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爆弾幼女  作者: 駿河留守
13/26

理由

「ようやく落ち着いたみたい」

「そう、ありがとう」

 フェイブに付き添っていた愛田さんが自分の元にフェイブの様子について教えてくれた。今、自分は黄色いテープが張られて関係者以外の立ち入りが禁止されている黒く焼け焦げた資料室の中で愛田さんの報告に答える。しばらく、その場にいた愛田さんもいずらくなってしまったのかそそくさとどこかに行ってしまった。

 ずっと考え事をしていた。

 フェイブに身に起きた突然の出来事。あれはあの日、あの時に起きたことと似ている。そのまま桧山先輩が止めなければスパークのようなものが発生して近くにいた自分は死んだことにも気づかないくらい一瞬のうちに消し炭になっていただろう。それが回避できたのはやはりこの幸運体質のせいなのだろうか。

 焦げた資料室は置いてあった紙の資料は燃えてしまい、置いてあったパソコンも焦げて変形してしまっている。もう、絶対に使えない。そして、円状に焦げているその中心にはおそらくフェイブがいたであろうところが小さくくぼんでいる。床が高温の熱で溶けていた。

 おそらく、あのスパークが発生間近のところまで行っていたのかもしれない。いろいろ引っかかる部分がある。まず、フェイブはブラックボーンのことを知っていたということだ。そして、ブラックボーンのことを聞きだそうとしたら瞬間というなんとも狙ったようなタイミングであの高熱状態にフェイブはなった。それはまるでブラックボーンのことを話させないようにするかのような。

 FAEB。後で調べたら燃料気化爆弾の英語の略称のことだった。つまり、彼女の名前は爆弾なのだ。あの資料に書いてあった人間爆弾とはフェイブそのものなのかもしれない。ブラックボーンが作り出した人間のようだった。ブラックボーンに関わっていたということは多くの機密をフェイブは知っていることになる。それを守るための仕掛けがあの高熱状態ならば、なんでフェイブは警察の手の元にあるんだ?そんな機密を握っているフェイブはなぜブラックボーンは手放したんだ。

「気になるのか?」

 背後から聞こえたのは各務課長の声だ。

「先輩は?」

「桧山は大丈夫だ。手に軽いやけどを負っただけだ」

「そうですか」

 各務課長は資料室の扉を閉める。

「フェイブに何を聞いたんだ?」

 まるで取り調べのように聞いてくる。自分は何も隠さず答える。

「ブラックボーンのことです」

「・・・・・・そうか」

 それ以上何も聞いてこなかった。

「あ~あ。パソコンがこんな風になっちゃって、保険降りるかな~」

「課長」

 のんきな課長と自分の間には明らかな温度差があった。課長は何かをごまかそうとしているように見える。それは見え見えだ。どうするか迷っている証拠だろう。自分に告げるべきか告げないべきか迷っているのだ。それはフェイブのこととブラックボーンのことだろう。

「山下は何を知っている?あの子のことと、黒い骨の組織のこと」

 自分はすべてを包み隠さず告げる。

「自分はフェイブと同じような現象を起こした人間を見たことがあります」

「え?」

「あのままフェイブを放っておけば、おそらく資料室周辺一帯が一瞬で消し炭になって警察署内が火の海に包まれて、その後署は跡形もなく爆散してしまっていた」

「・・・・・・それはそのパソコンから?」

「自分の過去の経験からです」

 にらみ合いが続く。

「それはどこで?」

「船の上です。15年前に起きた豪華客船大爆発事故の生き残りが自分です。その時に」

「もういい」

 各務課長は自分の話を途中で切りあげる。まるでその先を知っているかのようだ。

「まさか、あの時の生き残りだとはな」

「課長もあの事件のことを覚えていたんですか?」

 もう、15年も前の話だ。人々の記憶からは薄れていき忘れ去られようとしている事件。あれは豪華客船の機関部の爆発によるものであるということで事故という形で処理されたが現場をしっかりとみている自分はあれが人為的に起きた爆発であることを知っている。だから、自分はあの出来事を事故ではなく事件としている。

 そんな事件を課長は覚えていた。それもそのはずだ。なぜならば・・・・・。

「あの事件は悲惨だったからな。今でも記憶にばっちり残っている」

「・・・・・事件ですか?事故じゃなくて」

「ああ、あれは事件だ」

 なんで各務課長はあの爆発のことを事故ではなく事件と呼ぶんだ?

「山下にだけは教えておいてやろう。私は以前警視庁に勤めていた。それは知っているよな?」

「はい」

「そこで私は特殊人間事件対策課にいた。一般公開されていないごく一部の人間しか知らない組織だ」

「特殊人間?」

「フェイブや君が15年前に見た普通ではない人のことだ」

 各務課長は念のためか資料室の扉にカギを掛けてフェイブから発せられた熱に奇跡的に残っていた焦げた椅子に腰かける。

「その課はその普通ではない特殊人間と呼ばれる者たちによる犯罪を未然に防止したり、起きた事件の解決などを請け負う刑事課だ。私はその課の命令でこの所轄にいる」

「なんで?」

「特殊人間はどこにいるか分からないしな。発生した事件が特殊人間によるものだと分かった際は本部に連絡して本部の人間が一般捜査員に混ざってやってくる。私のようなものはその署にもひとりは必ず存在する」

 知らなかった。ネットに載っていること、あの警視庁専用のパソコンに書かれている情報以外にもこの世界には知らないことがたくさんある。

「ちなみに桧山も特殊人間だぞ」

「え!」

「なりそこないだけどな」

 ああ、つまり首になったってことか。どこに行ってもダメ刑事は出世することはできないんだな。だから、こんなところに飛ばされたんだ。

「納得です」

「何を納得したんだ?」

「あれ?いたの?」

「ずっと」

 奥から桧山先輩が出てきた。絶対、奥でサボって隠れてゲームやっていたに違いない。両手はやけどの治療で包帯が巻かれているのにも関わらずゲームをやるとはゲーマーはレベルが違う。

「課長。山下に話してもいいのか?」

「このままにしておいてもどうせ聞き迫ってくるだろうよ。で、それに便乗して愛田や神矢やメガネまでくっ付いてきた方がさらに厄介だ。それに山下はすでに見たことがあるみたいだったし」

 すると課長は懐に手を入れてあるものを取り出す。それはフェイブがもっていた封筒だった。中には手紙が入っている。

「これを見れば、もう私たちと同じ道を歩むしかなくなる。いつもの日常に戻ることも難しくなる可能性もあるがそれでもいいか?」

 今ある日常。あのシェアハウスで起きるどうでもいい平和な生活に戻れなくなる可能性もあるということか。確かにあの生活は家族を失って孤独だった自分の癒しの場でもあった。離れたくない日常の象徴でもある。でも、いずれ小鳥が巣立つように自分もあの家から飛び出していくことがいずれやってくる。何人かの人たちがあのシェアハウスから旅立っていく姿を見ている。ならば、自分も。

「大丈夫です。見せてください。その手紙を」

 その手紙に書かれていたことは特殊ではない自分には理解しがたいものだった。

『そちらにフェイブという少女を預かってほしい。突然のことで本当にすまない。彼女は例の黒い骨の組織によって調整された爆弾人間のひとりだ。その爆発条件等はなんせまだ小さな子供なために分かっていない。常に暴発の危険性がある。しかし、彼女は何として死守しなければならない。近いうちに黒い骨の残党どもが大きな爆弾テロをフェイブのような外見上は普通だがその内に秘めた特殊な爆弾人間によって行われるのではないかという情報を掴んだ。彼女はその作戦現場に向かう最中に抜け出してきたのを我々が保護した。爆弾人間の特徴である腹にある固い異物も確認済みだ。事件が終息する前の間だけでいい。君たちの元で彼女を保護してほしい。頼んだぞ。特殊人間事件対策課取り締まり総司令清義鈍斗より』

「これはどういうことですか?」

「どうもこうもそのまま」

「これだとフェイブがいつ爆発するか分からないって書いてありますよ」

「そう・・・・だね」

 思わず各務課長に掴みかかってしまう。その理由は怒りだ。

「なんで自分以外の無関係の人間が住んでいるシェアハウスなんかにフェイブを預けたんですか!もし、さっきみたいなことが起きたらシェアハウスのみんなが巻き込まれていたかもしれないですよね!」

 自分が危険になることは別にいい。だが、自分の仕事の都合で他のみんなを危険な目に合わせることだけはどうしても許せることじゃない。その怒りを各務部長に向ける。

「それに関しては返す言葉はない」

 すると桧山部長が間に入ってくる。

「邪魔しないでください」

「他人を巻き込んだことは確かに俺たちの責任だ。だが、一番お前のところが一番安全だと思ったから」

「なんで?」

 疑問形でも強い口調を保つ。

「まずは愛田。あいつは子供っぽいからフェイブを預けるのに向いていると思ったのだが・・・・・」

「危機感がなさすぎるね」

 否定できない。いっしょに仲よく遊んでいても面倒を四六時中見ているかと言われる絶対に無理だ。目を離したすきに誘拐されてしまっていてもおかしくない。

「神矢は論外だろ」

「論外だね」

「論外ですね」

 あのままキャバクラとかホストクラブとかに連れて行きそうだし。

「メガネくんは・・・・・・・」

「メガネは・・・・・・・」

「たぶん無理ですね」

「そうだな。根拠はないけど」

 そう、面倒をみろと言うとじっとフェイブを見つめ続けている気がする。もちろん、狭苦しい薄暗い部屋で。実際に自分も考えるだけで寒気がたつ。

「で、俺と課長は特殊人間に属されるから目に付けられやすい」

「消去法で自分に?」

「本当にすまない」

 各務課長が深々と頭を下げる。

 基本低姿勢はいつもの各務課長の姿だ。特にありがたみも何もない。

「とにかく、組織に狙われている以上は我々の手だけで保護しなければならない。そのためにも人の目が多くてフェイブから目を離さず面倒見れる山下のシェアハウスが一番安全だ」

「さっきみたいに爆発したらどうするんですか?」

 各務課長は何も言えなくなった。課長自身もフェイブの爆発条件が未だにわかっていないようだ。

「山下」

「何ですか?」

「フェイブが爆発する前に何をしていた?」

「その真っ黒になったパソコンでそのブラックボーンの情報を見ていました。そしたら、フェイブがブラックボーンのことを知っているというから聞き出そうとしたら、こうなりました」

 そうだ。あの時、妙にタイミングのいいところであの現象は起きた。

「黒い骨の組織の情報を幼いながら彼女は持っている。それを面白半分に流出しないように処置が爆発条件なのかもしれない」

「自分も先輩の意見には反論はないです。でも、他にも爆発条件があったらどうするんですか?」

「だが、事実お前は昨日一晩何の異常もなく過ごしている。なら、日常の現場には爆発の条件は存在しない。そもそも、日常の言動で爆発の条件があればそれは製作者側にも爆発の危険がある。危険を最小限に抑えてある条件下で爆発を促すようにしてあるはずだ。だから、彼女は普通に過ごさせるのが一番安全だ」

「でも、爆発の危険は去っても!その組織の奇襲を受けたらどうするんですか!」

「それに関しては警視庁の特殊人間事件対策課から捜査員の一人が監視しているらしいんだ。どこにいるか知らないけど、腕の立つ奴だ。山下もあのファイルを見たのなら知っているはずだ」

「誰ですか?」

「フェニックス」

 各務部長から発せられた名前はあの報告書の記録内において最後の事件以外はひとりも死者を出さずに事件を解決している報告者だ。

「私も顔を直接見たことがあるわけじゃない。だが、特殊人間事件対策課に属したことのある人間なら誰もが知っている。どんな難事件もフェニックスの手にかかれば無造作もない。万事解決だ」

「でも、あの報告書では骨川元春脱走以来フェニックスは仕事をしていない感じがしますよ。10年以上あの報告書の中にはフェニックスは出てきていない」

「確かに最近名前を聞かないようになった」

 各務課長は顎に手を置いて考える。顔を直接見たことがないし、ここ最近仕事をしていない。それはつまりそのフェニックスがこの世にはいなくなってしまっていると言っても過言ではない。でも、課長の言う特殊人間事件対策課ならば話は別だ。

「大丈夫だ。奴の特殊を考えればあいつはまだ健在だ」

「フェニックスの特殊?そんなの名前から分かりますよ。フェニックスって不死鳥ってことでしょ?つまり、不老不死、不死身ってことですよね」

「そうだ。つまり、最悪はあいつは体を犠牲にお前たちを助け出す。その不死身の体を使ってな」

 犠牲者ゼロで事件を解決する。それは自分の体を傷つけることで常人には不可能な情報を引出し、自らを盾にすることで人を守っていた。犠牲者は確かにゼロでもフェニックスはその中に含まれていない。

「とにかく、あいつがいるという情報は確かなんだ。フェイブは頼んだぞ」

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