一応刑事
日は完全に沈みあたりが闇に包まれて街灯がともりだして仕事を始める。刑事である自分はフェイブを守るという仕事をこなすことが出来ず、夕方から日が沈み夜になるように気分が沈み暗くなっている。
愛田さんはその後、桧山先輩の呼んだ救急車に運ばれて行った。付き添いでメガネくんも病院に向かった。その後、メガネくんのメールで逃走した車のナンバーを見ていてそれを報告してきた。神矢もそれぞれの男の特徴や使っていた拳銃の情報などを報告して、各務課長が周りに手の空いている警察に連絡をして、神矢フェイブのお守りを頼み、特殊人間事件対策課の仲間にも連絡を入れる。それが終わるまで自分はひとりで待っている。
今更だけど自分が一番刑事じゃなかったと実感した。いつもゲームばかりしている桧山先輩もフェイブの命を自らの命を張って助けた。フェイブだけじゃないこの署にいる職員みんなを助けた。愛田さんはいつもマイペースで子供っぽくて刑事には見えないけど、その小さな体を張ってフェイブを助けた。自らは傷を負ってまで。メガネくんはいつも黙ったままでパトカーは何台も廃車にするけど、車をぶつけてまで逃走する車を止めようとしてしっかりナンバーも見ている。神矢はチャラチャラしてて刑事には見えないし、ヒモで単なる女好きだけど、その女のために拳銃や警棒を持った敵に立ち向かっていった。
自分だけ何もしていない。
「山下」
各務課長が戻って来た。課長は普段も真面目に仕事をしているし、手際がいい。
「愛田は大した怪我じゃないそうだ。額を少し切っただけみたいだ」
「・・・・・そうですか」
力のない返事を返す。
「向こうが所持していた拳銃はまだ持ってるか?」
「はい」
回収して置けと桧山先輩に言われて手袋をして専用の袋の中に入れてある拳銃を引出しの中から取り出す。
「鑑識に出す前にやることがある。桧山!いるか!」
「いますよ」
桧山先輩が置奥の取調室から出てくる。どうせ、ゲームでもしていたんだろう。
「やるんですか?」
「一番手っ取り早いからな」
何を話しているのか分からない。
「山下も来い」
「え?」
机にうっぷ寝する自分の首根っこを掴んで無理やり取調室に連行される。まるで取り調べを受けさせられる犯人がのごとく。
中に入るとカギを掛けて誰も入られないようにした。
「何をするんですか?」
「課長の特殊を使うんだ」
そういえば、桧山先輩の能力は聞き出せたけど各務課長は聞いていない。桧山先輩とは違い現役で特殊人間事件対策課に属するのだから特殊な能力はもちろん実用性の高いものだろう。
「拳銃をここに」
各務部長にいわれて自分は袋に入っている拳銃を机の上に置く。各務部長は片手だけに白の手袋をして袋の中から拳銃を取り出す。大きく息を吸って手袋をしていない手を拳銃にかざして目をつぶる。何か精神集中しているように見える。
なんだか大きな声を出すのは不味そうな不運域だ。でも、何をしているのか分からない。でも、桧山先輩は分かっているみたいな感じがした。なので小声で尋ねる。
「課長は何してるんですか?」
「見ているんだ」
「何を?」
「拳銃の記憶をだ」
拳銃の記憶?
「課長は物の記憶を読む能力を持っている。時間的には半日前が限界だ。つまり、課長は半日前ならば拳銃が聞いた会話、見た景色を課長は見ることが出来る」
「物限定ですか・・・・・」
「ああ、実用性の高い能力だ。と言っても昔の話だ」
「もしかして、今は全記憶が読めたりする能力も持つ特殊人間もいるんですか?」
「さぁな。俺はもう特殊人間とのかかわりは絶ってるから最新の情報は知らん」
でも、その言い方だと特殊人間の能力は常に向上しているみたいだ。時代によって技術が向上するかのように人間の能力も上がっていくようだ。
「・・・・・・・見えた」
各務課長が呟く。その額には汗が滲み息が荒くなっている。
「・・・・・・手の甲に黒いドクロの刺青」
それを聞いた瞬間、ぞっと鳥肌が立った。
「ブラックボーンの証」
思わずつぶやいてしまった。あの船で見た男が手の甲にあった黒いドクロの刺青をかざした。自らを黒い骨の組織だと宣言するかのように。証だからだ。自分の組織の証。
「・・・・・爆破する。・・・・・必要。・・・・・フェイブ。・・・・・破綻?・・・・・姉様。・・・・・命令」
課長がぶつぶつと単語をつぶやく。その瞬間、各務部長が倒れそうになる。
「課長!」
桧山先輩がそんな課長を支える。愛田さんの言うとおりこのふたりで来ている気がする。
「それで何が見えたんですか?」
率直に聞くとパイプ椅子に座り息を整えて告げる。
「やはり、フェイブをさらおうとしたのは黒い骨の組織のようだ。ポケットに携帯していたせいか視界は真っ暗だった。会話の内容もこもっていて聞き取るのは難しかった」
物から情報を得るというのは難しいようだ。
「だが、奴らが何かを爆発させようとしていることは間違いない。それもフェイブを使ってだ。そのフェイブを奪われたことで計画が破綻しそうになっているのを姉様の命令でどうにかしようとしているようだ」
その結果があれか。かなり強引な作戦に見えた。
「向こうさんは焦っているみたいだな」
桧山先輩が冷静に刑事みたいに分析する。
「黒い骨は何かを爆発しようと企んでいたがそれを清義鈍斗に掴まれ計画に使うはずのフェイブを奪われた。計画が破綻しそうになったもんで無理やり奪いに来た」
「もしかして、あの爆発も」
「おそらく、フェイブを奪い返しやすいように警察官を現場に偏らせるための物だったと考えられるな」
課長の言うとおり所に戻ってきておいてよかった。自分は何もしていないけど。
「フェイブを本部に連絡してちゃんとした奴らに警護してもらうつもりだ」
「え?」
「もう連絡はついているのか?」
「ああ、拳銃の記憶を読まずともあれが黒い骨の組織のせいだってことは分かる。だから、連絡はすでに取ってある。そのうち到着するだろう」
「つまり、フェイブの保護は?」
「現時点を持って終了だ」
結局、自分は何もできなかった。刑事になることが目的になっていてその先のブラックボーンを捕まえるという野望。この刑事になって最初にその組織が壊滅したことを知って気が抜けていたんだ。だから、あの時何もできなかった。動けなかった。
「山下。お前は帰れ」
「なんで?自分も引き渡すときぐらい」
「山下は特殊人間じゃない。組織の人間とは関わらない方が賢明だ。それに上司として関わってほしくない」
部下のこと大切に思う各務課長の切実な願いであるのは分かる。
「でも、フェイブを守るのは自分の仕事です。だから、最後まで」
「お前は役立たずだ」
桧山先輩は自分に遠慮とかなしにそう言い放った。
「今の現状で誰が一番仕事をしていない?そもそも俺は刑事を仕事だとは思っていない。お前はただの仕事だと思っているみたいだな」
そうだよ。だから、毎日遊んでいるあんたらに仕事しろって言い続けているんだよ。
「刑事とはなんなのか。帰って頭を冷やしてよく考えるんだな」
そう言い放つと桧山先輩は取調室から出て行ってしまった。
各務課長も拳銃を元の袋の中に戻して出ていきひとり一応刑事と呼ばれる山下幸也は小さな取調室に残される。




