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六花と炎と死神と。  作者: 神楽宮
白の章
4/4

3話 街道にて、世界を渦巻く魔法の事。

久々の更新ですみません!

お気に入り登録が増えてくれて嬉しいです。


今回はちょっと残酷というか流血シーンを含みます。



盗賊団・「夜の狼」―――

ルキアの街道を中心に出没する盗賊団で、強力な武器や魔法具や魔法使いを有するために最上級難易度のSランクが付けられている。今回の依頼はその「夜の狼」の討伐だった。


「討伐証明は何かしら?」


フェリが受付嬢に問う。相手が人族とはいえ、討伐対象となれば躊躇わない。その冷徹さが、〈六花の魔女〉の二つ名の由縁の1つでもあった。


頭目(リーダー)通人族(ヒューム)、ケイン・ウェイリスの顔と魔力パタンはギルドで把握しています。その首を持って来て下さい」


魔力パタンはこのカルチェ=ルクシアに存在する遍く全ての生命に一つの重複なく存在し、死後もその身体に残る。顔だけでなくそのパタンも把握する事で、入れ替わりを防止する事もできた。


「魔力パタンを測定する機器はこちらで貸し出します。この機械を破損・紛失した場合、無論罰金を徴収させていただきます」


魔力パタンを解析する機械はギルドの所有であり、個人所有するにはかなり高額だ。破損・紛失すれば罰金を徴収されるし、転売なんてした日にはギルドから除名処分されるのはギルドに加入する際に最初に説明されていた。


「そーいや、終わった後ギルドの偵察とかあるの?」


今度問いかけたのはヘルだ。ヘルはとある特殊な魔法を使うが、ギルドにそれを知られるわけにはいかなかった。偵察があれば二人の魔法と自分の剣で、なければ自分の魔法を使って依頼(クエスト)を遂行すると決め、その旨をアイコンタクトで二人に伝える。

ヘルは魔法の使えない剣士で、アリアとフェリは魔法使いでギルド登録をしていた。


「偵察はありません。飛竜(ワイバーン)の方が忙しくて、ギルドが人手を割いてられないんです」


よっしゃ!とヘルが密かにガッツポーズをした。これで思いっきり、魔法を使う事ができる。


「じゃあ、さっさと行くわよ」


「了ぉー解」「はい、師匠(せんせい)


こうして〈捜し人(ザ・シーカーズ)〉の盗賊退治が幕を開けた。








 ―――カルチェ=ルクシアという世界には、魔法という物が渦巻いている。主に火地風水の四大属性に分けられるそれらを扱うのに必要な物は少なく、簡単な魔法であれば幼子から老人まで、自由に使っていた。


 最も、1人が使える属性は1つきり。まれ2属性持ちがいるものの、それはかなり珍しい。自分はどの属性の魔法が使えるのか。それを知る事が出来るのが、各々の瞳の色だ。

 火属性に才があるなら赤、地属性なら金か茶、風属性なら緑、水なら青と大体決まっている。だがこれらには例外があり、例えば妖精族(エルフ)達の瞳も緑だ。だが、彼らは風の魔法でなく植物の魔法を使う。風魔法の才を持つ者もいるが、大抵は植物を意のままに操る魔法だ。妖精族(エルフ)以外に植物に働きかける魔法使いは存在せず、この魔法のような種族固有の魔法は魔導と呼ばれ、普通の魔法とは区別される。


 また獣人族(ビスタ)には金瞳の者が多いが、元々保有する魔力が事通人族(ヒューム)に比べて少ない事、細かな区分に関係なく獣人族(ビスタ)自体の魔導である肉体の強化魔法を使うがほとんどなので、地属性の魔法を使う事はない。


「―――二人共、準備はいい? 私が氷魔法で遠距離狙撃したら、アリアは炎でアジトを囲って退路を塞ぐ。ヘルはその直前にアジトに入って、中で好きに暴れていいわ」


 街道に立ったフェリはそう言って、2人を山にあるアジトの方へ向かわせた。自分はそこに残り、目を閉じて自分の《本》を喚ぶ。

 魔法の発動に必要なのは、《コトバ》と《本》だ。本人が決めた《言霊》で喚んだ《本》―――その厚みは、本人の魔法の力量次第で幾らでも変わる。

 フェリは魔法使いとして名を馳せただけあって、その《本》は分厚い辞書数冊に匹敵した。彼女はその《本》を開き、遠距離狙撃魔法を検索する。威力・距離・消費魔力等々の条件で絞り込んで検索すれば(ページ)がひとりでにめくられ、捜していた魔法が印された(ページ)が現れた。


「―――《六花よ、礫となりて我が敵を討て

礫よ、我が敵に真黒の(かいな)の迎えを》―――!」


 フェリは、妖精族(エルフ)には珍しい薄蒼(アイスブリー)の瞳を持っている。それはすなわち、氷の属性魔法を使用するという事だ。薄蒼の魔力光がフェリの足元から螺旋に伸び上がり、印されたコトバのまま魔法が発動する。

 幾つもの氷の華が重なって生み出され、無数の角が円に似た形になる。ここに六花は礫となり、フェリが掲げた右腕に従ってふわりと浮上した。フェリの腕が振り下ろすようにアジトを指し示せば、礫と化した六花が主の意思のままに飛んでアジトに落ちた。

 落ちた六花は哀れな盗賊達の頭を直撃し、彼らに黒き(かいな)―――すなわち、死の使い(ヘル=デスタ)の迎えをもたらした。








 アリアはヘルがアジトに入ったのを確認すると、自分の《本》を開いた。街道の方角から、師と仰ぐ妖精族(エルフ)の氷魔法が飛来した。魔法の直撃と同時に、検索した自分の《本》の魔法を読み上げた。


「《其は赫き灼熱の円環

完結した世界に我が敵を閉ざし、焔をもって包め》」


 アリアの足元から赤い魔力光が螺旋に伸び上がり、印されたコトバを現実に上書きする。

 礫の直撃に敵を悟って迎撃・逃走のためにアジトから出ようとしていた盗賊達が、立ち上がった焔の壁にこんがりと焼かれた。建物と礫は決して燃やさず、通り抜けようとした盗賊のみを燃やす。魔法はあくまでもアリアの敵を燃やすように設定したので、先に入ったヘルは好きに脱出できるようになっていた。

 アリアは燃え盛る焔を見つめながら、魔法の維持に努める。帰ったらシチューを食べようと決めて、ヘルの帰りを待つ事にした。








頭目(リーダー)、は・・・どこだぁっ!」


 一方その頃、ヘルは1対多数の立ち回りをしていた。艶消しの黒に塗られているのか元々黒いのかは分からないが最初に意識を取り戻した時には持っていた黒い独特な長さの剣を使い、魔法を阻害しているアイテムを持った男を斬り捨てた。

 魔法を阻害するアイテムは、稀に遺跡などで見つかる。《魔法阻害》という特性故にかなりの高額で取引される物なので、これはアイテムボックスに収納して、ヘルは自分の《本》を取り出した。

 ヘルの瞳は黒い。それは火地風水のどれにも属さず、稀にいる特殊な魔法を使う者達にもいない独特の物だ。《本》に書かれた魔法は8割方が危険な物だったので、ギルドには「《本》の具現化すら満足にできない剣士」として登録している。そのために今回のようにギルドの事後調査が入らない依頼(クエスト)でしか、魔法を振るう事はできないのだ。

 ヘルは検索した(ページ)を開いた《本》―――何故か、遥かに年上で妖精族(エルフ)のフェリよりも厚い―――の《言霊》を読み上げる。


「《常闇の神の天秤をここに

善き者には安らかな眠りを

悪しき者には相応しい悪夢の眠りを》!」


 ヘルの足元から黒い魔力光が螺旋に伸び上がり、印されたコトバを実行する。

 黒い靄がヘルの身体から吹き出したかと思うと、ヘルを中心にドーム状に広がった。その靄が盗賊達を呑み込むと、彼らは苦悶の表情を浮かべ、あるいは静かに眠り込むように倒れ―――事切れた。

 ヘルの魔法は主に、《眠らせる》・《悪夢を見せる》・《命を奪う》の3つに分けられる。瞳の黒は、冥府の黒という訳だ。今回使った魔法は、《常闇の神の天秤》―――死後に罪を量る天秤を喚び、《罪深き者》と判断された者には悪夢に苦悶した末の死を、《罪軽き者》には安らかで一切苦痛のない死をもたらす物だ。

 このカルチェ=ルクシアという世界は、願った事の全てが叶うような優しい世界ではない。だから、《常闇の神》も1人でも人の命を奪えば即《罪深き者》と判断する訳ではなかったのだが、今ヘルを中心に倒れ伏す者のほとんどが苦悶の表情を浮かべている辺り、彼らの業の深さが伺えよう。


「・・・」


 ヘルは《本》を閉じて消し、暫し物言わぬ屍達に両手を合わせ目を閉じた。自分が殺めたモノ達には自然とそうする仕種が身についているが、その意味は分からない。仕種だけが残って、その意味を覚えていないからだ。

 やがてヘルは目を開けると、フェリの魔法が止んだのを確認してから頭を討つべく走り始めた。




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