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妖狩りの少年  作者: 瀧野せせらぎ
新たな決意と歩み行く
3/17

02

 来栖がため息をついて、床を踏みならした。すると、彼の身体から白い光が迸り、広間の壁と床を覆う。

「神崎遊介。これから君には、ここにいる僕と〈三聖者〉に力を見せてもらう」

 そう言って、来栖は壁にできた階段を上がっていく。

「床や壁は、強化してあるから全力を出してくれて構わない」

 話を聞きながら、遊介は狛犬を警戒する。

「わかりました。天岐、離れてろ」

 猫は遊介の指示を聞き、彼の肩から飛び降りた。

 次の瞬間、狛犬に動きがある。遊介の方に向かって、一直線に駆けて襲いかかった。

 狛犬の前肢が、遊介の頭上に向かって降り下ろされる。

 ――ズンッ

 地面が大きく揺れた。衝撃で地面に走った亀裂は、すぐに修復される。

 狛犬の足の下で、赤みを帯びた黒い光が迸っている。

「…思ったより軽いな」

 光から声が聞こえ、狛犬が弾き――投げ飛ばされた。

 狛犬は壁にぶつかり、床に倒れ伏せる。そして、一枚の文字が書かれた紙になった。

 迸っていた光が収束していき、遊介の姿が露わになる。

「〈三聖者〉の力は、こんなものなのか?」

 壁の上にいる〈三聖者〉を見上げ、あくまで淡々と、抑揚のない声で遊介は挑発した。

「今のは小手調べだ」

 声と共に、真ん中の〈三聖者〉が降ってきた。彼の手には、何枚もの紙がある。

 手から橙色の光が紙に伝わり、それが紙に吸収されて鼓動した。

「行け」

 そう〈三聖者〉は言うと同時に、紙を放り投げた。

 紙は眩い光を放って、さっきと同じ狛犬に変化する。複数の狛犬が駆け、遊介を包囲した。

 狛犬の纏っている光の質量が、さっきとは比べものにならないほど大きい。

 ――グルルルッ、ガアッ!

 唸り声を上げていた狛犬たちが、一斉に遊介に襲いかかった。

 完全に囲まれた彼に、逃げ道は無い。

 しかし、遊介は落ち着いた様子で狛犬たちを見て言った。

「……さすがに、素手では捌けなさそうだな」

 いくつもの牙や爪が、彼を引き裂こうと空を走る。次の瞬間、橙色の光が爆発して広間を染め上げた。

「これは、さすがに……」

 光がおさまり、そう言いながら目を庇っていた腕を下ろした来栖は、驚愕で言葉を続けることができなかった。

 狛犬たちの中心に、倒れているはずの遊介の姿が無かったからだ。

 〈三聖者〉の二人も、来栖と同じ場所を凝視していた。

「うそ……」

 信じられないというような、愕然とした少女の声が聞こえてきた。

 ――パンッ

 不意に頭上で音が響き、そちらに視線がひきつけられる。

 そこには、胸の前で手を合わせた遊介がいた。

 狛犬たちに向かって落下しながら、右手で拳を作って左手に押し当てる。そして、何かを引き抜くように振り払った。

 それと同時に、右手から赤みを帯びた黒い光が激しく迸る。

 迸る光は握った手の内側から伸び、彼の腕と同じ長さになった。

「神威・摧破」

 言葉を紡ぐと同時に、右手に握った光を振り上げ、叩きつけるように振り下ろす。

 光が迸り、空を貫いて狛犬たちの中心に放たれた。直後、赤みを帯びた黒が狛犬たちを覆い、轟音と衝撃が広間全体を揺らす。

 光がおさまると、そこから狛犬たちが消失していた。床にできた一筋の亀裂が修復されていく。

 ――トンッ

 狛犬たちがいなくなった広間に、遊介が着地する音が響いた。

 彼の右手には、一本の刀が握られている。

「お前の力、こんなものじゃないだろ?」

 感情の見えない瞳で、遊介は狛犬を操っていた〈三聖者〉を見て尋ねる。

 〈三聖者〉は黙ったまま、文字の書かれた紙を取り出した。手に橙色の光が宿り、紙に吸収されていく。

 それを見た遊介は刀を構え、その刀から赤みを帯びた黒い光が迸る。

「そこまで!」

 上から制止の声が響き、二人の前に壁が生まれた。

 遊介と<三聖者>は同時に上を見上げる。

「彼の実力は、十分に見ることができたはずです。<狗神>、呪符をしまってください」

 来栖の指示を聞いた〈三聖者〉は、手に持っていた紙をローブの中に入れた。

 来栖の視線が、刀を持っている遊介に移る。

「君も、刀をしまってくれ」

 遊介は刀を横に振り払い、手を放した。

 刀が赤黒い光に変わり、彼の胸に潜り込む。

 深く息を吐くと、彼の瞳に宿っていた鋭い光が和らいでいった。

 その様子を見た来栖は、目を閉じて厳かな声を広間全体に響かせる。

「……それでは、<三聖者>に問います。神崎遊介を新たな<神官>として、<神楽>に迎えることを許可していただけますか?」

 来栖の答えに、〈三聖者〉は――

「……いいんじゃない?〈狗神〉を相手に、ここまでできるんだから」

「そうだな。さっき放った霊力は、並大抵の技量ではない」

 壁の上にいる〈三聖者〉二人が承諾した。それに頷き、来栖は残りの一人に視線を移す。

「……異論は無い」

 そう短く〈狗神〉と呼ばれる〈三聖者〉は、来栖に言った。

 それを聞いた来栖は、床を踏み鳴らした。床と壁を覆っていた白い光――霊力が消える。

「〈三聖者〉全員に承諾を受けた。よって、神崎遊介。君を新たな〈神官〉として、〈神楽〉に迎え入れる」

 その言葉を聞いて、遊介はホッとしたような表情になり、すぐに顔をひきしめて答える。

「はい」

「それでは、上がってきたまえ」

 そう言って、来栖は手を横に振り払った。

 壁に白い霊力が流れ、壁の一部が階段へと変化する。

 視界の端で橙色の光が迸った。

 一匹の狛犬が現れ、〈三聖者〉を背中に乗せて壁の上へ跳躍する。

 それを遊介は、目の前に現れた階段を上り始めた。猫がニャーと鳴いて、その後に続く。

 一人と一匹が一段ずつ上っていくと、それに合わせて階段の段が壁に戻っていった。

「ついて来たまえ」

 遊介と猫が階段を上りきると、そう言って来栖は歩き始めた。

 その後に続いて、すぐ近くの道へ入っていく遊介の肩に猫が飛び乗る。

『あの人間、さっきの〈三聖者〉とやらには及ばないが、それなりの力を持っているぞ』

 普通の人間には聞こえない声で、猫は遊介に話しかけた。

 返事をする代わりに遊介は頷き、目の前を歩く来栖の背中を見る。

(師匠の知り合いだけど、しっかりしてる人だな…)

 しみじみと思ってしまった。

「そういえば、不知火はどうしたんだ?一度は戻ってくるよう、言っていたんだが」

 突然の質問に、遊介は気まずくなりながら答える。

「えっと、実は、すぐそこまで一緒に来たんですけど……」

 来栖が深いため息をついた。

「あいには言いたいことが、山ほどあったんだがな……」

 その呟きを聞いた遊介は、顔にひきつった笑顔を浮かべた。

「まあ、それはいい。ところで、君が不知火と出会ったのはいつだ?」

「確か、三年前です」

 そう答えた遊介の顔が、僅かにかげった。

 三年前、それは家族を失った年でもあるからだ。

 猫の尻尾が遊介の頬を撫で、瞳で尋ねてくる。

 それに頷いて、来栖に不知火と出会った時のことを話し始めた。

「ちょうど、妖狩りをしてたところに乱入して来て、「失せろ」って炎で焼かれそうになりました」

 すると、来栖の方から苦笑する気配がした。

「…あいつらしいな」

 それを最後に、道の奥にあった扉を来栖が開けて入った。

「ここは僕の部屋だ。全国に出現した妖の情報が集まり、それを僕が君たち〈神官〉に割り振る」

 来栖は遊介に説明しながら、部屋の奥にあったデスクについた。

「お疲れさまです。来栖」

 いきなり女性が現れ、それに遊介が驚いていると、来栖はペンと書類を用意しながら女性に質問する。

「不知火の行方は、どこへ向かったかわかったか?」

 女性は首を横に振って答える。

「さすが不知火君と言うべきなのか、消息は全くつかめなかった」

 驚いた様子も無く、来栖は女性と話をしている。二人の様子を困惑しながら、遊介は交互に見た。

 その様子に気がついた来栖が、女性を紹介する。

「ああ、彼女は中村京子。僕の秘書だよ」

 書類にペンで何かを書き込んでいく。

「いきなり彼女が現れたのは、彼女の能力だ」

 来栖は言い終えると同時に、書き終えた書類を女性――中村に渡した。

「彼を仮の部屋に案内してくれ」

 それを聞いた猫が、人間の声で聞く。

「仮の部屋? なんで仮の部屋なんだ?」

 遊介はギョッとし、来栖と中村の視線が猫に向けられた。

「別に仮の部屋でなくても、問題ないだろ。なんで、仮の――むぐっ」

「あ、天岐。喋ったら」

 気にした様子もなく、話し続けようとする猫の口を、遊介は慌てて手で塞いだ。

 猫は黙り込んだ。

 視線を猫に向けている二人に、どうやって誤魔化そうかと焦って考える。

「人語を喋る猫、それは君の式か?」

「は、はい」

 聞かれたことに咄嗟に頷いた。

 式とは、紙などの依代に一時的に命を与える技だ。

 本当は全く違うのだが、色々と理由があってややこしいので、遊介は嘘をつくことにした。

 猫から視線を動かさずに、来栖が遊介に質問する。

「そうか…。人語使うとなると、式神だな。他にも、持っているのか?」

「僕の式神は、この一体だけです」

 遊介の答えを聞き、来栖は納得して猫の質問に答える。

「基本的に妖の退治は、二人一組が原則だ。組む相手を選ぶので、今日は仮の部屋を使ってもらう。いいな?」

 遊介は頷き、猫の方に視線を移動させた。猫は興味が無さそうに毛繕いをしている。

「それじゃあ、彼を仮の部屋に連れていくわ。私が戻るまで、そこの書類に目を通しておいて」

 中村がデスクの上の書類を指さして言うと、来栖はため息をついて書類を手に取った。

「ついてきて」

 中村は遊介に、そう言って彼の横を通り過ぎて行った。

 遊介は来栖に礼をして、中村の後に続く。

 中村と共に部屋を出て、遊介は隣の部屋に入った。何も無い殺風景な部屋だ。

「…ここが、仮の部屋ですか?」

 思わず聞いてしまった遊介に、中村は首を横に振って言う。

「今日、あなたに使ってもらうのは、こことは別の部屋」

「じゃあ何で、この部屋に僕を連れてきたんですか?」

 遊介が質問すると、中村はスーツのポケットからメジャーを取り出した。

「服を作るから、採寸させて」

「なっ、ちょっ……!?」

 言うが早いか、中村は遊介の身体にメジャーを当て始めた。

 まずは肩から手首、次に肩幅。そんな具合に採寸していき、中村はメジャーをポケットに入れた。

 別のポケットからペンとメモを取りだし、何かを素早く書き込んでポケットに入れる。全く無駄の無い動きだ。

「終わった。服は、明後日には届くから」

「あっ、はい」

 年上の女性の顔が目の前にあったので、思春期特有の気まずさで、遊介は返事をするのが少し遅れてしまった。

 中村のほうは気にした様子も無く、ドアを開けて部屋から出る。

「早く出て。鍵閉めるから」

 ポケットから鍵を取り出し、遊介に見えるように手で持った。

「あっ、はい」

 急かされて、慌てて遊介も部屋から出た。

 ――ガチャンッ

 流れるような動作で中村はドアを閉め、鍵をかけてポケットに鍵を入れる。

 一つ一つの動作が無駄の無い動きだったので、遊介は不意にロボットを頭に思い浮かべてしまった。

「そういえば、あなた名前は?」

「えっ?」

 突然の質問に、思わず聞き返してしまった。

「あなたの名前、さっき来栖君から聞き忘れたの。教えて」

 質問と質問した理由を説明され、理解した遊介は中村に自己紹介する。

「神崎遊介です。…って、僕が結界の前にいた時、確か来栖さんのへやにいましたよね?」

 結界には映っていなかったが、紹介状を読み上げた女性の声は、確かに彼女のものだったはずだ。

「……そうだったわね。私、忘れっぽいの」

 考えるそぶりを見せた後、中村は遊介に謝った。

 その様子を見た遊介は、なんとなく違和感を感じる。

 今まで気がつかなかったのだが、彼女の気配が薄いような気配がしたのだ。

(霊体が薄いのか…?)

 思考に入りかけたところで、中村が歩き始めたので、思考を中止して遊介は後を追って歩き始める。

「不知火君の弟子って、大変だったでしょ?」

「はい、すごく厳しかったです。それに、すごくいい加減で……」

 また遠い目になりかけ、それを猫が尻尾で彼の頭を叩いて止めた。

「でも、<神官>としては優秀なの。知ってるでしょ?」

「はい、そこだけは尊敬できます」

 正直な遊介の答えを聞いた中村は、クスクスと笑った。

「何かおかしかったですか?」

「ううん、不知火君が尊敬してるなんて言ったのは、彼の弟子であなたが初めてだったから」

「あー、なるほど…」

 他人に厳しいくせに、いい加減な性格。

 不知火に散々振回されれば、確かに尊敬なんてできないだろう。

(師匠の弟子か…。会ってみたいな)

 そう思っているのを察したのか、中村は遊介に言う。

「彼が連れてきた〈神官〉は、二人いるわ。明日、もし任務に出てなかったら、会えるかも」

「任務って、妖狩りのことですよね?」

 確信はあったが、念のために聞いてみた。すると、中村は首を横に振って答える。

「一人は封印で、もう一人の方は浄化」

 遊介の確信が揺らぎ始めた。

「他にも、要人警護があるわ」

 続いた言葉に、確信がが大きく揺らいだ。不知火から聞いた任務は、どれも妖狩りだったからだ。

「まあ、あの男の言ってたことだからな」

 猫が耳元で、とどめの一言を言い、遊介の確信が完全に粉砕する。

「あの、中村さん。封印とか浄化ができない場合、どうしたらいいんでしょうか?」

 と不安そうに聞いた。

 遊介の使う能力は、攻撃的で封印や浄化はできないからだ。

「個人の能力に適しているかどうかで、任務は振り分けられるから安心して」

 それを聞いて、ホッとする。

 安心したところに、新たな疑問が浮かんできたので、遊介は中村に質問した。

「そう言えば、さっき気になったんですけど、何で二人一組なんですか?」

 ただ単純に妖狩りをしたりするだけなら、一人でも充分なはずだ。

 少なくとも、遊介の使う能力なら。

「理由は簡単。一人よりも二人の方が、速やかに任務を遂行できるから。それに――」

 すらすらと遊介の質問に答え、言葉を切って少し不安そうな声で聞いてくる。

「時間のかかる封印や浄化は、それを行っている〈神官〉が無防備になりやすいの。その時の警護も必要だから二人一組。その事は、不知火君から聞いてない?」

「………」

 全く知らなかったし、不知火からも聞いていなかったので、遊介は黙り込んでしまった。

「…まあ、予想はしてたけど、三回は多すぎるわね」

 それを聞いた遊介は、心の中で呆れてしまった。

(……それは、さすがにひどいな)

 前の弟子二人と目の前に中村を、気の毒に感じてしまう。

「まあ、大した手間じゃないからいいんだけどね」

 そうは言いうものの、疲れたように深いため息をついた。

「でも、これだけじゃないのよ?不知火君ったら、ろくに報告書を書かないんだから。書いたとしても、適当で詳細がわからないし……」

 立ち止まって、ぐちぐちと文句を言い始めた彼女に、遊介は頭を下げて謝る。

「……すみません」

「どうして、あなたが謝るの?」

 いきなり遊介に謝られ、中村はキョトンとして質問してきた。

「僕は弟子ですから…。一応、師匠の代わりに謝っておこうと思って」

 気まずそうに答える遊介を見て、中村は噴き出した。

「あははは」

 いきなり笑いだした彼女に驚き、遊介は一歩身を退いた。

「ははは。君、本当に礼儀正しいね」

「そうですか?」

「うん。他の弟子二人は、毒づくか黙り込むかだったもん」

 中村に断言され、そんなに自分が礼儀正しいのか考えてみる。

 考えてみると、思い当たる節がいくつかあった。

 不知火の起こしたトラブルを、なぜか弟子の自分に愚痴られたり、借金を取り立てに来たヤクザを、なぜか代わりに相手させられたり。

 少しでも態度を崩せば怒られたり、嫌味を言われたり、脅されたりするのだ。

 しかし、よくよく考えてみると一番の原因は不知火の側にいたことだろう。少しミスしただけでも、拳骨や蹴りが飛んでくる。

 そんな状況が毎日続き、自分の穏和な性格も手伝って、いつのまにか普通になっていたのだ。

(別に悪いことでは無いんだろうけど……、褒められてもあまり嬉しくないかな?)

 経緯が経緯なので、どうも複雑な気分に遊介はなる。

「立ち話しちゃったわね。神崎君、行こうか」

 そう言って中村が歩きだしたので、複雑な気分のまま後に続く。

 来るときには気がつかなかったが、廊下の途中にエレベーターがあった。

 そのエレベーターに二人と一匹は乗り込む。

 エレベーターのドアが閉まると同時に、遊介の目の前に紙が突き出された。

 その紙には、建物の見取り図が描かれている。

「今から行くのは、ここ。私たち〈神官〉が暮らす居住スペース。一つの部屋を二人で使ってもらうのが規則になっているんだけど、神崎君は組む相手が決まってないから、今日は空き部屋の一つを使ってもらうわ」

 中村は指で場所を示し、説明をし始めた。

「居住スペースの下にあるのが、修練場。ここでは、自由に特訓ができるわ。居住スペースの上にあるのは、カフェテリアとか銀行。他にも雑貨店とかあるから、ここで任務の報酬を使って必要な物をそろえるといいわ」

 聞いているのが退屈なのか、猫は大きなアクビをする。

 中村の説明を聞いているうちに、エレベーターが止まってドアが開いたので、二人と一匹はエレベーターから降りる。

 エレベーターを降りた後も説明は続いた。

「私からは、こんなところかな。他にわからないことがあったら、ルームメイトに聞けばいいわ」

「はい、ありがとうございます」

 遊介が礼を言うと、中村は笑って言う。

「本当に、不知火君の弟子とは思えないほど礼儀正しいわね」

 中村は立ち止まり、ポケットから何かを取り出した。

「来栖君の仕事も終わった頃だろうし、私は戻るね。これ、そこの部屋の鍵だから」

 遊介が鍵を受け取ると、中村はエレベーターの方へと歩いていった。

 中村の乗ったエレベーターのドアが閉まったのを見て、遊介は鍵を開けて部屋に入る。

 入ってみるとベッドや本棚、テーブルがあるだけで殺風景な部屋だった。

「殺風景な部屋だな。……この部屋の床、あの来栖とかいう男の霊力が薄く張ってあるぞ」

 遊介の肩から飛び降りた猫が、床に爪を立てながら言う。

「まあ、部屋に関しては期待してなかったし、別にいいよ。それと、さっき中村さんから聞いた話だと床の霊力は、連絡用だってさ」

 言いながら遊介は荷物を床に起き、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 長旅のせいで疲れていたのか、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。

 その様子を見た猫はベッドに飛び乗り、寝ている遊介の横で丸くなった。

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