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爆弾幼女  作者: 駿河留守
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FAEB

 一日が暇になると平和なこの町で刑事がやる仕事と言えば、毎日のように送られてくる被害届の整理くらいだ。受理するかしないかを判断してそれに応じて自分たち警察が動くのだ。

 でも、この町に送られてくる大抵のことはほとんどどうでもいいことだ。野良犬が玄関の前にフンをするとか、ピンポンダッシュをする小学生が鬱陶しいとか、アパートの隣の住民が騒がしくて邪魔とか、ゴミ収集のルールを守らない奴いるとか、正直言って町内会でどうにかしろよという内容なのだ。

 後の仕事は110番通報が厄介で大きい事件の様だったら出動するくらいだ。まぁ、通報されてくることも近所の痴話げんか、夫婦げんか、下着泥棒(解決済み)、空き巣、交通事故などなど刑事が出るようなのはあまりない。そもそも、この署自体が刑事に頼らずとも起きた事件を大方片付けてしまう。刑事課以外は優秀なのだ。

 そして、今日も刑事課の事務所は暇そうに本を読むメガネくんに、とりあえずすべての書類整理を行う課長に、持参したおもちゃで遊ぶ愛田さんに、ゲームをするために姿をくらました桧山先輩に、携帯で女の子と会話をするヒモの神矢が全員がそろっているが誰も仕事をしない。自分から見れば市民の税金を仕事もせずにもらう税金泥棒とはこれを言うんだなと痛感する。

 いつものように溜息を洩らしながら課長にいつものところにいるとだけ告げでひとり資料室にこもる。

 一応資料はステンレス製の棚の段ボールの中に整理されて積まれている。こんな風に刑事課が堕落したのはここ最近の話らしくそれまでは被害届もちゃんと受理して仕事をも熱心にやっていたらしい。その証がこの資料たちなのだ。一応自分がここの整理を担当されているので暇なときはいつも整理している。

 でも、一番の目的は室内にあるパソコンにある。古いボックス型の物で画面がまだブラウン管のパソコンだ。ハードは本体と別で電源もそこにあり電源を押すと起動に数分かかる。

 ボーっとパソコンの画面を眺めていると資料室の扉がノックされる。椅子から立ち上がり扉を開けるとそこには自分と同じくらいの年の女警官がいた。見覚えがある。確か生活安全課の人だった気がする。

 女警官は資料室を覗き込んで中を見渡す。

「暇ですか?」

「ここにいるときは大抵暇ですよ」

 仕事もほとんどないし。

「なら、この子預かって」

 そういうとフェイブを差し出してきた。

「いや、子供の保護はそっちの仕事でしょ」

 すると女警官をむっとした顔になる。

「刑事課と違ってこっちは忙しいの。手が空いてるなら手伝ってほしいわ。協力するって言うのは大切よ」

 ポンとフェイブの背中を押してそのまま扉を閉める。

「乱暴だな」

「?」

 フェイブは自分が置かれた状況を未だに分かっていない。

 この刑事課の扱いの雑はどこの警察署にもないだろう。刑事事件のほとんどが隣町を管轄にする所轄の刑事課が介入してしまい自分たちに仕事が回ってこないのだ。このままだとあのゲーマー刑事みたいに出世街道から外れて一生窓際勤務になってしまうのだけは避けなければならない。

「おにいちゃんはお仕事しないの?」

 素直な青色の瞳でこちらに素朴が疑問を投げかける。

 子供って怖い。言われたくないことを何の躊躇もなく言い放つ。心が痛む。

 なるべく子供には理想を語るべきなのだろうか?溜息を洩らしながらどうごまかそうか考える。

「・・・・・・ここは何?」

「フェイブには絶対に楽しくない場所だってことだけは確かだよ」

 こんなところにフェイブを預けてどうするつもりなんだよ。

「これ何!」

 暗い部屋で一段と目立つ光を放つパソコンの前の椅子に座ってキーボードに触ろうとする。

「ちょっと!それだけはまずいって!」

 急いで小さくて軽いフェイブの体を持ち上げる。

「何する」

「それは触っちゃダメ」

「そう言われると触りたい」

 その気持ちは分からなくもないけど、そのパソコンは警視庁の犯罪者の名簿とか事件のファイルとかを閲覧できる専用のパソコンだ。下手に触って壊れたりでもしたら後々面倒だ。こんな型の古いパソコンの修理なんて無理そうだし。

「ねぇ、ヤマッシーが幼女を襲ってるよ」

「こんな密室に幼女とふたりでいる山下っちはやっぱりロリコン」

「聞こえてるぞ、お前」

 自分のドスの利いた威嚇に扉の隙間から覗いていた愛田さんと神矢は逃げ出した。なんかここにいるとマジで人間として失格になりそうなんだけど。

「おにいちゃん!これ触りたい!」

「だから、ダメだって!」

「いいじゃん!いいじゃん!」

 ああ、うるさい。暴れるな。

「分かったよ。自分の言われたとおりのボタンを押すんだぞ」

「わーい!」

 笑顔を見るとなんか癒される。

「山下。顔が幼女を狙う犯罪者だぞ」

「先輩はあのふたりとは違って大胆だから突っ込みに困ります」

 桧山先輩はあのふたりとは違い堂々と資料室に入ってきている。

「ここだと臆することなくゲームが出来るからな」

「あなたここに何しに来ているんですか?」

 刑事ってなんなのか分からなくなってきた。

「えい!」

「あ!ちょっと!勝手に触らないで!」

 再びフェイブの体を持ち上げる。

「いやー!おっぱい触らないで!」

「ないだろ!」

 自分がぺったんこな胸を触って興奮するわけないでしょ。どこがお腹で胸か分からない体しているくせに!

「10時27分。わいせつの疑いで現行犯逮捕だね」

「まったく幼女に手を出すなんて山下っち最低」

「お前らはどうでもいい時だけ仕事が早いな!」

 解放されたフェイブが好き勝手にパソコンをいじって遊んでいる。

「待って!フェイブ!それ以上そのポンコツで遊ばないで!」

 すると突然パソコンの画面が消えて真っ暗になり白い蒸気がパソコンから上がる。

「え?ウソだろ!何したんだよ!」

「10時29分。器物破損で逮捕だね」

「現時点でのフェイブを保護者は山下っちだから責任は山下っちにあるな」

「理不尽すぎるだろ!」

 そもそも、いつ壊れてもおかしくなポンコツだったんだぞ。ここの刑事課があまりにも仕事しないせいでパソコンを買い替えるだけの予算が下りないんだよ。

「お前らその辺にしておけ。課長がきっと探してるぞ」

「は~い」

「山下っち。これ以上フェイブに手を出したら俺が全人類の名に懸けて逮捕するから。女の子に悪さする奴は世界で一番許さない」

 女の子を毎日のようにころころ変えるような奴に言われたくない。

「山下。パソコン直しておけよ。直らなかったら自腹で買い直せよ」

「ひどくないですか?」

 愛田さんと神矢と桧山先輩は一斉に資料室から出ていく。いつも妙な静けさに支配されているこの部屋が一瞬だけ騒がしいものになった。

「お兄ちゃん。ここの部屋は本当に楽しくない部屋なの?」

 すごい満足そうな顔をしているんだが。

「ごめん、訂正する。この刑事課にいる限り暇はしないと思うよ」

 刑事という意味ではそれは終わっている発言だけどね。

 溜息が出る。

「幸せ逃げちゃうよ」

「大丈夫。自分はもう十分っていいほど幸せから遠ざかってるから」

 そう、あの事件の日から自分の周りで幸せだと感じさせれるようなことが起きたことはあまりない。今のシェアハウスにいるのは楽しい。でも、心から幸せだとは思えない。確かにあの家にいるのはみんな家族だ。まやかしであることは伏せておいて。

 溜息を洩らしつつパソコン前のパイプ椅子に腰かける。バンバンと軽くパソコンを叩いてみると簡単に画面が元に戻った。

「ポンコツな機械は直すのに手間がかからなくていいや」

 すると自分の膝の上にフェイブが座って同じようにパソコンの画面に目をやる。

「いじるなよ」

「え~」

 なんか注意すると興味がわいて行動に移してしまいそうだ。じゃあ、逆に触っていいよって言ったらそれはそれで対処に困る。子供ってめんどくさい。

 膝に乗るフェイブの頭に顎を乗せてパソコンの調子を確認する。スリープ状態になっていたためパスワードを打ちこんで起動すると見たことのない画面が出てきた。一面真っ黒で部屋が薄暗くなければ起動しているのかどうかも確認するのが難しいくらい真っ暗な画面。目立つのは未だに砂時計マークが出たまま止まっているマウスポインターのみ。

「真っ暗。何これ?」

「さぁ~?」

 暇な時間が多いから警視庁のデータベースを見て暇つぶしをしていたら大方のデータには目を通している。

故障か?でも、何かを読み込んでいる。

すると真っ暗な画面の中央に表示されたもの。

「パスワードを打ちこんでくださいだって」

「う、うん」

 怪しげな画面の中央に白い長方形の文字を打ち込むすスペースが表示される。ウイルスに感染したのかと思いもしたが、このパソコンは外部との接続を絶っていて接続できるのは警視庁のデータベースのみ。ウイルスである可能性は低い。となると警視庁のデータベースの一部なのかもしれない。

 恐る恐るいつものパスワードを打ちこむ。エンターを押すがエラーが出た。

「パスワード違うって」

「打ち間違えたのかな?」

 もう一度同じパスワードを打ちこんでみる。だが、やっぱり同じエラーが出る。

 基本的にデータを見るときはパスワードが必要だ。それはすべて統一されているが、これは開くことが出来ない。

「どういうことだ?」

 普通じゃない。極秘ファイルなのかもしれない。でも、そんな極秘ファイルがこんな田舎の所轄のパソコンなんかで開くどころか表示される訳もない。

「フェイブ。一体何を押したの?」

「知らない」

 だよね~。

 さて、この画面をどうするべきだろう。画面を閉じるボタンはしっかり右上に表示されている。パスワードも3度目を間違えるとロックがかかってしまい警視庁に直接連絡して手続きやらいろいろ順序を踏まないと解除することが出来ないらしい。特にこんな普通じゃないような閲覧データのロックがかかってそれの解除の申請なんかしたら何を聞かれるかたまったもんじゃない。

「ねぇ」

「何?」

「何か押していい?」

 まぁ、ロックがかかるのはこのデータだけだし、別にいいかな。もしかしたら、ここまでフェイルを開いたフェイブなら開けることが出来るかもしれない。どんな極秘情報が入っているのか非常に気になるところだ。

「いいよ。さっきみたいにパソコンから煙が上がるようなことがなければ」

「分かってるよ」

 自分に笑顔を向ける。許しをもらえてわくわくする子供の顔だ。自分にもこんな時期があったのだろうか。あの事件以来、自分の中にあるのはただの復讐心だけ。ずっと、持ってきた信念だけが今の刑事という職に就くまで持っていくことが出来た。この子には自分のような目には合ってほしくない。フェイブだけじゃない。子供は復讐心だけ生きていくのは悲しすぎる。だから、誰もあんな目に合わせないためにも家族を殺したあいつらが許せない。

「えっと・・・・・F・・・・・A・・・・・E・・・・・B」

 FAEB。ああ、フェイブのことか。自分の名前を英語で書くことが出来るのか。さすが、外国人の血が流れているだけあるなと感心してしまう。ちなみに自分は英語は苦手なので最初にフェイブが日本語を話している姿を見て妙に安心した。

「これでどうするの?」

「エンターを押せばいいよ」

 まぁ、絶対に違うだろうけどね。こんな警視庁の重要機密を閲覧するためのパスワードがまさかただの幼女の名前のわけない。

 と思いつつフェイブの代わりにエンターを押す。

 すると画面が一瞬だけ歪んでマウスが砂時計マークになり何かを読み込んでいる。

「え?」

 しばらくすると黒い画面に無数のファイルが出てきた。

「嘘。開いた」

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