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爆弾幼女  作者: 駿河留守
17/26

奇襲

「あ。お兄ちゃんお帰り」

「ただいま」

 すでに廃車寸前のオンボロ覆面パトカーをぶつぶつと文句を垂らす神谷が運転しながら署に戻って来た。なぜ、こうも早く帰ることが出来たのかというと検問でも邪魔だから現場検証の方でも手伝っていろと言われた。現場検証でも邪魔だから検問の方に行けと言われて行ったのに邪魔だから戻れと言われてしまったらもう自分たちは必要ないんだなということになる。

 なので署で待機ということにした。フェイブの様子も気になったし。

「・・・・・・お兄ちゃんあれどうしたの?」

 不思議そうにおんぼろの覆面パトカーを指差す。

「ちょっと戦ってきた」

「何と!」

 冗談のつもりで言ったつもりだったのだがここまで食いついてくるとは子供だな。

「悪の組織と」

 まぁ、嘘なわけだけど。

「課長。これから自分はどうすればいいですか?」

「帰れば?どうせ、これ以上仕事が頼まれることはないから山下はフェイブのお守りの仕事をしなさい」

「自分って刑事ですよね?」

「一応ね」

「課長までそんなこと言わないでください!」

 ただでさえあのシェアハウスでは一応刑事って呼ばれることが本当に悔しいんだよ!

「お兄ちゃん帰ろ」

「うん。あのさ、ちなみに自分って何に見える?」

「・・・・・・・暇人」

「帰ろう」

 そして、明日辞表を出して別の署に移動しよう。もう、自分はここでやって行ける自信がない。

「なんで泣いてるの?」

「お願い、聞かないで」

 刑事っていったいなんなんだろう。

 フェイブと手をつなぎシェアハウスに向かう。その後ろを追いかけるように愛田さんがついてきて、駐車場にはほとんどパトカーは止まっておらず、あるのはヘッドライトが割れて中の電球がむき出しとなり、ボンネットがねじまがった覆面パトカーが異常に目立つ。それをどうするかと相談する神矢とメガネくん。署の中に入って行く桧山先輩と各務部長。あの爆発直後はさすがに刑事っぽくなった気がしたのだが、気付けばいつも通りになっている。

 このままでいいのか?

 刑事としてもそうだがフェイブを取り巻く黒い骨の組織、ブラックボーンのことは自分たちで何もしなくて本当にいいのだろうか?ただ、フェイブのお守りをしているだけでいいのだろうか?あの日から誓った復讐のために刑事になった時のような行動力を刑事になってまだ発揮していない。長い間ぬるま湯につかっていたせいでその辺の緊張感とか執念とかが弱くなってしまっているんだと思う。

 だから、あれは自分の油断だったんだ。

 突然、黒いワンボックスの車が署の駐車場に乱暴に入ってくる。そして。ドリフとしながら自分とフェイブの正面に止まった。何が起きたのか分からなかった。

 スライドの扉から出てきたのは複数の男たち。数は4人。最初に自分を突き飛ばした後、残りのメンバーは素早くフェイブの小さな体を持ち上げて車の中に運ぼうとする。その瞬間、ようやく現状が理解できた。ブラックボーンがついにフェイブを取り返しに来た。

「フェイブ!」

 だが、その時にはすでに男たちはフェイブを車の中に連れ込んで走らせようとしていた。

 自分は刑事失格だ。ひとりの少女を守ってほしいという簡単な仕事すらもこなせない自分に刑事の仕事なんて回ってくることなんてない。フェイブと助けないといけないという使命感よりも自分の無力さに絶望して体が思うように動かなかった。

「ダメ!」

 自分の後ろから車の中に飛び込んでいくひとつの小さな影。愛田さんだ。体格差は明らか。それでも臆することなく飛び込んでいった愛田さんは伸ばすフェイブの手をがっちりと掴んだ。

「おい!離れろ!」

 男たちが無理やり引きはがそうとするがそれを必死に抗う愛田さん。

「離れろって言ってんだろ!」

 男手には拳銃が握られていた。心臓が爆発するかと思った。愛田さんが殺される。また、自分は見ているだけしかできないのか。目の前で幼い妹の飛香が燃え死ぬ姿を見ていた時と変わらない。金縛りを受けたみたいに自分の体は動かない。

 拳銃の銃口が愛田さんに向けられそうになった瞬間、黒いワンボックスカーは大きな衝撃に襲われて入り口でもみ合っていた愛田さんとフェイブと男たちは車の中から突き飛ばされる。

 見れば、あの廃車寸前の覆面パトカーが体当たりをしていた。運転席にはメガネくんがいた。衝撃でフェイブが男の手から離れた。愛田さんはそのまま覆いかぶさるようにフェイブを抱きかかえる。

「おい!そいつを渡せ!」

 一人の男が警棒を取り出して愛田さんの頭を殴る。それでもしっかりフェイブを抱きかかえた愛田さんはめげない。

「死にたいのか!」

 再び献上を持つ男が銃口を愛田さんに構える。

「それはどっちだ?」

 その正面から音もなく現れる声と影。

「俺の前で女の子を傷つけるとは命の覚悟はできてるのか?」

 神矢は元ホストでヒモであるが大の女の子好きだ。あいつが本気で戦うときは必ずと言っていいほど女がらみの時だ。あの状態の神矢には敵はいない。

 神矢は男の銃と持つ腕を掴んで背負い投げで投げ飛ばす。それと同時に拳銃を奪い取る。

「お前も殺す!」

 神矢が拳銃を構えて警棒を持った男は自分の命の危機を感じて愛田さんを突き出した。そのおかげで神矢は拳銃を撃つことが出来なかった。

「作戦失敗!撤収!」

 男たちはそそくさと車の中に乗り込んでいくと扉を閉めるのを待たずして車は走り出した。それを阻止するべくメガネくんが廃車寸前の覆面パトカーの最後の力を振り絞り逃げる黒いワンボックスカーの行く手を防ぐべく体当たりを仕掛ける。成功するが質量で増すワンボックスカーに押し込まれて逃がされる。

 覆面パトカーのボンネットから煙が噴き出る。

「今度こそ廃車確定だ」

「そうだ!愛田さん!」

 ようやく、自分の体動きだして愛田さんの元に駆け寄るとフェイブが愛田さんの胸の中から抜け出していた。そして、泣きながら愛田さんの体を揺さぶっている。

「おねーさん!おねーさん!」

 駆け寄ると額から血を流して倒れていた。

「愛田さん!」

 自分は弱い。何も守れていない。役立たずの一応と呼ばれる刑事。

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