先生はCV!1
『それでは今日のラジオはここまで!
聴いてくださった方ありがとうございました!』
「いえいえ、そんな…」
『来週はお休みを頂きまして
次回の放送は再来週、水曜日となります!』
「えー!マジかよー」
『では、仲澤ハナのロンリーラジオ
また再来週!ばいばーい☆』
「ばいばーい☆」
ノイズと高音な金属音が響く中で
少年はニヤニヤと顔を緩ませていた。
時刻は午前2時。
はたから見ればかなり不気味だろう。
しかし、外灯すらも消えてしまった
暗闇の中で少年の表情は隠されていた。
「さーて、寝るかぁ」
布団に潜って目をつむったとほぼ同時に眠ってしまった。
「よぉ、今日も早いな」
「おーす」
少年はまだ薄暗いグラウンドですでに
ランニングをしている。
それを見た友人は
感心すると共にため息をついた。
「着替えたらフリーキック練習いい?」
「いーよ、ちょい待ってて」
着替えに行ってしまった友人が去ると
少年、三浦修斗は
グラウンドに独りだけになった。
すると彼はランニングの足を止め
ゴールから数十メートルの位置にボールを置き
ゆっくりと三歩後ろに下がると
ゴール右スミを睨み付け
助走から一気にボールを押し出した。
だが、睨み付けていたゴールには飛ばず
ゴールを越えてしまった。
「まだ、落ちないか…」
不満そうに後ろを向くと後輩たちがゾロゾロと
グラウンドに入ってきた。
「三浦先輩、おはようございます」
「おはよう」
礼儀正しく頭を下げると後輩たちは
入れ替わりに来た友人、菊地大輝にも
頭を下げ,急いで部室に向かった。
「今年の後輩はやる気スゲェな」
修斗は真面目すぎる後輩を
めんどくさそうに見た。
「サッカーやるためにここ来たんだから当然しょ!
しゃあ!シュート来いよ!」
「おまえ、アップは?怪我すんぞ」
「大丈夫、軽く走ってきたから」
「ふーん」
修斗はさっきと同じ位置にボールを置くと
菊地の立つゴールにボールを押し込んだ。
先ほどよりも弾道は低く
ボールは回転せずにブレながら
ゴールに吸い込まれた。
「やるじゃん、さすが夏校の本田だな」
菊地は悔しそうに
ゴールに入ったボールを投げ返す。
「俺のスタイルは
ジュニーニョ・ペルナンプカーノ!
勘違いすんな」
「は?ジュニーニョ?ぺ、ぺ?」
「ジュニーニョ・ペルナンプカーノ!!
サッカー部ならそれくらい知っとけよ!!」
「キーパー以外興味ねーよ」
と言うと菊地は
次、来いよと言わんばかりに
手を広げる。
しかし、修斗はボールを蹴ることなく
着替え終わった後輩に練習の支持をしに行った。
修斗が所属する晴夏高校サッカー部は
毎年、都大会でも上位に入る名門校だった。
しかし、監督とのトラブルから
三年生と
同級の二年生がほぼ全員退部。
残ったのは修斗とキーパーの
菊地だけになってしまった。
「あいつら、もう部活来ないよな?」
「たぶんなー、でも修斗が
調子良ければ大会勝てんだろ」
菊地は笑顔で言うが、修斗は複雑だった。
(それって俺に頼りきりじゃん)
修斗は三年生が辞めていった影響もあり、
ほぼ強制的にキャプテンになっていた。
責任を感じないわけじゃない…
ただ、あまりにもチームが
自分に依存しているのが気がかりだった。
結局、今日の朝練も修斗が全ての指示をした。
「んじゃ、終わるぞー」
「うーす」
修斗は一般生徒が
まばらに登校しだしたのを見て
練習を切り上げ、教室に向かった。
(疲れた…
これから授業だと考えると今日も憂鬱だな)
うなだれながら
教室のドアを開けると修斗の席に
同じクラスの田邊が座っていた。
「よぉー!修斗!」
「よぉ」
「朝から元気ねぇな」
「おまえが元気すぎなんだよ」
「俺のウリはテンションの高さだからな」
「めんどくせ…」
「それはそうと今日は修斗にいい話があるぜ」
「なんだよ…つまんなかったら殴りますよ?」
「島崎さんのこーと」
修斗の反応を見て田邊はニヤニヤしている
「島崎さん、次の劇で主役らしいぜ?」
「だ、だから…なんだよ…」
「観に行けよ」
「行かねーよ。俺、部活あるし」
「そんくらい休めよ!
愛しの島崎さんが主役だぞ?」
「観に行きたいけど…
休めねぇよ、部活大変な時期なんだ」
「なーんだ、つれねぇーヤツ」
(うわぁ、行きたいなあ…)
修斗は同じクラスの島崎さんに
好意を寄せているが思ったように
行動できず田邊からこうして情報を得ている
「つまんねーなあ。もう少し頑張れよ」
「いや、なんか緊張するし…」
「まったく草食シャイボーイは
これだからダメなんだ」
田邊が説教のように修斗に話し出すと
窓側で輪になり
なにやら雑誌を広げて見ている
女子のグループから歓声とも
悲鳴ともわからぬ声が上がる。
「やっぱ、松山俊カッコいいよね」
「昨日のダンシングインザダークネス視た?」
「視た!視た!コエントロンの
声優が松山さんに変わったよね」
「ゲームだと最初から松山さんなんだけどね」
「え?ゲームなんて出てたっけ?」
「あのアニメって原作はPCゲーなんだよ」
「そうなの?」
「そうなの、そうなの。
で、アニメ版から変わったわけ」
「まさか、島崎氏!そのゲームをお持ちで?」
「あたりまえだよ!
ファンディスクも抑えてる」
「貸してくだされ~島崎氏~」
「だが断る。」
「なん…だと…」
「冗談、冗談。明日、持ってくるね」
「ありがたい、島崎氏!」
盛り上がる女子たちの勢いは止まらない
その輪の中に島崎香苗もいた。
「なあ…修斗…」
田邊があきれたように修斗を見る。
「確かに島崎さんはかわいいかもしんないが…
おまえさん、あれ…オタクだろ?」
「まぁ…オタクだな…」
(それがどうしたぁ!!)
「普通、女子高生ってジャニーズとか
ファッション雑誌じゃないの!?声優って…」
「ほら、声が好きな
女子だっているんだよ…きっと…」
(俺も声優さん好きだけどね)
「だいたい、声優さんで騒ぐなよ…
気持ち悪いよ、なぁ?」
「だ、だよなー」
(お、おまえ、声優バカにすんなよ!?)
「てか、修斗オタクでも許せちゃう感じか?」
「人それぞれ…あの…趣味があるし」
(いや、むしろ俺と話合いそうでいいじゃん)
「てか、おまえも
オタクなんてことはないよな!?」
「んなわけねーだろ!」
(あります。すんません。)
「ふーん…サッカー部のエースが
演劇部のオタクねぇ…
世の中わかんないもんだなぁ」
反論しようとするとチャイムが鳴り、
田邊は自席に戻っていった。
(俺もオタクなんだぜ!なーんて言えないよな)
カミングアウトしようかと考えていると
担任が見知らぬ女性と共に教室に入ってきた。
大学生だろうか自分とそこまで
歳は離れてなさそうだが
真新しそうなパンツスーツが
社会人を思わせる。
「先日から言っていた通り、今日から
教育実習生が来ています」
担任が自己紹介を促すと実習生は
一礼して話し始めた。
「おはようございます。これからお世話になります。
金沢華です。よろしくお願いします。」
修斗は耳を疑った。
(仲澤ハナさんに声めっちゃ似てる!)
透き通るような綺麗な声は昨日のラジオと
そっくりだったのだ。
しかし驚いているのは修斗だけで
みな拍手で迎えている。
(まさか…そう思ってるの俺だけ?)
気のせいか…?とも思ったが…
修斗はふと考える。
仲澤ハナ?
なかざわはな?
かな…ざわ…はな?
(に、似てるな…)
そして、修斗は昨日のラジオを思い出す。
『来週はお休みを頂きまして
次回の放送は再来週、水曜日となります!』
(これって…もしかして)
「じゃあおまえら、
これから金沢先生をよろしくな」
担任が言うと金沢先生と一緒に
教室から出ていった。
-つづく-