玉座の資質
前日までの、アンニュイだけど、どこかのどかな雰囲気と様変わりして、その日の講義の間じゅう、少女たちは始終ざわめていた。
もともと学校の授業と異なり、テストに出題されることのない内容なので、生徒たちは緊張感が持てないうえ、昨晩のお茶会の一件で、彼女たちは激しく動揺しているのだ。
それは、やむを得ないのかもしれない。長い間続いてきた伝統が、自分たちの代で消滅してしまうのだ。動揺するな、と言うほうが酷なのかもしれない。実際、生徒たちは、この夏の夜のお茶会をとても楽しみにしていたし、現に朱里などは事前に十分すぎるほどの準備を整えて、林間学校に臨んでいるのだ。
講義中、私のところを通過して、何度も手紙が行き来していた。いくらスマホが普及しても、講義中に教師の目を盗んで手早くメールを打つのは、やはり容易ではないようで、手紙というアナログな通信手段が未だに使われているようだ。
こういう手紙の中身を読まないのが、彼女たちの礼儀らしいので、私も内容までは知らないが、お茶会の件について語られているだろうということは、容易に想像がついた。
彼女たちは、休み時間になれば、仲の良い友達同士で集まって小声で話し込んでいたし、昼食や夕食の間も、その話題で持ちきりだった。
昨晩のマナー違反の張本人は誰なのか、告発者は誰なのか、生徒会長はどうするのか、そして、生徒会の分裂の行方について、誰もが小声ながら熱っぽく語っていた。
マナー違反の張本人たちは、おそらく生きた心地もしなかっただろう。自分たちの失態によって、学校の古き良き伝統が途絶してしまったのだから。
ただ、不思議だったのは、少女たちがどんなに熱心に犯人捜しをしようとも、告発者側からの情報リークが全く無かったことだ。そして、いつまで経っても犯人がわからないことが少女たちを苛立たせ、動揺と憶測を長続きさせることに繋がっていた。
私や瑠花は今年からの編入生なので、お茶会に対する思いはまださほど強くはないが、他の生徒たちにとってはお茶会の廃止は大問題なのだ。林間学校の間じゅう、この話でもちきりになることは明らかだった。
それはともかくとして、最も気の毒だったのは、心からお茶会を楽しみにしていた朱里だ。すっかり落胆して、噂話に関わることもなく、時折、溜め息を漏らしながら、ただ、ぼんやりと一日を過ごしていた。昨晩の楽しそうな姿を見ているだけに、そんな朱里の悲しそうな姿は見るに堪えないものだった。
夕食後、約束通り、私は毛利の部屋に向かった。どんな用向きで呼び出されたのかは判らないが、少なくとも楽しい話ではないことは、容易に想像がついた。それゆえに、私が自分の部屋を出るとき、後に残った3人の同室者たちは心配そうな眼差しで眺めいた。
今日は気分の上向かない朱里でさえ、私に「気を付けてね」と言葉を掛けてきたし、瑠花に至っては、「何か身に危険が迫ったら、すぐに短縮ダイヤルで知らせてくれ」と言って、自分の携帯番号を私に登録させる始末だった。
ただ、私自身は、不思議と静かな気持ちだった。明鏡止水とでも言うべき境地かもしれない。楽しい話ではないにせよ、叱責されるために呼ばれるのではないだろうし、2回だけでも二人で話してみて、彼女の聡明さがよく判ったので、そう無体なことは言われないだろう、という読みもあった。
毛利の部屋のドアの前に立ったときには、さすがに緊張して、なかなかノックができなかった。
(一体、何を緊張しているんだ、私は・・・相手は、自分よりも四半世紀も歳下の少女なのに・・・。まるで役人時代に局長室に呼ばれたときみたいだ・・・。まあ、この狭い世界では、この中にいる少女が、まがりなりにもボスなのだから、仕方ないか・・・)
部屋の中に置かれた木製の豪華なデスクに腰かけて、未決箱に山積みされた書類を、難しい顔をしながら片端から読んでいく毛利「局長」を一瞬想像して、私は柄にもなく苦笑した。
意を決してドアをノックして、「吉川です。参りました」と名乗ると、いつもと全く変わらない声で「どうぞ、入って」という返事が聞こえた。
室内には毛利しかおらず、テーブルの上には、二人分のティーカップが用意されていた。
(・・・これは、長い話になりそうだな・・・)
「そこに掛けて、少し待っていてね。お茶は、アールグレイで良かったかしら?」
「ええ。アールグレイはとても好きです。ありがとうございます」
毛利がティーポットからカップにお茶を注ぐと、香水のような美しい香りがふわっと広がった。
「お砂糖はいくつ?」
「あ、私は、砂糖は入れないので・・・。お気遣い、ありがとうございます」
「そう。あなたも、紅茶、好きなのね」
毛利は少しだけ嬉しそうな声で呟くと、私の向かい側の椅子に座り、ゆっくりとティーカップを口元に運んだ。その花のような美しい唇を何気なく見つめてしまい、私は慌てて視線を逸らした。
「ティーポットはウエッジウッド、カップはマイセン、といったところですか。値段もさることながら、ご自宅から持ってくるのはさぞ大変だったでしょう?」
黙って目を瞑り、静かに紅茶を味わっている毛利を前にして、私は場が持たなくなって口を開いた。
「やはり、あなたには価値がわかるのね、なんとなくそんな気がしていたわ・・・。陶器はそれなりに重いし、割れ物だし、簡単ではなかったわ。でも、今年が、私の最後の林間学校なのよ。そう思うと、さして苦にはならなかったわ・・・」
毛利は切れ長の目をゆっくりと開くと、私をじっと見つめた。
「でもね、私は、そんな大切なお茶会を守れなかった。それは、ひとえに私の力不足によるもの。この学校に最後に残った、横浜時代からの美しき伝統を、私は守り抜けなかった・・・。後輩たちに対して、本当に申し訳ないわ・・・」
瞳を伏せると、毛利は自分の手のひらに視線を落とした。
「でも、それは、あなただけの責任ではないでしょう。今朝、クラスメートから聞いたばかりですが、これまでにいろいろな経緯もあったようですし・・・」
「そう。もう、少しは聞いているのね・・・。それで、あなたは、今回の件をどのように見ているのかしら?」
ティーカップを口元に運びながら、毛利は僅かに表情を引き締めた。
「うーん、不思議なことが少しあるような気がします。強いて言えば、あまりにもスムーズに話が頭に入ってくるのが、ちょっと気になりますよね。単に私の猜疑心が強いだけなのかもしれませんが・・・」
「それで、どこがどのように腑に落ちないの?」
「そうですね。まず、お茶会の件で、学校側にクレームが入ったのは、朝ではなく、お昼近くでしたね。うるさくて眠れなかったのなら、その場で先生を叩き起こして文句を言うか、遅くとも朝食までには苦情を言うはずです。それなのに、実際には、昼食直前というタイミングで、クラス委員が緊急招集されて、昼食のときにお茶会禁止が告知される、という、ちょっとドラマティックな形で事態が展開しましたよね」
毛利はティーカップを口元から離すと、目を瞑ったまま、口を開いた。
「朝食の前に問題が発覚すると、私やクラス委員たちの話し合いの時間が十分に確保できないからよ。朝食を遅らせて話し合いの時間を作ることになれば、1日の講義スケジュールすべてに影響が出てしまうだけでなく、おなかのすいた人たちから恨まれることになるわ。それに、先生たちだけで、お茶会禁止を決めることになれば、私をみんなの前に引きずり出して、責任の所在をアピールする機会が無くなるでしょう?」
「そう考えると辻褄が合いますね・・・。次に、不思議なのは、告発された側も告発した側も、関係者の名前が全く聞こえてこない点です。告発した側は、生徒たちから恨まれるのが嫌なので、先生に頼んで名前を秘匿してもらっているのかもしれませんが、告発された人たちが朝まで騒いでいたというのなら、近くの他の部屋の人も気づいていたはずです。そこから噂が広がってもおかしくないのに、そういう流れになっていませんよね」
「私も関係者の名前は聞かされていないのよ。先生に尋ねたのだけど、『そういうことは本質的な問題ではない』と言われて、教えてもらえなかったわ。まあ、だいたい、見当はつくけれどね」
「・・・告発したのは、大内さん、の関係者ですか」
大内の名前を聞くと、さすがに毛利は渋い表情になった。
「まず間違いないわね。夏帆は5年生だから修学旅行中だけど、あの子にシンパシーを感じている6年生、おおかた、河野遙あたりでしょうね」
「でも、生徒会を退会した人たちの中には、4年生も3年生もいたんでしょう? そういう人たちだという可能性もあるのでは・・・」
「こんな思い切ったことを画策できるのは最上級生だけよ。4年生や3年生は、万一、自分の名前が洩れてしまったら、5年生や6年生にひどく恨まれることになるのが判っているから、そんなリスクの高いことはさすがにしないでしょうね。それに、最上級生じゃないか、と、みんな薄々勘付いているからこそ、告発者の名前が取り沙汰されないのよ。自分が軽々しく推測したことを言うと、それがどういうルートで真の告発者に伝わって、後でどんな報復を受けるかわからない。今回の被害者のように、ね。だから、みんな黙っているのよ」
「報復って言っても、火の無いところに無理やり煙を立たせるような、そこまで強引なことはできないんじゃないですか? 今回は、実際にルール違反をしていた人がターゲットにされたわけですし・・・。なんだかんだと言っても、生徒会はあなたが率いているんですから、反対派の人たちも、そうそう無茶なことはできないんじゃ・・・」
毛利は黙って私の顔を見つめていたが、やがて、ふぅっと深い溜め息を漏らし、窓の外の闇に視線を投げかけた。
「あなたは、同い歳の子たちより遙かに頭も切れるし、ここ一番というときに勇気も出せる。でも、まだまだ、人のこころ、の機微にはあまり通じていないようね・・・。みんなが告発者を恐れて口をつぐんでいるのは、今ではなく、近い将来を案じているからよ。今回の件で、生徒会長としての私の威信に大きなキズがついた以上、次の生徒会長選挙で、私の後継者、織田咲良を破って、大内夏帆が当選する可能性が出てきた。みんな、それを本能的に感じ取っているの。女の子はすぐにグループを作るから、ぼんやりしてると、どこのグループにも入れないし、悪口を言われる対象も、ほとんど日替わりで目まぐるしく変わっていく。だから、みんな、自分が不利にならないように賢く立ち回ろうとする。生きていくうえで、そういう嗅覚が自然と発達するのよ。あなたも、わかるでしょう?」
「気分は政権交代前夜、ということですか・・・。確かに、前政権を支持した人たちは確実に干されて、報復を受けますね・・・。それで、毛利先輩は、どうされるおつもりなんですか? このまま手をこまねいているおつもりでもないでしょう?」
「座して死を待つつもりはないわ。私は、そんな臆病者でも優柔不断でもないし、むしろ諦めは悪い方だと思っているの。だからこそ、こうして生徒会長にも成り上がったのよ。降りかかる火の粉は、自分の力で振り払って、そして必ず叩き潰して消してみせる。私たちの学校をおかしな方向に持っていこうとする人たちに、生徒会は決して渡さない。それが、私の最後の役割だと思っているから」
私の眼をまっすぐ見つめながら、毛利は表情ひとつ変えず、しかし、私が彼女と初めて会ったときのような厳しい口調で言い切った。
「あなたには、私に加勢して欲しいの。それが、この危機的な状況を打開する唯一の切り札なの。あなたなら、いや、あなたにしかできないことなの。お願い、下級生たちの未来のためにも、私に力を貸して!」
一転して不安そうな表情に変わった毛利の、その美しい黒い瞳でじっと見つめられると、理性が揺らぎそうだった。おそらく、この子は、今までにも、こうやって自分の協力者を増やしてきたに違いない。色仕掛けとは違う。理路整然とした真剣な訴え、私益ではなく公益を尊重する言葉、そして、憂いを含んだ美しい瞳と長い睫毛が、相手の気持ちを溶かすのだ。
ただ、所詮は、少女の手練手管に過ぎない。官僚として、さまざまな人から多くの陳情や哀訴を受け、いろいろな政治家から懐柔されたり脅されたりした経験のある私には、彼女の「楽屋裏」は丸見えだった。
(・・・この子も切羽詰って必死なんだろうなぁ・・・。まあ、今、この子に加勢するのは、私にとっても、分の悪い勝負ではない。今なら、形勢を逆転させて、この子たちを優勢に戻すことも十分に可能だ。そして、ここで窮地に陥っているこの子に恩を売っておけば、この前みたいに私が学校で疎外されるリスクは大幅に減る。今は、通り魔事件のせいで英雄扱いだけど、いつ、また異端視されて叩かれる側に回らされるか、判ったもんじゃないからな・・・)
私が黙って考えを巡らせているのを、要請を断る口実を探して逡巡しているものと勘違いしたのだろう。毛利は、眉間に皺を寄せて少しだけ俯くと、苦渋に満ちた口調で声を絞り出した。
「このままだと、今回のお茶会事件で告発された、あなたのクラスメートの浦上晴香さんも厳しい立場に立たされてしまうわ。結果的とはいえ、私たちの学校の古き良き伝統を失わせてしまったわけなのだから・・・」
まったく予想もしていなかった名前に、私は仰天して身体をぴくりと震わせた。
「えっ、告発されたのは晴香たちの部屋なんですか?」
毛利は腕組みをしながら、深刻そうな表情で深く頷いた。
「ええ、おそらくは、ね・・・。私の掴んでいる情報を総合すると、彼女たちの部屋がターゲットにされたと考えるのが自然ね。浦上さんは、学校の中でも外でもいろいろと派手な子だから、規律を強化したいと思っている人たちは、かねてから苦々しく思っていたのよ。実際には、朝まで起きている部屋なんて、以前から、2つや3つ、必ずあったの。だから、こんなことは決して珍しいわけではないのよ。ただ、これまではね、そういう部屋があると、翌日に、私たち最上級生から指導して、表沙汰にならないように穏便に是正させてきたのよ。今回の件でも、彼女の名前が噂にならないように、私なりに懸命に手をまわして、彼女をかばってきたつもりなのよ・・・」
絞り出すような声で呟くと、私の心を瀬踏みするかのように、毛利は一瞬だけ視線を合わせ、そして、再び苦しそうな表情で俯いた。
(・・・そうか。これがこの子の切り札か。まあ、なかなかやってくれるじゃないか。私を手玉に取るなんて、なかなかどうして、たいした器量だ。それに、この子の理念もそれなりにきちんと筋が通っていて、共感も持てる。この子に加勢して、将来を預けてみるのも、なかなか面白いかもしれないな。少なくとも、あの毎日の退屈な学校生活とは、これでおさらばできるだろう・・・)
そうと決まれば、もはや躊躇は無用だったが、先のことを考えると、まだまだ「相場」をできる限り吊り上げておく必要があった。
私は、気の進まないような、そして、心底、困惑しきったような表情で、毛利をじっと見つめた。
「晴香は私とも仲が良いですし、彼女を助けるために、先輩に加勢申し上げたいのはやまやまなのですが・・・。どちらか一方に肩入れすると、後で私まで報復されかねません・・・。私にとっては、本当にとても大きな賭けになります・・・。私は、どこの部活にも所属していませんので、いざというときに守ってくれる親しい先輩もいませんし・・・。毛利先輩の理念には共感します。そして、できる限り、お手伝いしたいとは思いますが、私があからさまに前面に出て加勢するというのも、ちょっと・・・」
私に脈があることを感じ取ったのだろう。毛利は、目を輝かせて、身を乗り出した。
「それなら、きちんと考えてあるわ。決して、あなたを悪いようにはしない。あなた、生徒会に入る気はない? あなたなら、咲良のあと、私たちの想いをきっと受け継いでいってくれる、そういう素質を持っていると思うわ」
(将来、生徒会長になる目もあるから、協力しろ、ということか。これはまた大きく出たなぁ。まあ、今の生徒会には4年生がいないから、いくらでも「約束手形」を振り出すことはできるだろうな。でも、私の望んでいるのは、そんなことじゃない・・・)
「私は別にトップに就くことを望んでいるわけではありません。ただ、生徒会において、私たちの身柄を卒業まで責任を持って庇護して頂けないでしょうか、ということだけをお願いしたいのです」
「私、たち?」
毛利はやや怪訝そうに問い返した。
「はい。私が先輩に加勢すれば、私だけでなく、親友の瑠花も、私と親しい3年生たちも、報復のターゲットにされかねません。私は、自分一人であれば、獅子奮迅に立ち向かってみせますが、彼女たちまで巻き込むのはまことに忍びないものがあります・・・。この点、どうかご考慮頂けないでしょうか?」
(この提案は、彼女にとっても悪い話ではないはずだ。今の生徒会には、4年生だけでなく、3年生もいない。自分に忠誠を誓う生徒たちがその穴を埋めてくれる、というのは、むしろ、渡りに舟のはず・・・)
予想外の私の切り返しを受けて、毛利は、一瞬、棒を呑まされたような表情を見せたが、さすがに好機を逃す凡庸な器ではなかった。
「わかったわ。私や咲良を支え続けて行くと誓えるのであれば、あなた方を喜んで生徒会に迎え入れましょう。これは生徒会長としての名誉に賭けて約束します。一緒に闘って、生徒の自主性を尊重する良き伝統を守りましょう!」
今までの苦渋に満ちた表情がまるで夢であるかのように、毛利は晴れやかな、そして安堵した表情で笑った。
「今までの数々の無礼、どうかお許しください。これからは、毛利先輩のもとで、学校の良き伝統を守るべく、生徒会を盛り立てていくように努めてまいります」
私も、心の中では少なからず苦笑いしつつも、それでも、何かが吹っ切れたような清々しい気持ちで、笑顔で生徒会長を見つめた。
(官僚時代には、さまざまな規制を作って経済活動を統制する側にいた私が、この世界では、規制緩和を主導する側に身を置くことになるとはな。これも、何かの巡り合わせか・・・。とにかく、一度、決めた以上は、これまでの一切の経緯を捨てて、もはや全力で毛利を支えていくしかないな・・・この子はそれに値する器量の持ち主だ。私は、この決断に一片の悔いもない。ただ、最後にひとつだけ聞いておきたいことがある)
「毛利先輩、生徒会長とは、いったい、何なのでしょうか? 毛利先輩、織田先輩、河野先輩、大内先輩、そして、その下にいるたくさんの生徒たちが、これほどまでに執着する、生徒会長とは、一体、何なのでしょうか? 途中から編入してきた私には、よくわからないのですが・・・」
私の問いかけを聞くと、毛利は、きりっと表情を引き締め、白い小さな顎に手を当てて、しばし考え込んでいたが、やがて得心したように、ふっと顔を上げて、柔らかく笑った。
「たくさんの会議への出席、たくさんの書類への署名と捺印、たくさんの人の視線、たくさんの非難と賞賛、たくさんの思慮と努力、たくさんの寛容と忍耐、たくさんの逡巡と決断・・・そして、たくさんの達成感と少しの後悔・・・なにもかもが、自分を大きく成長させてくれるわ。実際に、私がそうだったもの・・・。あなたも、なってみれば、わかることよ・・・。無私の気持ちで誰かのために働ける幸せ、なんて、偽善的なことを言うつもりはないわ。私は、徹頭徹尾、自分の理念と成長と名誉のために働いている。でも、その結果として、学校、そして、みんなが必ず良い方向に向かえる、と信じているわ・・・。もちろん、奉仕と支援の気持ちは大切よ。でもね、ずっと一方的に誰かを支えていくことは、決して持続可能ではないの。どこかで無理が積み重なって、いずれ必ず破綻してしまう。だから、私は、自分も、そして、みんなも、両方ともきちんと向上していけるwin-winの関係を目指したいの。ちょっと失望させちゃったかしら?」
私は、無言のまま、大きく首を横に振った。
彼女には、玉座に座る資質が確かに備わっている。いかに歳下であろうと、この子のために働くことは、きっと無駄にならないだろう。
それを実感できたことが、私にはとても幸せに思えた。
今話、いろいろとご批判を頂戴しております。
ただ、主人公の性格を変えたわけではありません。
たとえ自分が汚れ役になっても、自分を支えてくれる親友や下級生をしっかり守り抜くことは、主人公「理沙」にとって、大切な役目なのだと思っています。
そのためには、少し、したたかに、そして、しなやかに、生き抜かせることも必要でした。
それは、生徒会長の毛利七海も同様で、彼女も自分の守りたいもののために、なりふり構わず、必死に闘っているのです。
きれいごとだけ書くのでは、リアリティが無くなってしまいますので、どうかご理解頂ければ、と思います。
きのみや しづか 拝