黒い骨
流石の大きな爆発のせいか近くの町の刑事たちが自分たちよりも真っ先に現場にやって交通整備や現場検証を始めていた。完全にいらない子扱いになっていた。遅れて課長が到着して現状確認等をしに行き邪魔者である自分たちはパトカーがこれからも動くかどうかを確認するというどうでもいいことをしている。
「これは走るんですか?」
「俺が知るか」
車の様子を見るふりをしてその手にはしっかりとゲーム機が握られている。
「まさか、普段あんなに大人しいメガネくんの運転がこんなに破天荒だなんて思わなかった」
「俺も真っ先に運転席に乗るべきだったんだ」
「・・・・・・・もしかして、これが初めてじゃないんですか?」
「おい!メガネ!これで何回目だ?」
するとメガネくんは無言で3本の指を立てた。
「警察じゃなかったら100%免停でしょ!」
「メガネはすでに何回か免許取り直してるぞ」
「え?」
「それに3回じゃないだろ」
うんうんと頷くと三つ立てた指の横にさらに1本指を立てる。
「13回も事故ってるのかよ!」
もう、敬語とか使っていらない。
「このパトカーが走れなくなって、廃車になったら3台目か?」
「もう3台も廃車にしてるの!」
首を振るメガネくん。それもそうだよな。市民の税金で買っているパトカーをそんな3台も廃車にしているなんてありえないよな。
4つの指を立てた。
「メガネくん、警察辞めなよ」
こんな奴ばかりいるからうちの刑事課は舐められて仕事が回ってこないんだよ。
「ちーっす」
神矢さんがやって来た。シャツのボタンを上3つまであけて胸元を開けている。シャツの裾に赤色の口紅が見えるのは気のせいだ。見なかったことにしよう。
「おい、神矢。今までどこに?」
「花子さんと夜のお仕事をしていました」
「うん、分かった。とりあえず、お前は死ね」
自分もそう思う。
「気付けば、みんないるじゃないか」
各務課長が戻って来た。自分はすぐさま駆け寄る。
「現状はどうなんですか!」
特に焦ることもなく冷静に語る。
「爆発があったのは線路の上に建てられていた連絡通路だよ。爆発は派手みたいだったけど、被害的には連絡通路のガラスが全部見事に割れたくらいみたいだったよ。死者も今のところなし。電車は下をとっていた配線がいくつかやられたみたいだけど明日までには復旧するみたい」
「その爆発の原因は?」
「まだ、調査中だって。我々に課せられたのは周辺に張った包囲網で検問の手伝いでもしていろだと」
結局、裏方に回されるのか。今回も。
「とにかく、課せられた仕事は全うしよう。同林と神矢は駅の北側。残りのメンバーは駅の南側の検問に行くこととしよう」
みんなやる気がなそうな軽い返事を交わしてそれぞれの持ち場に足を進める。と言っても二手に分かれるだけなのだが。しばらく、歩いて行きたい入りが規制されているテープをくぐって検問所に向かうはずなのだがどんどん人気のない方に各務課長と桧山先輩は進んでいく。だんだん、不安になる。桧山先輩がサボるためにこんな人気のないところに行くのは別に変なことじゃないのだが、真面目な各務部長までサボるなんてありえない。ここはひとつ抗議しようと思った時だ。ふたりの足が止まる。
「さぁ、本題に入ろう」
各務課長が振り返りそう告げた。
「本題?」
「さっき言ったのは普通の刑事たちが言っていた現場の状況説明。これからいうのはどの署にもひとりは混ざっている特殊人間の刑事に聞いた事件の状況だよ」
「やっぱりそうか。普通ありえないだろ。ガラスが割れただけの爆発であんな黒煙が上がるのは」
確かにそうだ。
「もしかして、フェイブみたいななく爆弾人間の仕業なんですか?」
「ご名答。山下は刑事よりも探偵の方がいいんじゃないか?」
「リアルで考えていることなんて指摘しないでください」
本気で探偵になっちゃうかもしれない。
「山下言ったようにあの爆発現場には人がいた。隠しカメラがとらえたひとりの人間。突然、その場にもがき苦しみながら倒れてその瞬間、カメラが壊れた。人の死体は出てきていないところを見ると爆散して消えたみたいだ」
「フェイブとの共通点はあったのか?」
「爆心地と思われるところに小さなくぼみがあったらしい。爆発の衝撃でできた物ではなく、熱で溶けたような感じでくぼみはできていた」
フェイブと同じだ。となるとあの豪華客船で爆発した奴、そしてブラックボーンという黒い組織の仕業であることがここで分かる。
「本部も何人かの精鋭を送って捜査に乗り出すみたいだよ。なんせ相手は巨大な犯罪組織の残党だからね。統括を失った犯罪者ほどブレーキがないから危ない」
「それで自分たちはどうすれば?」
「フェイブは?」
「愛田さんと署にいます」
「うん、なら署に戻ろう」
「なんで?」
「黒い骨がフェイブを狙っているかもしれない」




