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ダブル・スタンダード  作者: 仁科三斗
第四章 姉たちの涙
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ルビコン

ルビコン、とは、もう引き返せない場所に入っていく、という意味です。

正確には、「ルビコンを渡る」と言いますね。

 「で、受けてきちゃったんですね、そのお話?」


 凛は、はあっ、と小さな溜め息をつきながら、呆れたような声で私を見上げた。毛利の部屋から戻ったあと、私は、早速、昨晩のお茶会メンバーの3年生3名を自分の部屋に呼び集めていた。

 毛利とのやり取りを説明すると、凛は難しい顔で腕組みをして考え込み、千鶴は目を輝かせて今後の展開を楽しみ、莉子は凛と千鶴を見比べて、ただおろおろしていた。


 「仕方なかったんだよ。あそこで晴香の名前を出されたら、応じるしかないだろ? クラスメートを見殺しにするのは、幾らなんでも寝覚めが悪すぎるし・・・。それに、毛利先輩にそこまで高く評価してもらえるっていうのも、4年生としては名誉なことだろ? 下級生冥利に尽きるし、ここであの方を助けなければ女がすたる、と感じたんだよ」


 相変わらず渋面のままじっと見つめている凛に向かって、私は困り果てた顔で釈明した。


 「いや、その気持ち、よくわかる! 困っている会長を助けるのは、道理に合ってるとアタシは思うな。それに、今朝の告発の件、ちょっとやり方が汚いんじゃないかって思ってたんだ。相手に異論があるなら、正々堂々と正面から言って来ればいいじゃないか。お茶会を潰すっていうことで、関係ない大勢の子たちまで巻き込むような、手段を問わないやり方には、心底、怒りを感じるよな。アタシは、毛利先輩への加勢、賛成するよ。理沙の行くところ、生徒会だろうが地獄だろうか、どこまでもアタシはついていく!」


 やや興奮したように頬を紅潮させて身を乗り出す瑠花に向かって、凛は淡々と言葉を紡いだ。


 「確かに、今回のお茶会の件は、私も、やり方が汚いとは思います。ただ、規律を厳しく、っていう大内先輩の考え方も、あながち間違っているとは言いがたいものがあると思いますよ。それに毛利先輩のお話から察すると、大内先輩は学校側のバックアップを受けている可能性もあるのではないかと思います。もし、そうなら、生徒会に入ることは、学校側と一線を画す立場を明確にする、ということと同じ意味を持ちます。いろいろな不都合が起こってくることも予想しなければなりませんよね。私自身は、部活に入っていないので、吉川先輩に従って生徒会に入ることには異論はありませんが、今、この時点で、どちらに加勢するかを鮮明にするのは、あまりにもリスクが大きいと思います。ここは、もう少し慎重に時間を掛けて判断してもよいのではないかと・・・」


 あまりに的を射た指摘に、さすがの瑠花も二の句が継げず、「むうぅ・・・」と小さく唸って黙ってしまった。


 「確かに凛の言うとおりだ。今、ここで毛利先輩に加勢する意思をはっきりさせることは、様々なリスクを伴うと思う。もうしばらく様子を見て、毛利先輩と大内先輩を秤にかけてから、加勢する相手を決めるべき、という意見も、私たちがこの学校で生き残っていくために不可欠な、とても現実的な考え方だと思う。でもね、だからと言って、私は、晴香を見捨てられないよ。あの子は、確かに軽いところはあるけれど、彼女なりにいろいろ考えているし、それに、あの子は、クラス委員としての義務感からかもしれないけど、これまでずっといろいろと私の面倒をみてくれた。私は、その恩義をないがしろにするようなことはできないんだ。どういう形になるにせよ、なんとか助けてあげたい」


 「浦上先輩を助けたい、という、吉川先輩のお気持ちもよくわかります。でも、浦上先輩がお茶会を潰す一因となったという事実が、もし、生徒の間に広まったら、私たちまで目の敵にされかねません。その点について、吉川先輩はどう考えておられるんですか?」


 凛は顔色一つ変えないまま、私の眼をまっすぐ見つめ返してきた。心の奥底までを見透かされるような、透き通った、そして厳しい視線だった。私の心の中で、ふと、「秋霜烈日」という言葉が思い浮かんだ。


 「現時点で、晴香たちの関与を知っているのは、先生たちと毛利先輩だけだ。少なくとも先生たちは、晴香たちが孤立するのをわかっていて、情報を生徒たちに洩らすとは考えにくい。毛利先輩は、自分に加勢すれば、晴香の関与を忘れる、と言っている。そして、大内派が晴香の名前を自ら洩らすことはありえないと、私は思っている」


 私も凛の視線から目を逸らさなかった。


 「その根拠は?」


 「晴香たちの名前を出せば、その隣室の4年生が告発者だということが自動的に推測されてしまうだろう。つまり、告発者は、晴香たちの部屋の右隣と左隣の合計8名に絞られるわけで、その中で、誰が大内派に近いか、なんていうことは、すぐに見当がついてしまうはずだ。当然、晴香も恨まれるが、告発者も恨まれることになってしまう。私は、大内先輩がどういう人となりかはよく知らないが、彼女が生徒会を辞めたとき、上級生や下級生が何名も退会したんだろ? そういう同調者がたくさん出るほど彼女は人望があった、ということから考えると、トカゲの尻尾切り、みたいな卑怯なことをする人ではないんじゃないか」


 「大内先輩は、そんなことする人ではないですよー。どっちかって言うと、瑠花姉さまみたいな直情径行型の方ですから・・・。私の入ってるフェンシング部の6年生の先輩と大内先輩がとても仲が良くて、二人で話しているのを何度か傍で聴いたことがありますけど、とっても後輩思いだし、学校の先行きのことも心配してたし、裏から手を回すのは嫌いな感じでしたよ。だから、今回の件も、大内先輩が絡んでるとは思えないんですけど・・・」


 いつもと変わらない明るい口調で、千鶴が話に加わってきた。


 「たぶん、大内先輩が画策したことじゃないんだろうな。おそらく、大内先輩に良かれ、と思って、周りの取り巻き連中が独走したんだろう。千鶴の話から考えると、大内先輩は後輩思いだということらしいから、暴発してしまった友人たちを見捨てるのはあまりに忍びないと思って、やむを得ず追認した、というところなんじゃないかな」


 「ちなみに、お姉さまたちが生徒会に入られるんだったら、私もお供しますよー」


 「だって、お前、フェンシング部はどうするんだよ? せっかく、今まで続けてきたんだろ? こんなことで辞めちゃっていいのかよ。その程度のものでしか無かったのか、お前にとってのフェンシングって!」


 自分の隣でにこやかに微笑んでいる後輩を眺めて、瑠花が少し怒ったような声を出した。


 「別に今回のことだけで決めたわけじゃないんですよ。私、部活で浮いてて、そろそろ身の振り方を真剣に考えないとヤバイかなぁって、思ってたところだったんです。私、部活で一番、試合の成績が良いんですよー。先輩や同級生たちは、試合であまり良い成績が出せなくって、それで、なんとなく妙な雰囲気になっちゃってて、私、最近、いろんな雑用をたくさん押し付けられるようになってたんですよねー。理沙先輩と初めて会った時も、雑用やらされてて、私ひとりだけ帰りが遅くなってたんですよ。このまま嫌な雰囲気の中で部活続けていくのも、なんだかなーって思ってたところなんです。それにフェンシングは、区のクラブに入れば続けられますし、嫌な思いしてまで、部活で続けたいとは思いませんね」


 随分と深刻な話にもかかわらず、千鶴自身は大して意に介していないかのように、明るい口調で話している。別に無理にそうしているわけではなく、おそらく彼女自身の、楽天的で、サッパリした、思い切りの良い性格が滲み出ているのだろう。


 しかし、だからと言って、帰るべき場所を持つ後輩まで、道連れにすることは、私にはできなかった。 


 「私と行動をともにすると、これからずっと茨の道だよ。私や瑠花は、部活に入っていないし、失うものはさほど多くはない。でも、千鶴や凛や莉子はそうじゃないだろ? 千鶴は部活を辞めなきゃいけなくなるし、凛や莉子はこれから起こってくるかもしれない、いろいろな荒波に揉まれなきゃいけなくなる。そうわかってるのに、後輩をみすみす危険なところに引っ張って行くわけにはいかないよ。無理してついてくることはないんだ」


 私は、3年生たちの顔を順に眺めながら、諭すように言葉をつないだ。


 「そんなことは、覚悟していますよ。でも、平穏無事な人生じゃ絶対に経験できないことだ、って思うと、今からワクワクしてきますよ! それに瑠花姉さまと一緒なら、どこでも天国ですからっ!」


 千鶴は嬉しそうに声を上げると、わざとらしく瑠花の腕にしがみついた。


 「もうっ、まったく楽天的なやつだな。どうなっても、アタシは知らないぞ!」


 瑠花は少しばかり顔を赤らめて、にこにこ笑う後輩を腕から引き離そうとしたが、千鶴はまったく動じなかった。


 「どうかなったら、瑠花姉さまがきっと責任を取ってくれますから、なんにも心配してないですよー」


 瑠花はますます顔を赤らめて身をよじり、凛は苦笑いし、莉子はびっくりしたあとで、おかしそうに少し声を立てて笑った。千鶴の無邪気な言葉ひとつで、その場の雰囲気がまったく変わったのを、私は少し驚きながら眺めていた。


 「ところで、莉子はどうする? きっきも言ったように、今までみたいにのんびりと生活できなくなるかもしれないけど・・・。無理しなくて良いんだよ。生徒会に来なくたって、莉子は、私たちの友達だから、何も心配しなくて良いよ」


 私は、ひときわ優しく莉子に語りかけた。作り笑顔なんかじゃない。昨晩のお茶会でよくわかったのだが、この子の繊細さと優しさは他の子より格段に強いものなのだ。それを大切にしながら、この子を伸ばしていってあげられれば、と、心の底から思う。


 「・・・あの、私も部活、入ってませんから・・・。それに、このままだったら、たぶん、今までみたいに静かに暮らせるかもしれないけど、でも、私は何も変われないと思うんです。いろいろ、大変なことがあるかもしれないのはわかります。でも・・・私も一緒に連れてってください。足手まといになっちゃうかも、ですけど、駄目ですか?」


 千鶴や凛が話している間に、莉子は自分なりに考えて結論を出していたようだった。周りの少女たちを見つめながら、この子には珍しく、まったく躊躇なく、そして、はっきりとした口調で答えた。


 「そこまで莉子がきちんと考えているなら、一緒に行こう! ただし、何か困ったこと、心配なことがあったら、必ずすぐに私に相談してほしい。それが約束できる?」


 莉子は慌てたように、うんうんっ、と何度も大きく頷いて見せた。その様子を見て、私だけでなく、他の少女たちも思わず微笑んだ。


 「それから、朱里と千尋は、部活に入ってるから、巻き込むつもりは無いよ。それに、部活には、きっと大内派の先輩もいると思うし、自分の立場をはっきりさせるのは危険すぎるから、今回の件には、表立って協力してくれなくて大丈夫だよ。陰でこっそり助けてくれるだけでありがたいから」


 先ほどから私の隣で表情を微妙に曇らせていた二人は、私の言葉を聞いて、申し訳なさそうな黙って頷いたが、おそらくほっとしているはずだ。自分たちの事情を抱えている彼女たちまで巻き込むことは、絶対にあってはならないのだ。


 「そこで、騎馬戦の戦術について相談したいんだけど、このまま全員で話していると、お風呂に入る時間がなくなりかねないと思うんだ。そこで、まずは、千尋と朱里に先にお風呂に行ってもらって、次に私たちがお風呂に行くっていう交替制にしたらどうかと思うんだけど、どうかな?」


 (これ以上、千尋と朱里をこの話に巻き込んじゃいけないからなぁ。それに、後々、部活内の大内派の先輩たちから、「なんであのとき戦術を教えてくれなかったの!」なんて、彼女たちが難詰されることになってもいけないし・・・。彼女たちを風呂に行かせておけば、戦術の内容を聴けないわけだから、後で先輩たちに詰問されたときに、彼女たちきちんと抗弁できるはずだ。私たちと先輩の板挟みにあって、千尋と朱里が苦しむようなことだけは絶対に回避しなけばいけない・・・)


 「それじゃ、私たち、先にお風呂行ってくるね!」


 ようやく明るさを取り戻した千尋は、少しためらっている素振りを見せ始めていた朱里を急き立てるようにして準備をさせると、そそくさと部屋を出て行った。彼女は、私なりの配慮にそれとなく気づいたのかもしれない。もともと勘の良い子なのだ。


 「それで、だ。騎馬戦の戦術なんだけど、毛利先輩から聞いたところによると、赤軍、青軍とも、各学年から3騎ずつ合計12騎が出陣することになるそうだ。3年生たちは知ってると思うけど、毎年、両軍とも殆ど動きが無いまま、時間切れで引き分けになっているらしい。だけど、今年については、毛利先輩は明らかな大勝利を求めているんだ。どのような戦術を採ったら良いと思う?」


 私が意見を求めるや否や、すぐに瑠花が手を挙げた。


 「そんなの、簡単じゃないか! こっちから全軍で一気に総攻撃を仕掛ければ良い! アタシと理沙が先頭に立って打って出れば、他の騎馬もきっとついてくるはずだ。それで、ダーッと走って、バーッと突っ込んでいけば良いんだよ!」


 胸を張って自信満々に語る瑠花を、残りの4人は非常に微妙な表情で見つめていた。


 「あの、あのさ、瑠花・・・。ダーッと走って、バーッと突っ込む、って、具体的にはどうするんだ?」

  

 「わかんないかなぁ? だからさ、ダーッと走って」


 「いや、それはわかったんだけど、もっと具体的に説明してくれないと、私たちはわからないからさぁ・・・」


 瑠花は、じれったそうに二、三度、頭を振ると、再び胸を張って、自信ありげに口を開いた。


 「こういうのは、感覚なんだよ、感覚! バトルでは感覚が物を言うんだ! そういう感覚を言葉でなんかいちいち細かく説明できないよ!」


 私を含めて、残りの四人は期せずして顔を見合わせて、「だめだ、こりゃ」、「やはり脳筋・・・」とでも言うかのように、小さな溜め息をついた。


 「ええと、要約すると、瑠花は、こちらから全軍で総攻撃をかけて一気に正面突破を図る、という戦術だと思うけど、凛は、どう思う?」


 凛は顎に手を当てて難しい顔で、上目づかいに私を見上げた。


 「確かに相手が打って出てこない以上、こちらから仕掛けるしか方法は無いですね。赤松先輩と吉川先輩に先鋒をつとめて頂いて、早い段階で一気に中央突破を図って、相手の大将、つまり河野先輩を打ち取ってしまうのが定番かな、と思いますね。ただ、問題は、味方の他の騎馬がきちんとついてきてくれるか、ということです・・・。みんな、自分から攻めていくのを怖がりますからね・・・。あと、もうひとつの心配は、その場の状況に合わせて戦い方を変えないといけないんですが、そういう指示をどうやって全体にまで行き渡らせるか、ですね」


 「その点は、私も心配なんだ。私たちだけ突出して、他の味方の騎馬がついてきてくれなければ、相手の餌食になるだけだし・・・。それは、もう、私と瑠花で、みんなを説得して安心させるしかないかなぁ・・・。指示については、私に考えがあるんだ。大きな賭けかもしれないけれど、伝令役の騎馬を1騎確保しておくのはどうかな? 戦いには参加せず、情報伝達の役割だけを担うから、その分、戦力は減ってしまうけれど・・・」


 「伝令を置くのは賛成ですね。こちらには、赤松先輩と吉川先輩という、名前が知れ渡っているお二人がおられるから、その分、相手はひるむと思います。だから、1騎ぐらい少なくても、まあ、互角なんじゃないかと思いますね」


 凛は少しだけ表情を和らげると、顎から手を放し、両手を膝の上に置いた。 


 「あと、騎馬の配置については、私にひとつ案があります。試合の時には、赤軍と青軍で、同じ学年同士を向い合せに配置することになります。つまり、赤軍の6年生と青軍の6年生が向かい合う形になるわけなんです。第一試合では、これまでの慣習どおりに配置にしますが、第二戦では、試合開始と同時に配置を入れ替えて、こちらの6年生と相手の1年生がぶつかるようにすれば、おそらく相手は身動きできなくなると思います。ただし、この作戦は、相手の裏をかくことが目的なので、1回しか使えませんが・・・」


 「つまり、こちらの6年生と相手の1年生、こちらの4年生に相手の3年生、をそれぞれぶつけるわけか。でも、それは、こちらにとっても、同じダメージを受けるんじゃないのか? こちらの1年生は相手の6年生にぶつかるわけなんだし・・・」


 凛は初めてにこりと笑うと、私と瑠花を交互に眺めた。


 「だからこそ、お二人には、それぞれ1年生と3年生の援護に入って頂きたいんですよ」


 「なるほどな! それなら、なんかといけるんじゃないか? アタシがこっちの1年生の中に入って、相手の6年生にぶつかるよ。理沙は、こっちの3年生の中に入って、相手の4年生とぶつかってくれないか」


 瑠花は、先ほどから腕組みをして、「うーん」と唸りながら、私と凛のやり取りをじっと聞いていたが、ようやく明るい声で話に加わってきた。


 「わかった。それじゃ、取りあえず、その案を毛利先輩に説明してみるよ」


 私は、内線電話の受話器を取り上げて、毛利の部屋番号のボタンを順にプッシュしていった。



 「この案はよくできているわね・・・。確かに配置を入れ替えるというのは斬新なアイデアだし、それは良しとしましょう。でも、中央突破は、現実問題として、とても難しいと思うわ。たぶん、いくらあなた達が説明しても、みんな怖がって二の足を踏んでしまって、あなた達についていかないわよ。伝令を置くのは良いけれど、その重い役目をきちんと遂行できる人がいるのかしら?」


 私が毛利の部屋に電話を入れると、彼女はすぐに自分からこちらの部屋に出向いてきた。そして、戦術について私から説明を受けると、非常に険しい顔で私を見据えた。


 「確かによく考えられている案なのよ。でもね、あまりに、まともすぎるのよ。定番中の定番という感じなの。もう少し、相手の裏をかくような、小狡こずるいアイデアが無いと、明らかな形では勝てないと思うわ。この案、考えたのは、たぶん黒田さんでしょ?」


 凛は、黙って小さく頷いた。


 「やはり、そう。あなたは、真面目でまっすぐな性格だから、相手を騙すような策略は苦手なのよね。それは悪いことじゃないのよ。正攻法が通じる相手であれば、それは大いに役立つと思うわ。でも、今回は、正攻法では圧勝できないの。それとね、吉川さん、あなた達の雰囲気って、あまりに暗いのよ。こうして話を聞いていても、なんかお通夜に来てるみたいな感じでしょ? 小寺さんを除いて、どらちかと言うと、落ち着いて静かな子が多いのはわかるけど、これでは、他の子たちの気持ちが盛り上がらないわよ。あなた達に必要なのは、とにかく底抜けに明るくて、理屈なしにみんなに愛される、そして、少し狡猾なところもある、そういう子ね」


 「おっしゃることはわかりますが、それは、無いものねだり、なんじゃないですか? 贅沢を言えばきりがありませんよ。それに、毛利先輩がおっしゃるような資質を持った生徒なんて、滅多にいるものではないと思いますが・・・」


 あまり高いボールを投げ掛けられて、私はさすがに少しムッとして毛利に反論したが、彼女は、そんなことは想定済み、とでも言わんばかりに、意味ありげに笑い返してきた。


 「あら、いるじゃないの、そういう子が・・・。これから、その子を呼んで、作戦を考えてもらいましょうか。私が電話して頼んでみるわ」


 毛利が電話で呼び出した少女は、私たちの想像を超えた人物だった。


 私たちは、毛利の器量に改めて驚かされると同時に、その人物が立てた戦術にも大いに驚愕させられることになった。 

一週間ぶりの更新です。このペースで更新していくのが、平日は仕事で帰宅の遅くなる私にとっては、最も適しているように感じています。


さて、お話では、いよいよ理沙たちの吉川派が旗上げすることになりました。ただ、毛利会長の見るところでは、まだメンバーのバランスが悪い様子です。「第6の少女」は、一体、誰なのでしょうか? 次話で新キャラクターが登場するのでしょうか? 

 乞うご期待です!!

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