開けるのを見ると慌ててどこかに走って行ってしまった。あたりを見渡すと低い天井にテレビやら布団やらが無造作に置かれていた。灰皿には大量のタバコの吸い殻があり部屋に煙のにおいが充満していて心地いい場所とはとても言えない。それになぜか部屋全体がゆっくりと揺れている。
「ここは?」
黄泉の世界とはかけ離れてかなり現実性のある部屋だった。
小さな扉からこの部屋に入って来たのは黒く肌の焼けた同じようなおっさんが入って来た。
「坊主!大丈夫か!どこか痛いところはないか!」
至極慌てている様子だった。普通ではない。
「だ、大丈夫。どこも痛くない」
「そ、そうか。よかった。外傷は特にないけど、なかなか目を覚まさなくて心配したぜ」
自分はすぐに聞いた。おっさんが話しているのを無視して。
「おじさんここどこ?父さんや母さんや妹は?」
するとおっさんたちはどこか言いにくそうな表情になる。
どこか度胸のありそうな感じのする男たちだったが目をそむけてその目から液体がこぼれる。
「坊主はいくつだ?」
「・・・・・・11歳」
「どうせ、いずれ知ることになるんだ。早い方がいい。立てるか?」
自分はコクリと頷いた。
「ならついてこい」
自分は四つ這いになって天井の低い船の部屋から出ると金属製の通路に出た。そして、出口のすぐ横にはほぼ垂直のはしごがあった。おっさんはそのはしごを昇っていく。自分もその後をついてはしごを昇る。金属製のはしごは濡れていて滑って落ちそうになるのを下にいた別のおっさんに助けられてはしごを昇り切るとそこは外だった。潮のにおいがする海風が髪を乱す。おっさんは海の向こうをじっと見つめていた。空は暗くまだ夜なのだろうが、なぜかおっさん方だけ明るい。
そして、ついに自分は夢の世界から現実の世界に引き戻される。おっさんが見つめる方の海は燃えていた。そこは自分たちが幸せだと感じさせるくらい楽しいものをたくさん乗せた船があった。でも、全部燃えた。すべて何もかも。
「あ・・・・・・あ・・・・・・あああああああああああ!」
その場にうずくまり全身の震えと目からは大量の涙があふれ出る。
「・・・・・・坊主」
どう声を掛けていいか分からないおっさんは自分をただ見つめるだけだった。
この船はたまたま付近で漁をしていた漁船だった。自分はたまたまその船に助けられたのだ。そう生き残ってしまったのだ。生きていることに身が震えて呼吸が乱れて嘔吐する。目からも鼻からも大量の液体が流れ出る。
これからどうすればいいのか?どこに行けばいいのか?どこに帰ればいいのか?どうやって生活していけばいいのか?家族は無事なのか?自分以外にも生き残りはいるのか?
いろんなことが高速で頭の中をめぐる。そんな中、自分の記憶に強く刻まれているシーン。
大広間の目立つところで高々と今にも笑い出しそうな黒ドクロの刺青を見せつける男の不敵に笑う姿。そして、最後にはなった言葉。
それを思い出した瞬間、自分は涙や鼻水でぐちゃぐちゃ顔をあげて漁船から身を乗り出して思い切り叫ぶ。のどが壊れるんじゃないかと思うくらい大声で叫ぶ。自分の持っていたものをすべて壊されたこの日。この時の叫びは今でも鮮明に覚えている。目の前で妹が燃えていた。もがき苦しみ自分に助けを求めていたのに何もできなかった弱さ。その悔しさ。いろんな思いがこもる。
「ぶっ壊してやる!お前らが持っているもん!全部!ぶっ壊してやる!」
強く歯を食いしばっているせいで歯茎から血が滲み血の味しかしなくなる。それの味は忘れない。この日、まだ11歳だった自分、山下幸也は復讐を誓う。この燃える海であの黒いドクロ共に。
そして、月日は流れる。